1stシングルをリリースの「かろうじて人間」。謎めいた彼らの正体を明かす!
人間臭さ全開の、謎の変拍子バンド「かろうじて人間」。変拍子を多用し緩急のついた演奏とキャッチーなメロディを基調としたサウンドを奏でる彼らが今年1月に1stシングル『キーウィがなんかたのしそう』を発売。OTOTOYでは本作をハイレゾ配信、そのなかから1曲フリー配信が決定! あわせてメンバー4人へのインタヴューを敢行した。
予測不可能でエモーショナルな3曲入りシングル
かろうじて人間 / キーウィがなんかたのしそう
【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV(24bit/48kHz) / AAC
>>>ハイレゾとは?
【配信価格】
単曲 216円(税込) / アルバム 540円(税込)
【収録曲】
1. anemone
2. シンクホール
3. 巡る色、走る
INTERVIEW : かろうじて人間
バンド公式Twitter、Facebookも無く、あるのは簡素なHPとSoundCloudだけという謎多きバンド「かろうじて人間」。今回のインタビューでは、謎めいた彼らの結成の経緯からインパクトのあるバンド名の意味、彼らにとって初めてとなったシングル『キーウィがなんかたのしそう』に込めた思いなどついてなど様々な話を訊いた。
インタヴュー&文 : 鈴木雄希
写真 : 大橋祐希
モラルと規則に縛られている状態こそが、人間
──まず簡単にバンドのプロフィールなどを教えてください。
宮田涼介(guitar)(以下、宮田) : 結成したのは2015年の春です。そこから曲を作っていって、その年の年末に1stミニ・アルバム『ゾウさんが殺す』を作って、翌2016年3月に全国流通をしました。ライヴを2回ほどやったのですが、基本的にはライヴはあまりやってなくて音源を作るのが主体のバンドです。
──結成の経緯はどういったものだったのでしょうか。
harogi(guitar / vocal) : もともと別でバンドを組んでいたのですが、宮田くんのギターが、僕のすごい好みで。「いつかバンドをやりたいね」という話をしていて。とりあえず近くでバンドしているいいやつを呼びかけようってなって。
宮田 : 僕は鮭に声をかけました。鮭はジャズ・ドラムをやっていて、非常にうまいというか技術的な面ではすごくこのバンドの一番肝となる部分を担っている感じはありますね。
鮭(drums) : そんな大層なことを(笑)。
harogi : 僕はuに声をかけて。
──かろうじて人間というバンド名は、結構インパクトがあって、多分一回聞いたら忘れないバンド名だと思うんですけど、なぜこのバンド名にしたのですか?
u(bass / chorus) : 昔のバンドでふざけてやってたやつがそのまま実現したって感じだよね。
harogi : 人間って、モラルとか規則とかさえなければぶっちゃけなんでもできるじゃないですか。法律とかなければ、どこで裸になっても関係ないですし、人のものを盗もうが誰かを殺そうがやろうと思えばできることじゃないですか。誰しもそういうことをしたい気持ちってあると思うんですよ。人間って、そこら辺をモラルとか規則に支配されて我慢しているじゃないですか。でもそういうモラルとか規則に縛られている状態こそが、人間だと僕は思っていて。それを我慢してギリギリの状態の人ってかろうじて人間だなって。危うい人ですね。
u : その一線を超えそうなね。ギリギリ人間だけど。
harogi : ぼくはかろうじてまだ人間ですね。
──自分たちが、衝動を抑えるギリギリにいるという感じなんでしょうか?
宮田 : harogiの定義づけって、僕の解釈とはちょっと違うんです。僕は、’’かろうじて’’人間として社会を生きているような人に目を向けていきたいっていう気持ちがあるんですよ。世間とかは夢が叶った人とか輝いている人に注目するじゃないですか。その陰で、夢が叶わないとか好きなことで生きていけないとか、まあ僕自身もそうなんですが心と体を患ってしまって思うような生活ができない人たち……もっと言うと勉強ができない、スポーツができない、モテないとかのコンプレックスを抱えている人っていっぱいいると思うんですよ。そういうものを抱えながらも自分自身を諦めきれなくて、どんなに傷ついても“かろうじて”人間として生きてる人っていると思うんですよ。そういう“かろうじて人間さん”たちの声に耳を傾けてみたいっていう気持ちがあった。ぼくもその“かろうじて人間”のひとりとして、声を聞き、且つ発信したいです。harogiとまったく違う解釈というか、結構危ないバランスで成り立っているバンドです。
──バンド内でもその解釈は個人によって違うんですね。
鮭 : かろうじて人間なんで、みんなバラバラなんですよ(笑)。
一同 : (笑)。
u : 勝手にやってたら意外とまとまっちゃったっていう(笑)。うまい具合にね。
宮田 : 協調性がないんですよ、このバンドって。4人が4人刺激しあって成り立っている。
──前作のアルバムは『ゾウさんが殺す』で、今回は『キーウィがなんか楽しそう』というタイトルじゃないですか。「殺す」と「楽しそう」って言葉のイメージ的に正反対の意味なんじゃないかなっていう印象があったのですが、今回の新作のタイトルはどのようにつけたのですか?
