
MOORWORKS特集! 仙台に拠点を置くインディーズ・レーベル
これは、洋楽インディー・ロック・バンドをリリースし続ける仙台のMOORWORKSと言うレーベルを運営する斉藤悠哉へのインタビューで、東北地方太平洋沖地震の2日前に収録した。OTOTOYで一番最初に海外バンドの特集ページを組んだのは、このレーベルの作品だった。もう2年以上も前の事。昨今では、海外のバンドを月に3枚も4枚もリリースし、震災後もそのペースは衰えていない。とは言え、このCD不況の時代に、レーベル運営は簡単ではないはずだ。しかもジャンルは、洋楽インディー・ロックと言う、さらにセールスに結びつきにくいタイトルばかり。たぶん、儲かっていないはずだ... だからこそ、彼の運営スタイルと、洋楽インディー・ロックに対するその思いを聞いてみた。何故彼が、そこにこだわり続けるのか? MOORWORKSのような良質なレーベルが、世の中にもっと溢れたら良いと思うからこそ。
インタビュー&文 : JJ(Limited Express (has gone?))

斉藤悠哉(MOORWORKS)×飯田仁一郎(JUNK Lab Records/OTOTOY)
飯田 : 最近のMOORWORKSのリリースは、凄い。1ヶ月に、3枚も4枚も! いったい、何人でやっているの?
斉藤悠哉(以下、斉藤) : A&Rとしては、横浜に1人、大阪に1人。あと福岡にA&R兼営業が1人います。仙台にも営業スタッフが僕以外に1人います。
飯田 : 斉藤君もA&Rですよね?
斉藤 : 僕は来る話でいっぱいいっぱいになってしまうので、現在、自分から探す余裕はないんです。来る話や、音源をどんどん聞いてさばいていくという状態です。だから新しいバンドを探すのは、その3人に任せています。

飯田 : それはボランティアで? それとも雇ってる?
斉藤 : 雇ってますよ。なので、フル・タイムで働いてもらってます。
飯田 : へぇ... じゃあ代表取締役という形で斉藤くんが居て。5人が食べることの出来る洋楽インディー・レーベルって、結構凄いことだと思う。それにしても東京、大阪、横浜、仙台と離れてるのは何故?
斉藤 : 大阪のスタッフは元々ライターをやっていた子で、知り合いだったんですけど、「職が無い」って言うから「じゃあうちでやればいいじゃん」って軽い感じ。横浜の子は、元々他のレーベルのウェブ・サイトを作ってて、無料でいいからMOORWORKSのサイトを作りたいって言ってくれて、でもいざ入ってみたらサイト作成だけじゃなくて自分でアーティスト探して外からひっぱってきたりして、「じゃあA&Rとして入りなよ」って言って。最初からそういうのがしたかったみたいです。
飯田 : 斉藤くんはなぜ仙台なんですか? 音楽ビジネスをする上で結構デメリットだと思うんですけど、実際のところはどうなんでしょう?
斉藤 : デメリットだと思うんですよ(笑)。仙台に居る理由はビジネスとはまた別で、単純に嫁の実家があっちだからなんです。でも、今って東京じゃない場所でも情報を発信できるようなインフラが整ってるし、幸い、都内近辺在住のスタッフも入ったんで、もうちょっとこのままでもいいかなって。あと、音楽のかっこいいレーベルって案外地方発とかが多いじゃないですか。そういうのに憧れているっていうのもあります。
飯田 : USインディーを中心にやろうと思ったのは何故?
斉藤 : ALOHAがすごい好きだったんです。
飯田 : ALOHAって今もやってます?
斉藤 : やってますよ。でも彼らも家庭が大事なタイプらしく、育児が忙しくて長いツアーはできないみたい。ALOHAがすごい好きで、自分のところから出せると思ってなかったし、2回もジャパン・ツアーを組めると思ってなかったんですけど… うん、やっぱりALOHAですね。会社名のサムエコーズもALOHAのアルバムからとってますし。
飯田 : その後Anathalloを呼んでましたね。でも、最近はあまり海外のバンドを招集していない?
斉藤 : そうですね。リアルな話、お客さんが入るバンドをリリース出来てないんですよ。どのバンドも来たがってるし、呼びたいんですよ。ただやっぱり商売ってなると... Anathalloが興行としてとんとんだったくらいだから。

