2021/09/21 19:00

Anthony Naples 『Chameleon』

アンソニー・ネイプルスはニューヨークが拠点のプロデューサー、DJ。ハウス・ミュージックを軸に制作を続けてきた。しかし本作はオーガニックな音色も取り入れたダウンテンポ~アンビエント。ギター、ベース、シンセサイザー、ドラムなどアコースティックな楽器を使って作曲された初めての作品だ。ジャズからのインスパイアもあったようで、SweepsclupやFloating PointsのようなIDMとして聴くこともできる。楽曲のタイトルにはカメレオンに関連するエサ、生息している木、星座などの単語が多く使われている。リリースは自身が運営する〈ANS Recordings〉から。前作『Fog FM』は、これまでの集大成のようなグルーヴ感溢れるハウスで、その後もリミックス・ワークでハウス・ミュージックのリリースを重ねている。ソロ作品では前々作『Take Me With You』のIDMタッチの曲調引き継ぎ、新たな方向性を探っているようだ。

Murlo 『Unearth』

マンチェスターを拠点に活動するDJ、プロデューサー、そしてイラストレーターでもあるMurlo。引き続き本作でも、グライムを下敷きにしたパーカッシヴなエレクトロニック・ミュージックを披露している。彼のスタイルは、自らが創り出した架空の世界を舞台に楽曲を制作するというもの。ドローイングやグラフィックの制作も並行して行うことで、その世界に形を与えていく。本作の舞台は森。その森ではラッダイト教団のメンバーが生物の採取に奔走しているそうだ。というのも、その生物に寄生した菌類について調査するためらしい。Sinjin Hawke『First Opus』やIglooghost『Neō Wax Bloom』と近いテクスチャを持っている。しかし、ダンス・ミュージックというよりも彼の創り上げた異世界のBGMとして聴かれるのが彼の望むところのようだ。

Asemix 『Asemix』

サウンドアーティスト、Nick Zancaとマルチ奏者、More Eazeによる電子音響ユニット、Asemixのセルフ・タイトル・アルバム。フィールドレコーディング、シンセワーク、アコースティックな演奏など多様な素材が繊細に重なり合うコラージュ・アンビエントだ。素材同士はそれぞれが認識できる程度の空間を保って組み合わされており、まるで顕微鏡で拡大した世界のよう。実体が掴みきれない不安と、音そのものの心地よさが同居している点にはKhotinとのシンパシーを感じる。M1「Phantom Lung」は直訳すると「幽霊の肺」。ゆっくりと忍び寄り、終わり際に激しく音を立て、さっと消えていくさまは、このパンデミックに冒された身体を表現してるようだ。M2「Rehearsal Earthquake」では地震というよりアポロ計画の映像で聞かれる通信音や遊園地のBGMが鳴っている。二人が生活のなかで録音した素材を、現実と仮想の境界で再構築したような作品。

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