最先端のビートと甘いメロディーが織りなす、新たなポップスの提示——Emerald、初のフル・アルバムをリリース&インタヴュー
ロバート・グラスパー・エクスペリメンツなどの現代ジャズ、R&Bから聴ける、ヒップホップ発信のレイドバックしたリズムと空間を生かした甘いコードのレイヤー。もはや、新たなスタンダードであるこの要素と、ジャパニーズ・インディー独特の歌唱表現、空気感を同時にパッケージした5人組バンド、Emerald。その異色でありスムースなグルーヴが詰まった待望の初アルバム『Nostalgical Parade』がついに登場。最新のビート・シーンに直結したグルーヴをポップスに取り込んだサウンドは、本当に新しい。そして、このフレッシュな音を知っていただくべく、今作から1曲をフリー・ダウンロードでお届け。本人達がインタヴューで語る、こだわりのサウンド・メイク、そしてバンド・アンサンブルと歌との新しいバランスをぜひご堪能あれ。
>>Emerald「Cryin'Climbing」のフリー・ダウンロードはこちらから(2014年9月5日 24:00まで)
Emerald / Nostalgical Parade
【配信フォーマット / 価格】
WAV / ALAC / FLAC : まとめ購入 1,500円 単曲 200円
mp3 : まとめ購入 1,300円 単曲 150円
【Track List】
01. 〜Intro〜
02. Nostalgical Parade
03. Brush
04. Summer Youth
05. フラニーの像意 -Album ver.-
06. Cryin'Climbing
07. 〜interlude〜
08. TONIGHT
09. ふれたい光
10. 〜Reprise〜
INTERVIEW : Emerald
元PaperBagLunchboxの中野陽介と、もともと彼のバンドのファンであり、接点のあった藤井智之との出会いを契機に、2011年に始動したEmerald。前バンドが解散し、あてもなく曲を作り続けていた中野だったが、あるとき書き上げた「This World(1st EP『This World ep』に収録)」という曲を合わせるために、藤井のやっていたバンドModeast(モディスト)に打診。当初は中野にとってのリハビリであり、Modeastにとっては遊びという感覚だったものの、お互いのポテンシャルや人間性に惹かれ合い、徐々に活動が本格化していった。そして、遂にはファースト・アルバム『Nostalgical Parade』が完成。この作品には「中野陽介の再生の物語」というドラマが内包されていると同時に、Emeraldというバンドの持つ可能性が、ギュウギュウに詰め込まれている。
今の音楽シーンを見渡せば、ロック / ポップスとブラック・ミュージックとが、非常に近い距離にあると言うことができるだろう。「ロバート・グラスパー以降」のジャズやヒップホップの流れがあれば、チルウェイヴからR&Bへの展開があり、国内では山下達郎のようなベテランの再評価があれば、ceroやtofubeatsといった若手も浮上するなど、様々な動きが絡まり合い、ダイナミックな動きを見せている。Modeastというバンドは、そもそもがディアンジェロやエリカ・バドゥといったネオソウルを、日本人としてどのように解釈するかを目的としたバンドであり、もちろんその意志はEmeraldにも受け継がれている。そして、そこに中野の叙情性の高いヴォーカルが加わることによって生まれるサウンド・スケープというのは、これまであまり耳にしたことがない、非常にオリジナリティの高いものだ。まだまだ無邪気に海外からの影響を引用している部分もあるが、ベーシックとなるミュージシャン・シップの高さをちゃんと持っていることも心強い。まさに、磨けば光るダイヤの原石ならぬ、エメラルドの原石。その最初のきらめきがここに。
インタヴュー&文 : 金子厚武
ちゃんとバンド・アンサンブルで見せていきたい
――今ってロック / ポップスとブラック・ミュージックとの距離が近づいてる時期だと言っていいと思ってて、今回の新作はそこにバシッとハマった印象を持ちました。実際、今のシーンの流れをどのように見ていて、そこに対してEmeraldとしてどんな音楽を提示していきたいと考えていますか?
