山本政幸、元The Cigavettesの仲間と作る5曲──互いの「好き」を持ち寄る、変わらない音楽の楽しさ

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山本政幸が、2023年のミニ・アルバム『LUCKY』以来となる新曲を、5ヶ月連続でリリースしている。制作には前作に続き、弟の山本幹宗をはじめ、小田淳之介、篠崎光徳、戸高亮太と、The Cigavettesの面々が集結。幹宗がアレンジとミックスを担い、政幸が全曲の歌詞を書いた5曲には、彼らの愛するギターポップの響きと、ドラマやスポーツに着想を得たユーモラスな言葉が息づいている。歌詞の背景を尋ねると、幹宗にとっても初耳の話を政幸が次々と開示。二人で記憶をたどり、互いに突っ込みを入れながら語ってくれたのは、曲が生まれるきっかけと、昔からの仲間と今も音楽を作る楽しさだった。
The Cigavettesのメンバーと5曲連続リリース
最終作は野球界のスーパースターへ宛てた曲
INTERVIEW : 山本政幸、山本幹宗

取材・文 : 黒田隆憲
撮影 : 酒井優衣
止まって、寝かせて、ようやくリリースした5曲
──『LUCKY』を出した2023年から、この3年間はどんなふうに過ごしていましたか?
山本政幸(以下、政幸):今回の5曲は、録音やマスタリングまで含めると、2年ぐらいかかってるのか。
山本幹宗(以下、幹宗):前作のあとに5、6曲、もう少しあったかな。曲が集まって、そのなかから何曲かをsunsite(山本幹宗と俳優・永嶋柊吾によるバンド)の方に優先して回して、残った5曲を(笑)。でも、途中で歌詞が進まなくなって、一度制作が止まったんですよね。それから1年ぐらいして「そろそろやらないとまずいんじゃない?」ってレコーディングして。完成したあと、さらに1年ぐらい意味もなく寝かせるっていう。
政幸:俺は、何か音楽業界の事情でお蔵入りになったのかなと思って。悲しいなと思いつつ、「この間録ったやつ、どうしたの?」とは聞かず、ずっと心にしまってたんです。そしたら、ただ忘れてただけだった(笑)。
幹宗:この間出たsunsiteのEP(『Magan』2026年3月リリース)と同じ日にマスタリングしたんですよ。それで完成したら、そのままになってた。
政幸:お蔵入りにならずに済んでよかったです。めっちゃうれしかった。
──前作のインタビューで「すでに次を作っている」と話していたのは、今回の曲だったんですね。毎月1曲ずつ、締め切りに追われながら作っていたわけではなかったと。
幹宗:そうですね。去年の7月か、そのぐらいには全部出せる状態になってました。もともと政幸の「ワンクラブマン」と「ダンク」があって、僕は「Setup man」やsunsiteの「Magan」を作っていて。「これはこっち、あれはあっち」みたいに振り分けていったんです。それと、みっくん(篠崎光徳・Ba.)とおだじゅん(小田淳之介・Gt.)にも1曲ずつ出してもらいました。
──全体的に、オアシスやTeenage Fanclubのようなギター・ロックの手触りがありますね。
幹宗:みっくんがTeenage Fanclubを好きで、政幸ももちろん好きなので。僕も好きですけど、みんなが好きそうな感じにしようと思って。

