てらいなくポップに振り切る新世代──矢島和義、岡村詩野に訊く、OTOTOYトピック2017ロック編
昨年末からスタートした「OTOTOYトピック2017」。ヒップホップ、アイドルに引き続き今回はロック編!! 様々な出来事が起きた2017年、ロック・シーンはどんな一年だったのでしょうか。スカートやミツメなどと縁深いレコード屋・ココナッツディスク吉祥寺店から名物店長・矢島和義、そして音楽評論家の岡村詩野を迎えて振り返ります。対談の最後にはお二人からベスト・ディスク5タイトルを選出していただきました。お読み逃しなく!!
もう「インディーだからカッコいい」っていう概念がない
インタヴュー&文 : 鈴木雄希
構成 : 阿部文香
──まず今年ロック・シーンにもいろんなことが起きたと思うのですが、おふたりが感じるキーワードみたいなものってありましたか?
矢島和義(以下、矢島):なんだろう…… 「メジャー」かな。スカートや、どついたるねん、never young beach(以下、ネバヤン)、Yogee New Waves(以下、ヨギー)とかもメジャー・デビューをしたし。あとラブリーサマーちゃんがCMの曲をやったりとか、インディーからかなり広がった年だと思います。
岡村詩野(以下、岡村):そうですね。そもそもアーティストもリスナーもインディー / メジャーという概念をとっくに持たなくなってきてて、ちゃんといい作品が聴ければ…そのアーティストにとっていい環境であれば…という意識が定着化してきたとは思うんですけど、だからこそそういうアーティストが自然にメジャーから作品を出すことに全く違和感がなかったですね。
──リスナーも素直に「メジャー・デビューおめでとう」という感じがあった気がしますね。
矢島 : スカートはすごい喜ばれてましたね。
岡村 : ココナッツの吉祥寺店さんでも、今年1番売れたもののひとつですか?
矢島 : もうダントツで1番ですね。いままで店をやっていてひとつの作品がここまで売れたのはなかったですね。
岡村 : スカートは矢島さんのお店が育てたというか、、澤部くんと矢島さん一緒に大きくなったイメージもあります。
矢島 : 澤部くんがココナッツを紹介したい欲がすごいあるというか、そういう人なんですよね。今年だと台風クラブだったり、以前はミツメとかトリプルファイヤーだったりも。ココナッツディスクもその中のひとつとして紹介してくれていると思う。「自分の好きなものをみんなに聴いてもらいたい / 知ってもらいたい」というのがすごい大きい人なんです。
岡村 : アーティストによって、そういうレコメンドをすごくはっきり打ち出す人とそうじゃない人とがいて。澤部くんはココナッツのお客さんの1人として、いまでもお客さんとしてレコードを買いに行ったりするわけじゃないですか。そういう関係性が、ココナッツさんに対してのユーザーへの信頼につながったんじゃないかな。素晴らしい関係性ですよね。
矢島 : うれしいですね。メジャーに行ってもそれを続けてくれたっていうのがすごくよかったですね。
「これがいいよ」みたいなことを言うのが好き
岡村 : 矢島さん自身も、「自分がおもしろい音楽を伝えていくんだ!」という自負はありますか?
