異なるものの中から似ているものとか共通点を探していく

──いわゆる「オルタナティヴ」な手法を自分が心から追求できるものに置き換えたという感じなんでしょうか。そのあたり、曲についての話から聞いていけたら。まず、最初にできた曲はなんですか?
加藤:「Asshole」だね。弾き語りヴァージョンで最初に出した曲だし。ミックスもうまくいったし、好きな曲です。その次が「Changed」かな。
──このアルバムはフィードバック・ノイズのかっこよさを存分に感じられる作品だなと思っていて、「Asshole」の最後もそう。
加藤:バンドにおいてのギターのプレイって、スリーピースでやっているとコードメインになってしまうんですよね。それをもうちょっと良くしたいなと思ったときに、コードを弾いたときのギターの音を音響的に取り込もうとしたというか。本来いろんな音が鳴っていてそれ含めてかっこいいはずなんだけど、音源だとノイズとしてカットされちゃう。そういう部分もまとめて愛したい、と思って。あと、このアルバムは絶対にギターをハウらせてはじめようと、そこだけは心に決めてました。
──「About Foreverness」の最初ですね。NOT WONKのライヴの醍醐味のひとつにフィードバック・ノイズがあるから、そこが音源で聞けて嬉しかったです。
加藤:ライヴのときに自分は、反射的にフィードバックしている音程をコントロールしながら音を作っていたはず。それが録音物になったとき、お行儀良くなっちゃうみたいな。そういうことはもう嫌だなと思って、全部入れたかった。
──他にもギターのトライはありますか?
加藤:「Changed」はベースのパートがない分、ピッチの悪いギターと状態のいいギター2本を使ってるんです。だから若干音程がギリギリに聴こえる。でもチューナーの正解だけが正解ではないから、気持ちいいところを聴いて合わせるしかなくて。そういう部分でも、「ギターをもっと使う」ということを試みました。
──なるほど。もうひとつ、フィードバック・ノイズで思ったことがあって、結局反復ではあるからミニマリズムを感じるなと。
加藤:最終的にマニュエル・ゲッチングとかスティーヴ・ライヒの話をしながら録ってたもんね。ミニマル・ミュージックの話をしながら、ジャーンって弾くっていう(笑)。でも俺にはそういうふうに鳴っている。
──さっきいっていた「なにかを取り入れる手法」とは違って、これはなにかのなかに勝手に別の要素を感じる、というやり方ですよね。
加藤:そうなんです、それが一番大事なことで。尭睦が作った『FAHDAY新聞』の最後に、「加藤くんにとって、芸術の捉え方のおもしろさはなにか」というお題を出されて書いたんですけど。自分にとってそれは、アナロジー、類推、全く異なるものの中から似ているものとか共通点を探していくこと。それを見つけると、自分のなかで全く新しいものが生まれる。その類推自体は誰のものでもなく、自分のものだから。その時点で絶対オリジナルになる。
──そういう類推は、今作だとどういう部分に当たりますか?
加藤:この曲とこの曲は構成している楽器が似ているよねとか、スネアの長さが近いかもねとか、リバーブの種類が一緒なんじゃないかとか、そういう話をしながら作っていたんだけど。リファレンスのプレイリストがあって、そこにはさだまさし、ニック・ロウ、m-floが入っていたりして。
──m-floの要素ってどこなんですか?
