このヴァージョンの良さはライヴでのみ機能すると思うからね

──もとより迫力のあるバンド・アンサンブルが持ち味でしたが、これまで以上に柔らかな響きなのに、さらにスケール・アップしているように感じています。例えば “Turbines/Pigs” は、音楽的な迫力と穏やかな雰囲気が共存していてとても魅力的です。フルートの割合が増えたこともその要因のひとつだと思いますが、エモーショナルなのに柔らかく、まるでオーケストラのような壮大な響きで心地良さが常にあります。このようなバンド・アンサンブルを構築するために取り組まれたこととはありますか。
ルーク:あの曲に関して言えば、メイが書いてきたものをピアノで弾いて聴かせてくれたんだけど、その時点ですでにエモーショナルなインパクトが基盤にあったんだ。僕たちはそれを台無しにしたくなくて、なるべく彼女の創り上げた世界観を尊重するようにまとめていったんだ。同時に、より壮大な迫力をこの曲に与えたいと思って、最後は少し大袈裟なアレンジにしたん。メイもそれについては妥協してくれたんじゃないかと思う。かなり長めのインストのみのパートを作ったけど、それに叫び声を乗せたのは彼女のアイデアだからね。そういう風にみんなでバランスを取りながら創っていくんだ。 “I Won't Always Love You” についても同じようなやり方で創っていったよ。最初はタイラーがこの曲をクラシック・ギターで弾いて聴かせてくれて、全員で最初のパートを肉付けしていった。それぞれの楽器がカラフルなアレンジになっているけど、その上にタイラーのヴォーカルが乗ると、曲の根幹は変わっていないことがはっきりするというか。この曲も壮大なエンディングになっているけど、それぞれの消え入りそうな歌声に焦点が当たるように計算されているんだよ。この2曲については、なかなか良い形で仕上げられたと思ってるんだけど、そうだよね?(笑)。
タイラー:その通り(笑)。
── “Up Song” だけライヴ中2回演奏していますね。タイトルこそ同じですが、突き抜けたインパクトと盛り上がりがある1曲目と反して、2曲目 “(Reprise)” の方はしっとりと聴かせながらオーディエンスを包み込むようなアレンジでした。それぞれのアレンジや演奏に込めた思いを教えてください。
ルーク:ライヴでこういう構成にしよう、というのはセットリストを考える初期段階から決まっていたね。
タイラー:当初はこのセットリストのオープニング曲として、1番最初のヴァージョンだけ創ったの。色々とふざけてプレイしているときに、誰かが「ストロークス風にやってみようよ!」って言い出して、ああいうアレンジになったのよ。くだらなくて楽しかったわ。インパクトもあって、ポジティヴで、「ヘイ、ガイズ!」っていう挨拶がわりの雰囲気があって、オープニングとしては最高の曲だと思う。 あの曲を私がソロでパフォーマンスしていたオリジナルは、1番最後にプレイしたヴァージョンに近い感じだったのよ。バンドで何度か最初のヴァージョンを演ったあとに、ちょっとギミックが効き過ぎてるかな、と感じるようになってアレンジしたの。でも、この曲の背景に描かれているメッセージは、新しいヴァージョンではまったく違うものだから、そちらが浸透し過ぎるのが怖くなって…。
ルーク:わかるよ。このアレンジを何度かプレイしてみた時、ハイパーポップな感じがクールで楽しいとは思ったけど、どこか馬鹿馬鹿しいとも感じていたからね。普段僕たちがやっていることとはかけ離れているしね。
タイラー:それに普段聴いているものともかけ離れているよね。
ルーク:僕たちらしくないとも言えるから、もし将来的にこの曲をアルバムに入れるとしたら、この新ヴァージョンは採用しないと全員で決めているんだ。いろんなアレンジを試してみたけど結局は不採用だったし、このヴァージョンの良さはライヴでのみ機能すると思うからね。
タイラー:私たちの曲のなかでも、もっとも即興的な要素の強いトラックだと思うわ。冒頭のパートは、自分たちがここ数年でやったもののなかでもっともインプロビゼーション色が強いんじゃないかな。私たちのことをインプロビゼーション・バンドだと思っている人も多いみたいだけど、全然違うのよ。でも、興味深い体験だったわ。お互いがお互いの音を注意深く聴きながら展開して行くのが楽しかった。

──日本限定でライヴ音源がCDでリリースされるということですが、未音源化の新曲たちをライヴ演奏のままパッケージ化するのはバンドとして新しい試みとなります。リスナーにはどういった部分を楽しんでほしいですか?
ルーク:このライヴ音源を聴いた人にも、僕たちのライヴのキャバレーのような、バラエティー・ショーのような雰囲気を楽しんでもらえたらいいね。それってとても視覚的なことだし、視覚的な効果を狙って組み立てたライヴだから映像作品としてリリースする、というのもあるからその辺がきちんと音源にも伝わっているといいけど。あとは、会場のエネルギーを感じてくれたらうれしいな。3夜行われたものをひとつのライヴとして編集したものなんだけど、たとえば“Up Songs”の最後のヴァージョンや“Turbines”は、席を設けて少ないオーディエンスの中で演奏したものなんだ。逆に“Up Songs”の最初のヴァージョンや“Dancers”は、かなり会場が盛り上がった夜のものを使っているんだよ。その辺を想像しながら聴くと、空気感を立体的に体感してもらえるんじゃないかな。
──あなたたちのライヴは、BC,NRを知っている人もそうでない人も、その場に生まれる“JOY(楽しさ)”をバンド~オーディエンスの間でダイレクトに共有できるところが魅力だと思います。バンドにとってライヴにおける“JOY”をあえて言葉にするとすれば、なんと表現できるでしょうか。
タイラー:すべてのステージによって、“JOY”の内容は全然違ったものになると思う。その日のオーディエンスにもよるし、その日のバンドの状態やメンバーの気分によって変わって来るから、1度としてまったく同じライヴというものは経験したことがないの。そのムードというものは、決して歌詞に左右されるものではなくて……同じ曲を何度も演奏しているから、歌い手としてはその歌詞が本来持っているものは深い意味をなさなくなっているし。それよりも、何か言葉に出来ない、その場の雰囲気とか空気感とか、そういうものだと思うわ。みんなが楽しんでくれている、それがいちばん私たちを動かしてくれるのよ。
ルーク:メンバーのリアクションというのは、オーディエンスの反応に対するものだから。オーディエンスが楽しい時間を過ごしてくれて、そのリアクションに呼応してメンバーも楽しい時間を過ごす、そこに「JOY」を共有する空間が生まれるんじゃないかな。客席のムードによって僕たちの演奏も全然変わったものになるからね。