CROSS REVIEW 2
『“第一夜“は、ヨルシカの本質的な魅力がつまっている』
文 : 梶野有希
収録曲“第一夜“を聴いたとき、すごく懐かしい気持ちになった。「あぁ、これこそがヨルシカだ」とまっすぐに思った。
その理由は2020年にn-bunaが同曲を弾き語った動画(現在は削除されている)が投稿されており、そのフレーズを微かに覚えていたからかもしれない。はたまた、“第一夜“の「氷菓を一つ買って行く 頬張る貴方が浮かびます」というフレーズと、“花に亡霊“(2020年)の「夏の木陰に座ったまま 氷菓を口に放り込んで風を待っていた」という歌詞の関連性を感じたからか。
いや、もっと感覚的な理由だろう。ヨルシカは、自らの美学に正直な芸術至上主義者。歌詞には言葉そのものに対する敬愛が込められていて、旋律はただただ美しい。そういった潜在的な魅力を最も感じた曲が“第一夜“だったのだ。
「貴方だけを覚えている」、「言葉だけが溢れている」(“第一夜“より)。“だけ“という言葉を繰り返し、対象を強く限定するこの歌詞は、フル・アルバム『だから僕は音楽を辞めた』『エルマ』のコンセプチュアルな2枚のアルバムで描かれていたように、たったひとりに焦がれ続けている主人公と、言葉に対するn-bunaの執着が表れている。そこには「それだけしかない」という悲壮感や諦念があって、同時に「それだけあればいい」という微かな希望も同時に存在している。またこれまでも「夏風」や「想い出」、「雲」という言葉はヨルシカの楽曲に頻出していたが、このノスタルジックな言葉には、n-bunaが実際に観た景色と、楽曲制作のなかでみえた心象風景が入り混じっているように思う。
ヨルシカの楽曲は、一見シンプルな単語で構成された歌詞にみえるが、その底はとてもとても深い。そういった余白があるリリックだからこそ、聴き手は想像力を膨らましていき、その世界観に惹かれてしまう。この曲を聴いた日、そういった魅力に惹かれていることを改めて思い出したのだ。
そして、そのリリックを愛しく撫でるように歌う、suisの声は透き通っていて、楽曲の純度を増している。ヨルシカのどこか儚い雰囲気は、suisのヴォーカリゼーションの存在も大きく、この“第一夜“に関しては、その技量が顕著に伝わってきた。またメロディーをなぞりつつ、たまに音を外す可憐なピアノも、細やかに音を刻むアコギも、その儚さを補完している。また通常のドラムセットではなく、音数が少ないパーカッションでリズムを刻むことで、前述した旋律の美しさがより明確に表現されている。
収録曲“第一夜“は、ヨルシカの本質的な魅力がつまった名曲である。
もちろん、この『幻燈』には、これまでは想像すらできなかった大きな変化も反映されている。“451”では、はじめてn-bunaがヴォーカルを務めているほか、“いさな“や”靴の花火(Re-Recording)“、”老人と海“、”パドドゥ“ではn-bunaのコーラスの存在感が増しているのだ。これはボカロP時代には考えられなかった変化である。また『だから僕は音楽を辞めた』から、suisは「歌に自分の感情も入れるようになった」とインタビューで語っていた。それ以降、歌い方に変化を感じていたが、今作の“又三郎“や”ブレーメン“、”都落ち“の歌声を聴けば、n-bunaの曲を自分なりに解釈して大切に歌うsuisへと変化し続けていることがハッキリとわかる。
さらに今回は、「音楽“画集“」という例がないリリース形態にも挑戦している。CDは付属しておらず、ヨルシカのジャケットやMVを担当してきた加藤隆が手がけたイラストをスマートフォンなどで読み込むことで音源が聴けるという仕組みだ。全25曲のうち、配信されるものは10曲のみ。つまり『幻燈』は、画集となってはじめて完成する。まだそのイラストをみていないので、まだ全貌は知らないが、きっとそこには聴覚だけでは気づけない愛しい発見があるはずだ。
そしてそのイラストを通じて鳴る楽曲のなかには、「だから私はヨルシカを好きなんだ」と確信できる楽曲が必ず収録されているだろう。
梶野有希
カルチャーメディア『DIGLE MAGAZINE』を経て、現在は『OTOTOY』でライター・編集。インディーからメジャーまで、邦ロックを中心に担当。
【Twitter】
https://twitter.com/ranran_bumeran
ヨルシカ『幻燈』について
EP『創作』以来約 2年2ヵ月ぶりとなる作品は、「聴ける画集」。
