「ドラマーとしてやっていきたい」という、心の変化を認めたくなった

見汐:でもこれだけいろんな方に頼りにされてるのは、ゆう子さんのドラムに魅力があるからで。リズム隊は誰でもいいというわけにもいかないじゃないですか。自分の演奏に納得いかなかったときはどうしてますか?
北山:練習しよって思いますね、やっぱ。
見汐:練習はほんとに大事ですね。私、最近になって改めて毎日練習するようになりました。ギターをはじめて30年近く経ちますけどはったりでやり過ごしてきたことが多すぎるなと……。下手なので、毎日練習していて。だから気持ちはすごくわかります。
北山:うんうん。
見汐:あと、年を取ったらできることが増えていくのかなと思ったら、逆にできないことが明確になってくるだけで。それは肉体の衰えもあるし、手ぐせに頼ってたりすることも影響しているんだと思うんですが。
北山:うんうん。すぐ怠けちゃうんですよねえ。
見汐:自分の作品を作りたいという欲もあまりないんですか?
北山:楽器できないですからね……。
見汐:ゆう子さんを見ていると、やることが一本決まっていて、それを突き詰めてやっている印象があって、本当にかっこいいなと。
北山:何にも考えてないだけなんじゃないかな(笑)。最近そんなにやってるわけでもないですし。
見汐:いちばん稼働していた時期は?
北山:やっぱりコロナ禍前ですかね。
見汐:いろんな方から仕事のオファーがくる際に、それぞれに求められるものは異なることもあると思うんですがその中でこれだけは譲らないと決めている……ルールがあったりしますか?
北山:何もないです……(笑)。
見汐:本当になすがまま、フラットなんですね。身ひとつで現場にいく感じ、羨ましいですし、かっこいいなぁ。
北山:声をかけてくれる周りの人に感謝してます。

見汐:前回のゲスト、山下(敦弘)監督にも質問したことなんですが、20歳になると大人として社会に放り出されるじゃないですか。自分が「大人である」と自覚した瞬間、時期ってありましたか?
北山:最初に曽我部さんのツアーについていったときに、ずっと自分は無理だとか思っていた気がしたんですけど、やりたいという気持ちが出てきたというか。欲望を認める瞬間みたいな。そのためには練習しないといけないし、もっと音楽知らないといけないと思ったときですかね。
見汐:それは、ドラマーとしてやっていくぞという自覚が芽生えたという感じですか?
北山:そうですかね。恥ずかしい(笑)。
見汐:恥ずかしいことないです!
北山:反省も多かったけど、楽しかったな。もっとやってみたいと思えたというか。
見汐:それまでは自分に対して自信がなかったんですか?
北山:ないですね。「そんな私無理じゃない?」みたいな。
見汐:心持ち……意識の向かう先が変わると何故かいろんな仕事が入ってくるようになりませんか?
北山:そうですね。
見汐:腹を括ると回り出すというか。
北山:なんていうのかな、そっちを認めたい気持ちになったというか。
見汐:今までの考え方の癖、自分で決めつけていたことを180度変えるって、とても勇気がいるし、真剣に考えますよね、すごく共感できます。怖い、でもやるしかねぇという。自分の中で大きな変化があったわけで。
北山:でも何していいか良くわからないというか。迷走しますよね(笑)。ドラムは好きなんですけど、毎回それなりに凹むという繰り返しです。この対談をするにもだいぶ勇気が要りました。
見汐:受けて頂けて本当に嬉しいです。
北山:いやーありがとうございます。小学生のときに、手を挙げて発言することが1回もなかったんですよ。引っ込み思案すぎて。だから人前で演奏するのも最初は大変だったし、今回の対談もドキドキです。
見汐:シャイだったんですね。今、すごく真逆なことしていますね。
北山:そうですよね、分からないもんですね。ドラムをやりたいけど、どうしようみたいに思ってた。
見汐:今は音楽制作だってひとりで完結できますし、人との関わりがなくても音楽制作が可能だから、誰にも間口が広くていいなと思ったりもするんですが、人と一緒にやる楽しさ……特にドラムは誰かと実際にやることの醍醐味があると思うんですが。これからドラムを志そうとしている人達に対して、ひとこと何か投げかけるとしたら何かありますか?
北山:ドラムだけにしなくたっていいと思います。楽器もそうだし、仕事として無理に選ぶ必要もないし。ただ好きだったら続けてほしいです。