福岡県出身のミュージシャン/ボーカリスト。The Cigavettesのフロントマンを経て、現在はソロで活動。

The Cigavettesのギタリストとして活動後、現在はsunsite、好芻などで活動。楽曲制作や編曲、サポートギターなども手がける。
──では、1曲ずつ伺っていきます。まず「Setup man」は、幹宗さんの作曲ですね。
幹宗:これはFountains of Wayneみたいなことをやりたいなと思って。政幸が昔から好きだったんで。
政幸:今でも好きです。デモが来たときは「うわ、めっちゃ好み!」って。でも、すっげえ喜んだわりに全然歌詞が書けなくて。これが一番書けなかった。
──メロディができてから、言葉を当てていくんですか?
政幸:そう。幹宗が「ラララ」って歌っているところに言葉を当てていくんですけど、文字数が多くて、うまくいかなかった。
幹宗:俺も絶対嫌だ、こんなにたくさん書くの(笑)。
政幸:でも、僕の曲の中では「Setup man」が一番聴かれてるんですよ。もう独走してて。
幹宗:あくまでも、相対的にね(笑)。
──歌詞は、どんなところから生まれたんですか? 冒頭の「棒コーヒー」という言葉も気になります。
政幸:これはネタバレすると、韓国ドラマの『愛の不時着』(*1)から来ているんです。ドラマの中で、スティックコーヒーのことを「棒コーヒー」って言うんですよ。その言葉がきっかけで、登場人物のク・スンジュンの歌を書きました。
注1
『愛の不時着』:2019年に韓国で放送された大ヒット韓国ドラマ。韓国の財閥令嬢ユン・セリが、パラグライダー中の事故で北朝鮮に不時着してしまい、北朝鮮の軍人リ・ジョンヒョクに助けられるところから始まるラブ・ストーリー
幹宗:詐欺を働いて北朝鮮に逃げてきた人ね。悪いやつだったんだけど、最後はいいやつになる。
政幸:しかも、めっちゃセットアップマンなんですよ。野球でいう中継ぎ投手というか、お膳立てをするようなシーンが多くて。タイトルもそこから来ています。
幹宗:なるほどね。物語の中で、抑えにつなぐ重要なポジションだったと。ゆっくり読んでも意味がわからない記事になりそうですね(笑)。
──面白いです(笑)。
政幸:ただ、リリースまでに時間がかかって、今さら『愛の不時着』って感じになっちゃったので。ほかの曲はXでも解説しているんですけど、この曲に関しては一切していないです。
幹宗:たしかに今さら感あるかもね(笑)。

──でも、配信ならドラマもいつでも観られますからね。続いて「ダンク」は政幸さんの作詞・作曲で、サッカー選手のルイス・ダンク(*2)から来ているとか。
政幸:曲を書いた頃、ブライトンのキャプテンのダンクがめちゃくちゃ好きだったんです。すごくリーダーシップがあるんだけど、足が遅い。その弱点がヒントになっていて。まず「ダンク」っていう名前がかっこよくて、タイトルにしたいなと思ったんですよね。
注2
ルイス・ダンク(Lewis Dunk):イングランド出身のサッカー選手。身長192cmの大型センターバックで、現在はプレミアリーグのブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンFCでプレー。俊足ではないものの、身体の強さや空中戦、対人守備、高いパス能力を武器とする。
幹宗:でも、このタイトルで最初の2行を聴いたら、バスケの歌だと思うよね。
政幸:そうそう。ちょっと意地悪してる(笑)。〈翼が生えてるように見える〉とか〈翼が生えてるような気がしてる〉というのも、その足の遅さをちょっといじっているんです。
──「マッシブシックスポインター」という言葉も耳に残ります。
政幸:勝つと勝ち点が3入るんですけど、直接対決で勝てば相手も足止めできる。そういう意味で「シックスポインター」って言うんです。書いた頃、ブライトンがチャンピオンズリーグの出場権を狙っていて、相手のアーセナルには優勝がかかっていて。「これに勝てたら」という気持ちで、この言葉が入っちゃった。結果、ブライトンが3対0で勝ったという思い出があります。
──コード進行やコーラスには、浮遊感もありますね。
政幸:誰々っぽくしようというのもあまりなくて、適当にギターを触りながら作ったので、狙ったわけではないんですけど。ただ、R.E.M.っぽい感じにしたいな、というのはあったかもしれない。
サッカーも野球もドラマも。好きなものから生まれた歌

