音楽やバンドが好きというピュアな思いが響いている
──気合十分の2曲から “ゆ” でマイペースに戻る感じもいい。これは銭湯ソングですか? それともサウナ?
後藤潤(Gt.):銭湯です。この曲は僕が作らせていただきました。
──京都は銭湯多いですよね。
藤澤:最高っす。
後藤:最高っすね。僕ら全員銭湯好きで、京都にいたときもよく行ってたんですよ。ずっと「曲作りたいよね」とも言ってたんですけど、意外と難しくて(笑)。銭湯の曲って案外あったりするし。
藤澤:♪いい湯だな、に勝てないんだよね(笑)。
後藤:お湯に入ってるときの気持ちよさを歌った曲が多い中、これはどちらかというと出た後の感じを歌ってるんですよ。
──そこにオリジナリティがね。僕も銭湯大好きなんですけど、そもそも「ゆ」という字面がなんとも言えずいいですよね。
全員:ですよね~!
後藤:銭湯の暖簾って「ゆ」ってひと文字でっかく書かれてるじゃないですか。あのシンプルさがすごい面白いなと思って。
藤澤:湯けむりっぽく見えるしね、ひらがなの「ゆ」って。潤ちゃんの発明だよ。
──そこから “うわついた気持ち feat. 鎮座DOPENESS” へと自然につながるのもいい感じです。鎮座DOPENESSさんには『だいぶ気持ちいいね』(2012年)というアルバムもありますし。
藤澤:ライヴに出ていただいたときに打ち上げで話したのは、ヒップホップの人って怖いじゃないですか(笑)。鎮さんももちろん凄みはあるんですけど、その凄みの中に、浪漫革命に入れるようなポップさというか、かわいさを持ってらっしゃるなって。だから僕らはもちろん合うと思ってたし、絶対いつか共演したいと思ってたので、飛び上がるくらい喜びました。
藤本:僕が人生で初めて作った曲が “サマタイム” (『NEW ISLAND ROMANCE』に収録)で、2番を僕がラップしてるんですけど、あそこは本当は鎮さんにラップしてほしいと思って作ったんで、めちゃめちゃうれしかったです。ずっと大好きで、みんなにも勧めまくってたんで、いまも信じられないくらいうれしいです。
──鎮さんのどういうところが好きですか?
藤本:音楽はもちろんすごいんですけど、会ったときからステージまでずっと地続きな感じがするというか、ずっと臨場感があるというか。決まった歌詞のラップしてても、フリースタイルしてるかのような。それがすごいなって思います。
藤澤:呼吸をするようにラップしてる感じだよね。日常会話も全部ラップしてるみたいで、本当に地続きなんですよ。息を吐いて吸うように音楽やってるんだろうなって。
藤本:何度かやりとりをして完成したんですけど、僕らの演奏に鎮さんの声が乗って返ってきたときに、めちゃくちゃパワフルになるというか、雰囲気がガラッと変わって。
後藤:これも僕の曲ですけど、鎮さんとのやりとりは完全リモートで、ミーティングもそんなにしなかったんで、あんまりコンセプトも伝えてなかったんですよ。コロナ禍で人と会ったりしゃべったり遊んだりとかできなかったのが、ちょっとずつ解禁されて、「これからウキウキした気持ちでやっていきたいよね」みたいなことをざっくり考えてできた曲なんですけど、その部分を伝えてなかったのに補填してくださった感じで、感激しました。
藤澤:この曲で僕がいちばんやばいと思ってるのは、世界一かっこいい「チェケラ」が入ってるんですよ(笑)。チェケラ世界大会優勝。

── “シルビー” は大池さんが初めてリード・ヴォーカルをとった曲だそうですね。
大池:作詞作曲も僕がさせていただきました。弾き語りベースで、歌詞もほぼほぼ自分な感じで自然にできたんですけど、そういう曲が実はけっこう溜まってたんです。バンド内コンペ大会になると、みんな「自分の曲をしたい」ってだんだん言わなくなるんですよ(笑)。気を遣い合ったりして。このEPでもみんな決められなくなっちゃって、阿南さんたちに聴いてもらって、この曲が選ばれました。
──またしても第三者の目線が効果発揮ですね。
大池:そんときは次郎ヴォーカルのつもりで、スタジオでも何回か合わせたんですけど、「自分が歌うってなったら、歌詞がちょっと奏太くんすぎるから変えたい」って言い出して。
藤澤:これは本当に難しい問題なんですよ。潤くんは「変えていいっすよ」みたいなタイプなんで、けっこう変えさせてもらうんですけど、奏太くんとはそもそもの恋愛観がかけ離れてることが多くて(笑)。僕は “世界に君一人だけ” とか “君という天使” みたいに憧れっぽい感じなんで、あんな曲歌ってたのに「君はきっと帰ってくるよ俺の元へ」とか歌うの、俺けっこう厳しいんだけどな……って(笑)。なんとか歌えるように、物語チックにアレンジして「これならどうだろう」って提案して、「いや~でも……」「あぁ~まぁ……」とか、お互い気を遣い合いながら。
大池:そういう空気が流れてる中、スタジオに入ったときに阿南さんがポッとひとこと「これって奏太くんがヴォーカルしないの? 」みたいに言って、「あ! そのパターンあったんや」ってなって。
