
Lampの8月に発売された『八月の詩情』。その完璧なまでのソング・ライティングとアレンジング、そして音像の素晴らしさに耳を奪われてしまった。こんなバンドがまだ日本にいたなんて! 熱心なLampファンには申し訳ないのだが、本当にびっくりしてしまったのだ。だから、発売日は過ぎてしまったけれど、それでも彼らを聞いて欲しい。染谷太陽と永井祐介という個性の異なる二人のソング・ライターと、近年Minuanoのヴォーカルとしても活躍している榊原香保里が作詞で手掛けた曲を、長い時間かけてアレンジしていく。その精密さは、今作のたった5曲で証明される。試しに「八月の詩情」をダウンロードして、冬に予定しているという5枚目のオリジナル・アルバムを待とうじゃないか。Lampは、はっぴいえんどにもサニーデイ・サービスにも負けず劣らず最高のバンドである。
インタビュー & 文 : JJ
タイトル曲「八月の詩情」のフリー・ダウンロードはこちら(期間 : 10/7〜10/13)
Lamp / 八月の詩情
1. 青い海岸線から
2. 夢をみたくて
3. 回想
4. 昼下りの情事
5. 八月の詩情
アルバム購入者には、彼らが撮りためた写真満載の『八月の詩情』Digital Bookletが付いてきます。
リハーサルもしないでレコーディングをするんです
——Lampは、普段はどのような活動をしていますか?

染谷大陽(以下、染谷) : 殆どレコーディングばっかりで、あんまりライブをやってきませんでした。ワンマンを年に2回とか… 殆ど対バン形式のライブはやってきてないんです。自分達の大事な部分はライブじゃないと思ってるし、三人とも特にレコーディングが好きなんです。世代的にもCD世代ですし、レコーディングで録られたものは完璧な感じがするんですけど、ライブは自分の思う音が出なかったりするじゃないですか? 今はそうでもないんですけど、結成当時はそういう考えが強くて、レコーディングばっかりしていましたね。
——主にどういった所でレコーディングを?
染谷 : 作品によって違うんですが、三枚目までは日本家屋のような個人スタジオで録っていたんですが、経験の意味も含めて皆が使っているような普通のスタジオを使ってみようってなった。でも、そういうスタジオってちゃんとしているんだけど、お金もかかるし、時間も限られてるじゃないですか。そうすると自分達の納得する音に近づける時間が足りないんですよ。だから、ここ二枚位は自分達で工夫して公共施設とか安いとこを探して、予算を工夫して録りましたね。今回のレコーディングでは、エンジニアの中村茂樹さんに録音行程が終わるまで、ほぼつきっきりでやってもらったんです。
——先ほど三人ともレコーディングがお好きと言っていましたが、どれくらいのペースでレコーディングされているんですか?
榊原香保里(以下 榊原) : 週1回から2回のペースですね。リハーサルもしないでレコーディングをするんです。曲はレコーディングをしながら作っていくような形ですね。だから時間もかかるんですけど…。
染谷 : そうですね。それを一年半位続けていましたね。一週間ごとに少しずつ音を重ねていって、次の週までに何か考えてきて、更に重ねてそれを聞いてまた考えるみたいな。だから作り始めは、その曲の最終的な形は見えてないんですよ。ただその曲のメロディーとかコードは初めからあって、そこから色々な楽器を重ねていくんです。結構長々とやってしまうので、エンジニアさんはある程度音楽的にも僕たちを分かってくれて、忍耐強くないとできないと思います。
——今作『八月の詩情』の音源の制作期間はどれ位?
染谷 : レコーディングに入る段階で15曲位あって、それらを全部録音してアルバムを完成させる予定だったんですが、今回の5曲目に入ってる「八月の詩情」が夏の曲なので、夏にリリースできたらいいなってふっと思ったんです。それが大体5月位で、メンバーに相談して、レーベルにも相談して、急遽8月にリリースすることになったんです。
——ソング・ライターが2人いる中で、各々の作曲の特徴は意識していますか?
染谷 : Lampをずっと聞いている人は分かると思うんですけど、永井はファーストから一貫して永井節な曲を作ってきてると思う。それは永井にしか作れない曲だし、むしろ永井はこれしか出来ないみたいな曲を作ってるんじゃないかな。永井はビーチ・ボーイズとかジョージ・ハリスンが好きで、その影響が強く出ていると思いますね。どんどん音を重ねて楽曲を構築していく感じ。僕の場合は、アルバムを意識して方向性を変えて作ったりします。どちらかというと作家的な感じ。
榊原 : 確かに、永井はファーストから作る曲にブレがないように思います。人に合わせて曲を作らないというか、自分に出来ないことはあまり無理してやらないみたいな感じ。大陽は永井とは逆で、前回と違う感じになるように、色々な曲を作ってきますね。振り幅が広いように感じます。
——それぞれの曲の特徴は、作詞をしている榊原さんが詩を付ける面でも違ったりしますか?
