REVIEWS : 063 テクノ、ベースミュージック (2023年8月)──草鹿立
“REVIEWS”は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手がここ数ヶ月の新譜からエッセンシャルな9枚を選びレヴューする本コーナー。今回はオトトイ・アルバイトで、東京アンダーグラウンドのクラブ・シーンにてDJとしても活動・回遊している草鹿立がテクノ~ベース・ミュージックのシングルをお届け。現場直送の最新のダンスサウンドをぜひ。
OTOTOY REVIEWS 063
『テクノ、ベースミュージック (2023年8月)』
文 : 草鹿立
Tristan Arp 『End of a Line or Part of a Circle?』
LABEL : 3024
ブロークン・テクノ名門〈3024〉から、メキシコをベースに世界各地で活躍する技巧派、Tristan Arpが最新EPをリリース。爽快なパーカッションと、アンビエントやグリッチなどのエレクトロニック・サウンドが居心地良く同居する5トラックがパッキングされている。聴けば聴くほどハマっていく彼のトラックだが、今回もまんまとズブズブ沼へ。フロアでも十分に機能するがリスニングにもおすすめで、ラストを飾る“The Language Change”は今夏の暑さ対策としても有効なほどのクールなダウンテンポ。ちなみに、6月にNY発レイヴパーティー〈Sustain-Release〉の一環で彼のDJを見る機会があったが、そのプレイはピカイチ。ジャンルを横断しながらグルーヴを淡々と積み上げていく職人芸はお見事でした。
vardae 『The Kaipos EP』
LABEL : OODA
〈Livity Sound〉や〈R&S〉からもリリースしているForest Drive West と新人、localhost がタッグを組んだ新レーベル〈OODA〉から、リヨン拠点のプロデューサー、vardae がリリース。呪術的なダウンビートにノイズと太鼓が絡みついた”Rites”、これまたじわじわと増幅する不気味なサウンドにキックがこだまする“Kaipo”、清涼感のあるポリリズミックなテクノの“Bullet Ant”、vardae節の電子音にジリジリと攻撃される激ヤバ・トラック“Ecstatic Dance”と、異なるBPM帯ながらサウンドの感触は統一感のある仕上がりに。アンビエントの観点から切り取っても面白いし、リスニングとしても有効かと。本作を聴く限り、ミニマルなベースとテクノをシームレスに越境し、パーカッションで料理した〈OODA〉。これからのリリースが非常に楽しみな要注目レーベルです。
Lemna 『Nodes』
LABEL : KHIDI
〈DELSIN〉でのリリースも記憶に新しい、Lemna ことMaiko Okimotoの新作は、ジョージアの〈KHIDI〉より。このEPは2017年から2022年に制作されたトラックで構成されているそうだ。まず、塵のようなノイズ音と怪しいベースの上で日本語リリックが舞う“N17”が開幕からめちゃくちゃかっこいい。さらに“N19”や“N20”は、先ほどのvardaeの新作と呼応する催眠系テクノの要素がありつつも、より硬化させた印象。冷たい金属音が混じっているのでゴルジェ・センサーが思わず反応してしまったりも。野太いベースに生音っぽいパーカッションが重なる“N22”は臨場感が溢れています。アートワークも秀逸で、抜け目のない仕上がりに。まさに、「闇が目を覚ま」したような1枚!