お客さんを笑顔にしたいです
──Golpe Mortalさんをフィーチャーした“HEAVEN”は、2021年ぐらいからライヴでは定番になっていたような。
SHV : たぶん“REPLICA”の次に古い曲で、「音源、出てなかったんだ?」って感じですよね。個人的にはBASTARD的なジャパニーズ・ハードコアを無理やりミドルテンポなUSハードコアに落とし込むことに成功した曲だと思っていて、気に入ってます。Golpe Mortal氏はもはや盟友というか……。
ZIE : 5人目のKLONNSみたいな、今日ここにいてもおかしくない人です。でも“HEAVEN”は、最初はSHVさんひとりで歌ってましたよね。
SHV : ひとりでやってたんですけど、ひとりでやるとなんか寂しい感じの曲で。けっこう展開が大きく変わるから、そのタイミングで誰か別の人が出てきて歌ったほうが面白いんじゃないかなって。
ZIE : 初めてオイカワ(Golpe Mortal)さんに歌ってもらったのって、心斎橋のclub STOMPじゃないですか? 2020年11月の〈Discipline〉大阪編でKLONNSとMs.Machineが一緒に遠征したときに、オイカワさんもついてきて。「せっかくだから歌いません?」みたいな。
SHV : そうだっけ?
ZIE : あのときオイカワさんが「歌詞、考えてない!」とか言っていたのを覚えています。“HEAVEN”は“REALM”とは違って、オイカワさんしか歌っていない……いや、違うか。
SHV : 去年の1月かな、茨城・取手のDandelion Cafeでやったときは、オイカワが来られなかったからヤマモトくんに歌ってもらったり。
ZIE : そうだそうだ。あと“HEAVEN”は、コーヘイ(鏡/UMBRO/LACUNA SONORA)くんが間違えてステージに上がっちゃって。
SHV : 去年の4月、GAGのジャパン・ツアーの小岩BUSHBASH編で。
ZIE : あの日、セットリストは“HEAVEN”、“REALM”の順で。“HEAVEN”はオイカワさんが入る予定だったんだけど、来られなくなっちゃったからうちらだけでやって、“REALM”でコーヘイくんに出てきてもらうことになっていたんですよね。でもコーヘイくんがなぜか、“HEAVEN”が始まった瞬間に僕のほうをチラチラ見てきて。「どうしたんだろ?」と思っていたらステージに上がってオイカワさんのパートを歌い始めて……あれ、すごかったですよね。
SHV :「思いっきり出るタイミング間違えてる……けど、まあいいか」みたいな。
ZIE : その映像、YouTubeに上がっているので、よかったらチェックしてください。
SHV : しかもコーヘイは、“HEAVEN”を歌い終わったら帰ろうとしたからね。次の“REALM”が本当の出番なのに。あれは本当に伝説の回というか、僕もそこそこ長くバンドをやっていますけど、かなり上位に入る意味のわからなさでした。
ZIE : そのとき、汗だくでフロアに戻ろうとするコーヘイくんの肩を僕が掴んで、耳元で「違う、次の曲だよ」と言ったら、コーヘイくんが「あ、そうなんだ?」みたいになって。それをフロアで見ていたDEATHROさんが、僕が感極まって「いつもありがとう」と言っていると勘違いして、勝手に感動していたっていう。
一同 : (笑)。
MIURA : 感動的な光景に映ったんですね。
SHV : 確かに心は動きましたけどね、いろんな意味で。
OKAMOTO : コーヘイくんもまた驚きを与えてくれる。
ZIE : そう、それがコーヘイという男です。
──今年の4月に埼玉・戸田公園のCORNER PRINTINGで珠鬼のライヴがあったとき、OKAMOTOさんと話していたら「もしドラムがうまくなって、置きにいくようなプレーをするようになったらどうしよう?」という発言が飛び出して。そんなことがあり得るのかと驚いたんですが……。
OKAMOTO : そんな話、しましたっけ(笑)。ライヴって本当に大変なんですけど、逆に大変じゃなくなったらそこが引き際かなって。幸いにもいまは、常に追い詰められている状態なんですよ。捕食者から逃げる野生動物みたいな。そういう必死さがないと、たぶんライヴって面白くならない。
ZIE : 僕はOKAMOTOさんとは大学のサークル時代から、かれこれ14年ぐらいの付き合いになるんですけど、OKAMOTOさんのドラムにはそういう感じがずっとあります。その追い詰められている感じが、ゲインの高さにつながっている……いや、「ゲインが高い」っていうのはニシダくんの受け売りなんですけどね。ニシダくんはいつもすごくいいことを言ってくれるから。
OKAMOTO : それは自分でも意識しています。ゲインは高くありたい。入力をでかくしたい。
ZIE : 世の中には爆音ドラマーというか、振りとかも大きくて「バーン!」みたいな人がいるじゃないですか。OKAMOTOさんは、そういう感じではないんですよ。コップのふちまでギリギリ水が入っているんだけど、絶対に溢れない感じのドラムって言えばいいのかな?
