ただの音楽好きのニュアンスで、大好きな音楽に向き合っている
大きなバンドを持つ、音楽のプロとしての悩みがあったのだろう。ゴッチは自身の日記にて、「アジカンは巨大ロボットのような感じで、操縦席に乗るだけでも大変なことだ」「その隅々まで把握することが難しくなった」「そのお陰で音楽だけに集中していれば良くなったわけだけれども、どこかに寂しさを抱えている」などと語っている。アジカンという大きな組織を操縦するゴッチにとって、そのサウンド作りは大きなプライドやプレッシャーを感じさせるものであったのは間違いない。
そのプレッシャーが理由であろうか、彼のソロ活動は近年活発化している。THE FURURE TIMESの発行や本作収録の3枚の7inchシングルはもちろん、昨年にはThe chef cooks meのアルバムのプロデュース、そして10周年ライヴでのソロステージも行ってきた。そして今作のソロ・アルバムも、(言い方は悪いかもしれないが)アジカンからの一時的逃避から得られた自由度の高さを持ち味にしたアルバムだろう。仕事というよりは趣味――ただの音楽好きのニュアンスで、大好きな音楽に向き合っている。
音楽好きとしてのゴッチが敬愛するミュージシャンで、かつ今作のポイントとして挙げられるのは、ベックである。今作はベックの最新作『Morning Phase』を彷彿とさせるようなオーガニックな音作りで、貫録とフォークへのリスペクトを根底に感じる。ベックもゴッチも、失礼ながら「年取ったなあ」とも思えるし「ルーツ色の強い作品を作りたかったんだろうなぁ」とも見て取れるサウンドに仕上がっているのだ。本作において「wonderland/不思議の国」に代表されるような「新世紀のラブソング」以降のアジカンをくり抜いたかのようなヒップ・ホップで柔軟なリリックも、「loser」のカヴァーも思えば必然のように感じている。
どの曲も決してソロでしかできないサウンドではないとは思うが、「アスピリン」なんて、アチコのコーラスも相まってアジカンでは表せない幼児受け絵本のような可愛らしさがあって新しい。正直、手練れた感覚で音楽を作るようになってしまったのかと思っていたがそうでもないようだ。多くの者に尊敬されるような立ち位置を保ちながらも、自身のリスペクトを追及することも忘れないし、RECORD STORE DAYという特別な日にリリースしたことにも大きな意味がある。彼の音楽を作る喜びと表現する喜びを改めて感じられる1枚だ。(Text by 梶原綾乃)