『gokigen』は地肩で勝負してる感じ
──すばらしいです。ラストの“Meidaimae”と“Miterudake”はなんとなく字面が揃っていますね。
Rachel : 最初、アルバムの歌詞カード誤植してましたからね(笑)。
Mamiko : たまたまなんですけど。
Rachel : ローマ字にしたら似ちゃったんです。
──この曲はどうして“Meidaimae”なんですか?
Rachel : ストーリーを補完するタイトルになるといいなっていうことで、エモい地名を出し合ったんです。だいたいは歌詞にある言葉を取るんですけど、この曲はそれをすると妙にいなたくなるというか、意図してない方向になっちゃうんで。下北沢とか高円寺とか……。
Mamiko : 中目(黒)とか、いろいろ出し合って、1位が明大前だったんです。1番ストーリー感じました(笑)。
──おふたりの経験と関係あるんですか?
Rachel : いや……。
Mamiko : 特に思い出があるとかではないんですけど(笑)、「何かが起こりそうな駅なんだよな」って一致して。
──それで明大前なんですね。……すみません、これに関してはまったく共感できないです(笑)。
Mamiko : (笑)。でもマジで誰も共感してないよね。
Rachel : うん。ちょっと残念(笑)。
Mamiko : うちらのなかでだけ、ダントツで明大前がエモかったんです。
Rachel : 「やっぱ明大前だね!」「明大前っしょ!」って言ってたんだけど。
──さっきRachelさんが言っていた通りの甘酸っぱいリリック。こういう会話を男友達とする年ごろを脱しつつあるじゃないですか、おふたりも。
Mamiko : そうですねぇ。
Rachel : してないです、こんな話。まったく。
──したことない?
Rachel : したことはありますよ♡
Mamiko : 最近はないっすね。
Rachel : ないからこそ楽しかったよね、書いてて。
Mamiko : 思い出してキャピキャピしながら。
──19歳か20歳ぐらいですかね。こういう話するのって。
Rachel : けっこう若いですよね。
Mamiko : 大学生ぐらいかなぁ。
Rachel : 大人になると仕事でしか人と会わないから、純粋に友達になるってことがまずないし。
──〈10年経って お互い相手 誰もいないってなったら その時はもう付き合っちゃおうかって〉。僕も昔こんなこと言ってたなって思いました。
Rachel : 言いますよね。何なんですかね。全員言ってるんですかね?
──全員言ってるんじゃないですか?
Rachel : 絶対このくだりありますよね。
Mamiko : あるよねー。何なんだろ。
──「お互い30になっても相手いなかったら一緒になろっか」とかね。
Rachel : そうそう。「お互い空いてたらさ」「いいよいいよ」とか言って約束してさ、「乾杯!」なんてやってたのに、全っ然違う人と結婚して(笑)。元気してんのかなぁ。ショック受けてたかな。大丈夫かな。
──「この関係壊したくないけど壊したい」とか、青春っぽくて素敵です。
Rachel : けっこう刺さってくれてる子いたよね。
Mamiko : いたいた。
Rachel : 「見てた?」みたいなこと言われたよね(笑)。
Mamiko : やっぱ大学生だった。
Rachel : ピンポイントで刺せるとうれしいよね。
──“Miterudake”も違った意味で刺さる気がします。
Rachel : これも刺さる子多そうじゃない? 普通に共感できるっていうか。これお気に入りだな、わたし。一番好きかも。まみちゃんがけっこう作ってくれた曲で、わたしはラップしか書いてないんですけど。
Mamiko : たしかに“ISOGA♡PEACH”とこれだけ早かった(笑)。
Rachel : 早く作れた曲のほうが好きなのかな。
Mamiko : ツルッて出てきたから。
Rachel : そうそう。書きたかったことなのかもしれない。
──こねくり回してないってことですもんね。
Rachel : 「これでいいんだろうか?」って迷いながら作ったやつは聴くと「これでよかったんだろうか?」ってなっちゃうから(笑)。
──〈たけしセーターで練り歩く3年目〉ってフレーズ、やばくないですか?