harogi : これは個人的にちょっと嫌味を含めてるんです。キーウィっていう絶滅危惧種の飛べない鳥がいるんですけど、人って鳥が飛んでる姿を見て羨ましいなって思ったりするじゃないですか。だから人はキーウィのことを飛べないって可哀想だなって思っていて、人が勝手に可哀想だなって言ってるけど、キーウィ自体はそんなこと気にしてなくて、楽しそうにしてるなって。絶滅危惧種でギリギリラインまで来てるのに、スッゲェ楽しそうって。
──人側の勝手な解釈というか思い込みとかに対する皮肉の意味も込めてのこのタイトルなんですね。
harogi : そうですね、皮肉です。基本毒があるかもしれないですね。
──今回のシングルはどういったコンセプトで作られたんでしょうか?
u : そもそも曲自体は結構前にできてたよね。
宮田 : 1stミニ・アルバムを全国流通させる前の段階で「シンクホール」以外の2曲は出来てました。ライヴでもやりましたし。それで、あと一曲どうしようってなったんだよね、その時は。
harogi : それで昔僕が作ってiPhoneの奥底に眠っていた曲をたまたま聴いて「なんだこれ!」ってなって。その曲が前にバンド組んでいた時のもっと前の曲で、すごい天才的じゃんって思ってこれ使っちゃおうって(笑)。だから「シンクホール」だけはかなり前の曲なんですよ。
──じゃあもともとあった曲をかろうじて人間ぽくアレンジしたんですね。
harogi : はい、引っ張り出してきました。当時それを前のバンドで再現しようと思っていたんですけど、その時の演奏レベルではできなかったんですよ。今のバンドは優秀なんでできるんですよ。
u : あと仮タイトルが「R.G.B」だったよね。
harogi : 今回のシングルは3曲入りなんですけど、それぞれ赤青緑を意識して作ったんですよ。「anemone」が赤で、「シンクホール」が緑、「巡る色、走る」が青っていうイメージで作りました。
本当に危ないバランスだと思うんですけど、それが成立してしまってる
──harogiさんが書く歌詞は独特の世界観を持っていると感じたのですが、歌詞の書き方だったり歌詞に対する思いとかっていうのはありますか?
harogi : ……。
u : すごい死にそうな顔してんじゃん(笑)。
鮭 : harogiの歌詞はすごい気になる。なんであんな歌詞出てくるんだろうって思う。
──直接的じゃない歌詞が多いなと感じたんですよね。
harogi : あーでもそうかもしれないです。僕自体が割と嫌味ったらしいひねくれた性格で、直接的な歌詞を書くのがすごく苦手なんですよね。自分の気持ちをそのまま書くって恥ずかしいんですよ。そこをちょっと捻っちゃって、自分が恥ずかしくないように歌っています(笑)。
宮田 : あんまり人に伝えたいという気持ちで歌詞は書いてないよね。
harogi : うん、そうかも。勝手に想像してくれという感じです。
u : 「anemone」の歌詞はどういう意味なの?
harogi : あれは別れ話の歌ですね。
──今回3曲すべてが別れの歌という印象がありました。
harogi : 今回の作品に関してはすべて別れるとか離れるっていうコンセプトが自分のなかにはあって。「anemone」は恋人との別れ。「シンクホール」は犬が亡くなった時に書いた曲なんですけど、大切なものとの別れ。最後の曲「巡る色、走る」は死別の曲ですね。全部別れの曲ですね。曲を聴くと似通った感じはあるんですけど、一応全部別れの対象は違います。
──さきほどもおっしゃっていたと思うんですけど、今回は色をコンセプトにおいているんですよね。曲のイメージとしてあった赤色から「anemone」というタイトルをつけたんですか?
harogi : それもあります。あとはアネモネの花言葉も関係していて、確か花言葉が「愛」とかそんな感じだったと思うんですけどそこからもきてます。
──「シンクホール」の緑は?
