「わたしたちの時代はね」とは絶対に言いたくない
──“ANTI ANGER CONTROL”というタイトル、僕も好きです。世の中的にはアンガー・コントロールだのアンガー・マネジメントだの言われていますが、「怒ってなにが悪い?」みたいな。
YUKARI : すごく単純化していうと、めっちゃルッキズムで女性を褒める人を目の当たりにしたけど、結局その場をなんとなくやり過ごしてしまい、家に帰ってからずっとそのことが気になったりして。当事者の女性に対しても「あのときなんも言えへんくてごめん」ってなるし、しかもわたし、たぶんキャラクター的にも年齢的にも「いや、それはないやろ」と言えるんですよ。アリちゃんには「自分で背負いすぎや」ってよく言われるんやけど。
ARIKO : せやな。
YUKARI : でも、その場で物申せるのは自分しかいいひんのに言えなかったことも何回かあるから、基本的には、怒るべきときに怒れる自分でありたいという気持ちがあって。それを踏まえつつ、周りの人から「こいつ、ほんま手がつけられへんな」と思われるぐらい、面倒くさいやつでもいたかったりするんです。だからこの曲の題材は、自分にとっては大事なものですね。
──それを歌詞にしたら、わりとお茶目というのがニーハオ!!!!らしくて。
YUKARI : ね。これがもしリミエキやったら怒り狂ったまま終わったかもしれない。やっぱりニーハオ!!!!には、どこかにファニーな要素は残しておきたくて。なので、いいところに着地できたと思いますね。
ARIKO : めっちゃいいと思います。
YUKARI : でも、アリちゃんが考えた歌詞もあるんですよ。
ARIKO : そらありますよ。YUKARIさんに「なんかないの?」って言われるから。
YUKARI : “BUY1 GET2”で、〈Do me a favor〉とかARIKOが追いかけて歌ってるパートの歌詞は、全部ARIKOが書きました。
ARIKO : YUKARIさんに「歌で追いかけてほしい。いい感じで」って言われてな。「わたし、3単語以上の歌詞は考えられへんのにな」と思ったんですけど、自分なりに茶目っ気を出してみました。
──“BUY1 GET2”は、先ほどの“pajama party”と同じく歌モノっぽい、ポップな曲ですね。前作『FOUR!!!!』に収録された“ステラ・ルー”あたりの流れと、個人的には古き良きオルタナティヴ・ロックの匂いも感じます。
YUKARI : ですよね。“BUY1 GET2”の後半のメロディックなパートは、歌詞もメロディもミーちゃんが作りました。ただ、この曲はライヴで1回もやらないままレコーディングしたんですけど、そのとき谷ぐちに「展開が急すぎるし、短いし、もったいない」と言われて。
ARIKO : 歌詞でいうと〈Don’t say〉から〈Yayaya〉のあたりか。
YUKARI : そうそう。だけど、あそこはあれで十分なんだよね。ちゃんとハモリもあって、いいと思います。
ARIKO : あと、掛け声は「Yeah Oh Yeah」なのか「Oh Yeah Oh」なのか、マジメに話し合ったな。この部分を作ったミーちゃんには確固たる正解があったけど、本当にしっくりくるのはどっちかなって。
YUKARI : そういうのをね、めっちゃくちゃマジメに話し合うんですよ。「ヘイ!」がいいか「ヤイ!」がいいかとか、「セイ!」がいいか「ソイ!」がいいかとか。
ARIKO : ほんで、わたしの案はまあまあ却下されるんですよ。前回も話したと思いますけど、「ソイ!」はミーちゃんに「嫌です」言われて。
YUKARI : 「ソイ!」は嫌やけど「ポイ!」はいいんよな。とにかく〈Yeah Oh Yeah〉は4人でめっちゃ考えた歌詞ですね。
ARIKO : 歌詞なんかな?
YUKARI : 歌詞以外に、ARIKOのアイデアが採用されたのもあるよな。例えば“CRAZY TIME”はサッカーの試合のハーフタイムとかを想像して作ったんですけど、アリちゃんが、酔っぱらった……フーリガンまでいかへんのか?
