2025/02/20 18:00

Phill Most Chill, Djar One 『Deal with It』

本作のBandcampページには、「boom bap」や「old school」などと共に「random rap」のタグも付いている。主に1980年代半ば頃から1990年代初頭のインディペンデントなラップ作品を指す言葉として2000年代に広まったこの言葉を、2025年の今になっても使っていることが本作の全てを表している。ガツガツとしたファンキーなブレイクビーツは1980年代後半を思わせる荒い魅力があり、そこに乗るラップもその頃直系のスタイルだ。もちろんスクラッチも聴ける。ほぼ全編懐かしのノリだが、ラストを飾る“Let Yourself Go”では三連フロウで少しだけ現代に歩み寄っている。


SlimeGetEm 『GetEm』

ヒップホップはDJがレコードの同じ個所を反復したことから始まった「音源」のカルチャーだ。サンプリングによるビートメイクはわかりやすくそうだし、スクリュードされた声などライブでの再現性の低い表現が当たり前のように使われていることもその例と言える。それを踏まえて新進ラッパーのスライムゲテムによる本作を聴いてみよう。小気味良く詰め込んでいくラップをパンチインで隙間なく配置していくこの音楽性は、明らかにライブを前提としていないものだ。そしてそれが乗るビートも、恐らくバンドセットではプレイされる機会のなさそうな奇怪で機械的なものばかり。異端ではなく先端、ヒップホップらしい尖り方の新たな名作だ。

wolfacejoeyy 『cupid』

ニューヨークを拠点に活動するラッパー兼プロデューサーのウルフェイスジョーイは、メロウな質感とUKドリルの定型に囚われすぎないパターンのドラムなどが特徴のサブジャンル「セクシー・ドリル」を得意とするアーティスト。本作も基本はこのスタイルなのだが、ビームのラガ・フロウと渡り合う「nympho」でのログドラムや、アフロビート的なパーカッションと声ネタを導入した「ronaldinho」のようなナイジェリア系アメリカ人としてのルーツを感じさせる要素も目立つ。甘く歌い上げるようなソフトなラップにも時折アフロビーツっぽいニュアンスがあり、サウンドをよりユニークに彩っている。ポップに攻めた快作だ。

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