より予測できないことができるようになった
──新メンバーの現在について聞かせてください。空野青空さんはどんな感じでしょうか?
相沢 : 私の服についてたご飯粒を「大丈夫~?」って取ってくれます(笑)。加入するときから、この子はすごいがんばり屋さんで、あんまり頼ったりできなそうだなと思ったんですよ。ひとりでがんばってた子だから、チームでやったときにどうやったらいいか、わかんなくなっちゃうかなって。それが1年ぐらいですぐ泣いたり、今チームの中で安心して活動してもらえているなっていうのを見ると、なんかホッとしますね。アイドルって、ひとりでやってると、ロボット化してくじゃないですか。涙は見せない、弱みは見せないみたいな。自分がコントロールできない感情を表に出すっていうことに対して、ひとりで責任を持たなきゃいけないっていう意識が恐怖になるけど、フォローしてくれる人ができたことで、より予測できないことができるようになったというか。そこがすごく愛しいし、かわいいなって思って見てますね。
──愛川こずえさんと小鳩りあさんの元ENGAG.ING組はいかがでしょう?
相沢 : もちろん最初からすごく頼れるふたりだったっけど、急に成長したよね。
藤咲 : 成長した。3人で「チャペの泉 from でんぱ組.inc」をやらせてもらってますけど、特にりあちゃんがちょっとづつ変化してるところはよく見えていて。緊張しいというか、視野が広いので怖さとかって見えてるんですよね。だからこそ、あんまり動けないタイプだったけど、ツアーで独白を聞いて私たちも「そんなこと思ってたんだ」ってわかったのもでかかったし、それを言えたりあちゃんがまた一歩進んでしゃべるようになって。
相沢 : 毒舌な感じがすごくよくて、ぺろりんがボケすぎると「おい」って言ったり(笑)。いいキャラだし、めちゃくちゃロックですね、「ドキ+ワク=パレード!」のときに、私が「でんぱ組以外でやりたいことがなくて、でんぱ組がなくなったら死んじゃうかも」と言ったら「私も死んでもいいと思ってアイドルやってるんで。」みたいな感じのことをさらっと言ってくれて(笑)。
──天沢璃人さんはどうでしょう?
相沢 : りと君とりあちゃんと私って、楽屋でわちゃってしてるときに、「ふふふ」って笑ってられるタイプなんですよ。あんまりそこに加わらないけど、でも騒がしさを楽しめるみたいな。そういうところに入るのはちょっと苦手なんだけど、でもその空気が好きっていう感じの雰囲気で。
藤咲 : りとまるも、最初いろんな変化に耐えられるのかなって不安な要素もあったんですけど、ちゃんと自分で消化できるようになって、「まだちょっとなよっちぃ」みたいに自分で言ってるけど、去年と比べたら本当に強くなりましたね。
──そして、最後のひとり、高咲陽菜さんは?
相沢 : あの子は地が賢いので、すごく本当は大人なんですよね。その面がもっともっと磨かれて、子供なのに全然子供じゃない面白さがもっと育ったらいいなって私は思ってますね。歳が離れてるのに……(笑)、本当によくやってるなって思うのと、集中力もツアーをやる前と今では全然変わって、自分のことを俯瞰して見れる能力がすごく高まって。「自分はがんばってるようで全然がんばれてなかったのかもしれない、だからもっとがんばらなくちゃ」みたいなことを言ってて、みんなお母さんみたいに泣いて(笑)。
藤咲 : 加入当初のひなちゃんは、まるで自分を見てるようだったんですよね。当時できなかったこと、若さゆえに気づけなかったことに、ひなちゃんも直面していて、私がその通ってきた道を同じように歩ませたくないなって思ったんですよ。でも、彼女にもストーリーがあって、別に私が歩んできたことが全部正解ではないと思っているし、私たちのエゴは押しつけたくないなって思ったんですよね。子供になりきれない子供なんで、話してて「いや、それは違うよ!」みたいに、ちょっと喧嘩とかしたり(笑)。
でんぱ組.incの歴史がすごく深く刻まれてる
──いい関係ですね。そんな成長した新メンバーも加えて作ったアルバムの新曲群について聞かせてください。「ゆらめく空中戦」は、作詞がウ山あまねさん、作編曲がH ZETTRIO。H ZETT Mさんがソロで手がけた「おやすみポラリスさよならパラレルワールド」「太陽系観察中生命体」とも異なり、ラテンの香りがしますが、どう歌いこなしましたか?
