自身の掲げた震災以降の哲学に落とし前をつけるような作品になった、とも言えるかも知れない
本作の最後に収録された「LOST」にはこんな歌詞が出てくる。〈全てを失うために/全てを手に入れようぜ/ほら〉。もともとは2011年の震災の後に、後藤正文の名義で発表されたこの曲は、そのタイミングでは、まず何よりも震災からの回復への真っ直ぐな願いとして響くものだった。だが、今にして思えば、震災と復興を焦点にジャーナリスティックな視点から発行を続けているフリーペーパー『THE FUTURE TIMES』をはじめ、震災以降の後藤の活動の根底に流れる哲学を表した曲でもあったのだろう。
8ビートの直情的でエレクトリックなパワー・ポップを出発点に、ポストロック的でエフェクティブなサウンドや編曲を取り入れることで、バンドとしての軸を形成してきたアジカンが、その成長の過程で半ば実験的、装飾的に取り組んで来たアプローチ――後藤のラップはもちろん、パターン化されたドラム・ループを元に曲を組み立てるヒップホップ的音作り、ほぼ全曲で聴こえるアコースティック・ギターをはじめとした生楽器の導入、あるいはそれと対照的とも言える打ち込みのビート――が、このアルバムではむしろ主軸になっている。それは見方を変えれば、いま一度自身の音楽性について見直すことで、『THE FUTURE TIMES』発行人という(ある種の)ジャーナリストの後藤正文としてではなく、アーティストの“Gotch"として、自身の掲げた震災以降の哲学に落とし前をつけるような作品になった、とも言えるかも知れない。
エッジィで疾走的と形容できるアジカンらしさから離れる中で、おそらく本作のソング・ライティングに大きなインスピレーションをもたらしたものの一つは、同じフレーズの繰り返し、つまりループを効果的に取り入れるというアイデアだったのではないだろうか。幅広い楽器を用いているにも関わらず、作品に通底しているあたたかな高揚感も、おそらくはそうした部分に由来があるのだろう。それが最も端的に、しかも洗練された形で表れているという意味でも、本作のベスト・トラックは7曲目の「アスピリン」。ロックンロールの古典中の古典、「ルイ・ルイ」のリフを全編で引用しながら、しかしこれまで発表されてきた数多の“ルイ・ルイ・ソング"とは一味違う、可愛らしいデュエット・ポッ プスに仕上げる手腕は見事。音楽家としての後藤の職人性に触れられることも本作の魅力だ。(Text by 佐藤優太)