Rachel : そこですよね! わたしもそこが1番好きなんですよ。このアルバムのなかで1番好きなライン。
Mamiko : えっ! そうなんだ。
Rachel : そう。だからいまちょっとうれしかったです。「わかるー!」って。
Mamiko : (笑)。うれしい。
Rachel : 「このたけしセーターもう3年も着てるわ……」ってことを「たけしセーターで練り歩く3年目」にしたのがすごくセンスいいなって思って。しかもたけしセーター(笑)。もさっとした子なんだろうな、おしゃれ好きなんだろうけど、でも引っ込み思案で……って人物像が浮かんでくるんですよ。
Mamiko : すっごくうれしいわ。ありがとう。
Rachel : 語呂もいいし、ラップとしてすごく好きなラインです。
Mamiko : たけしセーターって、かっこいいじゃないですか。
Rachel : かっこいいよね。かっこいいんだけど、なんかさ。
Mamiko : その子の貫きたい気持ちと、やっぱり自信つけたい気持ちと。
Rachel : 3年も着ててさ、「一張羅なんだろうな〜」って(笑)。
Mamiko : ものすごく気に入ってるのよ。
Rachel : なんかそれがいじらしくて、「かわいい!」ってなった。
──「たけしセーター」ってちなみにどういうセーターですか?
Mamiko : ビートたけしさんが着てそうなセーターです(笑)。
──フィッチェ・ウオモとかイッセイ・ミヤケとかの派手なやつ。
Rachel : そうそう。古着屋で買ったんでしょうね。かわいい。
──「あ、こういうの昔のテレビでたけしが着てた!」って(笑)。
Mamiko : お笑い好きなんですね、この子は。
Rachel : ちょっとウケ狙いなんだけど、「ダボッと着たら普通におしゃれじゃん」みたいな。センスいいよね。
Mamiko : ちょっと頑固者なんですよ。
──僕もアルバムを聴いていて1番インパクトを受けたのはこのラインでした。
Rachel : ですよね。固有名詞の入れ方もヒップホップっぽいし。自分の好きなラップのあり方って感じ。
Mamiko : めっちゃほめられてすごくうれしい。ありがとうございます。
Rachel : これはいっぱい聴かれてほしい。
──どれも聴かれてほしいですけどね。僕が個人的に好きなのは“December”かな。
Mamiko : えー! でもいいですよね、これ。
──chelmicoはどこかに常にやるせなさがあるところが好きなもので。
Mamiko : あー、そっか。
Rachel : やるせないもんね。
Mamiko : わたしも好き、“December"。
Rachel : わたしも。いいよね。まみちゃんの2ヴァース目が好き。〈めぐりめぐる季節と憂い〉のところ。
──これはまさに12月に作った曲なんですか?
Rachel : そうです。「"December”って曲書いちゃったけど、アルバム夏に出るしどうしよう、大丈夫かな」って言ったら「全然大丈夫っしょ!」って言ってくれたから。言葉変えようかと思ったけど。
Mamiko : いや、これがいいよ。
Rachel : って言ってくれたんで、じゃあ「6月に出て、半年間楽しめるアルバムになったらいいな」って(笑)。
──ライン単位で言うと“Touhikou”の〈マニー倍にして いつか返す約束(プロミス)〉も好きですね。
Mamiko : (笑)。わたしもここ好きです。
Rachel : ここ、ちょっとふざけたのバレるかなと思って。一応真剣にやってる体でいきたいんですけど、「いつか返すプロミス!」って。
Rachel・Mamiko : ♪マニー倍にして! いつか返すプロミス!
Mamiko : めちゃくちゃいいよ!
Rachel : ふざけてるのバレるか心配なんですけど、大丈夫ですかね?
──大丈夫です。バレても問題ないし。
Rachel : そういう楽しみ方をしてくれたらいいですよね。
──Rachelさんのお気に入りラインは聞いたので、Mamikoさんのも教えていただけますか?
