“普通”の言葉を使って“普通”の奥底を知りたい
──「19歳」とか、かなり具体的な歌詞もあります。あれは福田さんの自分の体験ですか?
福田:そうですね。あの曲は、京都に来た1年目のことを歌ってるところがあるので、具体的な体験を歌ってますね。僕は、“普通の生活”から離れたくないっていう意識があって。本とか小説とか詩とかも好きなんですけど、あんまりカッコつけすぎているというか日常から離れすぎてる言葉を使うのが好きじゃなくて。「普通の言葉を使って普通の奥底を知りたい」みたいなところがあります。
──「普通の奥底を知りたい」とは?
福田:例えば人の行動の理由を深掘りしていくと、言葉で説明できないところに行き着くと思うんですよ。理由の理由っていうのはもう本当になくなっていってしまう。出発点としてはすごく普通のことだけど、それを突き詰めていくと別の見方が出てくるみたいなことを表したいと思って、ずっと言葉を書き続けてるところがあります。
──その場合の“普通”とか“日常”っていうのはどういうものなんですか?
福田:自分が生活する中で使う言葉とか、見聞きできる範囲から出発できるものを“普通”として考えています。極端に言うと薬をやって見られる幻覚から出発して言葉を書くっていうよりも、歩いているときに見えるものとか、洗濯しているときの仕草とか、そういう誰にでも経験し得るところから出発したいっていうのがあって、それを“普通”として捉えています。
佐々木:「深海魚」は電車に乗って小説読んでいるときの場面が出発点だったって言ってたよね。

福田:目に映るものに対する「この出来事嫌だな」みたいな感じはもちろん全然あって、例えば「祈るみたいに」の歌詞にある「部屋まで聞こえるクラクション」っていう歌詞は、部屋にいるのに外のすごい喧騒が聞こえてきて嫌だなって思うことを書いているんですけど、それとどう向き合っていいかっていうのを、単純に嫌悪として出せないところはあります。
その事象、起こっている出来事に関してどういう心理が働いているのかとか、事情がどうであるのかっていうことを考えたり、それこそ「祈るみたいに」の歌詞なんですけど「何を受け入れるべきで何に対してその拒否反応を出さなきゃいけないのか」っていうのはすごく悩んでいるところです。なので、すごく嫌なことがあってそれをそのままストレートに嫌悪感として出すことはほとんどないと思います。
福田:例えば、BUMP OF CHICKENが好きな理由の一つもそうですが、バンプの歌詞ってすごく分かりやすい言葉を使ってるんですけど、だからといって浅いわけじゃなくて。その言葉を持ちながら生活してると、こういうことだったんだっていうのが分かる瞬間があったりするんですよね。そういう意味で“予告”みたいな歌詞だなと思ってて。そういう、分かりやすいけどそこで終わりじゃない歌詞に憧れがあります。
あとは僕が大学で哲学のことを学んでいたときに言われてたことが土台にあって。教育学部だったんですけど所属していた哲学系の研究室の教授が言っていたのが、「哲学をやってるからと言って分かりにくいまま出していいわけではなくて、それに対して論理的に誰でも分かるような仕方で出さなきゃいけない。表現の仕方はすごく明快でなければいけない」というスタンスをとっていて、その方法論がすごく染み付いてて、音楽においてもそうしたいと思ってますね。
長岡:こんな話、初めて聞きました。
漕江:もっと早く聞けたら良かった。
福田:難しい話だと思ってたので、あまり話していなかったんですよね。自分の思想に対して“自分のもの”という感覚がなくて、今まで自分が触れてきた考えから考えているみたいな、“考えの親”があるというか。なので、オリジナリティみたいなものはそこまで強く意識してないというか……。ちょっと難しいです。

──自分の考え方、自分の思想っていうのは自分だけのものではないかもしれないですが、「俺が歌わないと、俺が歌ってこその俺の曲」というある種のエゴみたいなものは当然あるじゃないですか。
福田:エゴは全然消えないものだと思うんですけど。元々は自我意識みたいなのは自分は強くて、だけど理性的というか頭で考える態度としてはさっきまで喋ったようなことがあって、その狭間で歌ってるみたいな感覚ですかね。
──では、『さかいめ』というタイトルはどことどこの境目を指しているのでしょうか。
福田:言葉を発することっていうのは“さかいめ”を作ることだと思っているんです。言葉によって漠然とした存在である世界に対して区切っていって、その中で生きていくような感覚があって。なので“さかいめ”っていうのは言葉を発するその時々に出来うるものなんですけども、それはどんどん変わっていくもので。なので僕の境目の捉え方としては、その瞬間の点で見ると線としてあるけど、時間軸を広げて考えると面としてあるのかなというふうに感じます。
──そこに向けて作られたというのではなくて、表現された言葉とか歌詞で描かれているものは結果として“さかいめ”を表現したものになる、という論理のような気はしますね。
福田:そうですね。アルバムを振り返ってみて、どういう言葉をつかってどういう名前を付けたらいいかなって考えた時に、「さかいめ」という言葉がすごいしっくりきたんです。こういう話はメンバーと話したりすること自体あまりないですけど、だからといってみんな全然分かってくれてないと感じることもないです。自然にその曲が求める形になっていると思いますね。

編集 : 石川幸穂
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ライブ情報

yoei『さかいめ』リリース・ツアー
【京都】
2025年10月26日(日) SUBMARINE
open : 17:00 / start : 17:30
adv 2,500円 / door 3,000円
w / The Fax
【名古屋】
2025年11月14日(金) K.Dハポン
open : 18:00 / start : 18:45
adv 2,500円 / door 3,000円
w / 浮気なヴァカ, sakimori, Midaboa Banwa
【横浜】
2025年12月6日(土) 横浜RUSH!!
open : 17:30 / start : 18:00
adv 3,000円 / door 3,500円
w / ベランダ
【東京】
2026年2月21日(土) 下北沢THREE
open / start TBA
adv / door TBA
w / GeGeGe
※名古屋・横浜公演は別途1drink
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PROFILE : yoei
福田宗一郎(Vo. Gt.)、長岡航太郎(Gt.)、佐々木望(Ba.)、漕江仁衣菜(Dr.)の四人で構成される、サイケデリック・フォーク・ロックバンド。
その音楽性は、歌物でありながら実験的である。メロディーの面ではポップス的キャッチーさを目指しつつ、アレンジ面ではアンビエント・インディー・フォーク・ブルースといった様々なジャンルのエッセンスを取り入れている。
yoeiのライブは静と動のコントラストに彩られている。足音すらステージまで届いてしまうような静かで神経質なサウンドから、叫び声も隣の人に届かないような激しくラフなサウンドまで、曲のなかで、またライブ全体を通して、目まぐるしく立ち現れる。
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