「LIP CREAMにモッシュパートあったら最高だな」
──コサカくんの言うノイジーさって、例えば「VVLGAR」(2019年12月リリース)におけるクラスト的なノイジーさとは質が違いますよね。
SHV : 「VVLGAR」は半分冗談みたいな、自分でも「やり過ぎたな…」ぐらいの感じだったので。
──2020年の夏、たぶん“HORDE”をリリースしたタイミングで、横浜に引っ越す前のコサカくんの家でKLONNSの生配信インタヴューをやっていて…。
SHV : ああ、やりましたね。
ZIE : 清家さんっていう音楽ライターと、渋谷でやってた「BLOCK」っていうヒップホップのパーティーで知り合って。コロナ禍になって「なんか、暇なんでインタヴューしてもらえます?」みたいな。当時、僕はコサカさんの家に住まわせてもらっていて…その節はお世話になりました(涙)。
BH : どういたしまして(笑)。
ZIE : あのときはオオシマさんと僕と、近所だったからGolpe Mortalさんも呼びましたよね。
──あと、Ms.MachineのMAKOさんも。
SHV : その4人ですね。
──そこでオオシマさんが、「VVLGAR」で掲げていた「FINAL D-BEAT NOISE ATTACK」というテーマについて「この『FINAL』は『こういうスタイルは今回で最後です』という意味です」と言っていて、潔いなと思ったんですよ。
SHV : あの路線はあの路線で気に入っていたんですけど、KLONNSではもういいかなと。
──以降、“HORDE”を経てよりダンス・ミュージック的になっていきますよね。
SHV : 1つは、やっぱりコロナとかでフラストレーションが溜まっていたこともあり、もっとモッシーにしたくなったんですよね。「もう、モッシュするしかないでしょ」みたいな。そういうモッシュを誘発するようなビートをやろうとすると、自ずとミドルテンポのパートが増えていって。あと、2017年末から小岩BUSHBASHで「Discipline」というパーティーを主催してるんですけど、それはクラブミュージックとハードコアをかけ合わせたようなもので。そこでDJとか電子音楽の人たちと一緒にやっていくなかで、よりダンス感を出していきたいという欲求が芽生えたのかな。
──ダンス感といっても、例えば4つ打ちとかデジタルハードコアじゃなくて、あくまでハードコア・パンクとして踊れるという。
SHV : ハードコア・パンクのダンス感は、ハードコア・パンクでしか出せないですよね。機械的なグルーヴとは違うから、ハードコア・パンクをダンス・ミュージックに寄せるんじゃなくて、あくまでダンス・ミュージックとしてのハードコア・パンクを追求することに魅力を感じます。
BH : たしかにKLONNSのグルーヴ感は独特で、だから本当にボディ・ミュージックになっちゃったんだよね。
──ビートも含めて、80年代ジャパニーズ・ハードコア的な強靭さみたいなものも感じるというか。
SHV : 例えば“HORDE”は後期のLIP CREAMとかをイメージしていて。ただ、そのままやるんじゃなくて「LIP CREAMにモッシュパートあったら最高だな」みたいな妄想を具現化する感じ。実際、『9 Shocks Terror』の曲とかを聴き込んでると「この部分、もうちょい伸ばしたらモッシュパートになるんじゃ?」というのがあったりして。それを超拡大解釈するというか、当人にそんな意図はないと思いますけど、そういう解釈もできるんじゃないかと。
──曲名にしても、SOILED HATEとのスプリット「DIFFERENT SENSES」(2021年11月リリース)には“EXECUTE”や“EFFIGY”という曲がありましたし、「CROW」であればタイトルトラックと“GHOUL”、あと“BLAZE”も?
SHV : そうです。ちょうどBLAZEのディスコグラフィがリリースされたタイミングだったから(笑)。仮タイトルだけ最初につけるんですけど、それがそのまま採用されるパターンも多いです。必ずしも曲名になったバンドの影響下にある曲というわけではないけど、歌詞のキーワードになったりするし、そういうところにルーツが見え隠れするのもいいかなって。
──バンド名ではないですが、「VVLGAR」に収録された“MOBLISH”も…。
SHV : もちろんGLOOMです。っていうか「MOBLISH」ってたぶん造語で、ググるとGLOOMの『Noise For Moblish』しかヒットしない。でも、タイトルトラックの“VVLGAR”と“GARDEN”は、DIR EN GREYから取ってるんですけど。あと、“CROW”も実は映画「クロウ/飛翔伝説」から取ってます(笑)。
ZIE : ああ、たしかにそうっすね(笑)。
──KLONNSの歌詞は、抽象化されてはいるがハードコア・パンク的な政治性を帯びているというか。例えば“CROW”に「i just found my enemy」というフレーズがありますけど、その「enemy」が誰なのかは聴く人の体験や想像に委ねられているみたいな。
SHV : もちろん自分の中には明確な対象がいるんですけどね。日常の中で知らず知らずのうちに受けている抑圧、無関心さや虚無、自分自身で考えること、あと自分自身が加害者になってしまう可能性について…そういうことを歌詞に書いています。「VVLGAR」のときはわりとはっきり言ってたけど、最近は抽象度が増して、いろいろな解釈ができるようになってるかも。
ZIE : 僕も質問していいですか? 曲によって歌詞が英語だったり日本語だったりするけど、どう分けてるんですか? 例えばミュージックビデオを撮った“VESSEL”は、サビ以外は日本語ですよね。
SHV : まず「こういうヴォーカルラインを乗せたい」というのを決めてから歌詞を書くんだけど、日本語だと乗らないことってあるじゃないですか。
ZIE : うんうん、わかります。
──“BLAZE”は3コーラス目だけ日本語ですね。
SHV : そう。昔のジャパニーズ・ハードコアって、だいたい歌詞が聞き取れないじゃないですか。でも、ふと聞こえる言葉もあって。部分的に日本語にすることで、その「ふと聞こえる言葉」として耳に引っかかるかもなと、日本語を混ぜたりしてます。
──作曲については、前にコサカくんと話したこともあるんですけど、曲を作るのが異常に速い。
SHV : 作曲スピードが速いのは、単純に1人で作ってるからじゃないかな。周りの人から聞く限り、だいたいのバンドはメンバーの誰かがリフを持ってきて、スタジオで合わせたりするパターンが多い気がするんですけど、KLONNSの場合は僕がすべてAbletonで打ち込んでデモを作って、まずはそれをメンバーにコピーしてもらうんです。だから、自分が忙しくなければ曲はすぐできる。
ZIE : KLONNSがオーストラリア・ツアーに行ったとき、オフの日にオオシマさんとokamotoさんと僕でシドニーの公園を散歩してたら、いきなりオオシマさんが「あ、1曲できました」って。
SHV : そんなことありましたっけ?(笑)
ZIE : 昔の詩人みたいだと思いました。でも、結局それは形にならなかったっていう。曲は歩きながら作るんですよね?
SHV : 一応、ギターもベースも触れるっちゃ触れるんですけど、すごくうまいわけじゃないし、楽器を弾きながら曲を作ると全部手癖というか、ありきたりなつまらないフレーズになっちゃうんですよ。そこから逃れるために歩きながら作るみたいな。
BH : 常に曲作りのことを考えてるの?
SHV : リフとかは常に考えてるし、常に新しいバンドとかも追いかけていて。例えば「この曲展開、面白いな」とか「KLONNSでやるならこうかな」みたいなインプットは無限にあるので、あとはそれをアウトプットするだけですね。