2022/05/12 12:00

Andra day 『The United States v.s. Billie Holiday』

アンドラ・デイがビリー・ホリデイ役として出演し、ビリー・ホリデイそっくりな歌唱を演じてみせて話題になった映画のサントラ。本編同様にアンドラ・デイがビリー・ホリデイの様々な癖を丁寧に研究した跡がわかる面白さもあるし、単純にアンドラ・デイというヴォーカリストの歌のうまさに感嘆する作品でもあるのだが、個人的に聴いてほしいのは全体のサウンドで、特にオーケストラをバックに歌う曲。ビリー・ホリデイが活きていた時代のスタイルは維持しているので、オーケストレーションのスタイル自体は過去のものだ。ただ、映画用の音響のために録音されているからか、オーケストラの録音がパワフルで鮮やか。その真ん中でアンドラ・デイの歌がどっしりと鳴っている。音の広がりも気持ちがいいし、今の耳で聴いても心地よい響きがあるのは、このサントラがあくまでもジャズではありつつも、サラーム・レミやジェイムス・ポイザーといったヒップホップ / ネオソウル的な人脈で作られているからだろうか。音楽としてはノスタルジックだが、響きは現在のもの。昔のジャズの録音の悪さが苦手だって人におススメ。

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Walter Smith Ⅲ 『In Common 3』

2018年から始まった『In Common』のシリーズは2年ごとにリリースされ、今年2022年に3作目が出た。『In Common』はテナー・サックス奏者ウォルター・スミスⅢとギタリストのマシュー・スティーヴンスの2人によるプロジェクトで、その他のメンバーがアルバムごとに変わる。1作目はジョエル・ロス、ハリッシュ・ラヴァン、マーカス・ギルモア、2作目はミカー・トーマス、リンダ・メイ・オー、ネイト・スミス、そして、3作目はクリス・デイヴィス、デイヴ・ホランド、テリ・リン・キャリントンと、3人のメンバーを全とっかえしている。例えば、ドラマーだけ見てもマーカス・ギルモアとネイト・スミスとテリ・リン・キャリントンは全く違う演奏をする3人だ。ピアノのミカー・トーマスとクリス・デイヴィスは全く違うし、そもそも1作目はピアノレスでヴィブラフォンのジョエル・ロス。というわけで、3作は全く違うサウンドになる。そして、3人の演奏が変われば、ウォルターとマシューの演奏も作品ごとに異なるものになる。ジャズという音楽の化学反応、もしくは人選の妙みたいなものを現在、ここまで味合わせてくれるシリーズは他にないだろう。

ここで3作目に関しては大御所デイヴ・ホランドとミニマル・ミュージック的なアプローチを入れてくるクリス・デイヴィスの相性がことのほかいいのと、クリス・デイヴィスの異物感がマシュー・スティーヴンスにエフェクトを駆使したアプローチを誘発するのが面白い。ここでテリ・リン・キャリントンのグルーヴがデイヴ・ホランドとクリス・デイヴィスのどちらの音楽性にも寄らせず、彼女らしい演奏をしていることで、誰かの音楽ではなく、この5人の音楽になっているバランスも絶妙だ。最初に名前を見た時は最も異質な組み合わせだと感じたが、実は最も均衡のとれた、それでいて驚きに溢れたセッションになっていると思う。4作目が今から楽しみ。

Marta Sanchez 『SAAM』

スペインのマドリード出身のピアニストで作曲家マルタ・サンチェスのリリースは『In Common』と同じUKの〈Whirlwind records〉から。〈Whirlwind〉はNYの一線級コンテンポラリージャズをリリースするレーベルでストイックな作品が多いので、決してキャッチ―ではないんですけど、それゆえ面白いものも見つかる良レーベル。マルタ・サンチェスの音楽はリニアに複数のラインが走りつつ、込み入ったリズムがあってみたいな感じですが、その中に「Marivi」みたいな美しく、親しみやすい曲も混じっているので聴き逃がすわけにはいない。メランコリックな旋律をカミラ・メザがスペイン語で情感たっぷりに歌うだけでも最高なうえに、そこにアンブローズ・アキンムシーレが超絶個性的なトランペットを重ねていく極上の1曲。そして、エンディングに向かうところでまた美しい展開が用意されている。ちなみに「December 11th」もおすすめなので、この2曲だけでもぜひ。

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