藤澤:僕もそう思うことはあるんですけど、僕が「奏太くんが歌ったらいいと思うけどな」と言うのは、なんか逃げてるように感じちゃうんですよ。
──「自分で歌うのがイヤだからそう言うんだろ」って、自分で自分につっこんでしまうわけですね。
大池:そうそう。「ちゃんと向き合えよ」みたいな。
藤澤:でも、第三者から「これは奏太くんが歌ったほうがいいよ」って言ってもらえるとね。しかもこんだけ入り込んでくれてて、コンセプトも全部わかってくれて、アレンジも一緒にやってくれてる人だから。
大池:「じゃあそうしましょう! 」みたいな。二人とも気持ちがめっちゃ楽になりました。
──阿南さんたちに感謝の一曲ですね、これは。
大池:たぶんそれがなかったらできてないですね。
藤澤:ボツになっちゃってたかもね。
──奏太さんのヴォーカルも素敵だと思いますよ。
藤澤:僕も奏太くんのヴォーカルはもともと好きなんです。あと彼が作るデモが、僕的にルーツ・ミュージックの要素が強くて。そういう曲を浪漫革命としてもっとやりたいんですけど、「でもやっぱ歌詞がちょっとイケメンすぎるな」みたいな(笑)。でも変えるとなると、奏太くんは歌詞の内容よりもメロはまり重視派だったりするから。
大池:そこをデモの段階でめちゃめちゃ決めてるタイプなんで、「うーん、そこを変えたらあそこも変えないと……」みたいになっちゃうんですよ。
藤澤:でも、この曲を収録できたことで可能性が広がったよね。これからまた奏太くん曲が出てもいいし、4人それぞれが歌っても面白いし。
大池:バンドの幅が広がった気がします。自分的にも曲作りへの向き合い方が変わってきそうですし。

──そして最後の “聴いて! ” ですが、「九月溢れ出した想いが / 上手く届けばいいな」というのは9月リリースにかけたフレーズですか?
藤澤:そうっす。これは僕が書いたんですけど、本当は “シルビー” までの5曲で出す予定だったんです。僕らはけっこう満足してたんですけど、マネージャーに「もう1曲、誰も聴いたことない曲がほしい」って言われて「何がいいすかね? 」って話してたら、そのころちょうどトヨタのタイアップに提供させてもらった曲が流れてて、いろんな界隈で好評だったんですよ。僕らにとっては、ああいうフォーク・ソングっぽい曲はけっこうすぐできちゃうんで、逆にあんまりチャレンジしないんですけど、裏を返せばめっちゃ浪漫革命っぽい曲ってことなのかもしれないね、って話になって。じゃあもう1曲そういう曲を作ろうってなったときに、今回のアルバムのために、メンバーのために書き下ろしをしてみようと思ったんです。9月リリースだから、何も考えずに「九月」って書いたんですけど、『Skyrocket Company』(Tokyo FM)のパワープレイに選んでいただけて、初オンエアのときに聴いたら「めっちゃ9月の曲じゃん! 」ってびっくりしました。「セプテンバー」でもよかったんじゃないかって。
大池:「セプテンバー」はイヤやな(笑)。
藤澤:僕らもアース・ウィンド&ファイアの「セプテンバー」も好きだし、RADWIMPSの「セプテンバーさん」もめっちゃ好きなんで、考えてみたら夏から秋になる9月の曲ってけっこう特別だよなって。ラスサビは最初なかったんですけど、「もうちょっとサビほしい」みたいに言われて考えてたときに、季節感をたぶん意識して「夏って一瞬で終わっちゃうよね。バンドと似てるよね」っていうエモーショナルな気分からすぐできて。僕からしたらこのEPのためだけの曲だし、おまけソングなんで、パワープレイに選ばれたって聞いたときは、うれしいけど意外だったんですよ。でも実際に聴いてみたらピッタリすぎて感動して「これは選ばれるわ! 」って(笑)。
──実は僕にとってもいちばん印象に残った曲です。
藤澤:このメンバーで本気でバンドやってきたからこそ生まれた感謝曲なんで、メンバーありがとうだし、音楽ありがとうだし、ファンの人にもありがとうですよね。僕の中ではボーナス・トラックに近いんですけど、アルバムとしては締まったなと思いました。
──「僕は音楽やバンドが大好きなんだ」という、自分がやっていること賛歌みたいな一節もグッときました。
藤澤:今回、親交のあるアーティストにコメントを書いてもらったんですけど、そのときにヤングスキニーのかやゆーくんから影響を受けてることに気づいたんですよ。岡山で対バンしたときに、元teto(現the dadadadys)のギターの山崎(陸)さんが見に来てくれて、一緒にお酒飲みながら見てたんです。で、「精神ロック」って曲かな。かやゆーくんが「バンドが好きで / 音楽が好きで」って歌ってるのを聴いて、「いいですね~」とか言いながら泣いちゃって(笑)。かやゆーくんって僕の中では世間のイメージと違って、本当にバンドとか音楽が好きでやってる人なんです。そのピュアな思いが届いてきたことが、いま思うとめっちゃ自分の中に響いてるんですよね。コメントお願いするときに「めっちゃかやゆーに影響受けてできた曲があるんだよ」みたいに話したら、彼も喜んでくれました。