valknee,リョウコ2000『偽バレンシアガ (RYOKO2000 SWEET 16 BLUES mix)』
”ギャル”と”推し”をリスペクトする女性ラッパーvalkneeのアンセム「偽バレンシアガ」を、トランス/ブレイクコア/ガバといった地下で熱視線を浴びているダンス・ミュージックの代表的存在であるユニット、リョウコ2000がリミックス。テレクラ/援助交際的な気配を感じさせるボイス・サンプリングにより、90年代~00年代のポップでありながらどこか後ろ暗いカルチャーを参照した遊び心に溢れるナンバーへとリビルドされた。 かつての女子高生だろうか、自分のルックスについて語る生々しいボイスから始まり、祝祭感にあふれたブレイクーツとガバキックが鳴り響く。そしてトラックに負けじと、瑞々しくてかつ刺々しい、耳にきっちりとリリックを突きつけてくれるvalkneeのラップが乗っていく。ZOOMGALSでの活躍も踏まえ、閉塞の時代の到来が予感されたこれからの世界を地に足付け確実に突破していく期待を抱いてしまうナンバーだ。
A.G.Cook『Apple』
2020年は全世界中で超・情報過多の作品が次々と誕生した、「ハイパーポップ元年」とも呼べる一年だったのではないだろうか? Spotifyのプレイリストから火が付いた新興ジャンル"ハイパーポップ"の中心人物として、Charli XCXのクリエイティブ・ディレクターやレーベル「PC Music」を主宰するA.G.Cook。彼が9月にリリースした10曲入のニュー・アルバム『Apple』は、47曲入の前作『7G』とはまた異なる魅力を提示した。 クリーン・ギターの弾き語りと甘い歌声から始まるも、インダストリアル・テクノやトランスを思わせるディープなサウンドに急変。と思いきや唐突にオペラ調のボーカルが挿入され、最後にはキックもベースも割れきった極太のサウンドへ。 M.5「Airhead」はMASONNAと見紛うノイズからフューチャーベースのようなバウンス感あふれるポップスになり…と、とにかく聴き手のマインドをひたすらに振り回す音楽体験に目が眩むこと間違いないだろう。作品に通底するピントのズレたポップセンスが、現代の混乱と重なりあうようで痛快だ。
さよひめぼう『ALIEN GALAXY MAIL』
ヴェイパーウェイヴ関連のネット・レーベル〈Business Casual〉〈PLUS100〉や国内ネットレーベルの名門〈Maltine〉などからアルバムの発表を続けてきたさよひめぼう初の全国流通盤。 「活動当初トラックメーカーという概念自体を認識していなかった」などオンリーワンなエピソードにも事欠かず、鬼才の音楽家として国内で今もっとも注目すべき存在だろう。 10月にリリースされた作品『ALIEN GALAXY MAIL』は、コンセプトに基づいてほぼゼロベースで制作された初の作品として誕生した。まるで「異邦人が初めて日本を訪れたときに持つ好奇心」を内包したような客観性、つまりは汎アジア的・汎東洋的なコード感とメロディ感が魅力的なアルバムだ。どこか懐かしく、きらびやかなポップさがあり、それでいて理解不能なサウンドデザインは他に類を見ない。 YMOとヴェイパーウェイヴを出発点としながらも、レイヴやブレイクコア、IDMやフューチャーベースなどの要素を全て飲み込んだ類型のない電子音楽として、一度再生するごとに全く異なる表情を見せる。さよひめぼうの音楽を定義する言葉は未だ存在しないのかもしれない。
Kamui『YC2』
複数のシングルリリースや精力的なライブアクト、新たなコレクティブの結成など、エネルギーが溢れんばかりの活躍を続けてきたKamui待望の新作アルバム。 前半部のM.2「Runtime Error」M.3「ZMZM」は先行リリースも行われていたパワー・チューンで、現状の閉塞感を打破しようとする意志の強さを感じさせる。 ところがM.4「星空Dreamin'」ではボーカロイドによるトラップという斬新な試みを見せる。ボーカロイドの人工的な歌声とトラップビートの親和性はきわめて高く、3-i名義でトラックメーカーとしても活動するKamuiのサウンド的魅力を再確認できる。 先行シングルとMVが既に話題を呼んだM.5「Tesla X」や、ビートメイキングをMURVSAKIが務めたM.6「Copy Cat」で作品のテンションは最高潮に達し、アティチュードだけに留まらないKamuiのラッパーとしての突出した技術に驚愕させられる。 サイバーパンク・ディストピア的な厭世観と、その絶望にどう対峙するかを描いた傑作として2020年の末に強烈な爪痕を刻むと確信を得られる1枚。