Mamiko : いっぱいありますよ。"December”で言うと〈時々触る耳たぶ 視線はジグザグ〉が好きです。
──いいですよね。僕も好きです。
Mamiko : すごく浮かぶ、情景が。
Rachel : あー。なんかうれしいな、この時間(笑)。
Mamiko :“moderation”も好き。〈短冊に願いを込めるであります〉(笑)。
Rachel : 酔っ払ってるからね。
Mamiko : そうそう。二日酔いの歌なんですけど、このラインに表れてる。〈いないいないばあ〉とか。〈飲まざる飲まざる飲まざる三猿〉もフロウと言葉が合ってる、すごく。
Rachel : なんかほめ合いみたいになっちゃうけど(笑)、わたしは〈山場は午後にくるんだ〉も好き。二日酔いの山場って午後だから。朝はいけるんだよね、まだ酔ってるから。
Mamiko : こうして挙げていくと、いいね、どの曲も。
──前作の『maze』のような、1回通して聴いて「これは傑作でしょ!」みたいな強い盛り上がりはないけれど、気楽に聴けて、聴いているうちにじわじわとよさが伝わってくるアルバムだなと思いました。
Rachel : うんうん。『maze』はわりと全A面みたいな感じでバキバキだったからね。
Mamiko : たしかに、いま思うとそうだね。
Rachel : 『gokigen』は地肩で勝負してる感じ(笑)。
──地肩が強くなったんですね。『maze』はおふたりにとっても自信作だったのに、ツアーができなかったじゃないですか。
Mamiko : 『maze』、もっと聴いてもらいたかったな。タイミング悪かったよね。
Rachel : 今回はツアーでなにを歌うか悩んだんですよ。『maze』の曲はあんまりライヴでできなかったし、『gokigen』の曲も絶対やりたいし。
──もうだいたい固まりました?
Rachel : はい。でも、いつかリクエスト・セットみたいなのもやってみたいですね。
Mamiko : あー、やりたいね。
Rachel : ね。「この曲あんまりやってないから聴きたい」って声もある気がするんで。いつか感謝の印としてできたらいいなって思います。
──chelmicoはアルバムごとにカラーがはっきり違うから、アルバム全曲ライヴも楽しそう。
Rachel : ね。それもいつかやってみたいと思ってました。やっちゃお。
──今回はツアーもできそうで本当によかったですね。
Rachel : 本当によかった! 無事にできるといいな。発声しなくても、体を揺らすだけでも楽しめる曲をいっぱい作ったから。
Mamiko : 絶対に来てほしいね。
──楽しみです。 前作のときにMamikoさんが「『maze』は1音たりとも飛ばさずに通して聴いてほしい。できるだけ静かな空間で、イヤホンで。1回そうしてくれたら、あとは好きにしていいから」(『ミュージック・マガジン』2020年9月号)とおっしゃっていたのが印象的でしたが、今回は?
Mamiko : あ、それは今回も同じです。
Rachel : 聴いてもらった人はみんな「流れめっちゃいいね」って言ってくれるんで。
Mamiko : あと歌詞も見ながら聴いてほしい。お願いします!
──最後におふたりから言っておきたいことはありますか?
Rachel : 健康第一で。
Mamiko : 睡眠とってください。
Rachel : そして元気でツアーに来てね!
編集 : 高木理太
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DISCOGRAPHY
PROFILE
chelmico
RachelとMamikoの友達2人組で結成されたラップユニット。
それより前から活動してるけど、なんやかんやで2018年にワーナーミュージック・ジャパンのunBORDEよりメジャーデビューし、良い感じのラップをしている。オフの日は2人で映画を観たり、飲みに行ったりしているが、現在は自粛中。
やっぱり、夏フェスに出たい♡
コマーシャルソングやドラマのテーマソング、アーティストへの楽曲提供、客演など、様々な方面で活動中。インディーズ活動を経て、2018年にchelmicoの憧れの先輩たちが所属するワーナーミュージック内のレーベルunBORDEから待望のメジャーデビューし、はや3年。これまで『POWER』『Fishing』『maze』と3枚のアルバムをリリースし、ラッパーとして成長し続けるRachelとMamikoのラップユニット。最近では、YouTubeにてラジオ番組「chelmicoのでも、まだまだ土曜日」を不定期でアップ、「人気ラジオ番組完全ガイド2020-2021」のラジオ番組大総選挙・YouTubeラジオ部門・第1位に輝くなど、ラップ以外でも幅を利かせ始めている。
【HP】
http://chelmico.com/
【Twitter】
https://twitter.com/chelmico_offi