磯野好孝(Gt)(以下、磯野) : 基本的に流れっていうのはあんまり意識してないんですけど、確かにそういう雰囲気はありますよね。その中で僕が考えるのは、バンド・アンサンブルがしっかりしてて、演奏をちゃんと見せるっていうバンドは、国内ではまだそんなに多くないんじゃないかってことで。例えば、エリカ・バドゥとかロバート・グラスパーって、とにかくライヴがすごい。ブラック・ミュージックをエッセンスとして取り入れるというよりは、ちゃんとバンド・アンサンブルで見せていきたいっていうのは思ってます。
――確かに、やってることは面白いけど、プレイヤビリティが追いついてなくて、インディー然とした印象から抜けられないっていうケースは結構あるかも。
中野陽介(Vo)(以下、中野) : でも、それって日本人のいいところでもあると思うんですよね。プレイヤビリティが追いつかないものを、想像力で補って、インディー感のあるものとしてアウトプットするっていうのは、日本古くからのいいところなんですよ。なので、そういうアプローチも僕らなりに考えたいとは思うんですけど、まずは足元をしっかりというか、自分たちのアンサンブルを作りたいねって話をしてて。ただ、そこに関して言うと僕は、今自分の歌と向き合ってて、音楽性の部分は、結構メンバーに引っ張ってもらってます。
――アンサンブルで言うと、クリス・デイヴのドラミングとかが今改めて注目されてますよね。
高木陽(Dr)(以下、高木) : 僕がクリス・デイヴを初めて知ったのは、磯野さんとタツさん(Key)に「すごい人来るから」って言われて、COTTON CLUBにロバート・グラスパーを見に行ったのがきっかけで、それまでブラック・ミュージックはそこまで聴いてなかったんですけど、まあ、どえらい人がいるなと、異次元だなって思って(笑)。それからクリス・デイヴが叩いてるCDをいろいろ聴いて、参考にしたりしてます。
中野 : 俺びっくりしたのが、この間ホセ・ジェイムス見に行って、すげえなって思ったんですけど、あの歌い方とか雰囲気って、簡単には真似できないわけですよ。でもタカちゃん(高木)は「この前のライヴでやってた、あの感じでやってみて」って言うと、スタタタタン! って始めちゃうんですよ(笑)。そこから曲ができあがっていく感触は、本当にビックリで。
――実際、基本的な曲作りはどういう流れなんですか?
中村龍人(Key)(以下、中村) : 最初のラフ・スケッチみたいなデモを作るのが僕で、それをちゃんとバンドに置き換えるのを磯野が主にやってくれて……。
磯野 : 「このフレーズのここが」みたいな、最後の細かいやすり掛けは藤井がやるって感じです。
中野 : 今は僕が全部曲を作ってるっていう感覚は本当になくて、メンバーがやってることに対して、自分なりにコミットしようっていうトライなんですよね。
磯野 : このバンドを聴いた方は、もしかしたら中野陽介の歌が軸にあって、そこから曲ができてるって思う人もいるかもしれないですけど、結構逆なんですよ。
藤井智之(Ba)(以下、藤井) : 最初は弾き語りでメロディーを持ってきたのに対して、どう演奏をつけていくかだったんですけど、今回のアルバムの半分くらいは、みんなでオケから作って、そこに陽介さんがどう乗せるかとかを、ああだこうだ言いながらやるのが多くて。
中野 : 実はそういう作り方の方が得意だったりするんですよね。1から曲を作るよりも、そこで鳴ってるものにコミットしていくのが楽しいんです。ペーパー(PaperBagLunchbox)も最初はそうだったし。
――最初にも話してくれたように、今はまずシンガーとしての自分、歌そのものと向き合ってるっていうことでもありますよね。
中野 : 最近は特にそうですね。精神的なものよりも、どういう歌い方をしたら気持ちがいいか、リズムに対してどう入れていったら気持ちよく響くかとか。昔は感情でウワーってやってたんですけど、メンバーが結構ロジカルな考え方をするんで、その影響も受けてます。
「実はこういうシンプルな人間なんですよ」っていうところは、ちゃんと出たかな
――話をちょっと戻すと、そうやってちゃんとロジカルにアンサンブルを考えて、演奏で魅せようっていう発想は、どこから来ているものなんでしょう?
磯野 : 僕らは「楽器が上手くなりたい」ということに対するゴールの設定がおかしいというか、「これを弾けるようになりたい」とかじゃなくて、「ロバート・グラスパーと比べたら、今の自分全然だな」みたいな、比べる先が全部来日した外タレなんですよね(笑)。それも別に自分を追い込んでるわけじゃなくて、「うわあ、グラスパー上手いなあ」っていう、その「上手いなあ」に自分もなりたいっていうか。
藤井 : デリック・ホッジ(※)とかも、「なんで同じ人間なのに、同じことができないんだろう?」って思っちゃう。
※ : ロバート・グラスパーのバンド、〈ロバート・グラスパー・エクスペリエンス〉など、ジャズのみならず、R&Bシーンでも活躍するベーシスト
磯野 : 「機材聞いてみようぜ」って、ライヴ終ったあと声かけたりね。
中野 : ある意味、キッズですよ(笑)。
——ホントそうだね(笑)。じゃあ、そのバンド・アンサンブルと、中野くんの歌との関係性について、どのように考えていますか?
