Hammer Head Sharkが鳴らす、“孤独に触れる音” の真髄とは──ライブの熱が息づくファースト・アルバム『27°C』

いま、Hammer Head Sharkはめまぐるしい進化の途上にある。2018年、ながいひゆ (Vo/Gt) と福間晴彦 (Dr) を中心に結成した彼らは、メンバーの入れ替わりを経て、現メンバーは太平洋不知火楽団などのサポート経験を持つ後藤旭 (Ba)、自身のバンド・GLASGOWでも活動する藤本栄太 (Gt) という最強の布陣で構成されている。音源はもちろんのこと、とりわけライブに定評のある彼ら。その噂は波紋のように広まり、2024年10月にはカナダ各地を回るツアー〈Next Music From Tokyo〉に召集。さらに先日2025年6月に開催されたSiM主催のロックフェス〈DEAD POP FESTiVAL 2025〉では、オーディションを勝ち抜いての出演を果たすなど、国境やジャンルを越えて活動の範囲を広げている。音楽が居場所になることを願う──そんな大切な思いを、バンドというかけがえのない場所で、丁寧に音へと落とし込んでいく。その誠実な姿勢や、彼らの音楽の真髄に触れるインタビューをお届けする。
歌、詩、サウンド、どこを切り取っても “特別“ な響きを持つ一枚
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INTERVIEW : Hammer Head Shark

「ほんとうに凄いから観てほしい」。誰彼かまわずそう言いたくなるバンドやアーティストが稀に現れる。昨年の自分にとって、それがHammer Head Sharkだった。結成から7年。ずっと観てきたバンドだし、そう言われて「前に観たことあるなあ」と思った人も少なくないはずだ。だが、メンバーチェンジを経て現体制となった2022年以降、バンドは大きく変化した。その変化は、巷の音楽好きたちの想像をはるかに超えていた。バンドが「自分たち」を見つけるとは、まさにこういうことなのだろう。──それは、他のバンドにとってもきっと大きな励みになるはずだ。
結成7年目にしてリリースされたファースト・フルアルバム『27℃』は、新体制下で磨き上げられたバンドの現在の輝きを余すところなく詰め込んだ一作となった。Hammer Head Sharkの魅力は、ながいひゆの心を鷲掴みにする歌に加え、美麗でダイナミックなバンド・アンサンブルにある。前回のインタビューで語られた、曲ごとにアレンジの主導をとるメンバーが変わるという特徴。今回はその話をさらに掘り下げ、収録曲すべてについて、どのようにバンドで作り上げられたのかをきいた。再録に込めた意図、ライブ感を音源に落とし込むために採られた、ながいによるフリーテンポの弾き語りにバンド・パートを重ねる手法、一発録りで録音された曲など、そのすべてを、このアルバムとともに体験してほしい。
取材 : 高田敏弘
文 : 石川幸穂
写真 : 藤咲千明
音楽に対して期待しているのは「居場所になってくれること」
──〈DEAD POP FESTiVAL 2025〉はいかがでしたか?
福間晴彦 (Dr) (以下、福間) : 最高でした。ああいう音楽が今の自分を形成している部分も大きくて、憧れがあったんです。自分たちが今やっている音楽とはギャップを感じていたけど、ジャンルは関係ないんだと実感しました。
ながいひゆ (Vo/Gt) (以下、ながい) : 出られたら嬉しいけど、無理だろうなと思っていました。オーディション・ライブではトッパーで、お客さんがみんな棒立ちで、「これは絶対に落ちたな」って (笑)。でも個人的にはすごくいいライブができて、「これでダメなら別にいいや」と思っていたんです。だから発表のときに自分たちの名前が呼ばれて、びっくりしました。
──SiMのみなさんとはどんな話を?
福間 : MAHさんに「こんなバンドが日の目を浴びないのはおかしいと思った。どうにかしてあげたいと思った」って言われたのが本当に嬉しかったですね。