──「スゴロク」は篠崎さんとの共作ですね。
幹宗:みっくんが持ってきたデモを聴いて、「Teenage Fanclubっぽいものが作りたいのかな」と思ったんですよね。そこから僕が少し書き足しました。前回は本人にギター・ソロも弾いてもらったんですが、今回は「幹宗くんが弾いてください」って拒否されて(笑)。
──こちらの歌詞にはセルハースト・パークやテッド・ラッソが出てきますね。
政幸:セルハースト・パークはロンドンにあるサッカースタジアムで、『テッド・ラッソ』(*3)というドラマの撮影に使われているんです。そこから歌詞を思いつきました。
注3
『テッド・ラッソ』:ジェイソン・サダイキス主演のApple TV+の人気コメディドラマ。アメリカンフットボールのコーチだった主人公テッド・ラッソが、サッカー経験ゼロながらイギリスのクラブチームの監督に就任し、選手たちとチームの再建に挑む物語。
幹宗:全然わかんない。サッカーチームの話かと思ったら、ドラマなの?
政幸:そうそう。テッド・ラッソは主人公の名前。
幹宗:サッカー選手じゃないんだ、この人は。
政幸:そう。チームのオーナーが、わざとチームを弱くしようとして、アメフトのコーチを監督に連れてくるんです。それがテッド・ラッソ。サッカーについては素人なのに、一生懸命やっていくという話で。僕も、幹宗やみっくんに比べて音楽の知識がちょっと怪しいところがあって。
──引け目のようなものが?
政幸:引け目ではないけど、中学のとき、幹宗やみっくん、亮太(戸高亮太)は吹奏楽部で、俺は卓球部だったんですよ。音楽の話でついていけない場面があったりして、そういうことをいつか曲にしたいと思っていたんです。
──「Daisy Julie」は、小田さんとの共作です。
幹宗:おだじゅんが作ってきたリフが元になっていて、一聴してわかる通りSuedeですよね。しかも、バーナード・バトラーじゃなくなってからの楽曲、特に「Trash」に近い感じ。自分のほかのプロジェクトでは、こういうのはなかなかできないので、ここでは思い切ってパロディをやってみました。
──歌詞は「グリースガン」の続きのようにも感じました。〈速く歩く君は 僕の動力〉という「君」は、幹宗さんのことだったりします?
政幸:いや、そういうことではないですね。思い出のあの子というか。「あのとき付き合ってたあの子、元気かな」みたいな、普通のラブソングを作ってみようと思ったんです。デートするとき、俺はだいたい彼女より歩くのが遅くて、押されたり引っ張られたりしてたんですよ。それがきっかけで最初の3行が出てきて、あとはつるつるっと。
──幹宗さんに押されて曲を書いている、ということではなく(笑)。
政幸:それではないです。女の子です(笑)。
──そして「ワンクラブマン」は、柳田悠岐選手(*4)の歌ですね。
注4
柳田悠岐:福岡ソフトバンクホークスに所属する外野手。豪快な打撃と走攻守を兼ね備えた球界を代表する選手で、愛称は「ギータ」。
政幸:ホークスファンの僕にとって、ギータはスーパースターなので。「ワンクラブマン」って、野球ではあまり言わないじゃないですか。ずっと同じチームにいるフランチャイズ・プレーヤーに、あえてサッカーの「ワンクラブマン」という称号を与えようと。
幹宗:すごい偉そう(笑)。しかも〈大きく伸びたな〉って、ギータに向かって。
政幸:ちょっと上からな感じで(笑)。庭で育てるみたいに、「一家庭にひとりのギータ」みたいな、みんなのギータであるように見せかけているんですけど、それはあくまでも僕たち側から見たギータの姿であって。実際にはホークスが抱えている一人の選手で、対戦相手にとっては悪夢なんだと。そういうことが言いたかったですね。
──今回のレコーディングは、どう進めたんですか?
幹宗:バンドで「せーの」で合わせて録りました。歌は気持ちよく歌ってもらったものを、いくつかのテイクをつないで仕上げています。
政幸:今回、歌の感じというか、処理の仕方が気に入ってるんですよ。前の『LUCKY』と比べて、めっちゃクオリティが上がってるなと思って。
幹宗:単純に俺の編集技術が上がった可能性もある(笑)。今回はミックスも自分でやったんですけど、家で自分だけがうまいと思って食べるご飯みたいな、ちょっとトゥーマッチな味付けをわざとしていて。政幸さんは、濃い味が好きみたいですね。
──ローファイとも少し違いますよね。
幹宗:中期ビートルズみたいな、リミッターで潰れている感じ。カレーにびっしゃびしゃにソースをかけてやろう、みたいな(笑)。あと、ギターは半分以上がライン録りです。Universal Audioのアンプシミュレーターのペダルにハマっていて。アンプで録ったものと混ぜていますが、聴いても区別がつかないんじゃないかな。
──「ダンク」の冒頭や「ワンクラブマン」のハモリの練習のような声など、アウトテイク的なものを入れる遊び心もいいですね。
幹宗:ビートルズの『Anthology』が好きで、ああいうおふざけをどうしても入れたくなっちゃう。「ダンク」の冒頭は、実際にああやっていたわけではなくて。政幸が適当に口ずさんでいたのを編集して、そこにヘロヘロのギターを乗せて、ああいうふうに演奏していたかのようにしているんです。
政幸:あのイントロ、めっちゃ笑った。
幹宗:変なのから始まって謎に終わるのが好きなんですよね。そういうところもちょっとフックになるように。「Taxman」も、あの謎のカウントから始まらないとしっくりこないじゃないですか。