磯野 : 「歌ものである」っていう認識はいつも持ってやってます。どんなに演奏がプログレみたいになっても、「これは歌ものである」って言いたい。
藤井 : 歌の立ち位置っていうのはいろいろで、歌を全面に出す曲もあれば、添え物の曲もあるんです。ただ、歌が1番目立ってはいなかったとしても、歌を中心に考えた結果、その立ち位置になってるわけで、そういう意味で歌ものなんです。
――改めて、今中野くんは自分の歌っていうのをどう捉えていますか?
中野 : 最近考え方が変わってきた部分も結構大きくて、とにかくこのメンバーと作品を作るっていう工程が楽しいんですよ。なので、この人たちとものを作り続けるには、自分の歌をどう進化させて、その中でどう自分の存在を見せるかっていうのを、常に考えながらやってる感じです。「中野陽介だぜ!」っていちいち言わなくても、スッと伝わるような見せ方がないかなって。あの、CINRAのインタヴューとかもあって、結構メンヘラ・ヴォーカリスト的な見え方もしてると思うんですけど(笑)、実を言うとそんなでもないというか、確かに感情は豊かだとは思うけど、同時に「凡人がたまたまちょっといい声出たぐらいなもんじゃねえの?」っていうのは、昔から薄々気づいてはいて。でも、ペーパーの後期とかは「俺はミュージシャンなんだ」って意識を高く持ってないと立ってられなかったから、無理な自己主張せざるを得なかったんです。
――でも、Emeraldが始まって、そこが大きく変わったと。
中野 : 仲間に恵まれて、今こうやって立ってるだけでも奇跡なんだから、そこからフラットに出てくる歌で、お客さんを気持ちよくさせることができるようになるのを目指すのが、もしかしたら正しいのかもなって。後期ペーパー時代から僕の歌を聴いてた人からすれば、「何なんだろう?」っていうぐらい曲や歌は別ものになってると思うんですけど、1stから聴いてくれてる人とかは、むしろ納得してくれるんじゃないかとも思ってて。主張し過ぎない、でも存在は確かにあって気持ちいい、その感触っていうのは、変わってないんじゃないかなって。
――音楽性が変わったことで、歌そのものの本質が浮かび上がってくるというか、特に昔から中野くんの歌を聴いてる人からすれば、より明確にそこが見えるかもしれないですね。
中野 : いろいろ着込んでたり、かっこつけてた部分がどんどんとれていって、「実はこういうシンプルな人間なんですよ」っていうところは、ちゃんと出たかなって思います。僕ブラック・ミュージックが好きな理由って、メッセージがシンプルだからなんです。すごく難しい情勢の中で作ってても、めちゃくちゃシンプル。僕もどんどんシンプルになっていきたいと思っていて、僕がブラック・ミュージックから受けた影響としてはそこが大きいです。
歩調を合わせて、周りがやってることを常に聴きながら言葉を選んだら、自然とリンクしてくる
——では、今回のアルバムに向けては、どのように進んでいったのでしょうか?
磯野 : 去年の夏ぐらいに「アルバムを作ろう」となって、かなりしっかりプリプロをやって、エンジニアさんとも密に連携して作っていったんで、なんやかんやで時間がかかっちゃいましたね。今のDTMソフトは便利で、マイクの位置とかも変えられるんで、どの辺のマイキングで、スネアの裏表どっちを強くするかとか、細かいことを1つ1つやって、自分たちの作りたい音像に近づける作業を、レコーディング前にかなり詰めてやりました。
——まさに、アンサンブルはもちろん、音像も作り込まれていて面白いなって思ったんですけど、イメージは明確にあったんですか?
磯野 : 楽曲ごとに「これに寄せたい」っていうのがあった感じで、一回エンジニアさんと集まって、みんなで好きなCDを持ち寄るっていうのをやったんですよ。高木が持ってきたのが、なぜかBLINK182と(笑)、デイブ・マシューズ・バンドと……あと何だっけ?