画集は加藤隆氏が描いた絵で構成されており、スマートフォンやタブレットのカメラを画集の絵にかざすことで読み込み、専用の音楽再生ページへ接続する仕様を組み込んでいる。それぞれの作品毎に設定された一つのテーマを、音楽と絵の2側面から描いた「聴ける画集」。(※画集とデジタル配信は曲数が異なる。)
◇収録曲(★:配信あり)
■第1章:夏の肖像
・夏の肖像・都落ち★・ブレーメン★・チノカテ★・雪国・月に吠える★・451★・パドドゥ・又三郎★・靴の花火・老人と海★・さよならモルテン・いさな・左右盲★・アルジャーノン★
■第2章:踊る動物
・第一夜★・第ニ夜・第三夜・第四夜・第五夜・第六夜・第七夜・第八夜・第九夜・第十夜
■音楽画集「幻燈」特設サイト
■音楽画集はこちらから
■配信アルバムはこちらから
ヨルシカの過去作はこちら
LIVE SCHEDULE
ヨルシカ LIVE TOUR 2023「月と猫のダンス」
■宮城公演(2days)
日程:2023年4月15日(土) / 4月16日(日)
会場:宮城・仙台サンプラザホール
■愛知公演(2days)
日程:2023年4月22日(土)/ 4月23日(日)
会場:愛知・名古屋国際会議場 センチュリーホール
■大阪公演(2days)
日程:2023年4月26日(水) / 4月27日(木)
会場:大阪・フェスティバルホール
■東京公演(2days)
日程:2023年5月11日(木) / 5月12日(金)
会場:東京・東京国際フォーラム ホールA
■北海道公演(2days)
日程:2023年5月31日(水) / 6月1日(木)
会場:北海道・札幌文化芸術劇場 hitaru
■福岡公演(2days)
日程:2023年6月15日(木) / 6月16日(金)
会場:福岡・福岡サンパレス
■沖縄公演
日程:2023年6月24日(土)
会場:沖縄・沖縄コンベンションセンター劇場棟
PROFILE:ヨルシカ
コンポーザーの”n-buna”がボーカル”suis”を迎えて結成したバンド。メンバーは、n-buna[ナブナ](Gt / Composer)、suis[スイ](Vo)。
2012年、n-buna名義でボーカロイド楽曲「アリストラスト」を投稿。ボカロPとして活動をはじめる。2014年4月 n-buna ボーカロイド同人アルバム「カーテンコールが止む前に」を発売。2015年6月、n-buna ボーカロイド1stアルバム「花と水飴、最終電車」を発売。2016年7月 n-buna ボーカロイド2ndアルバム「月を歩いている」を発売。8月 n-buna 1st LIVE「月を歩いている」を新代田FEVERにて開催。11月 n-buna LIVE「月を歩いている」追加公演を代官山UNITにて開催。
2017年4月 「ヨルシカ」の活動を開始。6月 ヨルシカ 1stミニアルバム「夏草が邪魔をする」を発売。7月 ヨルシカ 1st LIVE「夏草が邪魔をする」を新宿BLAZEにて開催。2018年5月 ヨルシカ 2ndミニアルバム「負け犬にアンコールはいらない」発売。2019年 4月 ヨルシカ 1stフルアルバム「だから僕は音楽を辞めた」発売。8月 ヨルシカ 2ndフルアルバム「エルマ」発売。10月 ヨルシカ LIVE TOUR 2019「月光」を東 名阪にて開催。12月 ヨルシカ LIVE TOUR 2019「月光」追加公演を新木場STUDIO COASTにて開催。2020年7月 ヨルシカ 3rdフルアルバム「盗作」発売。2021年1月 ヨルシカ LIVE「前世」をオンラインライブにて開催。1月 ヨルシカ EP「創作」発売。5月 ヨルシカ LIVE「前世」Blu-ray & DVD 発売。8月 ヨルシカ LIVE Tour 2021「盗作」を全国6都市にて開催。2022年3月 ヨルシカ LIVE TOUR 2022「月光 再演」を東名阪にて開催。6月 ヨルシカ LIVE「月光」Blu-ray & DVD 発売。
2023年1月 ヨルシカ LIVE 2023「前世」を東阪にて開催。4月 ヨルシカ 音楽画集「幻燈」 発売。4月 ヨルシカ LIVE TOUR 2023「月と猫のダンス」を全国7都市13会場で開催予定。
【公式HP】
https://yorushika.com/
【音楽画集「幻燈」特設サイト】
https://sp.universal-music.co.jp/yorushika/gentou/
【公式ツイッター】
https://twitter.com/nbuna_staff