Japanese Breakfast 『Jubilee』
4月には、亡くなった韓国出身の母との思い出を綴ったエッセイを出版するなど、マルチな活躍を見せる韓国系アメリカ人のミシェル・ザウナーによる3枚目のアルバム。前作までは喪失や悲しみがテーマとなっていたが、上述のエッセイを世に送り出したこととも影響してか、「祝祭と向き合う準備ができた」と語る今作は喜びがテーマなのだそう。中でも冒頭の2曲が出色だ。マーチング・ビートとホーンや弦楽器で彩られた、カラフルなパレードのような1曲目の「Paprica」は、自身のルーツを見つめ再び“生まれ直した”彼女を高らかに表現するかのよう。ワイルド・ナッシングのジャック・テイタムと共同制作した2曲目「Be Sweet」は、80年代風のファンク・ビートに、リヴァーブの効いた爽やかなサウンド、オリエンタルなギター・フレーズがほのかなエスケーピズムを漂わせ、束の間の解放感を味わわせてくれる。喪失や悲しみの後には、必ず喜びがやってくる、ということを無理なく感じさせてくれる、ここ数ヶ月の中でも心の助けになった1枚。
Clairo 『Sling』
2017年に「Pretty Girl」でバイラル・ヒット、ロスタム・バトマングリと共作した一昨年のデビュー・アルバム『Immunity』で世界的なアーティストと化したクレイロのセカンド・アルバム。もともと外向的なタイプではないようだが、今作では想像以上に内省的な楽曲が多く収められ、アレンジについても極めて牧歌的だ。ジャック・アントノフをプロデューサーに、喧騒から離れた郊外で制作されたという今作は、急激な大ブレイクや、それに伴って意図しない形で音楽業界に利用されるようになったことなどがその成り立ちの背景にあったようで、気だるげなヴォーカルとともに自分が本当は何を求めているのかについて深く探求するようなリリックには、ヒットさせたいという気持ち以上に自分自身と音楽を「聖域」としたい想いを感じさせる。生楽器をメインに据えたサウンド・メイクも前作の夢見心地なムードとは対照的に地に足がついた印象。ソフト・ロック風のシンセのラインがヴォーカルの質感とベストマッチな「Amoeba」も特に出色のナンバーだ。
優河 「夏の窓」
シンガーソングライター、優河の新曲で、これまでもコラボ経験の多い岡田拓郎との共作曲。彼女の楽曲は過去のものも含め、いずれも、いつかどこかで経験したことのあるような遠い思い出へと誘う力があるように感じるのだが、本曲でもまたそんな描写力を遺憾なく発揮、いや、さらに磨きをかけたように思う。バック・バンドは、2018年のアルバム『魔法』の制作にも寄与した、千葉広樹、神谷洵平、谷口雄、そして岡田という盤石のメンバー。カリプソ風のガット・ギターとパーカションのリズムが、ゆったりと流れる時間を演出し、柔らかなタッチのピアノの繊細なきらめきと、余裕さえ感じさせる優河の芳醇なヴォーカルとコーラスが、夢とうつつの間を行き来する。再生ボタンを押すたびに、太陽が燦々と降り注ぐ夏の風景を、窓の中からぼんやりと眺める……名前もないそんな夏のひと時、けれど誰しもが知っているひと時にトリップさせてくれる、たった2分間の蜃気楼。はっぴぃえんどの「夏なんです」とも並べて聴きたくなる、この夏、極上の小品。