このバンドは、ポストロックに反逆してやろうって——mouse on the keys、6年ぶりとなるフル・アルバムを先行ハイレゾ配信

前編 : mouse on the key結成にいたるまで… はこちらから
結局どのジャンルにおいても良い曲が残っている
——前半は川崎さんによる、mouse on the keys結成までを多いに語って頂きましたが(笑)、ペースが落ちて以降のここ数年から、このアルバムが出来るまでの状況をお聞きしてもいいですか?
清田敦(以下、清田) : 結成してから初めて、何ヶ月か休んでみようっていう時期があって。でも、そこで思ってたより長引いたというか。もちろん川崎君の体調の面とかそういう色々な要素が重なってたんで、いつの間にか時間が経ってたって感じです。
——最初は、どれくらい休むつもりでいたんですか?
清田 : 最初に休もうって言ってたのは、3ヶ月くらいだと思います。
新留大介(以下、新) : でも結果的に、2013年なんかは年間で結婚パーティーでしかライブをやってないんじゃないかっていうぐらいには、ペースは落ちていましたね。
——その間、川崎さんは曲を作っていたんですか?
川崎昭(以下、川崎) : 作ってはいたんですけどかなりペースダウンしてましたね。理由は、今まで通りな感じでは嫌だなぁと。当時、mouse以外にヒップホップグループの灰汁のメンバーだったセメダイン君とCemedain and his chopsticksってグループをやっていたんです。それは一切練習しない、即興的なもの、ノイズとか微分音的なものをやりたいなと思って。丁度mouse on the keysみたいな、構築的な音楽から少し離れたいなと思っていたので。その時期の自分はそういう即興性の類い、偶然性みたいなものをmouseにも活かせないかなと模索してたんです。だけど、なかなか答えが見つけられなくて悩んじゃってたんですよね。ホントに自分が面白いと思ってmouseをやれないと、このままじゃバンドが終わるなと思ってたんですよ。

——振り返ると、前作、2012年のミニアルバムは、迷いの中で作られたわけですよね。今振り返るとあの作品はどう思いますか?
川崎 : 前のミニ・アルバムは、時間に間に合わせようっていう感じはあったと思いますね。あの作品は良かったんですけど、微妙にジャズ・トリオ的な要素、ピアノ・トリオ的な要素を打ち出さなきゃなっていうよこしまな感じが出てるんじゃないかなって気はします。今思うとそんなこだわりは別に要らなかったなぁと。自分たちの評価が、mouseはジャズだよねって認識されてきちゃってたから、それは違うんだけどなっていうのは自分では思っていて。もちろんジャズは好きだし、ジャズの要素もあると思うんですけど、自分の中ではそこに行っちゃダメだっていうのはどうしてもあって。元はやっぱりフェアライト時代以降の坂本(龍一)さんとか、アート・オブ・ノイズとかが好きなわけだから、そこは間違えちゃいけないと。だから今作はジャズだけじゃない感じっていうのが凄い出てると思いますよ。
——なるほど。周りからの認識が枷になっていたんですね。
川崎 : 悩んでいる間、曲を作るというよりも考え方をどう変えていくかってことで本をたくさん読んでましたね。次にmouseが音源を出すとしたらアルバムだとは思っていたので、どういうコンセプトに持っていけば良いのかなぁと。その時、芸術全般、哲学、数学、物理学などの本を思いつくまま読んでみたんですね。そしてどの分野においても、常に1つの軸が産まれるとカウンターとして対立するものが産まれていくのを繰り返しているっていうことがわかったわけです。そこに真理のような絶対性っていうものが存在しないことに気付いたんですよ。だから、その当時のマイブームであった偶然性、即興性の音楽っていうものに自分は心酔し過ぎていたなぁと思い始めて。世の中に絶対性が無いってことに気付くと、J-POPのような王道進行を使うのもありだし、ノイズもありだし、その中間もありだってなっていったんですよね。そして、手法はどうあれ、mouse on the keysとして良い曲を作ることをシンプルに目指すべきだなと素直に思えたわけです。遠回りしたんですけど、結局どのジャンルにおいても良い曲が残っていると、そんな単純なことに気づいたわけです。
——シンプルな所に立ち返ったわけですね。その考えに至ってからは、どれくらいでアルバムを作り上げたんですか?
