2018年東京、僕らは今も遊び続ける──今里(STRUGGLE FOR PRIDE) × 谷ぐち順(LessThanTV)

圧倒的なサウンドとパフォーマンスで存在感を示し続けるバンド、STRUGGLE FOR PRIDE。2006年にリリースした1stアルバムから実に12年ぶりとなる2ndアルバム『WE STRUGGLE FOR ALL OUR PRIDE.』を完成させた。彼らのオリジナル楽曲はもちろん、EGO-WRAPPIN’の中納良恵をヴォーカルに迎えたベニー・シングスのカバー「MAKE A RAINBOW」や、過去作にも共演を果たしているカヒミ・カリィをヴォーカルに迎えたザ・ブルーザーズのカバー(原曲はビリー・ジョエル)「YOU MAY BE RIGHT」をはじめ、FEBB、BUSHMIND、小西康陽、杉村ルイ、OHAYO MOUNTAIN ROAD、DRUNK BIRDS、DJ HIGHSCHOOL、ECDといった彼らにしか集められないであろう多彩な客演陣が参加している。まさに2018年の東京を象徴する1枚。OTOTOYでは本リリースを記念し、彼らにとって初の音源『...Hold Fast Afflux』のリリースをはじめ、数多くの瞬間を共有してきた谷ぐち順(LessThanTV)を招き、ヴォーカルである今里との対談を掲載! 貴重なエピソードの数々はもちろん、過去の貴重なフライヤーも! 必読です!
12年ぶり、待望となる2ndアルバム!!
※CD版に収録されております「RECORDED AT THE ON AIR WEST SHIBUYA TOKYO ON THE 6TH AUGUST,2017 feat.ECD 」の配信はございません。ご了承ください。
INTERVIEW : 今里(SFP) × 谷ぐち順(LessThanTV)
2017年8月6日、この日が最後のステージとなったECDのシャウトアウトで始まったSTRUGGLE FOR PRIDEのステージを、自分はO-WESTの2階から見つめていた。ギター・ノイズが空間を支配し、狂乱と共にうねっていくフロア。1stアルバム『YOU BARK WE BITE』がリリースされた当時やそれ以前、以降をリアルタイムで体験することが出来なかった自分にとって、この日が決して忘れられない1日になったのは間違いない。そこから約1年近くが経ち、ついにリリースされた2ndアルバムにはこの日の音源が収録された。対談の中で語られた、この音源をめぐる出来事はほんの偶然だったのか、それとも必然だったのか。大きく変動していく時代の中、アルバム・タイトル『WE STRUGGLE FOR ALL OUR PRIDE.』を胸に刻んで僕らは前へと進んでいく。
インタヴュー、構成 : 高木理太
写真 : 浦将志
フライヤー画像提供 : カサイタカヒロ
呼ばれているライヴにひたすら無理やりぶっこんでくれた
──おふたりのお付き合いはだいぶ長いと思うのですが、谷ぐちさんが最初にストラグルを見たときのこととか覚えてますか?
谷ぐち : もともとは河南(U.G MAN)さんづたいで、今里くん自体の存在は知ってたんだけど、その今里くんがバンドをはじめたって聞いてすごい興味を持って。その後、ストラグルの企画にライヴに誘ってもらったんだよね。多分渋谷のギグアンティック。
今里 : 多分それが生まれて初めての企画ですね。

谷ぐち : ライヴを観たときは「例えようのないハードコア・バンドだ!」というのが、ものすごい印象としてあって。グッチンのギターはいまほどはノイジーでは無かったよね?
今里 : そうですね。ああいう感じではありましたけど。
谷ぐち : ライヴを観て、ノリさん(LIFE etc.)と大騒ぎした記憶があるな。
今里 : そのときにすごく褒めてくれて、舞い上がりましたね(笑)。
谷ぐち : それ以降、活動はガンガンやってったっけ?
今里 : あの後にもう1回だけ、もう誰がやってたのか覚えてない企画に出て… その後はライヴが入らなかったんですよね。で、そのギグアンティックの企画のときに373くんが来てくれてて。横浜FADでやった第1回目の〈NO COMPLY〉に誘ってくれて。
谷ぐち : あ、あれ〈NO COMPLY〉の1回目?
今里 : そのときのイベント、ひたすらスケボーしてた記憶しかなくて。最近わかったんですけど、あのときのイベント、平日の開催だったんらしいんですよ(笑)。
谷ぐち : あれ平日だったの?