harogi : なんか「シンクホール」は自分のなかで衰退したイメージがあって。衰退すると苔とか生えるじゃないですか。そんなイメージです。草生えた穴という感じの(笑)。
一同 : (笑)。
──「巡る色、走る」は歌詞中でも青という言葉を何度も歌っていますね。
harogi : この曲に関するキーワードとしては輪廻転生と水なんです。水ってめっちゃ巡回するじゃないですか。トイレで水を流して、それが下水道を通って海に流れるのかな? それがまた綺麗になってダムとかからまたトイレに戻って来たりするじゃないですか。そこが輪廻だと思ったんですよね。人の輪廻転生を水に置き換えたって感じですね。
──なるほど、だから「あの時のおしっこが巡って蛇口から挨拶に来たのさ」っていう歌詞があるんですね。
harogi : そうですそうです! 歌詞にも書いてたね(笑)。その部分の歌詞はこの曲のヒントになると思います。
──「シンクホール」はサビ前とサビ後の転調と、歌い方のヴァリエーションが印象に残りました。
harogi : 「シンクホール」に関しては、犬が亡くなって久しぶりにすごい泣いたんです。だからすごいエモーショナルだったんですよ。犬が死んだ瞬間は実感がわかなくて悲しさはあんまなかったんですけど、業者の方が犬を迎えに来て運んで行った瞬間にブワッと気持ち悪いくらい号泣しちゃって。感情が一気にきたなっていう部分で「シンクホール」はサビ前とサビ後でドンと一気に変化をつけて感情の波を表現しました。
──ギター・ソロが始まってからそれまでの曲の印象とガラッと変わりますよね。あのソロは何をイメージして作られたんですか?
宮田 : なにかのイメージをメンバー間で共有することはこのバンドではほとんどないんですが、個人的に、harogiの音を"見て"みたいって気持ちがあって。「シンクホール」という曲を聞いたときに、シンクホールみたいな大きい穴に自分が落ちて死ぬ景色が見えました。「死ぬけど、その下の世界を見てみたい」という願望もあったりして。落ちていく時に下の世界で見たこともない世界が広がっていて興奮している様子を想像してあのようなギター・ソロになりました。
──じゃあ曲の解釈はバラバラなんですね。
宮田 : harogiがあんまりそういうことを言わないので。
harogi : 恥ずかしがり屋なので(笑)。それについてはメンバーからかなり怒られていますね。でも最近はメンバーにはこの曲がどういう曲なのかっていうのは伝えるようにはしています。それによって出す音とかフレーズとかも変わってくるかもしれないですし、メンバーは知るべきだよねって思いますよね(笑)。
宮田 : でも知らないがゆえに絶妙なバランスもあると思います。
鮭 : お互いが予期していないようなものがでてきたりとかもあるので、おもしろかったりしますね。
──じゃあ集まってやったときに意味わかんないなって思うようなものもあったりするんですか?
u : 毎回意味わかんない。
一同 : (笑)。
宮田 : 意味わかんないと思いつつ、自分のなかで解釈して、それで降ってきたフレーズとかを弾いています。
harogi : 宮田くんも妄想癖激しいもんね(笑)。
u : てかみんな妄想族だよね。
harogi : だからおもしろい。そこで個性が出る。
宮田 : 共有しないがゆえの個性の際立ちみたいなものもありますね。本当に危ないバランスだと思うんですけど、それが成立してしまってる感じですね。それでバンドができちゃうんだっていう(笑)。
──uさんと鮭さんはどのようにサウンドを作るんですか?
鮭:自分はジャズを長いことやってきたこともあって、ジャズ特有の気持ちよさをこのバンドでも表現したいと思って音作りをしています。太鼓をドコスカ叩くのではなくて、流れるように刻んでいく感じでしょうか。それ以外はだいたいアドリブです(笑)。でもharogiの歌を邪魔しないように、ダイナミクスには非常に気を遣っています。あと、僕はシンバルがメッチャ大好きで何枚も持ってるんですが、ジャズでよく使う薄くてドライなものを敢えて使ったりしています。いい感じに燻ぶった音で気持ちいいんです、これが(笑)。
u : この2人(harogi、宮田)が基本的に自由なんですよ。まあ演奏するときのイメージとしては、間を繋げる役なのでそういったことは意識しています。
harogi : 個性で離れ離れになっているやつらに手を取り合ってくれるんですよ。なのでuさんの役割はめちゃくちゃ重要なんですよ。多分uさん抜きで3ピース・バンドを組んでたらバラバラでどうしようもないですよ。
作っている過程が一番楽しいっていうのは4人が共通であると思うんですよ。
──転調とか変拍子などがバンドの魅力だと思ったのですが、みなさんが思うかろうじて人間の魅力はなんですか?