矢島 : どうですかね。ただ澤部くんと同じように「これがいいよ」みたいなことを言うのが好きなんで、澤部くんの気持ちがすごいわかるんですよね。それをやりたくてレコード屋もやっていますし。すごくいいのに誰も言ってないな、というものを紹介していきたいっていう気持ちはすごいあります。
岡村 : それすごくよくわかります。とりあえず来年どうなっていようが、いまはこれがおもしろいっていう感覚で、興味あるものをキャッチするつもりで原稿を書いたりインタビューしたりしています。何から聴いていいのかわからなくって、だからってAmazonとかで出てくるリコメンドに従って買っていく、という画一的な聴き方に抵抗がある人はぜひココナッツさんのようなショップに足を運んでほしいですね。私の文章も読んでほしいですけど(笑)。
矢島 : あと若い人は、どれを聴くのがよくて、どれを聴いたらいけないのかっていうのがあって。僕も10代、20代のときはこれをいいって言っちゃいけないんじゃないのかっていうのがあったんですよね。でも散々音楽を聴いて、いまは「おれがいいと思ったらいいんだ」ってなれているから好き勝手聴けているんですけどね。若い人はなかなか言えないですよね。
岡村 : その感覚って、澤部くんってすごく強いじゃないですか。で、澤部くんの存在が大きいなって思うのは、明らかに彼の親世代のアーティストとかでも好きってことを無邪気に言えてしまうあの感じだと思うんですよね。The Collectorsやカーネーション、ムーンライダースとか、もちろん既に人気のあるバンドですけど、彼の世代であそこまで堂々と好き、と言えるあの感覚は本当に尊い。
矢島 : 澤部くんはその点、自分の趣向に自信がありますから。
岡村 : そう言う意味でいうと「なんと言おうと、こういう音楽が好きでやりたい」というのを、ちゃんと持っているアーティストが輝くんじゃないかなっておもいますね。
矢島 : 澤部くんは自分の音楽が大好きで、自分で自分の作品を何回も聴いて「いいなぁ」と言ってる。たとえば、澤部くんはカーネーションが好きだけど、自分の音楽を聴いてもカーネーションと同じくらいいいと思えるんだと思うんです。本来はそうあるべきだし、そうじゃないと意味がないというか。ココナッツディスクは中古盤屋なので、同じ空間にヴェルヴェット・アンダーグラウンドとかマイルス・デイヴィスが並んでいるけど、スカートやミツメやシャムキャッツや柴田聡子や台風クラブはそれらに負けていないと僕としては思っていて、だから取り扱っているってところがあります。音楽って同じ時代とか同じ界隈だけで比べるものじゃなくて、いろんな時代の音楽と一緒に聴かれるのが自然だと思うんです。厳しいかもしれないけど、そういうものだと思いますね。
岡村 : そういう聴き方をしたほうがおもしろいと思うんですよ。それこそプレイリストとして自分で古いものも新しいものも並べて自分なりの流れを作って楽しむことが簡単にできる時代じゃないですか。たとえば台風クラブの石塚くんだったら、プレイリストを作るとして、自分たちの曲の前後に全く違う昔のアルバムの曲を置くと思う。そういうつなげ方をすることで、ありがちなロックの教科書とは違った新しい目線で、歴史の縦軸・横軸が繋がらないものを、あえてつなげてしまう柔軟な感覚を提案できると思うんですね。そして、実際そういう聴き方を提案できるようなアーティストが、おもしろい作品を実際に作ると思うんですよね。自分の曲を相対化できるというか。澤部くんもそうです。最近は特に、アーティストが主導で、自分を中心において、古いものも、同世代の仲間も、自分より若いアーティストも…というように並べられるようなアーティストが特におもしろい印象ですね。
「キーワード」のなかった2017年
──何年か前に「シティポップ」というキーワードがなんとなく出てきて、そういう言葉が浸透していったじゃないですか。今年はそういうキーワード的なものはなかったですね。
岡村 : 決定的なものはないですよね。
矢島 : でもtetoとかSUNNY CAR WASHとかのオルタナ、ギター・ロックとかがすごい人気だった年だったのかもしれないですね。。去年からそういう感じはじわじわ来ていたけど、今年はそういうバンドがめちゃくちゃ人気が出たと思うんですよ。このふたつのバンドは、今年急に人気がでた印象がありますね。
──どっちもアルバムを出した時に「待望」感はありましたね。
矢島 : うちに来ているお客さんもその辺とシャムキャッツとカネコアヤノ、台風クラブ、スカートと並んで聴いている人も多い感じがしますね。
岡村 : 結局、一点突破で、てらいなくポップに振り切るくらいのメロディックな曲を書けるようなバンドが最終的にはちゃんと残っていくだろうし、評価されるのかなと思います。例えば、シティポップという触れ込みで紹介される新しい作品より、台風クラブの曲の方が曲としてずっとシティポップ感がある。実際、彼らはガレージ・ロックとかロックンロールというように思われがちですが、一方でソングライティングとしてシュガーベイブの影響も受けている。形を変えて引き継いでいるかもしれないし、もしかしたら本来的なシティポップの、すごく現代的な継承者の1人かもしれないですね。