高木 : あとグラスパーだったんですけど、よく考えたら自分が好きなプレイリストを持っていっただけっていう(笑)。
磯野 : 僕もグラスパーと、あと山下達郎とジョン・メイヤーを持って行って、結局はディアンジェロとかRHファクターとか、あの辺に持って行こうって感じでしたね。
藤井 : 最終的に要素として入ったのが、ディアンジェロ、ホセ・ジェイムス、ロバート・グラスパー、あとキリンジだったんです。
――そこでキリンジって面白いなあ。
藤井 : 『DODECAGON』を家で聴いた時に、結構参考になるかもと思って、MIXルームのスピーカーで鳴らしたときの音像がすごくて。ハイの嫌みがなくて、でもかなり耳を突いてくる感じ。あの音像の強さって、外タレのアーティストにもない音で。
中野 : サウンド・プロダクトとしてホント練られてるよね。ドラムの一音目で「やべ!」みたいな、あの感じがどうやって出せるのかは考えました。あとロバート・グラスパーだったら、ピアノの感触だったり。
磯野 : ホセはドラムの音だよね。あのスネアの締まった感じ。
――エンジニアはmouse on the keysとかのライヴ・エンジニアをしている山下大輔さんだそうですが、山下さんもブラック・ミュージック好きなんですか?
中野 : ライヴハウス(下北沢ERA)で働かれているので、仕事はロックが多いみたいですけど、新鮮な音を絶えずディグってるイメージがある人ですね。転換中のSEとかもいちいちかっこいいんですよ。元々僕が大阪芸大にいるころから、ERAはToeやNINE DAYS WONDERが出てる箱! ってイメージがあって、山下さんはそうしたムーヴメントの中で自分とライヴハウスを磨き上げてきた人だと僕は勝手に思ってるんですけど、あの辺の人たちって音楽超好きで、色んな音楽聴いてるイメージがある。ロックやハードコアっていう精神性や人としての信念を貫きながら、説得力のある「音」を常に探してるイメージがありますね。ペーパーの頃からERAに出る時はPAしてもらったりしてたけど、Emeraldになってからはより積極的に関わってくれたんです。うれしかったですね。何か面白いと感じてもらえるものがあったのかもしれない。
――それこそ、toeが一時期ネオソウルっぽい方向に行ってて、2009年に出てる『For Long Tomorrow』とか、結構そういう感じなんだよね。
中野 : シンプルでドープなものが根底にある人なんじゃないかなと思いますね。「説得力のある音」、ということに対する探究心と嗅覚は鋭い方だなと思います。一緒に作業するのがすごく楽しかった。
――では、曲ごとでも聞かせてください。途中で「どんなに演奏がプログレになっても、歌ものって言いたい」っていう話がありましたが、タイトル曲の「Nostalgical Parade」は、まさにそういう曲ですよね。
中村 : 最初は僕と陽介さんと2人で原型となる歌入りのデモを作って、それをバンドに持って行って、アレンジしていった感じです。
磯野 : 最初は七尾旅人みたいな雰囲気だったよね。
――最近の七尾旅人?
磯野 : そうです。しっとりR&Bみたいな感じで、「これバンドでやって面白いかな?」ってなって、「ぶっ壊してみるか」と。僕そのときちょうどイエスを聴いてたので、プログレ要素を入れてみたくなって。
中野 : 途中をグワーってしたいって言ったのは俺だった気がする。
磯野 : いや、あの部分はそれこそロバート・グラスパーのライヴを見に行って、「これやりたい」ってなったんじゃない?
藤井 : たぶん「ここに違う展開を入れたい」っていうのは陽介さんが言って、「じゃあ、どうするか? 」って中で、磯野が「藤井さん、デリック・ホッジみたいなベース入れてみて」って言って、「無茶言うなよ」って思いながらもいろいろやって(笑)、間奏の尺とかも全然決めてなかったけど、「タツさん、ここグラスパーのフリーな感じで弾いて」とか。
磯野 : 入れたい要素全部詰め込んだってことですね(笑)。
――そうみたいですね(笑)。一方で、シューゲイザー的な要素っていうのは、中野くんの趣向が反映されてる部分が大きいのでしょうか?