【注釈】
*1 lake : 長久保寛之(Gt.)、伊賀航(Ba.)を中心に2001年に結成されたポップ・バンド
*2 エクスネ・ケディ : 井手健介と母船のセカンド・アルバム『Contact From Exne Kedy And The Poltergeists(エクスネ・ケディと騒がしい幽霊からのコンタクト) 』(2020年)のコンセプトとなった架空の人物
*3 ジェームス・ギャドソン : アメリカのセッション・ドラマー。マーヴィン・ゲイ、ハービー・ハンコック、ビル・ウィザースなどのレコーディングにドラムで参加
*4 スティーヴ・ガッド : アメリカのセッション・ドラマー。エリック・クラプトン、ポール・サイモン、チック・コリア、スティーリー・ダンなどのレコーディングにドラムで参加
*5 伊賀航 : benzo、lakeのベーシスト。細野晴臣、曽我部恵一、おおはた雄一、寺尾紗穂、中納良恵、ハナレグミ、イノトモなど様々なミュージシャンのサポートとして参加
*6 山本達久 : ジム・オルークと石橋英子によるカフカ鼾、NATSUMENなどでドラムを担当
*7 渋谷毅 : ジャズ・ピアニスト。渋谷毅トリオ、渋谷毅オーケストラなどで活動。浅川マキのレコーディングに多数参加。劇伴作家として数多くの作品も手がけている
*8 石渡明廣 : ジャズ・ギタリスト、ドラマー。自己のバンド MULL HOUSEや、渋谷毅オーケストラのギタリストとして活動
*9 外山明 : ドラマー、パーカッショニスト。渋谷毅オーケストラや石渡明廣のMULL HOUSEなどに参加
*10 千住宗臣 : ドラマー。ボアダムス、PARA、ウリチパン郡、NATSUMENなどに参加
対談を終えて
私のように頭でっかちになって何にでも意味付けをしたがる人間からすると、ゆう子さんのように好きだからやっている、楽しいから続けているという、至極シンプルな考え方、在り方に今更ながらハッ!とさせられました。初心忘れるべからずではないですが、自分の気持ちに素直に行動していくことの大切さを改めて思うなどしました。今回、こうしてじっくりお話を伺うことができて本当に光栄です。(見汐)
PROFILE:見汐麻衣
シンガー / ソングライター
2001年バンド「埋火(うずみび)」にて活動を開始、2014年解散。2010年よりmmm(ミーマイモー )とのデュオAniss&Lacanca、 2014年石原洋プロデュースによるソロプロジェクトMANNERSを始動、2017年にソロデビューアルバム『うそつきミシオ』を発売後、バンド「見汐麻衣 with Goodfellas」名義でライブ/レコーディングを行う。
ギタリストとしてMO'SOME TONEBENDER百々和宏ソロプロジェクト、百々和宏とテープエコーズ、石原洋with Friendsなど様々なライブ/レコーディングに参加。また、CMナレーションや楽曲提供、エッセイ・コラム等の執筆も行う。2023年5月、初のエッセイ集『もう一度 猫と暮らしたい』(Lemon House Inc.)を発売。
■HP : https://mishiomai.tumblr.com/
■X : https://x.com/mishio_mai
■Instagram : https://www.instagram.com/mai_mishio
■note : https://note.com/19790821
■Bluesky : https://bsky.app/profile/maimishio.bsky.social
PROFILE:北山ゆう子
ドラマー
2002年曽我部恵一のツアーへの参加をきっかけに、数々のミュージシャンと共演を重ねる。
主な参加バンドに、lake、キセル、エクスネ・ケディ(井手健介と母船)、三輪二郎バンド、イノトモ。
■facebook : https://m.facebook.com/yuko.kitayama.71/
北山ゆう子参加作品