参加した人が「こんなんでも音楽だし、アルバム出せる」って思ってもらえたらいい
──ツバメスタジオのときはお客さんだったということですが、こーすけさんはいつから参加したんですか?
こーすけ:Hyozoがインスタできのこの横にハンディレコーダーを置いてる写真を載せていて、僕はきのこが好きなのでなにをしてるのか聞いたら、「きのこが聞いてる音を録ってます」って返ってきて。僕は植木屋なので、庭師をやってたところでもシンパシーを感じていて。〈ツバメスタジオ〉に遊びに行ったあと、きのこ狩りに一緒に行って、意気投合してから〈Studio Reimei〉の野流主宰セッションイベントに誘われて、そのときお琴で参加したのが最初です。
Studio Reimei:西調布にある、SAGO(SAGOSAID)が運営するスタジオ兼イベント・スペース。スタジオ・セッション音源とライブ映像を公開する企画〈REIMEI SESSION〉を最近始動した。クラフト・ビールが置いてある。
──なんかみんなきのこ好きですね、Takehも参加してましたし。
Hyozo:彼はいま元気にDJやったりレイヴやったりしてますね。元々俺はhYouU€aでも彼と一緒だったけど。
水野:それこそ、海辺のレイヴはTakeh主宰だったよね。
Hyozo:そうそう、彼がやってた〈ガンダーラ真鶴〉のレイヴ〈Don’t Panic At The Beach!〉にも野流は参加していて。そのときやったセッションをアレンジしたのが『For Damage』に入ってる「Gandhara」なんです。その日は出番が朝方で、水野さんと俺と伏見くんっていうドラマーと、カメラマンの谷くんにパーカッションを急にお願いしてやったんですけど。神々しい朝日を見ながら涙を流して演奏して。すごく気持ちよかった。
こーすけ:僕はそのとき参加してなくて映像だけ見たんですけど、音はめちゃくちゃだけどみんな楽しそうだったね。
──いま「Gandhara」の話が出ましたけど、アルバムに入ってる曲は即興演奏をアレンジしたものなんですか?
Hyozo:2年間、色んな人と即興演奏していくなかで、何通りもアレンジをしてきて。水野さんとこういう感じだよねっていうのを共有して輪郭が出てきたものを録音してます。
──演奏のあの部分よかったよねってところを取り込んでいく作業ってことですか?
Hyozo:そうですね。「あの回のあの感じを洗練させてやろう」ってことを繰り返してます。
水野:曲のシステムとしてはジャズに近いですね。ライヴのときはコード進行とメロディ、何分くらいで盛り上がる、とかだけ伝えて、あとは演奏者に任せてます。
──システム上、ジャズのエッセンスが多くなっていくんですかね
水野:そうなるときもあれば、ロックっぽい感じになることもあります。
こーすけ:『For Damage』をつくる前は、1時間の即興でキーだけ決まっていたり、絵を描いてそれぞれの解釈で演奏してもらう形が多かったんですけどね。いまもだけど、その日誰が来るのかもちゃんと分かってないことが多いし。
──私が最初に野流をみたときは中盤にゆうやけしはすが遅れて参加してから、フュージョンぽかったところから一気にクラウトロック感が出たのが面白かったです。でも本人にはクラウトロックへの造詣はないらしいから関係ないのかもしれないですけど。
こーすけ:あのときはリハーサルには居ないけど来るのかな?って感じで、振り返ったらいつの間にかいたよね。
──誰が来るかわからないなか、どんな情報を共有してるんですか?