ARIKO : 酔っぱらって機嫌ようなった人が、ほかの人が歌ってるのを聞いて「おう、俺もこの曲知ってんで」とか言うてコンマ5秒遅れぐらいで一緒にシンガロングするというか、厳密にはシンガロングできてへん感じ。
YUKARI : そう。もっとだらだらと、息が合ってない感じで歌いたいって。でも、それを曲にするのめっちゃムズくないですか? まあでも〈Build a loving relationships〉みたいな歌詞を歌えるのは、酔っぱらってる体で歌ってるからですね。
ARIKO : わたし、お酒飲めないんですけどね。でも、あの酔っぱらった感じがいいじゃないですか。知らん曲を知らん人と一緒に歌うみたいな。
YUKARI : ライヴもそうですよね。ひとりで来て、ひとりで観て、ひとりで帰るんやけど、あの場では時間を共有してるじゃないですか。だから別に誰かと喋ったりしなくても、テレパシーの伝わり合いみたいなものはあると思うんですよ。そこで、例えばDEATHROだったら「愛し合おうぜ!」と言うんですけど、わたしにはあの熱さはなくて。もうちょっといい加減なコミュニケーション感が、“CRAZY TIME”にはあるかもですね。
──“CRAZY TIME”は、ライヴで観たときARIKOさんだけめっちゃ忙しそうで。ホイッスルを吹いたり。
ARIKO : ほんまに「わたし、なにしてんやろ?」と思いますよ。笛も地味に2種類使ってるから持ち替えてくわえ直さなあかんし、ドラムも叩かなあかんし、歌わなあかんし。「誰か笛ぐらい代わってくれてもええんちゃう?」と思うんやけど、ミーちゃんもKAORIちゃんも見て見ぬふりみたいな感じで、そんな笛吹くの嫌なん?
YUKARI : あれは、わざわざARIKOが吹く必要も……。
ARIKO : まったくない。だからお客さん各々でお好きな笛をご用意いただいて、いい感じに吹いてくれたら楽しんじゃないかな。「勝手なとこで吹くな」とか言わへんから。
──前作『FOUR!!!』と同様に、今回もクラーク内藤さんがトラックを提供なさっていますね。具体的には“ムーンライト楽団”、“So tough & So tough”、“メタモルフォーゼ”、“BSN”の4曲で、楽曲としてよりニーハオ!!!!に馴染んでいるというか。
YUKARI : そうですね。前回の“MATSURI-SHAKE”と“FUTURE”で、内藤さんの曲はニーハオ!!!!のアイデンティティとして必要なものになったと感じたので、その発展形という意味でも、今回も絶対に入れたかったんですよ。そしたら、内藤さんはほんまに音楽大好きで「こういうのどうですか?」といっぱい提案してくれて。ニーハオ!!!!的に内藤さんは、もはや曲作りにおけるもうひとりのメンバーになってますね。
──オープニング・トラックでもある“ムーンライト楽団”は、いきなりびっくりしました。
YUKARI : あれ、ヤバいですよね。もともとはサンプラーを使ってベートーヴェンの「第九」みたいなのをやろうって話をしてて。できたはいいけど、これはアリなんかナシなんか、いまだにちょっとよくわからへんところがあるな。
ARIKO : なんでこうなったんだっけ?