宮田 : 僕個人の考えでは、今回の「シンクホール」とかもそうなんですけど結構変拍子とか転調をするトリッキーな展開をする曲が結構多いのに、複雑さは感じさせていないような気がしていて。それはharogiの歌っていうのが大きいと思います。もともとharogiはGReeeeNとかのJ-POPが好きで、そこから残響レコードとかPeople In The Boxとかを聴くようになって結構両極端なところがぶつかって今の音楽性が出来上がっているのかなと思います。トリッキーだけどキャッチーっていうところはJ-POPを聴いていたからこそできる部分だと思うんですよ。
鮭 : 結構いろんな人から言われるよね、変拍子だけど聴きやすいっていうのは。
──ライヴはあんまりやってないんですよね?
宮田 : 2回やったくらいですね。
──そうなんですね。こういう変拍子の音楽ってライヴとかで盛り上がったりするのかなって思ったんですけど、なぜライヴはやらないのですか?
u : この人(harogiを指差して)がライヴ嫌いだからです。
一同 : (笑)。
宮田 : harogiはライヴハウスで働いているのに、ライヴやるのがあんま好きじゃないっていう。かなり不思議ですよね。
u : フェスとかも行けないでしょ。
harogi : そう、フェスとかああいうでかい所は行けないんですよ。人混みが怖いんですよ。
u : 常に人がいっぱいいるようなライヴとかは行けないもんね。
harogi : 小さいライヴハウスでインディーのロック・バンド見てるのが一番落ち着きますね。自分でライヴをするのは恥ずかしいですね。
──音楽をはじめたきっかけみたいなものってどういうものなんですか?
harogi : 同級生が聴いていたBUMP OF CHICKENとかRADWIMPSとかを聴いて、ロック・サウンドってすごくおもしろいなって思って。そのあと気の迷いで高校生の時に軽音部に入ってバンドを始めてみたら、みんなで音を合わせて音を出すことがすごいおもしろいなって思って。
──ライヴをやるっていう楽しみよりみんなで合わせるっていう楽しみの方が大きいんですね。
harogi : そうなんです! スタジオに入るのはすごい楽しいんですけど、ライヴとかはもうだめですね(笑)。
宮田 : やっぱり作っている過程が一番楽しいっていうのは4人が共通であると思うんですよ。
harogi : 曲作ってそれをCDとかで形にできたら満足っていうところはあるよね。
u : それはある。
宮田 : 僕はソロでライヴしたりしてますけど、人前で演奏することによってしか味わえない恍惚感があるとは思うんですね。かといって僕ら4人は人前で演奏するっていうよりも創作行為が好きというのがあって。自己満足の部分もあるんですよね。ただ僕は、自己満足でありつつも発信はしたいという気持ちはあるんですよ。ライヴをしないと人前に立って発信するということはないんですけど、4人で曲を作って、わかる人が共感してくれればいい。自分たちのやりたいことをやっているバンドなんで。
──今後の目標を教えてください
harogi : 目標はライヴが楽しくなること、ライヴがしたくなることですね。最終的にはそうなれたらいいかなとは思っています。自分の性格に窮屈さを感じているので、ライヴとかフェスが楽しいって思えたら人生もっと楽しくなるのかなって思うので。今年の目標はパリピになることですね(笑)。試行錯誤してどうしたらパリピになれるか考えています。
鮭 : バンドの目標じゃなくてharogiの目標じゃん(笑)。
宮田 : まあこのバンドはharogiで成り立っている部分もあるのでね。あとは、新曲やMVも作っているので発表したいなと思っています。
PROFILE
かろうじて人間
2015年春よりharogiを中心に宮田、u、鮭によって結成され、活動を開始。変拍子を多用し緩急のついた演奏とキャッチーなメロディを乗せた8曲を制作しレコーディング。2015年12月に1stミニ・アルバム『ゾウさんが殺す』をリリースする。2016年3月に『ゾウさんが殺す』の全国流通がスタート。その後も新曲制作を続け、2017年1月配信限定シングル1st single 「キーウィがなんかたのしそう」をiTunesにて配信開始。似非人間による変拍子を基調としたオルタナティブ・ロック・バンドとして活動をしている。