「賢くなっても生活が楽しくなるわけではない」。AI時代に思う“人間らしさ”

──自身の内側へと掘り下げていくのとは別軸で、そういった現代性のあるテーマを考えながら歌詞を書くこともあるのでしょうか?
「自分で立つ」がそうでしたね。今のAI開発って一時期のアメリカとソ連の宇宙開発戦争に似てる気がしているんです、技術のワクワクを優先して普通の生活が軽視されてるというか。ただ僕がAIを嫌っているかといえばそうでもなくて、新しい技術は好きですし、1980年代とかに生きていたら宇宙開発にワクワクしてると思うんです。そんな中でも人間らしさは失いたくないし、でも自分はSNSに曲を発表していくわけで……そのギャップに対して作った歌ですね。
──《人類もバカになる/その次は何になろう》というラインも出てきます。
賢くなることだけがいいことじゃないというか、賢くなっても生活が楽しくなるわけではないですよね。そのことについて歌っています。
──なるほど。『汽水域』では「Last Summer Bye-bye」のリワークも収録されていますが、なぜこのタイミングでもう一度手を加えたのでしょうか?
『汽水域』の曲を作り終えた時、EPに振り幅が更に欲しいと思ったんですよね。それで「Last Summer Bye-bye」は、池田亮司さんのようなサウンドの方向性でアプローチしたら面白いんじゃないかと思って、元の楽曲をより壊すような感覚で制作しました。
──サウンド面において、確かに『汽水域』では一曲ごとにキャラクターが違いますよね。
そうですね。特に「Pulse Wave」はクラブで鳴らしたかったので、そのイメージで制作を進めました。
──クラブのサウンドシステムに目覚めたのはいつですか?
2023年に〈Maltine Records〉が渋谷のCIRCUSで開催したイベントに行ったんです。それが衝撃的で、めっちゃ好きな曲が良い音で無限に流れているっていう体験だったんです。最初のイベントとしては100点というか、そこから自ら行くイベントは全部クラブ系になりました。
──その影響が『汽水域』には入っていると。
ライブハウスのバイヴスが強かった『月の川』から『汽水域』ではクラブらしさが接続されたと思ってます。「自分で立つ」の2番のBメロとかは、暗闇で真剣にハウスを聴きながら飛び跳ねたりクネクネしてる時間のイメージなんです。あの何のことも考えてないだろう感じが最高で。
──「自分で立つ」はアフロハウスのノリもありますよね。
あ、めっちゃ嬉しい。ロジャーズの「Delante」が大好きで、個人的にはそのノリなんですよね。あとディスクロージャーとかカモフライを聴いていて、エレクトロニカにアコースティックの楽器が入ってくる音が「自分で立つ」に合うと思ったんですよね。曲のテーマもあるので、ガッツリとした電子音よりは温かみがある方がいいんじゃないかって。
──ただ、ラストの「27 Club」でロック・サウンドに回帰してくるという。
そう、これだけ浮いているんですけど(笑)。これも『汽水域』の振り幅ですね。
──(笑)。今のアイデアからも『汽水域』という中間地点にいるということが伺えました。EPを作り終えて、これからのビジョンはあるのでしょうか?
電子音の扱いが拙いとは思っていて。シンセサイザーやドラムマシーンを生音みたいに鳴らしたいんですよね。フローティング・ポインツとかフォー・テットとか、どれが生音でどれが電子音なのかわからないみたいな、あの感じを目指している節があるんです。
──なぜそのような音に惹かれるのでしょうか?
うーん……長く聴かれる曲は、生音に近い音が鳴っていると思うんです。フローティング・ポインツはオーケストラと一緒に制作をしていますし、他にも僕が好きな人はどこかでバンドを経験していて。そういう人の扱う柔らかな電子音が好きなんです。『汽水域』もそこから作った節があって、「柔らかい音のhyperpopってどう聴こえるんだろう?」というのを想像しながら音を選んでいました。
──なるほど。そのお話を受けて、8月の自主企画にお呼びした二組(HUGEN/Plan2+)にも必然性があるというか。エレクトロニカに宿る身体性を重視したアクトですよね。
どちらもジャンルの狭間にいて、「この人たちと一緒にライブができたら面白いものになるな」という予感がしたんです。自分が呼ばれた企画に出る時は「これはロックのイベントなんだな」とかを色々考えて考えて、それに対してセットリストを決めることが多いんですよね。ただ、僕の企画ならジャンルを気にせずできるんじゃないかな。僕のセットも構想中なんですけど、それぞれの曲にとってベストな形で演奏できたらなって。

編集 : 石川幸穂
自由な発想でジャンルを横断する、新たなJ-POP
LIVE INFORMATION

辻井くぬえ pre. 「遷移帯」 vol.3
日時:2026年8月23日(日)
会場:恵比寿KATA(LIQUIDROOM 2F)
出演:辻井くぬえ/HUGEN/Plan2+
OPEN 17:15 / START 17:30
TICKET:(ADV)学生¥1,800/大人¥2,500 +2Drink
<チケット取り置き受付>
https://forms.gle/uWV2FVtGaaXpRC3G7
DISCOGRAPHY
PROFILE
2002年生まれ。2022年に本格的に活動を開始。
ロック・シンセウェーブ・ハイパーポップなどの様々な音楽ジャンルをJ-POPに取り入れたサウンドが特徴。
自然由来の電子音を多用して壮大な世界観を確立している。
2025年、SUMMER SONICへの出演を懸けたオーディション「出れんの!? サマソニ!?」を通過し、SONICMANIAへ出演。
映像、アート、プログラミングなど幅広い知識を持ち、音楽以外の芸術面での才能も持ち合わせるマルチクリエイター。
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