2022/05/12 12:00

Snarky Puppy 『Live at GroundUP Music Festival』

スナーキー・パピーのリーダーのマイケル・リーグが主催しているレーベルの〈GroundUP Music〉が毎年マイアミで開催しているフェスでの音源をまとめたライブ盤がリリース。このフェスはマイケルが素晴らしいと思っているミュージシャンをブッキングして、素晴らしいライブ・ミュージシャンを集めたフェスで、僕も一度行きましたが、本当に素晴らしいフェスです。例えば、ヌバイア・ガルシアが『Source』で起用していたコロンビアのラ・ぺルラというグループも2019年の時点でブッキングしていたり、新たな発見もあったりします。その中では様々なコラボレーションも企画されていて、毎年3日間あって、毎日トリがスナーキー・パピーなんですけど、そこがコラボの時間になっています。なので、このライブ盤にも特別なコラボが収録されることになると。ここで聴いてほしいのは2019年の「Lingus」。コリー・ヘンリーの名演でもおなじみの代表曲ですが、ここではモロッコ音楽のグナワを演奏するバンドのInnov Gnawaとのコラボレーションで、マイケル・リーグがグナワ色濃厚なアレンジを施したバージョンが聴けます。ちょうど2019年にスナーキー・パピーは2019年に『Immigrants』でグナワを取り入れた「Xavi」という曲をやっていて、かなりグナワに傾倒していた時期でもあり、それだけにInnov Gnawaとのコンビネーションもばっちり。スナーキー・パピーの音楽性がよくわかる1曲だと思います。

Somi 『Zenzile: The Reimagination of Miriam Makeba』

アフリカ系アメリカ人のジャズ・ヴォーカリストのソーミの音楽はジャズを中心に、ソウルやR&B、ネオソウルがベースにあるが、その音楽の中にアフロビートを始めとしたアフリカのサウンドが意識的に取り入れられていたのが特徴だった。あくまでNYのマナーを軸にしたサウンドは作編曲も演奏も歌唱も実に洗練されていて、アフロビートをやっても特別なものになったし、彼女の歌唱もそれに貢献していた。そんなソーミが南アフリカのレジェンド・ヴォーカリストのミリアム・マケバに捧げたアルバムを制作した。ソーミはマケバの生涯を題材にしたミュージカル“Dreaming Zenzile”の主演と音楽を担当したここ数年、マケバ漬けの日々だったようで、マケバを掘り下げた結果、ミュージカルでの音楽とは別内容のこのアルバムを制作したという。音楽的にはマケバの楽曲のカヴァーではあるが、その中にあるハイブリッドで洗練されていた側面を引き出したようなサウンドで、リズムもタイトできりっとしていて、ハーモニーもすっきりとした響きをしている。ある意味ではこれまでのソーミの路線の延長にあるとも言える。それは本作にも参加しているアンジェリーク・キジョーがR&Bやポップスの方面からハイブリッド且つ洗練されたサウンドをリリースし続けてきたように、ジャズやネオソウルの側面からアプローチし、マケバの音楽の中にある洗練を取り出し、それを拡張させているように思える。近年、南アフリカのジャズが注目を集めることが多いが、南アフリカの多くの若手たちも自国由来の要素を込めつつも、同時にそこではグローバルに通用する技術やセンスをアピールするような作品を作っている。彼らが“南アフリカの現在”を奏でているように、ソーミはマケバがリアルタイムで鳴らしていた同時代性のようなものを炙り出す。ラストの「Mabhongo」におけるンドゥドゥゾ・マカティニの伴奏やソーミの歌唱の手加減なしの現代性にこのアルバムの成果が聴こえる。バンドはセネガル出身でフランスで活動するギタリストのエルヴェ・サム、ロンドン生まれでナイジェリア育ち、NYで活動するベーシストのマイケル・オラトゥージャ、NYで活動する日本人ピアニストの百々徹、名ドラマーのネイト・スミスで、ゲストにはグレゴリー・ポーターやセウン・クティ、南アフリカからはレディスミス・ブラックマンバーゾ、Thandsiwa Mazwai、Msakiと人選も興味深い。

Manuel Valera New Cuba Express Big Band 『Distancia』

2020年の『Josa Marta En Nueva York』も素晴らしかったキューバ出身のピアニストによるビッグバンド。前作同様にいわゆるダンサブルなラテン・ジャズ系ビッグバンドではなく、キューバやプエルトリコの要素は取り入れつつ、現代的なビッグバンドの流れを汲んだものになっている。それゆえサックス・セクションはほぼ全員複数楽器を持ち替えで、それらのアンサンブルが生み出すテクスチャーの豊かさがバンドの魅力になっているし、「From After」「Pathways」では前作同様にカミラ・メザが器楽的な歌唱でアンサンブルに溶け込んでいる。作曲家としてのマニュエル・ヴァレラはメランコリックできれいなメロディを書く人で、その旋律にふさわしいメロディやハーモニーを丁寧に付けていくようなタイプで、キューバ系とはいってもリズムやテクニックが前面に出るタイプではないのもビッグバンドにぴったり。ポーランド出身のヴォーカリストのBogna Kicińskaのヴォイスも美しいタイトル曲「Distancia」は必聴です。

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