中野 : 実はですね、僕はもともとシューゲイザーや轟音が大好きなんですけど、磯野好孝が演奏するギターの音っていうのが、これまで僕が求めてた音に一番近くて、虜になっちゃって。自分の声との相性も良かったから、これは武器にしたいっていうのはあった。
藤井 : でも、誰がシューゲイズ・サウンドを取り込んだとかっていうわけでもなく、たまたま磯野が歪ませてジャーンって弾いたのが、「これ、すごいな」っていう、本当にそんな感じだったんですよ。
磯野 : そもそも僕シューゲイザー全然聴いてないんで、「シューゲイザーってこういうこと?」みたいな(笑)。
――まあ、大体勘違いから面白いものとか新しいものが生まれますからね(笑)。
藤井 : ああ、“勘違い”って言葉すごくしっくりきた(笑)。
磯野 : 最初は単純に音圧を稼ぎたかっただけで、でも周りに言われて初めて、「シューゲイズなんだ」って思って、「じゃあ、そういうことにしよう」っていう感じでしたからね(笑)。
――この曲はリズム・パターンも相当豊富ですよね。
高木 : そこも「グラスパーみたいなことやってみよう」っていうのが大きいですね。サブ・スネアを使うようになったのもこの曲からだったり。あと盛り上がるパートは、その頃サマソニでミューズを見て、「かっけえ」って思ったんで、その感じとか。
中野 : キッズだね(笑)。
――ミューズもロック・シーンの中で屈指のプレイヤビリティの持ち主ですからね(笑)。そして、このすごい展開の中でも、ちゃんと歌が届いてくる。
中野 : プログレッシヴな展開になって、歌がどんどん削られていったんですよ(笑)。「それすげえ大事なとこなのに」って部分が削られて、残った場所でやりきるしかなかったんですけど、ただ「追憶と踊るNostalgical Parade」から始まって、大きく展開して、またピアノで戻ってくるっていうストーリーは決めてて。これは「振り返ってばかりも寂しいから、素直に前向こうぜ」って気持ちを初めてちゃんと歌えた曲なので、俺にとってはめちゃめちゃ思い入れの深い曲です。
――曲自体も様々な場面展開があって、それがまさに「Nostalgical Parade」になってるというか、過去の様々な心象風景ともリンクするようで、楽曲と歌詞がすごく密接な関係にありますよね。
中野 : 歌をつけるときって、最初めちゃくちゃ歌いまくって、その中から印象に残る言葉とかメロディーをストックして、それを押し出すっていう作り方なんです。この曲も実は何通りもメロがあって、一番いいなっていうのを選んだんですけど、歩調を合わせて、周りがやってることを常に聴きながら言葉を選んだら、自然とリンクしてくるんですよね。
しっかり歌えるようになりたいです
――もう一曲、「TONIGHT」についてですが、鍵盤は基本ピアノが多い中、この曲だけチルウェイヴ風のシンセ・サウンドになっているのは、そこを狙ったわけですか?
中村 : 一応そうですね。僕全然そういう引き出しなかったんですけど、スタジオで教えてもらって、コーラス馬鹿がけしたらこういう雰囲気が出るんだって、いろいろやっていって、専門外ではあるんですけど、結果こういう音を選んだっていう。
――シューゲイザーの話とも通じるものがありますね(笑)。
磯野 : そのとき藤井さんがチルウェイヴにはまってて、バンドのスケール感で見せていく音楽としては、チルウェイヴっていうのも今後やっていくジャンルとして面白いかなって。それで「とりあえず一回食べてみるか」っていう感じで、実験しながら作っていった感じです。
――チルウェイヴっていうジャンルは、よくエスケーピズム(逃避主義)と関連付けて語られるじゃないですか?
中野 : 現実逃避的な感覚ですか?
――うん、「ここではないどこか」っていう。PBLにもその感覚って強くあったと思うんですけど、そこってEmeraldになってどう変わりましたか?
中野 : そこはめっちゃ変わりましたね。ペーパーのセカンドとかサードは、ここじゃないどこかに行こうとして、どんどん幻想を求めて、危険な綱渡りをしてたんです。でも、今いる場所にそれはあったんだって、このバンドが気づかせてくれました。今ここっていうのが、その幻想的なここではないどこかなんだって思えるぐらい、ファンタジックなものだったんだっていう。ペーパーのときはどんどん現実離れしていって、それが怖くもあり楽しくもあったんですけど、今は地に足をつけて、ここで好きなやつらと一曲でも多く、一秒でも長く好きな音楽を続けたいっていう気持ちです。
――エモーションっていう部分で言うと、「ふれたい光」に一番強く表れてると思って、「ふれたい」って言ってるってことは、やっぱり外を意識してるってことだと思うんですよね。なおかつ、それは「逃避」っていうことではなくて、自分の周りにいる人たちとの関係性を歌ってるんだろうなって思って。
中野 : その曲の「ふれたい〜」のサビは元々昔からあった僕のメロと詩なんですけど、それを覚えていてくれた僕の親友が、新しく作り変えてくれた曲なんです。まさに人との関係性の中で生まれた曲なんですよね。奥田直広っていう、僕の大学の後輩で、彼は今大阪で、様々な音楽活動をしている古い友達なんですが、大学時代から、彼は僕にいろんな音楽を教えてくれた人で、ペーパーの「5度」って曲でもギターを弾いてるんですけど、その彼とEmeraldの共作なんです。彼が書いた詩を読んだとき、PBLのことで傷つきながらも、新しい仲間と生きてる自分に、不思議としっくりきました。二人にしかわからない言葉がところどころ隠れてたりしてて。絶妙でしたね。
――なるほど、そういうことなんですね。ちなみに、今現在の中野くんの心境が一番反映されてる曲っていうと、どれになりますか?