川崎 : このアルバムを作ろうって話になってからは1年ぐらいですかね。2曲目になった「Leviathan」は、すごく時間をかけて作ったんですけど、これが出来たおかげで今回のアルバムはいける! って僕は思ったんですよね。この曲で初心に戻れた。カッコ良くて、自分がグッと来る曲。自分がヤバいと思うものになるまで諦めないでやろうと思って作ったんですよ。さらに、「Liviathan」が出来たこと、そして本から得た知識のおかげで、後はmouse on the keysらしくかつ良い曲であることさえ守れば、何でもありだなって思えた。そこで今回、新しい試みにチャレンジしたんです。本作品では、自分がガッツリ作った曲は3曲だけで、他はメンバーだったり、メンバー以外の人間にも曲を作ってもらっていてですね。
——えっ!? それはどなたに頼まれたのでしょうか?
川崎 : 自分がある学校で講師をしていて、基本その卒業生たちに頼みました。教え子約20人にコンペをしたんです、mouse on the keysのアルバムに君たちの曲を採用するから作れと言って。その中で良いと思った坂内茉穂さんの曲(アルバム中「dance of life」という曲)を採用しました。もちろん曲を仕上げる部分では僕が大幅にアレンジし、メンバーで録音しましたけどね。他に、僕の教え子の一人である君島淳夫君(FORTという名義で活動しているトラックメイカー。採用曲は、アルバム中「hilbert dub」という曲)やAkeboshiさんにも楽曲依頼しました。Akeboshiさんの曲も非常に気に入っているのですが、レコーディング・スケジュール的に今回収録できませんでした。いつかリリースするかもしれないので楽しみにしていてください。
——それはなかなか挑戦的ですね! 曲作りの面ではmouse=川崎さんというイメージもあると思いますが。
川崎 : 周りには大丈夫かって言われましたけど、自分の中では最初からこのアルバムを作る上ではこういうつもりだったんですよ。頑に自分なんてものを押し出すのはもう飽きたなって思っていて。

一同 : ええっ(笑)。
川崎 : それも、まあ「Liviathan」が出来たからなんですけどね。自分の自信のある曲が出来たからこそ、それ以外を周りにぶん投げられたというか。
「他者」って概念を知ったから
——それは曲だけですか?mouse on the keysはPVやジャケットのアートワークの部分にもこだわりが見えるバンドだと思うのですが。
川崎 : PVやアートワークにはこだわってきましたね。mouse on the keys立ち上げ以来、モダニズム的なもの、硬派なものとかがイメージであったんです。例えば、建築で言うとブルータリズムとか。丹下健三、ルイス・カーンや安藤忠雄さんのコンクリート打ちっぱなしの感じの質感やミニマル感とか。あの方々のこだわりから来る反骨心みたいなものが凄い好きで。それが作品になっているのに憧れてるんで、そこを基準にしたいなと。後、僕は漫画家志望だったんですが、中でも大友克洋さんが大好きで。大友さんの作品、「童夢」以降、「AKIRA」とかを見ると、近代的な要素がてんこ盛りなんですよ。大友さんのインタビューとか読むと街の破壊シーンを描くために、建築構造の勉強をされてるんです。他には、写真や映画からの光学的な表現を取り入れたり、エイゼンシュタインのモンタージュ理論や黒澤明さんのカットや繋ぎ方を研究していたりしている。僕は、漫画という2次元表現を極限まで高めた大友さんのクレイジーさに影響受けています。だから、この一連の巨匠の思想やイメージをmouse on the keysで継承したいと思ってやっています。そして、今回作ったPVでも、そんなイメージを持っていますし、モノクロが好きなのもそういう要素が強いからだと思いますね。だけど、今回アルバムのアートワークに関しては、そういう自分たちのこだわりを捨てたんですよね。本来はモノクロで、しかも黒多めが良いんですけど、今回は白が多くて。これは僕等が決めたんじゃなくてレーベルが決めたんですけどね。今回mule musiqからリリースする条件の一つに、アルバムのアートワークはレーベル側が決めるというのがあったんです。最初はちょっと戸惑ったんですけど、最終的にはこれでかなり良いなと思えて。なぜ、そう思えたかというと、アルバム制作中に「他者」って概念を知ったからなんですけどね。
——それは「他人」って意味ですか?
