2021/10/07 11:00

Sufjan Stevens / Angelo De Augustin 『A Beginner’s Mind』

2000年代以降のUSシーン最重要アーティストであるスフィアン・スティーヴンスは、ヒップホップやエレクトロニカまで様々な手法でアメリカの原郷、自身の心象風景などを切り取る当代きってのシンガー・ソングライター。そのスフィアンが自ら運営に関わるレーベルから作品を出す良き後輩のような存在がアンジェロ・デ・オーガスティンだ。交流もある両者が直接コラボ作品を制作したのはこれが初めてになるが、一緒に観た映画からそれぞれ受けたインスピレーションを元に曲を仕上げていくというコンセプトというのが面白い。しかも、古くは『イヴの総て』から『羊たちの沈黙』『マッドマックス』『チアーズ!2』など時代時代にヒットした大衆映画がチョイスされていて、たとえアクション映画であってもふたりのソフトなヴォーカルと豊かなハーモニーを生かしたフォーク・タッチなのがさらに興味深い。近年、ネットフリックスなど配信で観る機会も増えている映画と音楽の親密な関係を紐解く上でヒントになりそうなアルバムでもある。

Desvendar Banhart / Noah Georgeson『Refuge』

デヴェンドラ・バンハートのアルバム『Cripple Crow』(2005年)にノア・ジョージソンが共同プロデューサーとして参加して以来、ふたりは互いに近くに暮らし、活動を共にすることも多い親友同士。そんなふたりのこの初の共演作は、意外にもアンビエント~ニュー・エイジにアプローチしたインスト集になっている。コロナのパンデミックのさなかに全ての作業をリモートで制作したという12曲は、確かに耳に心地よくリラックス効果も満点で、瞑想の音楽とも逃避の音楽とも受け取れるが、一方で滴り落ちるようなピアノの音色やメランコリックなフレーズが明確な情緒を伝えているのも大きな特徴。このあたり、単なるBGMとしてのアンビエントにするまいとする、あるいは絶対にそうはならないデヴェンドラとノアのソングライターとしての自負が滲み出ているとも言える。ジョージ・ウィンストンのウィンダムヒルからの作品のオマージュのようなアートワークなのにニヤリとさせられる人も多いのでは。

あだち麗三郎 『風のうたが聞こえるかい? 2021』

現在は甲府を拠点に活動するあだち麗三郎が、2009年に発表した初作をリメイク。尤も、曲そのものは同じながら1曲ごとに様々なアーティストに演奏やメイン・ヴォーカルを委ねた、ある種“あだち麗三郎トリビュート”のような切り口が斬新だ。片想いや中川理沙(ザ・なつやすみバンド)、あるいは2009年当時にはまだ知り合っていなかったという折坂悠太や東郷清丸らだけではなく、谷口雄やシンリズムら「あだち麗三郎と美味しい水」のメンバー、古川麦、佐藤公哉、影山朋子、あるいはアートワークに関わる鈴木竜一朗や惣田紗希といった参加者の面々が実に生き生きとしているのがいい。そして最終的に耳と体に残るのは、あだちのソングライティングの無骨さとみずみずしさ。この人はこんなにも繊細かつ色気ある曲を書く、という事実に心が激しく動かされる。そういう意味でも辻村豪文(キセル)とあだちによる共作ながらあだちが一切演奏にも参加せず全てを辻村が演奏した「ゼロのたまご」(本作のみの未発表曲)が挑戦的であり象徴的だ。

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