榊原 : 永井はシンガー・ソング・ライター寄りの人間なんで、作詞までやってきますね。私は主に大陽の曲に詩を付ける感じ。時々永井のある一部分だけに詩を付けたりはしますけど、基本的には私が詩を付けるのは大陽の曲です。
——Lampにとっての詩の位置付けは?
染谷 : これを言うと誤解されてしまうと思うんですが、僕の中では詩よりも音楽やメロディーが第一優先なんです。詩がどうでもいいとは思わないですが、まずは曲ありきでいつも考えてますんで、詩のことを聞かれると困ってしまう...(笑)。使いたくない言葉とかの美学はあるんですが、基本的に音楽と詩は別物って考えてますね。もちろん詩と音楽が相まって更に音楽としての良さが出ることも分かっていますが、音楽を中心に考えた時にこそ詩の大切さが見えてくるみたいな気がしますね。
——榊原さんは、どう考えていますか?
榊原 : わたしは大陽とは違って、音楽が良いのに詩が良くないと残念だなって思いますね。そういう意味では曲が全てって感じではないですね。でもその相乗効果が良いのかなとも思いますね。うまくメロディーに乗っかって良い詩がかければ良いなとは思います。でも普通すぎたり、奇をてらいすぎるのも嫌だし、引っかかりが何もないのも嫌なんです。だから結構書きたい詩も限られていて、同じ様なことをずっと書いてる感じなんですよね(笑)。
染谷 : 初めの頃から自分の好きなことだけを書いてるよね。
——先ほどライブをやることが少ないとおっしゃっていましたが、それでもライブをやろうと思ったのは何故ですか?
染谷 : ライブはCDを聞いてくれた人達に向けた一種の恩返し的な考えがあったんですけど、最近では生で演奏する楽しさみたいなものを感じて、以前よりみんな能動的になってきてるのかなって思いますね。バンドの人達が、「ライブをやりたいっ」て思う気持ちに僕等も近づけた気がしますね。
榊原 : 私含め皆思ってるのは、ライブをやるなら1年に1、2回が限度だと思ってて。私たちはレコーディングが長いということもあるんですけど、ライブ用のリハーサルに入る予定を皆で合わせていくのも大変で、時間が足りないっていうのもありますね。

——これからしばらくライブをやらないということは、その時間はレコーディングに使うということですか?
染谷 : ライブをやるとなると20曲位やるんで、それだけライブ用のリハーサルの時間が必要になるじゃないですか。前からレコーディングの期間はレコーディングに集中したいという気持ちがあるので、あらかじめお客さんにも「レコーディングに入るのでライブはやりません」って了解を得てますね。次のアルバムに向けて、ライブは一旦お休みです。
もっと視野の狭い作業です
ここで永井が遅れて登場…。
永井 : すいません…。
——(笑)。10年でアルバムを何枚も出していますが、変わってきた点はありますか?
榊原 : そんなに変わってる感じはしないですね。
染谷 : まぁでも無意識のうちに言葉に対しても音に対しても何かしら変わったことはあるかもしれない。
永井祐介(以下 永井) : あんまり、変わることを意識して活動してきてないですね。僕等、ミュージシャンの知り合いも少ないですし、ライブもあまりやらないので、常にレコーディングが目の前にあって、それをひたすらやってきた10年って感じなんです。変わったものを考えれば色々あるかもしれないですけど、変わることに意識は無かったし、ただ3人でやりたい音楽だけをやってきただけなんですよね。
——他のミュージシャンとの一番の違いはどこでしょう?
永井 : 凄く感覚的なことなので上手く言葉にできないし、どっちが良い悪いっていうのではないんですけど、皆プロっぽい(笑)。演奏にしてもステージングにしても、みんな凄くプロっぽくて上手いなぁって思いますね。だからといって自分が劣ってるとは思わないし、皆と自分達は違うベクトルなのかなって思います。だから友達できないのかな(笑)。でもそのことで他のバンドに憧れるみたいなことはないですね。
——じゃぁ、Lamp自身がこれからどうなりたいみたいな先々のことはありますか?
永井 : 単純に売れたいみたいなのはありますが、こういう感じでやっていきたいとか貫きたいみたいなものは特にみんな無いと思いますね。
榊原 : 今まで年に1回はレコーディングして、年に一枚CDを出してこれたので、それは続けていきたいと思いますね。ホント何となくやってきて10年経って、続けていればいつかは誰か気づいてくれるみたいに思っています。
永井 : 志とかっていう部分を掘っても何も出てこないバンドなんですよね。しょぼいというか何もないというか(笑)。

——初期から他のミュージシャンとのギャップみたいなものは感じていましたか?
