そう思うとさ、『gokigen』ってアルバム・タイトルめっちゃ尖ってる
──オラオラ、ドダドダですからね(笑)。全体にリリックを見ていて思ったんですが、コロナ禍下のライフスタイルから生まれた印象がすごく強い。
Mamiko : コロナの影響はそうとうあります。“三億円”から始まり。
Rachel : これはコロナ・ソングだもんね(笑)。
Mamiko : 「逃げ出したい」っていうテーマから作って、端折って端折って「お金が解決する」ってなって(笑)。
Rachel : 間を飛ばして最終結論を歌ったっていう。
Mamiko : そこから始まって、“December”も「コロナで会えないけどSNSを通して見てるけどね」みたいな感じだし、“COZY”もね。
Rachel : うん。曲調がダンサブルというかビートが強くてフロアライクな感じが多いのも、ライヴで発声しないでも楽しめる曲を作ろうっていう思いの表れなのかなって。
Mamiko : ストレス発散してる曲多いかもね。"Roller Coaster”も気分の浮き沈みをポジティヴに昇華してるし、"ISOGA♡PEACH”はネガティヴだし(笑)。"O・La”もすごい強気だし。
Rachel : 「うっせえなあ」っていう。
Mamiko : chelmicoなりのケンカ腰っていう感じ。
──RHYMESTERに『ダーティーサイエンス』(2013年)のときにインタヴューして、「直接、震災に言及はしていないけど、震災以降の空気がアルバム全体ににじみ出ている」みたいな話をしたことがありますが、そのことを思い出しました。
Rachel : あー、でもそうかも。自然と出てきちゃうっていう。
Mamiko : 拭えないよね。
Rachel : 感じてるストレスとかは、どうしても。
Mamiko : ラップだし。日記だから(笑)。
Rachel : 前提を共有してたりすると、出てきちゃうのかな。時代を反映できてるのかも。
Mamiko : そう思うとさ、『gokigen』ってアルバム・タイトルめっちゃ尖ってるよね(笑)。
Rachel : 『gokigen』とか言ってる場合じゃないからこそね。
──“三億円”のリリースにも、暗い世相になんらかの働きかけをしたいというおふたりの意志があったのではないかと思ったんですが。
Rachel : ありました。コロナもそうだし、不景気みたいなことも含めて。「こんな世の中でどうやって希望を持っていこう?」みたいな気分もあったんで。
Mamiko : 共感してくれる人めっちゃ多いよね。
Rachel : うん。大人ほど染みてるみたい。意外だった、それは。わたしは同世代から下の子たちが気に入ってくれるかな? と思ってたんですけど。
Mamiko : 振付とかも、TikTokで流行ってくれたらいいなって思ってつけてもらったんですけど、意外に大人に刺さってるっていう。
Rachel : 大人が全力であの振付をやってくれてる(笑)。うれしいけどね。
──Rachelさんのご出産も関係ありますか?
Rachel : あると思います。妊娠・出産時の国の金銭的サポートが会社員と個人事業主では全然違うんですよ。それでけっこう食らって「お金って必要だな」ってなってるタイミングではありました。これを書いてたときは。
──そうですよね。
Rachel : で、みんなそう思ってたみたい。誰もがうすぼんやりと思ってることではあるもんね。1番の関心事ではなくても。
Mamiko : みんなお金ほしいよね。
Rachel : もらえたらいいなぁ……毎月3億円。
Mamiko : 非課税でね。
Rachel : 諦めてませんよ(笑)。ほしいなって思ってます。
──僕もほしいし、サビのリリックの組み方はすごく好きです。
Rachel : Give Me 毎月三億円~♪
Mamiko : 非課税~(笑)♪
Rachel : 最初笑っちゃったよね。いまは普通に歌えるけど。
──〈落ち着いたらビキニ身につけてワイキキビーチにでも行きたいけど どんなところかはよく知らないyeah~〉というくだりの、ユーモラスでちょっぴり切ないところもchelmicoらしいです。
Mamiko : いいよね、ここ。切ない。
Rachel : 行けないからね。知らないし(笑)。