──それは私も常に思っています。さて、ファースト・フルアルバム『27°C』の制作はいつ頃から始めたのでしょう?
ながい : アルバムを作りたいとはずっと思っていて、実際に動き出したのは2025年の2月あたりですね。そもそも、カナダ (2024年10月〈Next Music From Tokyo〉) に持って行けるCDがなくて、そのために制作スケジュールを組んでいたんですが、アルバム制作もすべて自分たちだけでやっている自主制作なので、結果的には伸びちゃって。
──結成7年目での初アルバム。このタイミングになったのはどうしてでしょうか?
ながい : アルバムをゴールにしていたわけではなくて、曲もたくさんあるし、そろそろまとめたいな、という自然な流れの中でできました。なので、純度はかなり高いと思います。
──いろんな時期の曲が入っているにもかかわらず、アルバムとしての立ち姿が非常に明確な作品だと感じました。前回のインタビューでは、バンドでアレンジする際に曲ごとに主導するメンバーが異なると話されていました。本作の収録曲それぞれに、どのように完成に至ったのかを教えてください。まずは “名前を呼んで“ から。
ながい : この曲はもともと弾き語り用の曲としてやっていて、メロディもすごく気に入っていました。今のメンバーになる前から何度もバンドで挑戦していたんですけど、うまく落とし込めなくて。カナダから帰国したタイミングで、旭くん (後藤) がコードを変えてくれて、やっと完成しました。
──この曲の主導は後藤さんなんですね。
後藤旭 (Ba) (以下、後藤) : はい。この曲と “園“ にはカノンコード進行を使っていて、僕はこの進行がすごく好きなんです。でも、同じアルバム内で多用しすぎると差別化ができないと思って。試行錯誤しながらいろんな進行を当ててみて、ラスサビで一気に開く今の形にたどり着きました。
──歌詞の「此処だけはせめて / 安全な世界と思いたかったの」が印象的で、ライブでの「安心できる場所を作りたい」という、ながいさんのMCとも重なりました。昔からその思いはありましたか?
ながい : そうですね。私が音楽に対して期待していることが「居場所になってくれること」なんだろうなというのは最近気づいて。歌詞について説明するのは難しいんですけど、完成した曲を並べると、無意識のうちにそういう場所を作りたかったんだなと感じます。

──続いて “Blurred Summer(27℃)“ についてお聞きしますが、タイトルの後ろに「27℃」がついている曲は……?
福間 : 再録曲やリミックス曲です。
──この曲のアレンジの主導は?
福間 : コードは僕がつけました。当時スネイル・メイルにどっぷりハマっていて、その影響が強く出ている曲です。
──リミックスで意識した点は?
福間 : ボーカルを出し過ぎず、デッドな感じを意識しました。リミックスは凜太郎くん (松元 凜太郎)。「こっちのほうがかっこいい」というのをバンバン出してくれたので、ほとんど任せました。好きなものの感覚が一致していて、信頼できる人ですね。当初はアルバムの中盤あたりに入れる予定だったんですけど、仕上がりが良すぎて2曲目に持ってきました。

──藤本さんは前回のインタビューでこの曲を印象的な曲として挙げていましたよね。
藤本栄太 (Gt) (以下、藤本) : はい。Hammer Head Sharkを初めて聴いた人がディスコグラフィーをさかのぼったときに、「ここで一気に質感が変わった」と感じるんじゃないかと思っていて。メンバーが2人変わっているので当然ではあるんですが。「じわじわ溜めていって、どこかでカタルシスを爆発させる」という今のHammer Head Sharkのライブの流れを汲んでいる曲だと思います。
──次は “アトゥダラル僻地“ について。前回のインタビューでは、後藤さんの功績が大きいとのことでした。
福間 : 旭くんがいなかったら、たぶんボサノバみたいな曲になっていたと思います (笑)。
後藤 : もとの曲のコード進行はグランジやロックに通ずるものがあったので、そっちを活かす方向に伸ばしました。ちょうどその頃、SNSで見かけたジャズの記事で「パワーコードの自由さ」に関する話を読んで面白くて。コードを増やせば制限も増えるけど、パワーコードはシンプルだからこそ、他の音を足す自由度があるっていう内容だったんです。いろんなタイミングが重なって、パワーコードに着地しました。
──音源とライブで、かなり印象が違う曲ですよね。
福間 : ライブだとテンション上がりすぎちゃって、おかしくなっちゃうんですよ。すごく速くなるんですよね。
藤本 : デモの段階ではもっともっちゃりしていて、Pavementみたいだった。最後のCメロの変なギターリフも曲の雰囲気に合ってるなと思っていたんですけど、ライブでやるたびに速くなって……でも楽しいから、まあいいかって (笑)。
ながい : こういう、ライブで盛り上がる曲ができたのはバンドにとって大きいですね。