榊原 : 初めの頃から感じていましたね。初期の頃はライブをやらなくちゃいけないのかなって思ってやってたんですけど、ライブをやっても良いことが一つもなかったですね。ライブを観た人に良いって言われたことも無かったし、良いって言ってくれても嘘ついてるんじゃないかって(笑)。私たち下手だからライブが良いわけないしって。今はライブを7人でやってるんですけど、バックで演奏してくれる人が上手いんです。昔はその人達もいなくて自分達だけできっとしょぼかったと思う。
染谷 : まぁ、聞くに耐えない感じだったと思います。
——今は満足できる形になりましたか?
榊原 : そうですね。ライブを減らしてからですね。
永井 : お客さんがライブを聞いて良かったから会場でCDを買ってくれたりするのも、昔じゃあり得なかったと思います。純粋に「ライブ良かったです」って言われるようになったのもここ2、3年。
——音源制作を行う上で、納得するタイミングというのはありますか?
染谷 : ダラダラとレコーディングをするのが普通になってきてしまっていたので、3枚目は締め切りみたいなタイミングをつくって、そこでリリースしたんです。そしたら3枚目は納得できない形になってしまって、こういうのはもうやめようって思った。4枚目は締め切りを設けないでやってはみたんですが、3枚目は11ヶ月で終わったのに、4枚目は1年半かかってしまったんです(笑)。今回は僕が夏出したいって言ったので間に合うように帳尻を合わせて、今は冬に出せるようそこに向かってる感じ。基本的に僕たちは音を重ねていくバンドで、引き算がないバンドなんです(笑)。だから、納得できるタイミングというのは、もう重ねるものが無いねってなった時(笑)。
永井 : 上限が100だとして、90位までくると分からなくなってくるんです。それで、もう100一杯に音を詰め込んだって無理矢理にでも納得した時点でリリースしますね(笑)。
——LampにとってのPOPSとは何?
染谷 : レコーディングの中で、自分達が良いと思ったものを常に選択して細かく積み重ねていってるので、その日々の積み重ねの結果生まれてるのが、僕等のPOPSなんだと思います。
永井 : 染谷さんが言うように、ただ自分達が良いと思ったものを積み重ねている感じですね。それに対して「Lampはシティ・ポップだよね」とか色々言われたりして。全然何を言われても構わないんですけど、自分達の中ではもはやそういった概念は全くないですね。僕等の中でPOPSという考えは無いんです。自分達が聞いている音楽も、恐らく世間で言われているPOPSではないし。自分達の音源も4枚目位からは、もうPOPSではなくなってきてると思いますね。
染谷 : よく分かんないって言う人いるもんね。
——ではLampサウンドは、大分確立されてきた感じですか?
染谷 : それは全くなくて、確立されていない感覚ですね。
永井 : そうですね。Lampサウンドを確立しようとか、そういうのはあまりなくて、もっと視野の狭い作業です。本当に自分が好きなものをやるだけっていう。その狭い視野の中だからこそ出せるオリジナリティーもあると思うんです。
——写真は三人ともお好きなんですね?
染谷 : 永井は特に写真好きだよね。メンバーと写真を撮る友達の4人で撮影に行きますね。ブックレットの表と裏は永井が個人的に旅行に言った時にたまたま撮った写真で、それ以外は4人で撮影に行った時に撮った写真ですね。
——写真が好きな理由を聴かせてください。
染谷 : 折角だから永井答えれば(笑)?
永井 : 今はフィルム・カメラで写真を撮ってて、それまではデジカメだったんです。デジカメで撮ってる時は全然興味なかったんですけど、フィルム・カメラを使って写真を撮った時に、景色が光の像としてフィルムに焼き付くのを感覚的に理解出来たんです。そのことに凄く感動して、それ以来何処行くにもカメラとフィルムを持ち歩くようになりました。それで何かを表現したいわけではなくて、景色をフィルムに焼き付けて、そのきれいな光の像を自分だけのものとして所有したいみたいな感じなんです。だからこの話も趣味なので掘っても何も出てこないですよ(笑)。
——音楽は趣味ですか?
永井 : う〜ん。難しい所なんですよね。アマチュアから始めて、特にプロになったという明確な出来事もありませんし、微妙なところではありますね。ただ作るものに関しては渾身の力を込めて作ってます。アマチュアの渾身の力 (笑)。
染谷 : 作品に対しては、いつもより良いものを探しながら常に作っているので、出来れば大勢の方に聞いてもらいたいって思っていますね。

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PROFILE
染谷大陽、永井祐介、榊原香保里によって結成。永井と榊原の奏でる美しい切ないハーモニーと耳にのこる心地よいメロディーが徐々に浸透し話題を呼ぶことに。定評あるメロディー・センスは、ボサノヴァなどがもつ柔らかいコード感や、ソウルやシティ・ポップスの持つ洗練されたサウンドをベースにし、二人の甘い声と、独特な緊張感が絡み合い、思わず胸を締めつけられるような雰囲気を作り出している。日本特有の湿度や匂いを感じさせるどこかせつない歌詞と、さまざまな良質な音楽的エッセンスを飲み込みつくられた楽曲は高い評価を得ている。これまでに4枚のアルバム(韓国版を含む)をリリース。