こーすけ:最近でいうと、『For Damage』の曲をやってることが多いんですよ。でも曲を把握してる参加者が基本半分以下なので、コードと曲の長さと原曲を送って聴いてもらう形をとってます。結構自由にやってもらってはいる。
──この三人は曲を把握してるっていう意味でのコアメンバーなんですね。
Hyozo:曲を把握してるのはこの三人だけかな。ただ、野流はいろんな人が参加してるから、この3人以外にも何度か参加することで曲を覚える人もいて。パーカッションのアヤスミくんとか、ドラムの伏見くんは把握してる。コアメンバーはどっちかというと運営までやってもいいよっていう認識をもつ3人でやってます。他の人たちは、演奏はいつでも参加するけど拘束はされたくないって感じ。
ロックバンドという形態の話に戻ると、バンドって人を拘束するじゃないですか。バンド以外の表現活動をやれないくらいに時間を拘束するのもそうだし、ファッションを揃えたり。ゆらゆら帝国が昔は対バン相手とは一切話さなかったみたいな、ノリを合わせたり。そうやって人を拘束するのって全くいまっぽくないし、自然じゃない。半分任意で集まってるだけなのに、人の人生をそこまで拘束していいのかなと思ってます。そういう組織に自分はしたくないし、自分の表現は各々で磨いてもらって、その一部がいつかフィードバックされればいい。そういうふうに野流をやって良かったなと思うのが、〈ゴヰチカ〉で最初にセッションしてた織川くんって僕の小学校5年生からの友達なんですけど、彼が自分のアルバムをリリースしたことで。全くアルバムを出すようなタイプじゃないと思っていたのに、ただの地元の幼馴染だったのに。結構それに感動したんです。そんなふうに、野流に参加した人が「こんなんでも音楽だし、アルバム出せる」って思ってもらえたらいい。
──楽器未経験者が参加することも多いですか?
Hyozo:ガンダーラでの谷君はまさにそうですよね。人柄は知ってるけど楽器やったことがない人にいきなりライヴしようぜって言えるところも野流のいいところ。
──よく参加する人はどう言った知り合いが多いんですか
Hyozo:初期は、僕と水野さんのルーツであるサイケデリック・ロック周りの人が多かったんですけど、ファーストが出てからはアカデミックな人も参加するようになりました。岡田拓郎さんとか、大畑眞くんというピアノで参加してくれた人は東京芸大の作曲科を首席ででている現代音楽の人で。池田若菜さんは、個人としての活動もありつつ、ノン・イディオマティック・インプロヴィゼーション(*)っていう同じフレーズを2回以上繰り返してはいけないようなインプロのシーンで活動したり、ロック・バンド、The Ratelの主宰をしたり、スピッツのレコーディングに参加しているような人で。そういうアカデミックなフィールドで活動しているミュージシャンもいるんですけど、僕はそういう人たちとスカムな人たちを一緒に入れたくて。今回であれば、とんとんトマトちゃんっていうシンガーに参加してもらって。
ノン・イディオマティック・インプロヴィゼーション:ロックやジャズやクラシックのような伝統的なイディオムを回避する音楽的アプローチをさす用語
こーすけ:トマトちゃんは、僕が最初に〈Studio Reimei〉で参加したセッションにドラムで呼んだんですけど。そのときは一応アンビエント・セッションっていう体で、トマトちゃんはドラムをドタドタ叩いてた(笑)。その後にやったレコーディングも参加自由だったので向こうからきてくれて。あとはJohn Tremendousくん、彼もすごいです。
とんとんトマトちゃん:NHK Eテレ「いないいないばあっ!」の楽曲とは一切の関係がない模様。Twitterのプロフィールにはシンガーソングライタードラマー ギタリストベーシストと書かれていました。今年4thアルバム『しょうから』をリリース。「たぬきのきっちょむさん」を鮮明に聴きたい人はこのアルバムをかけてみましょう。
John Tremendous:サイケデリック・ロック・バンドJohn Tremendous' Soft AduIt Explosionの主宰。個人のBandcampページもあり、こっちはよりカオス。
野流、とんとんトマトちゃん、John Tremendous' Soft Adult Explosionが参加している即興演奏コンピはこちら。バンドPSP Social主宰レーベルよりリリース。
Hyozo:トマトちゃんと河端一さんが並んでる、みたいな状態がやりたくて。いざ河端さんの音の上でトマトちゃんはなにをするのかなと思ったら「たぬき! たぬき! たぬきのきっちょむさん! 」って叫んでました。どうしようかなと思って、1秒くらいだけ入れました。「Sacrifice」の冒頭に一瞬入ってるんですけど。
こーすけ:本当はもっとずっと叫んでたんだけど。流石に全部は入れられないよねってことで。トマトちゃんは腑に落ちてなかったですけどね。でもそういう、コントロールのできなさが野流の面白さだと思う。ちゃんと楽器を弾けて上手い人と、それに合わせたくても合わせられない人と、破壊しに来る人がいて。『For Damage』は、そうやって参加者が好きなように音を出してるから予測しない方向に進んでいったんです。