少年からオトナになる時に忘れてきた、赤面ものの宝箱を掘り出してしまった
男40を超えて、50が近づいてくると昭和40年代少年時代を懐かしく思い出すことが増えてきた。そんな懐かしいという気持ちを倉内太『ペーパードライブ』を聴いて感じた。「全然UFOがいない」とか「精子のぬめり」とか「本物の鉄砲」とか、辞書で見つけた卑猥な言葉に線を引っ張ったかのように、なんか気になる単語たちが出てきて妙に気になるのだ。少年からオトナになる時に忘れてきた、赤面ものの宝箱を掘り出してしまったかのようだ。
そんな言葉を使う倉内太は30歳を越えた男性である。決して少年ではない。なるほどアルバム全体を通して感じる不安定さは、30男が持ち続けた少年の心なのかと妙に納得したりする。素朴なアコースティック・ギターの弾き語りではあるけれど、様々なところで、ドラムであったり、ひずんだエレキ・ギターであったり、口笛であったり、コーラスが絶妙に入る。聞けばギター以外の楽器もすべて彼自身が演奏したらしい。
倉内太はかく語り「すごく調子のいい日も、気分の乗らない日も、とにかくマイクに向かう」。倉内太はかく語り「スタジオでの録音に加え、家や街やアルバイト先でも録音しました」。音楽と共に寝起きする彼の本アルバムへの気持ちは1曲目「シンピン」の”あたらしく歌を作る “初めてみたいに”であり、“新しく息を吸う”行為なのであろう。そうして生まれた本作は全2作の「陽」なる曲たちとは反対に自身の内面を掘り返し、物静かに内省するかのような作品となった。そんな振り返る気持ちが、オジサンの少年時代を懐古する気持ちとシンクロしてしまったようだ。もう一周聞いてみようと思う。ちょっと彼の毒っけにやられてしまったのかな。倉内太よ、永遠の少年であれ!(text by 北原'きっちぃ'裕一郎)