飯田 : 金沢のRALLYE LABELや名古屋のSTIFF SLACKなどは、レコ屋を持ちながらレーベルをやっているけど、Moorworksはレコ屋を持とうとは思わないの?
斉藤 : 思わないですよね。売れないですよ。レコード自体の売上がやばいので。
飯田 : オーストラリアのMY DISCOが僕のレーベルJUNK Lab Recordsから3rd albumをリリースしたいって言ってくれたんだけど、今回は、さすがに断った。正直、収支が見えなかったんです。配信ならいいけど、CDじゃもとが取れないと思って。CDって、海外ではもうレコ屋で二番目の場所に置かれるようになった。カセットテープの音源が衰退していく時と同じ感じ。それぐらい売上が厳しくなってますよね。その厳しい中で、お金を回せるものなんですか?
斉藤 : 回せないですよ。
飯田 : (笑)。
斉藤 : 飯田さんの言ってることって100%正しくて、CDってもう終わってると思ってるんです。うちのスタッフも全員同じ認識です。今が過渡期で、みんなこれからどうしようか模索してもがいてるんですけど、デジタルでやろうってなった時にひっかかったのが、アドバンスで支払う印税の問題なんですよね。うちは契約上、ある程度の印税を先にアーティストに払うんですよ。それがリクープされたら、追加で支払う。その点で、CDは単価が高いけど、配信だと安いじゃないですか。だから配信だと印税を雀の涙ぐらいしか支払ってあげれないんです。だから、アーティストを助けると言う意味でもCDは出し続けたいと思うんですよね。
飯田 : MY DISCOに日本でCDを出したいって相談されて、でも今の日本の状況は本当に厳しいから、じゃあ、ツアーはしよう。ツアーして、自分達が持ってきたアナログ盤で返そうぜって。俺は別にこれでお金は儲けなくていいからっていう話をしたんですよね。
斉藤 : うちのスタッフが大阪でイベントをすると、結構CDが売れるらしいんですよね。普段レコ屋で並んでても買わないけど、その場が楽しかったら買って行く。お祭りでお面を買う感覚だと思うんですけど。だからツアーで売るのは正しいと思う。というか、CDって元々そういう売り方であるべきだったんじゃないかな。
飯田 : 渋谷の井の頭線にある駅構内のコンビニに、CDが売りだされていたんですよ。それって演歌と同じじゃないですか? これはやばいなと思って。それを考えた人は多分、CDを仕事帰りに買えるのは便利だって感覚だったと思うんですけど、やっぱり音楽ってパッケージも含めてかっこいいかどうかってところが大事やと思う。だから、それをやったらだめだよって思いましたね。
斉藤 : 僕がリアル・タイムでCDを買いまくってた頃って、TOWER RECORDSやHMVに行くことがすごいクールなことだったんですよ。もう今ではそれが普通のことだし、むしろAMAZONで買っちゃうし。
飯田 : その中でMOORWORKSが1ヶ月に3タイトルも4タイトルもリリース出来るのは何でなんでしょうか?
斉藤 : うちが発注している工場が台湾にあるんですけど、そことの関係が良好だということが一番大きいですね。台湾に行って直接交渉して、向こうもいい人だったんで何とかなりましたけど、必死でしたね。リリースが集中したのはたまたまA&Rのスタッフが持ってきた作品がこの時期に集中してしまっただけで、2月はリリースがゼロだったんで、そのしわ寄せみたいなものです。
続けていく価値がある
飯田 : 今までで売上がとれたタイトルはあります?
斉藤 : 新人も結構出してるんですけど、やっぱりALOHAとかSomeone Still Loves You Boris Yeltsinとか、元々人気のあった人達の作品が2010年は売れたなって感じですね。
飯田 : 逆に言うと、USインディーでちょっとでも知名度がある作品なら、国内版を出せば交渉次第ではちゃんと分岐点を超える。
斉藤 : そうですね。
飯田 : それは未来のある話ですね。斉藤さんがMOORWORKSを続ける上でやりたいことって何ですか? 苦しい中で、なぜ続けられるんでしょうか?
斉藤 : 僕も音楽やってたんで、作品を作るのにお金がかかるっていうのもわかるんですよね。なので、僕がミュージシャンでMOORWORKSと契約して、まとまったお金が入ってきたらすごい嬉しいし、自分の作品にも責任を持つだろうと思うんです。