YUKARI : 聖歌隊とか合唱曲のイメージからちゃう? だから歌詞も、なんとなく合唱曲にありがちなベタなワードを使いたくて。わたしはこの間、共鳴(YUKARIと谷ぐち順の息子)の卒業式に出て思ったんですけど、校歌の歌詞ってめちゃくちゃベタなんですよ。そういう感じを出したくて、例えば〈つきよにつどう〉とか、どこにでも転がってそうなフレーズの中に、ニーハオ!!!!流のウィットみたいなものを混ぜられたらいいなと。
──〈じごくできみをまつ〉とか。
YUKARI : そうそう。そういうのも入れつつ、基本的にはベタベタな合唱曲に……合唱曲になってるよね? レコーディングしてたときは「泣ける」って噂やってんけどな。
ARIKO : え、泣けたよ。みんなレコーディングハイみたいになってたよな。「ちょっとした感動作じゃね?」って。
──“ムーンライト楽団”の歌詞は、ニーハオ!!!!のあり方を端的に表しているとも思いました。あるいは“メタモルフォーゼ”にしても、変化に積極的な感じがニーハオ!!!!らしいです。
ARIKO : いいですね、「変化に積極的」って。
YUKARI : 歌詞のテーマみたいなものは、完全にわたしの「ニーハオ!!!!はこうありたい」というイメージがベースにありますね。まあ、“ANTI ANGER CONTROL”で怒ってるのはたぶん自分だけだと思うんですけど。
──他方で“So tough & So tough”はダンス・パートとファスト・パートのメリハリも利いた、タイトル通りタフな曲ですね。
YUKARI : これも発注するにあたってなんとなく内藤さんにイメージを伝えていて。そしたら内藤さんなりにいろいろあったみたいで、SNSに制作の経緯を上げてはりましたけど、なんか、難しいんです。内藤さんの言うことは(笑)。
ARIKO : “So tough & So tough”ってタイトルに決まるまでめちゃくちゃ時間かかったんですけど、結果、タフさの化身みたいな曲になったな。
YUKARI : 歌詞に関してはわたしの個人的な体験がもとになっているんですけど、前に「わたしたちの時代はね、奥さんは旦那さんの仕事を家で応援するものよ」と言われたことがあって。そのとき、わたしは「わたしたちの時代はね」と言われるのがほんまに嫌やと思ったんですよ。だから歌詞にも〈あの頃 あの時代なんて That’s wack! So lame!〉と書いてて、ニーハオ!!!!のメンバーもみんな40歳前後やけど、年下の人たちの前で「わたしたちの時代はね」とは絶対に言いたくない。
ARIKO : うんうん。
YUKARI : 「昔は大変やった」も「昔はよかった」も言いたくないんですよ。ただ、自分らが過去に経験してきたことも糧になってるから、それをいい歳した女性4人組のバンドとしてかっこよく、かわいく、セクシーに昇華していきたい。それが今のニーハオ!!!!のテーマかなって、なんとなく思ってます。
──歌詞のメッセージ性みたいな話でいうと、“君のファムファタルじゃない”と“Ownership rights”はつながっているように思えて。要は「わたしはあなたの運命の女性ではないし、わたしを所有するのはわたし自身です」と。
YUKARI : うんうんうん。
ARIKO : わたしは“ファムファタル”がね、けっこう好きなんです。
YUKARI : “ファムファタル”は、わたしが歌いたくないんやけどな。あの曲でなんも弾いてないのはわたしだけだからしょうがなく歌ってるんですけど、ああいうテーマの曲は、今後もアルバム1枚につき2曲ずつぐらいは作り続けるんじゃないかな。『FOUR!!!!』でいえば“My proud”みたいな位置づけで、何年後か何十年後かに聴いたときに「え? こんなことを高らかに歌ってて恥ずかしい」と思えるような世の中にしたいですね。
──“Ownership rights”の歌詞もたった2行なのに、いいろいろ考えちゃいます。
YUKARI : この曲はわたしとARIKOはほとんど歌ってなくて。完全にKAORIちゃんのボーカルが引っ張っていく曲なので、ちょっと特別な感じがして好きなんですよ。あと、めっちゃラモーンズを意識してます。でもメンバーは、こういうわたしの勝手な歌詞に対してどう思ってるんでしょうね。「それは歌いたくない」と言われたことはないけど。
ARIKO : わたしは歌詞があるところをあんまり歌わへんから。
YUKARI : いまだに「わたしは誰かの所有物じゃない」とか思い続けてるって、すごいですよね。「谷ぐちさんの奥さん」問題みたいなやつにもまだ遭遇するし、自分が当事者じゃなくてもそういうふうに思わされてしまう出来事が身の周りで起こっていて。「また面倒くさいこと言ってんな」って感じですけど、どうせライヴではボーカルがはっきり聞こえへんことが多いのでね。それがちょっといいなと思ってる部分もあるんですよ。だからこそ、こうやって音源としてリリースすることで初めて歌詞が誰かに届くとも思っていて、それがちょっとだけワクワクするんです。