うまくいかないと思ってた曲がバンドでハマったときは「よっしゃ!」って
──後藤さんにお礼を言いたいファンは多いと思います。続いて “Dummy Flower(27°C)”。この曲もわりと昔からある曲ですね。
福間 : はい、前のメンバーでの最後の音源です。今回収録するにあたって、全部撮り直しました。このレコーディングはおもしろかったよね。
後藤 : そもそも今回のアルバム全体で「ライブ感のある音源にしたい」という方向性があって。僕らのライブを観たことがある方ならわかってもらえると思うんですけど、ライブでは「ながいひゆ全集中」なんですよね。その熱量をそのまま封じ込めたいと思って、ながいさんの弾き語りに合わせてレコーディングしました。

福間 : スタジオでながいさんに弾き語りライブみたいな感じでまず歌ってもらって、それに演奏を合わせていくスタイルにしたんです。
ながい : テンポもリズムも気にせず、バンドに合わせることをまったく考えずに、自分の間の取り方で歌いました。その状態で合わせるのは、私の声を読まないとめちゃくちゃ難しいと思うんですよ。特に福間はクリックに合わせて叩くのが得意じゃないのに、バチバチに合わせてきてびっくりしました。本来、リズムを無視した歌に合わせて叩くのは、どんなに技術がある人でも難しいのに、難しいことの方が得意だったみたいです (笑)。
福間 : あとこの曲、ドラムの音がめちゃくちゃいいよね。Glimpse Group、Burgundy、Hedigan’s、LAIKA DAY DREAMなどでドラムを叩いている岳さん (大内 岳) がドラム・テックとして入ってくれて、最高にデッドな音を作ってくれました。
──大内さんとはどういったきっかけで?
ながい : Glimpse Groupと対バンしたとき、袖からライブを観ていて「このドラム、おかしい!」って衝撃を受けたんです。すごく華があって。そのあと、ライブで福間が出られないときがあって、ダメもとで岳さんにサポートをお願いしたんです。そしたら引き受けてくれて。福間もそのあと仲良くなったんだよね。
福間 : そう。岳さんは生き物みたいなドラムを叩くんですよね。ドラマーであるんだけど、ミュージシャンであってアーティストでもあるというか。僕、ドラマー同士ってうまく話せないことが多いんですけど、岳さんはスキルの話じゃない、もっと根っこの部分で会話できる人です。
ながい : 福間は岳さんのことが本当に好きだし、岳さんもバンドと福間にリスペクトを持ってくれていて、そういう人に頼んで本当によかったです。
──続いて “レイクサイドグッドバイ(27°C)“ はどうでしょうか。
ながい : この曲も私が主導で進めた曲ですが、最初に福間が送ってくれたコード進行がめちゃくちゃよくて。鼻歌でメロディーも入っていたんですけど、それはガン無視して (笑) 自分でメロディーをつけました。
──ちなみに、この曲の作詞には福間さんの名前もクレジットされていますが、どのように?
福間 : 僕はひたちなかの〈ROCK IN JAPAN FESTIVAL〉の、サウンド・オブ・フォレストからレイク・ステージにかけての森の道がすごく好きで、この曲はあのエリアのイメージなんです。
ながい : その情景はコード渡されたときに聞かされて、私も同じフェスに行っていたので、コードを聴いてすぐに全部を理解しました。歌詞にもその景色を書きました。
──いい話ですね。では続いて、“Daisy“ はいかがでしょう。
福間 : 最初にながいさんから届いた弾き語りが結構ダウナーだったんですよ。それをバンドでやったらおもしろいんじゃないかと思って、「2000年代っぽくて、遅めで激しい感じ」というイメージをメンバーに共有しました。アルバムの中では、いちばん練らずにスピーディにつくった曲ですね。
後藤 : ギター・ソロは僕の提案だということを言いたい (笑)。
藤本 : 開放弦を使ったんだよね。10代がテンション上がる感じのギター・ソロになりました。実はサビ裏のギターはスマッシング・パンプキンズの “Today“ をイメージしていて。メロディの裏で構成音が動く感じにしたくて、そのイメージで、Hammerっぽいニュアンスで弾きました。

──シンプルなのに、ものすごく沁みる曲でもありますよね。
ながい : これは珍しくバンドのことを意識して書いた曲なんです。普段は、日々の出来事や考えたことを書いていることが多くて、バンドを前提に曲をつくることはあまりないんですけど。“Daisy“ は、バンドをやっていたからこそ生まれた曲ですね。
福間 : ながいさんのルーツが出ていると思った。最初にデモを聴いたとき、「めっちゃYUIじゃん!」って思ったもん (笑)。
──“Gummi“ はどうでしょう。
後藤 : ながいさんが送ってくれた弾き語りのデモの中で、“Gummi“ は僕が特に気に入って、どうしてもバンドでやりたくてお願いしました。
ながい : 私も “Gummi“ はやりたかったけど、バンドではできないだろうなと思っていたんです。
後藤 : サビにはパンキッシュなリズムが合うと思っていて、コード進行もそういう雰囲気にしました。リファレンスはWeezerの “Say it Ain't So” を挙げていました。
福間 : あと、ヴァンパイア・ウィークエンドの “Capricorn” もだね。その2曲を混ぜ合わせたイメージで作ったらこうなった。
──ながいさんは、バンドでは難しいだろうと思っていた曲がうまくいったときはどんな気分ですか?
ながい : 「よっしゃ!」って感じです (笑)。私は歌詞とメロディを作るのは得意なんですけど、バンド・アレンジまでは想定できないんですよ。ギターを触っているうちにできた、みたいな曲が多くて、いつも「これ、なんとかなるかな……?」って思いながらメンバーに送っています。この曲は暗いし地味なので、立ち位置的にはリード曲にはならずにアルバムにそっと入っているような曲です。好きな人に聴いてもらえたらと思います。
──次は、“しんだことになりたい“ について。
ながい : これはかなり昔の曲なんですよね。21〜22歳の頃に作ったと思います。もともとバンドでやるつもりはなかったけど、福間がやろうと切り出してくれて。
福間 : 当時からずっと好きな曲だったんですよ。
ながい : 私は「若いな〜」って思っちゃって、正直あんまり乗り気ではなかったんですけど、いざバンド・サウンドにしてみたらすごくハマって、やってよかったなと思います。
──この曲は、歌い出しから引き込まれる印象があります。
ながい : タイトルだけ見ると暗く感じるかもしれないけど、私の中では明るい曲なんですよね。「死んだふりしちゃえばいいじゃん」っていう。
──死にたい曲ではないですもんね。
ながい : そうなんですよ。歌詞が暗いから、明るい曲調だと歌詞と合わなくて、かといって暗くすればいいわけでもなくて。その正解を導き出すのが難しかったですね。今振り返ると、ちゃんとハマるまで寝かせる必要がある曲だったんだなと思います。
▼『27°C』レコーディングの様子
写真 : 藤咲千明