飯田 : 斉藤くんは苦しくても、アーティストにお金が行くほうがいい?
斉藤 : 僕はずっと苦しいんで(笑)。CD不況って聞くけど、僕自身ずっと不況だからよくわからないんですよ(笑)。ただヒットしたらヒットしたで、それを受け入れられるのかはちょっとまだわからないですね。
飯田 : 斉藤さんがレーベルを運営する上で、一番大変なことって何ですか?
斉藤 : お金ですね。キャッシュが常に足らないです。なので、CDプレスの仲介もやっています。その利益でMOORWORKSが回ってる。
飯田 : そうまでして、アーティストを食わせてやりたいという思いがあるんですね。
斉藤 : ありますね。ミュージシャンってみんな音楽バカじゃないですか。だから今の音楽シーンを形成してるのって、すごいマニアックな過去の名盤が影響してると思うんですよね。だから続けてれば、99人がそっぽ向く音楽でも1人がうちから出してる音楽を聴いて、影響を受けてビッグになるかもしれない。
飯田 : 今後もUSインディーにこだわっていくんですか?
斉藤 : いや、最近はすごい広がってるんですよ。スペインの作品も出してるし、スタッフの好みもそれぞれですしね。
飯田 : 海外のバンドから、直接音源が送られてくるの? 「出して」って。
斉藤 : 僕の名前が何かのリストに乗ってるらしくて、全然知らない人から来るんですよ。多分他のレーベルにも送ってて他のところは無視したりするんだろうけど、僕はとりあえず全部に返信しちゃうんですよ。そこから話していくといい奴だったりして、“Fine People Fine Art”、良い人間から出るものはいい作品だっていう信条があるんで、ダサいものでも人間が良かったらとりあえず出してあげたいなって思っちゃうんですよね。あしながおじさんみたいな感じ (笑)。
飯田 : 海外ツアーとか回ってたら、人間が良いバンドいっぱい居たよ!
斉藤 : そうでしょ(笑)。
飯田 : アヴァンギャルド系と歌もの系って、どっちの音源が売れるの?
斉藤 : 売る場所によりますね。OneidaのドラマーのKid Millionsがドラムだけのアルバムを出すから出さないか? って言われて、丁度一緒に呑んでたもんだから出すって言っちゃったんですよ(笑)。出したはいいけど当然売れないじゃないですか。でもFILE-UNDER RECORDSでは結構売れたんですよね。あれは、びっくりしましたね(笑)。まあでも、基本は歌ものの方が売れますね。

飯田 : 今回のタイトルで一押しはどれ?
斉藤 : Acrylicsすごいいいですよ。PARTS & LABORもMOORWORKSから出すのは2回目です。JagjaguwarがHostessと独占契約しちゃって、でもなぜか、これだけは出さないかって言ってくれたんですよ
飯田 : New idea Society、Acrylics、PARTS & LABOR、The Mountain Goats... これだけでも大きなお金が出ていきそうですね。
斉藤 : 返ってくんのかなって話ですね(笑)。でも生々しい話、1月に出した売上が入って来たんで。
飯田 : 今、色んなものが変わろうとしてるじゃないですか。そんな中で斉藤くんはどういう風にレーベルとして生き抜こうと考えているんですか?
斉藤 : やり方としては、レーベルが赤でも、会社に他の黒が出ているなら、それで救ってあげてもいいんじゃないかと。CDって文化的には廃れていく一方だから、CDの売上を再度あげるっていうのは土台無理な話だし。でも続けていく価値があることだから。いっつも変なのばっかり出してるけど、10枚に1度は買っちゃうような、ピンポイントに人の琴線に触れる音楽を出していければと思いますね。
飯田 : 自分のレーベルからスターを出したいと思いますか?
斉藤 : そこが、思わないんですよ。今までヒーローだった人を好きになったことがなくて、うちから出す人にもヒーロー的な存在になってほしいとかは思わないんですね。でも痛快なんですかね?自分の出したものが社会現象になったりしたらね。
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MOORWORKS
2005年に日本のインディーズ・バンドのスプリットEPリリースからスタート。同じ年にUSインディー・バンドCrime In Choirのツアーを実現させるために正式にMOORWORKSを発足。翌年2006年には、XBXRXとCrooked Fingersの日本ツアーを実現させるが、残念ながら大赤字となってしまいレーベル存続の危機に陥る。しかしながら、USインディー・バンドの地道なリリースを続け、One Ring Zero、Jon Auerの来日公演を実現。Aloha のEP、アルバムをリリース、日本ツアーも行い京都ボロフェスタにも出演している。2008年にはMOORWORKSの名がUSインディー・ファンに知れ渡るきっかけとなった、Anathalloのニュー・アルバム・リリース&日本ツアーを行う。(ちなみにこの時、相対性理論との対バンも実現。)2009年にはMOORWORKSの独自企画により、AnathalloのライブDVDをリリース、そして再びAnathalloの日本ツアーを行う。またこの年より、The Season Standardなどドイツのアーティストのリリースを開始。2010年には姉妹レーベルとして、COCOHEART RECORDS(http://cocoheartrecords.com/)を設立。COCO CHANELのように志の強い女性アーティストを輩出している。MOORWORKSはというと、Someone Still Loves You Boris Yeltsinなど、生きる伝説と言われるシンガー・ソング・ライターThe Tallest Man On Earthの新作を共にリリースしている。2011年始めには、潰れかけたドーナツ屋を買収しDONUTS POP(http://donutspop.com/)と名前を改め、「CDをドーナツにしてしまおう!」というコンセプトの新しいラインを設立。
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