中野 : 日々変わっていくんですけど……今は「Cryin’ Climbing」ですね。エスケーピズムとはかけ離れた曲で、現実の苦しみを真正面から感じながら、ちょっとでも気持ちを楽にしようぜっていう、とてもシンプルな曲なんです。「今日だけ笑って過ごそう」とか、こういう感覚はこのバンドじゃないと絶対出てこなかったと思いますね。
――周りから見ても、中野くんって変わりました?
磯野 : よく訊かれる質問ではあるんですけど、ずっと一緒にいるからあんまりわからないっていうのが正直なところで。しかも、僕らはペーパー時代の中野陽介を知らないし、別にそれを気にしてもいないんで。まあ、出会ったときと比べれば、考え方がしっかりしたと思いますけど、それはメンバーみんなそうで、自分たちの音楽を世に出すってなって、みんな成長したと思います。
中野 : 僕にとっての挑戦ってことで言うと、みんなでしっかり話し合ってものを作りたいっていうのがあって、誰かに引っ張られたり、抗えない何かに押し流されてものを作らなきゃいけないっていうのが、ペーパーのときの一番のストレスだったんです。でも、このバンドの人たちは、とにかくちゃんと話ができる人たちなんですよ。みんなで話し合うときのやり方も洗練されてて、何か起こるたびにちゃんと相手の立場を理解して、話して乗り越えていくんで、それはホントにすごいなって思ってて。そこからは当たり前のように影響を受けるので、僕は実際会う人会う人に「変わったね」って言われます。
――1番長く中野くんと一緒にいる藤井くんから見ていかがですか?
藤井 : 音楽を一緒にやるっていうのは、人生の一部を共有するわけですから、それだけの責任が伴うと思うんですね。それをやっていく上では、メンバーとしても友達としても、長い時間一緒にいるので、さらに磨いていってほしい部分っていうのが、嫌が応にも見えてくるんです。でも、中野陽介と一緒にやるっていうのはそういうことだし、それは逆もしかりで、お互いがそこをちゃんと認識してやっていくっていうことが、ある意味課題でもあって、そこは徐々に徐々にやっていくことだと思います。まあ…… 頑張ってください(笑)。
磯野 : 僕らも頑張らないとね。
藤井 : もちろん。人に言うってことは、自分に返ってくるからね。
――オッケーです。じゃあ、最後に中野くんに今後の展望について話してもらえますか?
中野 : 個人的なことになっちゃうんですけど…… しっかり歌えるようになりたいです(笑)。すごくシンプルなことに立ち返って、むしろそれだけ考えて生活したり、生きて行った方が、僕は幸せになれるのかもしれない。たとえ、どんなに荒れ狂った生活のときでも、マイクの前に立って、歌を伝えます、歌を残しますってなったときは、ちゃんとやれるように。それだけを考えていれば、このメンバーと一緒だったら、絶対いい音楽ができる自信はあります。
――音楽に対する意識も高いし、ちゃんと話ができる。すごくいいメンバーですよね。
中野 : あんまりドヤってしたくはないですけど…… 自慢の仲間です。
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PROFILE
Emerald
Emeraldは、中野陽介(Vo.Gt)、磯野好孝(Gt)、藤井智之(Ba.Cho)、中村龍人(Key)、高木陽(Dr)からなる5人組バンド。黒人音楽に影響されたグルーヴに伸びやかで艶のある歌声が乗るスタイル。誰もが自然と踊り出したくなるような軽快なサウンドから、緩やかで浮遊感のあるディープなバラード、タイトなグルーヴが癖になる曲など、様々な曲を幅広く演奏する。
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