加藤:「Some of You」には“ダンス・ミュージックをやるとしたら”っていうテーマがひとつあって。最初は俺の中のエリオット・スミス「Say Yes」にしたかったんだけど、気付いたらツーステップが聴こえてきたんです。でもここでJames Blakeを取り出したくないと思って、m-floしかないなと。
──おお。ダンスでいうと、「Some of You」の途中でピッチを下げた声が入る部分とかはダンスフロアでの感覚の変容を感じました。いい換えるなら、まどろんだ状態で聴く音楽が、違うものに聴こえていくような感覚というか。
加藤:やっぱり、声を素材として扱いたいという気持ちもあって。曲中の全然違う部分の声を素材として処理してあの部分に入れ込んだら、ハウスの声ネタっぽくなるかなと。あのタイミングでビートも変わるし、ドラムも歪ませているし、ベースの長さも変わってるんです。
──それで時間の感覚がずれていくような気持ちになるんですね。
尭睦:まさに、時間の感覚がわからなくなるときってあるよねという話をしながら作ってました。いま何がどうなっているのか、何処からいまになったのか。
加藤:なにが終わりでなにが始まりかわからない、という気持ちになりたいっていいながら作ってたよね。


──ここで作品のテーマでもある「永遠性」の話が出てくるのかなと思いました。時を止めたい、とかそういう気持ちがあるのかな。
加藤:僕は音楽って時間芸術だと思っているので。擬似的にであれ遅らせることも止めることも、逆再生もできる。その音楽を聴いたときに時が止まっていると思えたら、それは止まっているということだから。「Some of You」のあのパートは、まさにそれをやりたかったんです。永遠になりたいというよりかは、「擬似的に作り出した永遠性」を自分が作るものの中から取り出して、その手触りを確かめたかった。
尭睦:みんな、どこかでこういう感覚を持っているんじゃないかと思っています。いわれてみればそうかもって、思ってもらえるはず。
──詩の途中で出てくる「24」はなにを指しているんでしょう?
加藤:24時間、24日、24ヶ月…時間の概念かな。当たり前に1日が24時間という感じもするけど、時計の針は、慣性で動いているから。それが俺にとって永遠性なんです。慣性って永遠性なんだなと思う。
──音楽が時間芸術だと考えるようになったのっていつ頃なんでしょう? ファーストのときはそういう発想はないですよねきっと。
加藤:いつからだろう。最初は音楽のことを芸術とすら思ってなかったし、アーティストって呼んでくれるなと思ってました。んー…尭睦がダンス・ミュージックを好きになったのっていつ頃から?
尭睦:2019年から札幌の〈プレシャスホール〉に行くようになって。話にはよくきく場所だったから、ずっと行ってみたいと思っていたんですけど、あるとき時間を持て余してふらっと入ってみたんです。そこからほぼ毎週通う日々が続いて。そこでダンスフロアの空気感とか、音楽がクラブでどういう役割、機能をはたしているのかを体感したんですよね。音が充満していて、人がたくさんいるんだけど、全員が1として存在している。なのに、一致団結ではないけれどある空気を共有している。これってすごいな、知らないなと思いました。マジックが起きているフロアでは、知っている好きな曲より、全く知らない曲のほうが上がるなとか。そういう「場」が自分のなかに吸収されました。
加藤:「踊ったことないやつに人を踊らせることはできないよ」っていう〈KiliKiliVilla〉与田さんの名言があって。セカンドを録ったあたりでいわれたんだけど、俺はそれが金言だなと思ったんだよね。
──そこから踊りにいくようになったんですか?
加藤:というわけでもないんだけど。2018年くらいに、the hatchと知り合ってから〈PROVO〉に行くようになって。俺は全部の条件が揃ったときじゃないとガッツリ踊れないから、たくさんは行かないんだけど。年に一回あったらいいほうかも。でもその夜のことって絶対に忘れないから。
尭睦:3年前の12月に、Newtone recordsのYAMAさんが〈プレシャスホール〉に来たときはそれでしたね。
加藤:そう、尭睦と一緒に行ったんだけど、そのときのYAMAさんが最高すぎて。爆笑しながら踊ってた。
尭睦:やばすぎて、思わず笑っちゃうみたいな、そんな感じだった。
──前作にもダンスのビートは取り入れられてましたけど、今作の取り入れ方とは全く違いますよね。今回の方がフロアの感覚にちかいし、もう少し概念的に取り入れているというか。
加藤:『dimen』ってオタクの作品だからね、あれは基本ベッドルーム・ミュージックですよ。時期的にも外に出られなかったから、ある種ノスタルジーもあるし、いまとなっては架空の世界のお話しという感じがする。今回のアルバムはもっとリアリスティックなものになっていると思いますよ。