──あと、さっき話した中盤のチルくなるところ。“Touhikou”、“Where you at?”あたりのノスタルジックな感じやラヴ・ソングも、最近ではちょっと珍しいんじゃないかと思いました。
Mamiko : 久しぶりかも。"ずるいね”とか、ラヴ・ソングはあったけど。
Rachel : 甘酸っぱさとかがなくて、し~んみり、みたいな風にしたかったのかもしれない。ちょっと大人っぽくなりました。とはいえ“Meidaimae”みたいな甘酸っぱソングも書いてますけどね。
──さっきMamikoさんが“ISOGA♡PEACH”はネガティヴだっておっしゃいましたけど、案外そうは聞こえないようにできていますよね。
Mamiko : そうなんですよ。びっくりしたー。いや、びっくりしたっていうのも変ですけど(笑)。書いてたときは「わたしダメじゃん……」って思ってたんです。
Rachel : 出てきちゃったみたいな感じなんだね。
Mamiko : そう。だから早くは書けたけど、送るかどうするか迷って、Rachelとかryoくんに「こんなのしか書けないけど大丈夫かな」って相談して、「たしかにネガティヴだね」ってryoくんも言ってて、「やっぱそうだよな」って思ったけど、歌ってみたら意外とバレないんですよね(笑)。
Rachel : 声の感じも優しくてかわいらしくなってるしね。
Mamiko : Tomgggのトラックのおかげもあって、全然そうは思えなくてびっくりしたー、って話なんですけど。意外といけたっていう。
Rachel : 心配されちゃうかと思ってたんですけどね、いっときは。
Mamiko : そうそう。「これが本当と思われたらどうしよう」とか。主に身内に(笑)。「でも実際マジだしな……」って。
Rachel : 1番のリアル・シットだと思います。
Mamiko : 泣きそうになるんですよ、これ聴くと(笑)。
Rachel : ボロボロのときほど染みるよね。別人格が出てきて、「chelmicoちゃんこんな頑張ってるのに、わたしこんなことで泣きごと言ってられないよ!」みたいな気持ちにさせられる(笑)。1番聴いてるかもしれない。
Mamiko : わかる。聴くよね。ミックスをやってくれた土岐彩香さんも「これ、すごく明るいのに泣けるんだよな」って言ってました。
Rachel : ポロッと言ってくれたよね。
Mamiko : ツイートもしてくれてた。めちゃくちゃ忙しい人なんですよ。
Rachel : ちょっとスケジュール聞いただけでもそうとうやばかったもんね。3徹とか。怖かった。
Mamiko : よかったと思った、作って。土岐さんのために。
──みんなISOGA♡PEACHですもんね。全国のISOGA♡PEACHたちに届いてほしいです。
Rachel : かわいい!
Mamiko : ISOGA♡PEACHたちに届けー!
──フックの〈週3勤務で週4休み 年に3ヶ月夏休み〉はライヴで大合唱したいです。
Rachel : ねー。発声がOKになったらね。
Mamiko : 全員で「大団円!」って言いたいよね(笑)。
Rachel : それが夢です。コロナが落ち着いたらやりたい!
──これの前の“bff”は「Best Friends Forever」っていう意味ですよね。
Rachel : そうですー。
Mamiko : 気持ちいい曲ですよね。
──めちゃくちゃポップなメロディだし。
Rachel : ギターのシュワシュワシュワシュワ……ってやつ、むかし流行ったけど、1周していままたこういうムードきてるんじゃないかって。
Mamiko : 好きだしね、こういうの。いい曲ですよねー。
Rachel : フェスとかでやれたら気持ちよさそう。
──前作の“GREEN”を思い出す、親友同士のラヴ・ソングみたいな素敵な曲だなと思いました。
Rachel : そうですー!
Mamiko : 『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(2019年)っていう映画をテーマに書いたんです。
Rachel : 勝手にイメージ・ソングみたいな。女の子の友達同士のお話で、1行目〈今度自分を卑下したら 許さないからね〉はまんま映画の字幕のセリフなんですよ。友達をバーンって殴ってこう言うんです。「こういう友達がいたら宝よな」って思って、強い言葉だけど、ストレートなバンド・サウンドだったら歌っても恥ずかしくないかなって。マッチしたなと思います。