MIURA : めっちゃわかります。量というよりも質としてでかいみたいな、音符の詰まりかたとかにけっこうそういう感じありません? ビートのなかの、キックとスネアの距離感とか。
ZIE : 音はでかいけど、邪魔にならない。自然体というか、あんまり「やったれ!」みたいなのがないですよね。普通にやってるけどヤバいみたいな。それが1番怖いんじゃないですか。
SHV :「やったれ!」っていう人はあんまり入れたくない。自分の音楽に。
ZIE : もしかしたら僕ら全員、比較的「やったれ!」感はないかもしれないですよね。いわば音楽の奴隷みたいな。
OKAMOTO : それが音楽にとって1番いい。でも私は、ハードコア・パンクのドラムの人たちって、みんなすごいと思っていて。自分はあんなに速く叩けないし、手数も多くない。だから「ここにいていいんだろうか?」と、ふと我に帰ることがあります。ずっと門外漢というか、蚊帳の外というか。
ZIE : 僕もそれ、めっちゃあります。音楽的にもそうだし、見た目的にも。
MIURA : 私もです。
──MIURAさんも!?
MIURA : いまの自分は、かなり社会的な音楽をやっているなと感じています。たぶん、メタルではフロアとステージの次元が違うんですよ。それに対してハードコア・パンクでは、フロアとステージがいつも同じ次元にあると思っていて。バンドでギターを演奏するという行為は一緒でも、コミュニケーションとしてまったく違うことをやっている感覚があるんです。だから、そのギャップに揺さぶられていますね。でも、そういうふうに単純に対置しないほうが面白いかもしれない。
SHV : 僕も「ここにいていいんだろうか?」って思いますよ。
MIURA : SHVさんも!?
SHV : 自分もパンクやハードコアの界隈にずっといたわけじゃないし、いまのKLONNSの立ち位置もけっこう特殊というか。パンクのイベントにも出るし、ハードコアのイベントにも出るし、最近はあまりないけどクラブイベントで演奏することもある。だからどこかのシーンにいるという感じではないかもしれないですね。
OKAMOTO : それができるなら、1番いいのかもしれない。
SHV : もちろん友達とか仲のいいバンドはいろんなところにいるけど、「シーンってなんだろう?」みたいな。
──それはいまの「シーン」と呼ばれるものに対してなにか思うところがあるとか、そういう話ではない?
SHV : ないです。強いていえば、パンクは新世代が全然出てこないなと。今年の5月にヨーロッパ・ツアーに行ったとき、どこの国でも若いパンクの子がいっぱいで、すごい食らったんですよ。パリでライヴをしたときなんか、主催者の人に年齢を聞いたら21歳で。想定外すぎて一瞬、英語がわからなくなりました。「あれ? “twenty-one years old”って何歳だっけ?」って。
一同 : (笑)。
SHV : ヨーロッパに限らず、海外は若いハードコアの人もいれば若いパンクの人もいる状態だと思うんですよね。一方、日本は若いハードコアの人はどんどん増えていてるし、盛り上がってもいるけど、パンクはそうなっていない。少なくとも自分が観測できている範囲ではね。その差はなんなんだろうなとは思います。ただ僕らは、無責任かもしれないけど、自分たちを観に来てくれるお客さんを楽しませることができればいいんじゃないかなって。
![](https://imgs.ototoy.jp/feature/image.php/2024070402/klonns_c_2.jpg?width=1200)
──去年の12月、KLONNSとTHE BREATHが主催した〈NEW REALM FEST〉で、総勢23組のトリをKLONNSが務めたとき、フロアが最高潮に盛り上がっていました。その光景を見て「KLONNSのなにがいいって、まず曲がいいんだよな」と思って。
SHV : ありがとうございます。
──『HEAVEN』はそれを音源という形で証明しているというか。ハードコア・パンク云々抜きに、シンプルにいい曲が入っているからいいアルバムみたいな。
SHV : 自分が人生で初めてモッシュ……じゃないけど「飛び跳ねるしかない」「動かなきゃ」みたいな感覚になった音楽って、イギー・アンド・ザ・ストゥージズの“Raw Power”なんですよ。
MIURA : いい話だ。
SHV : 別にハードコアだからモッシュパートを入れるとか、そういうことじゃなくて。初めて“Raw Power”を聴いたときの感覚に自分がなれる曲を作りたいという思いが、日に日に強くなっていますね。あくまでもハードコア・パンクというフォーマットにはこだわりながら。それを実現させるためには、自ずとポップというかキャッチーな要素が必要になってくる……っていうとつまらない言いかたになっちゃうけど、要するに、お客さんを笑顔にしたいです。