川崎 : この概念は、エマニュエル・レヴィナスっていう哲学者の言葉なんです。「他者」って「他人」って意味じゃなくて、自分が何かをして押しつぶされちゃう、自分の思い通りにならない、なんだかよくわからないという他人的な性質のものすべてを「他者」っていうらしいんですね。レヴィナスって人はユダヤ人で、第二次世界大戦中、ナチスによって自分以外の親族をほとんど失ってるんです。そして、アウシュビッツの収容所に入れられて、いつ死ぬか分からない状況の中で、ただコンクリートの天井をずっと見つめているしかできなかったと。その時に、自分がこのまま死んでも、このコンクリートや塀の中は何も変わらず残っている、世界は何事もなかったかのように継続していくっていう事実が怖いなと思ったらしいんですね。そこから「他者」っていう概念が出てきたわけです。そして、第二次大戦前後で、様々な学問分野で他者的なモノが証明されて行くんですが、詳細は置いておくとして。要するに世の中っていうのは完全なものなど無いっていう話に辿り着いて行くんですね。じゃあ何も考えずに楽しんでいれば良いかと言われたらそうではなくて。そういう「他者」っていう考え方の先には、潰されるからこそ、次のものを作るっていう動機付けになると。だから人間は永遠と作り続けられるよっていう考え方に行きつく。完璧なものなど無いからこそ、皆何かを産み出すことを辞めないし、不完全だからこそいいと思うんですよ。だから自分は今回他者論的にアルバムを作ろうと思ったんです。そもそも自分が制作する上で、自分の予想を裏切る、作品を想定外に押し上げるということをモットーにして来たんです。その現れが偶然性だったんですが、結局それを求めたら偶然性では無くなってしまうという他者が出現したわけです。そして、カオスか構築かという二項対立で、それぞれの極に触れると必ず限界が起きるのであれば、現時点において、全てを許容する方がいいなと思えたわけです。その答えが、手法はどうあれ、マウスらしい良い曲をつくるというシンプルな答えに行き着いたんです。そういった考えのもと、今まで自分一人でこだわって来たところを、他の人々に委ねることが出来たのは本当によかったですね。それはまた、どんなモノが出来上がってくるかわからないリスクが伴いますけど、自分の目指す想定外なものが生まれる可能性は高くなった。ああ、これこそが偶然性じゃないかって気づいたわけです(笑)。
——でも出て来たものが100%OKっていうわけでは無かったですよね?
川崎 : もちろんそうなんですけど、何をして100%と考えるかであって、この時点で僕は、自分が100%OKなものを望んでいないですから。そもそも想定外を目指しているわけだし。自分がやったらこうならないっていう要素があった方が良いんですよ。でも、矛盾に思われるかもしれませんが、mouse on the keysにはなってるっていう風にはしたかったんですよね。だから偶然性だけに行き過ぎてもダメだし、mouseらしさも維持していくっていうバランス感覚も必要なんです。人はどうしても二極で物事を考えがちなんで、僕は多重人格的って言ってるんですけど、物事を考えるときは1つで考えずに第二、第三の自分を持たなきゃいけないと思うんです。今言ったことが全てかというと、もう違う自分が前を走ってるっていう状態が望ましいと思ってて。他のメンバーや外部から持ってきたものは自分が作るものと少し違うけど、自分に予想出来ないものが注入された方がmouseにとっても未来になると思うんです。そういう意味で、このアルバムで「他者」って概念を自分なりに援用できたというストーリーを、今話しながらまとめることができました(笑)。
一同 : (笑)。
川崎 : 単純に予想付かない方が面白いんですよ。今まではヴィジョンがないと嫌だったし、それがmouseだって言われていましたけど、それはそのモードになったらまたやればいいと思います。マウスの基本ラインは守って、他人に委ねるのもアリっていう引き出しが手に入ったことは、このバンドにとって大きいですね。今回のアルバムでmouse on the keysはネクストレベルに到達しましたね。だからこの6年間は、すごい変化があったなって。何もやってないんじゃないよっていう(笑)。何だかものすごい説明しすぎましたかね(笑)?
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mouse on the keys / machinic phylum (24bit/48kHz)
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PROFILE
mouse on the keys
2006年、川崎昭(ドラム)と清田敦(ピアノ、キーボード)によりmouse on the keys結成。2007年、toeのレーベル〈Machupicchu Industrias〉より1stミニ・アルバム『sezession』リリース。2008年、『sezession』リリース・ツアーより新留大介(ピアノ、キーボード)加入。現在の3人編成が形成される。
>>mouse on the keys Official HP