せっかく作った曲が、ウケが悪くて埋もれていくのは避けたかった
──ダンスミュージック要素を高めるのは、シンプルに“踊らせたい”という部分もあるんでしょうけど、何年か前からライヴのテイストも変わって、ソウルフルになったというお客さんの声もよく聞いてました。
鳥居:〈LIQUIDROOM〉とかでやったときに人来なかったら寂しいみたいな、そういうネガティヴな結果を避けたいという気持ちで取り組んでいました。やりかたを変えたのも別に売れようとしたわけではなくて。せっかく作った曲が、ウケが悪くて埋もれていくのは避けたかった。ちゃんとやればちゃんとしたものができるだろうというか、みんな当事者意識をもって欲しかっただけです。売れたいというより、曲を大事にしたいという意識ですかね。
──吉田さんは、そこについては?
吉田:変化球のバンドというイメージが前に出がちだったので、ちゃんとしたバンドだと思われたいという思いはありました。そういう意味で今回のアルバムは意図に沿ってるのかなと。
──歌詞の書きかたもそうですが、歌われている内容も言いっぱなしの面白さより、聴き手に届く意味があるものになった印象があります。
吉田:前はもっと、架空の怖い話みたいな歌詞だったんですけど、今回は日常に近づいた感じはありますね。
──リズム隊のふたりは、ふたりのやりとりをどう見ていましたか?
大垣:鳥居くんははっきり言うタイプなので、やりたい方向性が割とわかりやすかったです。そうしているうちに自分の意識も少しずつ変わってきたのかなと。
山本:こんな歳までバンドやっているんだからもっとちゃんとやらないとなと。ちゃんと上手くなっているのか実感はないですけど。同年代がどんどんバンド辞めている中、自分たちはバンドを続けられているので、そこはちゃんと応えないといけないですね。
──鳥居くんはしっかり言うタイプなんですね。
鳥居:言いますね。『FIRE』の制作中からスイッチが入りました。
大垣:台湾にライヴで行ったあたり(2016年8月)からかな。
──トリプルファイヤーというバンドでやっていくぞという表明でもあった?
鳥居:そこまで重い感じでもないですけど、やるんだったらちゃんとやろうやという感じですね。人気と実力が伴っていなかったら、やっていて面白くないというか。『FIRE』出す前後で、吉田くんが『タモリ倶楽部』出たりして、ほんわかしていたんです。でも音楽的には全然やりたいことが出来ていなかった。
──そういう意識から、シマダボーイや沼澤成毅さんたちがサポートで入ってくる流れになった?
鳥居:そうですね。『FIRE』の制作あたりから。
吉田:細かい対話をいままであまりしていなかったんですけど、台湾あたりから演奏の細部まで鳥居くんが指摘するようになってきた気がします。鳥居くんとしてやりたいことがあって、自分は特になかったので、とりあえずやってみようっていう感じでした。
──つまり、鳥居さんと吉田さんがガチンコで向かい合ったのがいい結果をもたらしたと。
鳥居:多分吉田くんからしたら、一方的に言われているだけっていう思いはあると思います。「俺は言いたいこと言えてねえ」みたいな。
吉田:その時々では、あったかもしれないです。でも、歌詞の内容が変わっちゃうので抵抗ある部分もあったんですけど、それよりもやりたいことを優先したいという、鳥居くんの強い意志を感じたので、そこは合わせたほうがいいんだろうなと。
──そういう経緯も踏まえてみなさんに、印象に残っている、思い入れがある楽曲をそれぞれ聴いてみたいです。
大垣:僕は、“スピリチュアルボーイ”という楽曲をライヴでやるのが好きです。なんでかというと鳥居くんのギターがいいんですよ。ギターを聴いてほしいですね。
山本:2020年2月にたしかワンマンをして、5月くらいに1回レコーディングをしようってなったんですけど、コロナで流れてしまった。そのときすごく暇だったので、ベースとドラムの譜割りを書き出したりしていたんです。それを思い返すと、“ここではないどこか”って曲が印象的ですね。ちょっとリズムが複雑で、ベースだけの部分も多いので練習した曲です。
──リズムセクションの細かい指定まで鳥居くんがデモの時点で全部決めているわけですもんね。何で作っているんですか?
鳥居:Logicで作っています。
── 一応人間が演奏可能な範囲ですよね......?
鳥居:手が5本ないと演奏できないということはないです。
大垣:そういうことはないです。人間には不可能なことは要求されないので、聴いていて不快感は全くない。
鳥居:(山本、大垣の)キャラは当然意識しています。癖とか持ち味から大きく逸脱したフレーズは作っていないと思いますね。
──そんな鳥居くんの印象的な楽曲は?
鳥居:“ユニバーサルカルマ”ですね。こんな渋い曲作っているの他にいないだろ、という自負があります。
──吉田くんの印象的な楽曲は?
吉田:“相席屋に行きたい”です。“相席屋”という言葉を使うのに最初勇気がいったんですよね。そんくらい冒険したほうがいいのかなと。
山本:“相席屋に行きたい”は僕も好きです。9曲目に入って相応しい楽曲だなと。
大垣:この曲はみんな見せ場があっていいですね。ちょっと長すぎてみんなが聴いてくれるか不安ではあるんですけど。
吉田:(サブスク時代には)10秒イントロが続いたら曲を変えられてしまうって聞いたことがあるんですけど、それは無視してます。