相沢 : 私は歌いやすい音程ではあったんですけど、こういう曲調にしては高いかもって。DEMPARKっていうアミューズメント・パークがあるとしたら、この曲は鏡の館みたいな。あったかい曲なんだけど、奇妙で不気味さもあって、すごく面白いと思いました。
藤咲 : 以前はH ZETT Mさんだけだったんですけど、今回とH ZETTRIOさんが全員で書いてくださったからこそ、世界観をバーンって提示してくれたのかなと思っていて。私も声、高いチームなんですけど、でんぱにいると、高いと早いの基準がバグってきますね(笑)。
──リリック・ビデオが公開された、けんたあろはさん作詞作曲編曲の「MIKATAせずにはいられないっ!」は、まさに電波ソングですね。歌うだけでも大変そうです。
相沢 : 私、「一日ずっと」のところが、ぶっちゃけ歌詞と違うことを言ってるんですけど、採用されたんですよね。「一日中」って言ってるんですよ。言葉遊びじゃないけど、そういうのも面白さだなって。けんたあろはさんみたいに、でんぱと今まで一緒にやったことがなかったかたもきてくれたし、やっぱり今のメンバーだから噛み砕いてでんぱの曲として歌えるんだろうと感じますね。
藤咲 : ボカロ世代ですから、「わー、ここで王道きた!」みたいな。いつも「これ本当に歌ってるの?」って言われるんですけど、みんなでちゃんと歌えるようになりましたし。でんぱ組としては、イラストのみのリリック・ビデオは初めてだったので、ちょっと憧れでもあったんですよね。映像も、音ゲー要素が強くて、勝手にオタクとして盛りあがってました。
──「DNA」は作詞作曲がmekakusheさんで、歌人の木下龍也さんによるポエトリーもあります。ポエトリーと歌という構成は難しくありませんでしたか?
藤咲 : 私はすごい嬉しかったです、ポエトリーにずっと挑戦したくて。でんぱ組で本当に新境地だし。レコーディングも不思議でした、自分のペースでゆっくりしゃべって、それを後で切り取ってもらって合わせていくっていう感じだったんで、できあがったときに、「あ、こういう感じになるんだ」ってびっくりしました。
相沢 : 自分的にいちばん好きな世界観の作品だと思ってて。もともと菅野よう子さん、坂本真綾さん、あと声優さんの朗読がすごい好きだったので、そういうのに近い気持ちになって、イメージがスッと湧きました。ただ7分あるんで、ラジオパーソナリティ泣かせではあるんですけど、でもちょっとかけたいなって思っちゃうような曲に仕上がっているなって。私は言葉の中でも鋭い言葉をしゃべるところが多くて、「亀裂」とか。
藤咲 : 「ごく一部の命にしか配られていないみたいだ」のところ、めっちゃりさちゃんぽいと思って(笑)。
相沢 : すごく優しいので、その中でフィットするところを私がやらせてもらっているのかなとも思って、自分の役割がちゃんとあって嬉しかったですね。
──この「DNA」を、2022年6月11日のツアー東京公演で初披露したのはなぜでしょうか?
相沢 : できるかできないか、本当にギリギリまで協議したんです。
藤咲 : ポエトリーをライヴで披露するってのも初めてでしたし、できたてホヤホヤだったんだよね。でも、東京公演でもやりたいよねっていうのを話していたんで、「できないよ」って言うメンバーもいれば「がんばろうよ」みたいなメンバーもいて、とりあえず練習をしたら意外といけたみたいな。
相沢 : 1年半前だとできなかったよね、恥ずかしくなっちゃったりして。アルバム自体に、10人、9人、8人の状況の変化みたいなものが詰まっていて、でんぱ組の歴史がすごく深く刻まれてるんです。その中で「DNA」には「10色の電波を抱き止める」という歌詞があって。私、ねもちゃん(根本凪)の卒業式にお邪魔したんですけど、お姫様が月に帰っていくみたいな話で、「卒業のことも少しだけかかってたりするのかな?」みたいな。私はずっといて、いろんな人の卒業を経験してるから、「やっぱり自分たちが決断して卒業して行く強さを見送ってあげなきゃ」って思いと、「今日まであの子が悔やんでいたことはなかっただろうか、自分にもっとできたことがあったんじゃないか」とか、考えちゃうところもあって。そういう想いに、この歌詞が寄り添ってくれた部分はあるかもしれません。