──「ポップ」がキーワードに近い感じですね。ちなみにココナッツディスクさんの客層として、いまもジャストなバンドってどの辺りですか?ミツメとかでしょうか。
矢島 : ミツメは完全にジャストという感じですね。最近出たミツメの「エスパー」も本当に素晴らしかったですね。あとネバヤン、ヨギーと世代が同じところでいうとTaiko Super Kicksはココナッツ(に通うお客さん)的な温度感があるバンドだと思います。フェスでみんな盛り上がるまでになったネバヤンやヨギーは凄いし嬉しいけど、それとはまた別の温度感があっても良いと思ってて、ココナッツはその感じは保っていたいです。だからシャムキャッツがそれ(フェス的なもの)とは真逆に行ったのがほんとに嬉しかったですね。
岡村 : 本当にそうですね。
矢島 : 2016年に出したEPでまた初期のグシャッとしたやんちゃなロックっぽい感じに戻っていくのも、すごいよかったのでいいのかなとも思ったんですけど、個人的には不安だったんですよね。こういう感じでアルバム作ったらとっ散らかった作品になっちゃう気がして。僕としては『AFTER HOURS』や『TAKE CARE』とかの感じの方が好きなんだよなと思いながら、『Friends Again』を聴いたら、その2作とはまた違うんだけどとても端正なサウンドで、まとまりもあるアルバムだったのですごい嬉しかったですね! すぐに夏目くんにメールして「めちゃくちゃよかったよ!」って。個人的には今年の第1位に挙げたいくらいのアルバムですね。
岡村 : 彼らもいろんなことがあって吹っ切れたんじゃないかと思います。去年のシングルの段階では、何に対して突っ張っているのかわからないくらい突っ張って音を作っている感じを、音からは感じました。それだけに彼ら本来の持ち味であるポップなソングライティングに着地させていて本当によかった。地に足が付いている感じになっていていいですよね。
矢島 : ああいう音楽だけど普通に女の子に人気があって、もう最高じゃん! ってなりましたね。素晴らしいバンドですよ。
岡村 : 初期の「渚」とか、ああいうライヴ受けをするノリのいいタイプの曲とかが好きだった人たちにも真っ向から向き合いつつ、それに取って代わる次の札も彼らは出してきたから。原点回帰とかでも全くなかったわけだし、ほんとにいい作品を作ったなと思いますよ。
若手の台頭
──シャムキャッツ、ミツメの作品はどちらも素晴らしかったですね! その世代のもっと下でいうところの期待の若手とかいかがでしょうか。
矢島 : ぼくはカネコアヤノですかね。カネコさんはこれまでも結構活動をしていたんですけど、去年くらいから仕切りなおしをして、やっと本当にやりたいことがやれるようになってきている感じがあります。だから来年とかすごいいい作品を出すんじゃないかな。バンド編成もすごいし、ライヴではお客さんを睨みつけて歌うみたいな、ぜんぜんいままでのイメージと違う感じになっていて。たぶんうちの店に来ている人って名前は知っていたけど、聴いていなかった人も多いと思うんですよね。「それだったら柴田聡子とか平賀さち枝聴くよ」みたいな感じで。そうやって言われがちだったんだけど、最近は独自の感じでやっていることにお客さんも気付きはじめていて。
岡村 : アルバム出たら楽しみですね。
──岡村さんはいかがでしょうか。
岡村 : Wanna-Gonnaってどうですか? 初期の頃は正直ピンとこなかったんですけど、秋に京都で観たライヴがよかったんですよ。
矢島 : 僕もみんなに言われますね。
岡村 : 2017年には彼らも作品を出しているんですけど、それよりもライヴの方がずっといいんです。特にキーボードとドラムのタイム感のバランスが絶妙で、ウィルコみたいな印象でした。レコーディングには次のトライが期待できる感じではあるんですよね。
──そういう意味でいうとWanna-Gonnaも次作が楽しみですね!
岡村 : あとはクマに鈴ですかね。いままでにカセットをいっぱい出しているっていう変則的な録り方をやってきていて。まぁ音楽的には、旧態依然としたロックでもわかりやすいポップスでもなく、若い世代にまったく媚びていないんですけど。
一同 : (笑)
岡村 : シアトリカルでアイロニーもたっぷり、でも、寓話を音で聴いている的な面白さもある。あとはポニーのヒサミツ。ポニーのヒサミツの前田卓朗くんはカントリーやスワンプ、フォークなどのルーツ音楽を熱心に聴いている人。このポニーのヒサミツや1983や、その1983のメンバーでもある谷口雄(ex.森は生きている)くんあたりは、日本語ポップスとしてのカントリーを意識した活動をしていて、すごくフレッシュな印象があります。頼もしい。上の世代から「お前らよく知ってるな」って可愛がられるような人たちですが、若い世代にこそ聴いて欲しいなという気持ちはすごくありますね。
矢島 : 台風クラブももしかしたらそっちだったのかなって思っていて。はじめて扱ったときに、ミツメとかを買った人が聴いて、どう思うんだろうって結構不安だったんですよ。でも好きだから取り扱いをしたんですけど。なんかの拍子でこういう風に大きくなっているから、クマに鈴やポニーのヒサミツとかには台風クラブのようになってほしいですね。
おふたりが選ぶ2017年ベスト・ディスク5選は?