いつも考えるのは「また次があったらいいな」って
──政幸さんは、それぞれのメンバーが書く曲をどう感じていますか?
政幸:まず、ライブでアコースティック・ギターを持って一人でやるときに、幹宗の曲は難しくて弾けないんですよ。
めっちゃいい曲なんだけど、「こんなの山本政幸ができるわけないだろ」って(笑)。俺が作る曲は、ギターを持って指を動かしながら「ちょっと小指を足してみよう」みたいな作り方なので、すごい簡単です。
──簡単、難しい以外のところでは(笑)。
政幸:幹宗のデモは仮歌まで入っていて、ほとんど完成しているんです。みっくんのは半分ぐらい、おだじゅんのはコード進行とリズムだけ。そこに幹宗がメロディをつけてくれると、初めて歌詞を乗せられる。でも、おだじゅんの曲は「グリースガン」のときもそうだったけど、デモから完成までの変化が一番大きくて。俺からすると「奇跡だ!」みたいになるんです。
幹宗:おだじゅんの曲はリファレンスが明確で、今回の「Daisy Julie」も、リフでは思い切り遊びました。自分の曲だとそういうことはしづらいけど、人の曲なら思い切ってできるし、「こういうコード進行もありなんだ」って発見もあるんです。
政幸:「グリースガン」もめっちゃ好きな曲で、おだじゅんのことが大好きになりましたね。
幹宗:あの曲には、おだじゅんが大好きなThe Clashのリフを入れたりして。「こいつ、あれ好きだから足しとこう」って。自分の作業のモチベーションとしても、人が喜ぶところを想像するのが一番わかりやすいじゃないですか。
──幹宗さんから見て、政幸さんの曲はどうですか?
幹宗:変な曲だなと(笑)。自分では一生思いつかない。タコミートの乗っていないタコライスみたいな、「なんで野菜しか乗ってないの?」という謎のあっさり感があるというか……(笑)。でも、それが特色なので、そのままにしているところもあります。
政幸:幹宗のアドバイスに沿って作ることもあるんですよ。「ミドル・エイトが欲しい」とか。だから「ダンク」は、最初からミドル・エイトに全集中してました。〈僕たちが 零れ落ちたまま〉のところだけは作らないと、絶対ボツになると思って、がんばって書きました(笑)。
幹宗:完成形のイメージを共有しているわけではないので、アレンジや録音で「これならいける」というところまで持っていくのは実験ですよね。そこに、もうひと味をどう足していくか。
政幸:俺はもう、丸投げしてる感覚です。「頼んだ!」って。

──今、昔からのメンバーと一緒に音楽を作るのは、どんな気持ちですか?
幹宗:バンドをやる前から友達なので、今もたまに飲むんですけど、一晩中ずっと笑っていて、あっという間に時間が過ぎる。それが大好きなんですよ。レコーディングだと何日か一緒にいて、夜も飲めるじゃないですか。早く終わらせて、飲みに行きたい(笑)。
──前作の制作時には、カラオケでK-POPを歌って盛り上がったそうですね。
政幸:BTSはファンクラブにも入ってます。
幹宗:ファンの人をARMYって呼ぶんだよね。政幸のファンはなんて呼ぶ?
政幸:それは考えないといけない(笑)。
──K-POPは、ご自身の音楽にも影響していますか?
政幸:全く関係ないです。
──即答でしたね(笑)。
幹宗:ハマっているものが反映されないの、すごいですよね。
政幸:むしろ、ダンスがかっこいいなって。J-HOPE(BTSのメンバー)がめっちゃ好きで、タイムマシンで戻れるならダンスをやってみたいですね。
──お二人とも、最初は同じような音楽が好きだったんですよね。
幹宗:だいたいそうですね。たまたま生まれ育った家が同じだったんで、新しいのを買ってきたら貸してくれる、みたいな。
政幸:ビートルズとかね。最初は親父がギターを持ってきて、二人で練習し始めるんですけど、幹宗の方がすぐ上手くなって。俺は手が痛くなると一旦寝かせるので、差がめっちゃついて(笑)。今も、俺やみっくん、亮太、おだじゅんと違って、幹宗はずっと音楽を仕事にしているから、一人だけどんどんレベルが上がっているんですよ。
──出来上がってくるものも、変わってきている?
政幸:The Cigavettesの頃、前作の『LUCKY』、今回の5曲と、個人的にはずっとよくなっている感じがします。常に最新が一番好きで、昔の曲をあまり聴く気にならないぐらい。
幹宗:お褒めにあずかります。ちなみに、最初に「いい曲からsunsiteに回した」って言いましたけど、いい曲順ではないんですよ。「Setup man」は僕も会心の出来だったので。
政幸:じゃあ、それを俺にくれたんだ。それはうれしいな。
──次にやりたいことは、もう考えていますか?
幹宗:今のところ特には。やれって言われたら、もちろんやりますけど。
政幸:みんなと作るのは、めっちゃ楽しいです。いつも考えるのは「次があったらいいな」って、それだけですね。

編集 : 石川幸穂
The Cigavettesのメンバーと5曲連続リリース
最終作は野球界のスーパースターへ宛てた曲
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INFORMATION
山本政幸
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