一同 : (笑)。
OKAMOTO : めっちゃわかります。みんな笑顔になってほしいし、私としては、同時に消えない傷みたいなものを負って帰ってほしい。だから幸せになってほしい気持ちと、めちゃくちゃにしてやりたい気持ちの両方があるんです。私はライヴでいつも追い詰められているので、フロアにいる人が楽しそうにしているのを見ると、そういう気持ちが沸々と湧いてくることがあるというか……。
ZIE : それ、いつも言ってるよね。
SHV : 怖いっす(笑)。
OKAMOTO : めちゃくちゃにしてやりたいというのは、ライヴを観る前と観たあとで、不可逆な状態になってほしいという意味で。私自身、好きなバンドのライヴとかを観てそういう状態になったし、そういう状態に至らしめることができない、観る側になんら影響を与えることができない表現は、表現として失敗なんじゃないかって。
SHV : そうっすね。本当にヤバいときっていうか、度肝を抜かれたときって笑っちゃうじゃないですか。聴いている人や観ている人を自然と笑顔にできたら、それはめちゃくちゃヤバい域に達しているってことなんですよね。バンドとしてもよりそういう方向に向かっている、つまりみんなを幸せにしたいので、曲の作りかたも変わってきています。アルバム『HEAVEN』までは、まだ小手先の自意識というか「ちょっと個性出したろ」みたいな気持ちが、振り返るとあったかもしれなくて。たぶん、いまはそういうのが減って、よりハードコア・パンクの機能美を追求したうえで、その先へと突き抜けるような音楽になっていると思います。
──ライヴでは新曲も何曲か披露していますよね。
SHV : 録ってない曲がすでに5、6曲あるので、もうちょっと曲を書き足してセカンド・アルバムを録ろうかなって。
ZIE : 最近のSHVさんが持ってくる曲のほうが、やっていて楽しいかな。以前の曲はわりとみっちみちな感じだったんですけど、新しい曲は余白があるというか。
OKAMOTO : 自由に動ける幅がある。
ZIE : そのぶん、より踊れるというか、ノれる。
MIURA : 曲展開でいえば、ブレイクも増えましたからね。たぶんそこで間違えると「やったれ!」になっちゃうのかもしれないけど、演奏する人がハンドルを握る瞬間が前よりも増えている。
SHV : だからファーストよりよくなると思いますよ、セカンドは。
一同 : (笑)。
──いつごろ出そうですか?
SHV : 夏からリリース・ツアーが始まるので、それが落ち着いたら録りたいんですけど……まあ、明言するのはやめておきましょう(笑)。
ZIE : また録ってから2年後とかのリリースになっちゃわないように(笑)。
編集 : 高木理太
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DISCOGRAPHY
LIVE SCHEDULE
KLONNS pre. “VERSUS -1st LP Release Show-”
2024年7月6日(土)@新大久保EARTHDOM
OPEN 18:30 / START 19:00
前売¥2500 / 当日¥3000 (別途ドリンク代¥500)
Under 25 (要ID) ¥2000 (別途ドリンク代¥500)
KLONNS
BELMADIGULA
moreru
TIVE
予約 https://tiget.net/events/325187
PROFILE
KLONNS
![](https://imgs.ototoy.jp/feature/image.php/2024070402/klonns_A.jpg?width=720)
2016年始動。2020年ごろから「NEW WAVE OF JAPANESE HARDCORE」を掲げ、それまでのブラックメタル・パンク路線を一新。現在の”ジャパニーズハードコア meets USハードコア”と形容されるスタイルを確立させる。
ANGEL DU$T、GAG、SLANT、TOTAL CONTROL、Portrayal Of Guilt、SPYなど数多の海外アクトのサポートアクトを務めた他、2023年12月には国内外の20バンド以上のパンク/ハードコアバンドが集結したフェス『 NEW REALM FEST』の主催の一角を担った。
さらに、2019年以降、オーストラリア、台湾、韓国、EU/UKツアーを成功させ、活動の場を海外にも広げている。
2024年4月、待望の1st Full Albumがアメリカ・シアトル〈Iron Lung Records〉と神奈川〈BLACK HOLE〉の2レーベル共同でリリースされた。
また、2024年夏以降、日本国内を含むアジアツアーが予定されている。
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