ココナッツディスク 矢島和義編
スカート / 20/20
「まだマスタリングしてないし曲順も決まってないんですが...」といいながら澤部君が持ってきてくれてウチの店で一緒に聴いたのを思い出します。今まででいちばんいい、と思ったその音源がメジャーデビュー盤になるなんて!最高!
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台風クラブ / 初期の台風クラブ
台風クラブは、クサクサした2000年代を生き抜いてきた同志、みたいなものだと勝手に思っているので2017年の彼らの大活躍が自分の事のように嬉しかった。来年もさらにいろんな人に発見されていってほしいです。
柴田聡子 / 愛の休日
大尊敬してる柴田さんの新作、凄かった。普通のアルバムだったらその作品の核になるようなクラスの曲がゴロゴロ入っていて。その出し惜しみなしの贅沢さに底知れないものを感じました。
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シャムキャッツ / Friends Again
ここまでシンプルでプレーンな日本語ギターポップがちゃんと今を生きる人たちに寄り添ってくれる音楽になりえているのにはちょっと感動してしまいます。そしてこの音楽で女の子たちを「キャーッ」て言わせてるのも素晴しいと思う。
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カネコアヤノ / 群たち
2017年のカネコアヤノは爆発寸前のギラギラさがあってゾクゾクしました(あの目つき!) もうあとは飛ぶだけ、という感じで。来年の今頃どんな存在になっているのかとても楽しみです。
岡村詩野編
台風クラブ / 初期の台風クラブ
全ての曲を書いている石塚のヴォーカルは履き潰したスニーカーの味わい。伊奈のドラムと山本のベースがそれをザブザブと手洗いをかけていくかのような。京都の…というより今の日本の宝のような存在。
クマに鈴 / The Rokki Horror Show Complete Box Set
山本亨平と平賀レオによる東京の2人組。ちょっとシアトリカルで寓話性の強い風合いながら、フォークやカントリーなどのルーツ音楽にもしっかりアプローチする。他には絶対にない今の東京随一の個性。
キイチビール&ザ・ホーリーティッツ / パウエル (7インチ・シングル)
ユルいけどガッツある、ダメダメな匂いもあるのにいつのまにか心に入り込んでくるような人懐こいロック。シュガー・ベイブ好きにもザ・ピーズ好きにも届く日本語の旨味が満載。
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Wanna-Gonna / In The Right Place
リトル・フィートやザ・バンドからR.E.M.、ウィルコまで。アメリカ産ルーツ・ロックを日本でいかにモダンにポップへと昇華させるかに挑む5人組。このファースト・ミニも悪くないけど、ライヴはもっといい。
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黒岩あすか / 晩安
須原敬三のレーベル=ギューンカセットから登場した大阪の女性シンガー・ソングライター。ダークなのに重くなく、ロマンティックなのにシニカルでさえある、という圧倒的な言葉と声の個性に打ちのめされる。
今回紹介された音源はコチラ!
PROFILE
矢島和義
オールジャンルの中古レコードショップ、ココナッツディスク吉祥寺店の店長。そして、ただの音楽好き。お店ではレコードの買取もやっていますのでぜひご利用ください。
ココナッツディスク吉祥寺店ブログ : http://coconutsdisk.com/kichijoji/
ココナッツディスクHP : http://coconutsdisk.com
岡村詩野
東京生まれ京都育ちの音楽評論家。『ミュージック・マガジン』『CDジャーナル』『朝日新聞』『VOGUE NIPPON』『Sign Magazine』などで執筆中。現在「岡村詩野音楽ライター講座」を東京・京都で開講するほか、京都精華大学で非常勤講師を務めている。FM京都(α-STATION)『Imaginary Line』(毎週日曜21時)の番組パーソナリティも担当。Helga Press主宰。
岡村詩野 Official Twitter : http://twitter.com/shino_okamura