歌詞もまた本作が自由に解き放たれたものであることを象徴している
大好きな色のクレヨンで描きたい絵を描く。大好きなおもちゃで好きなように遊ぶ。それは正に自由と楽しさ満ちた純粋無垢な行為。こういった《自由》は恐らくすべての人が幼少時代に経験していることだろう。制約や気負うものが何もないというのは実に気楽なものである。Gotchの『Can't be forever young』はそんな制約や気負うものから解き放たれた一人のアーティストが自由を謳歌する、まるでおもちゃと一緒に戯れる幼児のような姿が手に取るように感じられるのだ。
全編アコースティックギターを駆使したフォークやカントリー色が強いアルバムであるが、ヒップホップやホーンセクションを取り入れた曲もある。アルバムからのリードトラックである「Wonderland/不思議の国」からは自由の幕開けと言わんばかりにメロディからは祝祭的な雰囲気が漂い、スクラッチ音やホーンセクションが更にそれを煽る。4曲目「Stray Cats in the Rain / 野良猫たちは雨の中」のハーモニカによる軽快なメロディは実に可愛らしく感じるものだ。7曲目の「Aspirin/アスピリン」におけるハーモニカのメロディとタンバリンの音色とメロディはどこか幼児的というか、まるで幼稚園で習う遊戯曲のようである。本作に収められた楽曲群はどれも簡素で愛らしいメロディで奏でられ、自由に満ちている。
また本作はその有機的な空間作りが素晴らしい。ミキシングを手掛けたのはTortoiseのジョン・マッケンタイア。かつてシカゴ音響派と呼ばれた重鎮の姿はここにはない。代わりにあるのは、近年彼が手がけたヨ・ラ・テンゴやパステルズの作品のような素材と空間の隙間を十分に生かした有機的で奥行きのある音である。Gotch自身も彼らの作品におけるジョンのミックスが気に入って依頼をしたそうだ。
歌詞もまた本作が自由に解き放たれたものであることを象徴しているだろう。アジカンとは異なった語感とリズム。手記に書かれたような内容の歌詞は彼なりの死生観を綴ったものだが、サウンド同様に気負うものはまるで感じられない。
本作でいう制約と気負うものとは紛れもなくアジカンのことだ。『Can't be forever young』からは訴えかけるようなメッセージ性も衝動性に駆られるギター・ロック・サウンドもない。本作はそんなロック・スターとしての立場を離れ、ただ、ただ、自由を謳歌し、音楽を心から楽しんでいるひとりのアーティストとしての姿を記録した珠玉のポップ・ミュージックである。(Text by 佐久間義貴)