今里 : 平日の真昼間によくみんな集まってたなって(笑)。ひたすらスケボーで、ライヴの記憶が全くないっすもん。
谷ぐち : あの時1(one)出てたよね?
今里 : あの日はEYヨさんが来てなかったらしいんですよ。それで河南さんが代わりにヴォーカルをやって。その後はU.G MANが呼ばれているライヴに(SFPを)ひたすら無理やりぶっこんでくれたんですよ。
谷ぐち : 無理やりではなかったと思うよ(笑)。あとは最初に新宿のリキッドでやった〈METEO NIGHT〉(1999年5月開催)にも出てくれたよね。あのときは俺骨折してて。多分WE ARE THE WORLDのツアーで大阪行く前日に、中野でみんなでスケートをしてて。そしたら今里くんが負傷したじゃん? 機材車があったから今里くんを病院に運んで、俺はスケボーでダウンヒルして追っかけていったの。そしたら途中で舗装が途切れてるとこに気付かなくてそのまま突っ込んじゃって。何メートルも飛んで肩から落ちてめちゃくちゃ痛いなと思ったんだけど、今里くんが大変だと思ったから、そのまま病院に向かって。
今里 : 結局は俺はその病院でレントゲンを撮って、痛み止め飲むだけで済んだんですけど、谷ぐちくんはばっちり骨折れちゃってて(笑)。あ、そういえば最初の〈METEO NIGHT〉なんですけど、最初はライヴのお誘いでは無くて井手(ZK records主宰)さんにギターウルフのライヴのセキュリティをやってくれって言われたんですよ。でも谷ぐちくんとかが強力にプッシュしてくださって、(SFPとして)出れることになるという。

谷ぐち : 俺、その経緯知らなかった。だからかな? あのとき今里くんが「なんか揉めごとがあったら納めますんで」って言ってたんだよ(笑)。
ECDの楽曲の中で一番可愛い曲
──それが2000年前後だと思うですけど、その頃、西荻のワッツですごい数のライヴをやってたってイメージなんですけど、実際そうだったんですか?
谷ぐち : 確かにワッツでよくやってた。でもワッツって最初の頃、ブルースのセッションとかのイベントがほとんどで、パンクとかハードコアのライヴはやってなかったんだよね。
今里 : 当時みんな西荻に住んでたから、ワッツでライヴに出たあとは1週間ぐらい家に帰らないでずっと遊んでもらってたっすね。あとは同じ頃、GOD'S GUTSとMAN WOMANのツアーも連れてってもらったし。
──それはストラグルではなく今里さんおひとりで?
今里 : そうですね。秋田とか仙台に行って、その後、北海道に行って帰ってきたと思うんですけど、ハイエースで移動してて多分秋田のあたりかな? 高速降りるちょっと前に周り一面が霧で覆われて。そしたらそこに朝日が出てきてまわり一面が、朝焼けでものすごい色になって。当時JESUS FEVERが流行ってて、みんなずっと聴いてたじゃないですか。それを聴きながら、その光景のなかを走っていて、オヤナギさんが隣にいて「これはなんて色に形容すればいいんですかね」って聞いたら、即答で「マンダリンじゃない?」って言って(笑)。マンダリンって人が声で発してるのを初めて聞いたのと、あの景色とJESUS FEVERで「俺今すごいサイケデリックな中にいる」と思って(笑)。
谷ぐち : そして、その後、友達の家で早朝に大量のきりたんぽ鍋を食べたのは覚えてる(笑)。
今里 : ひたすらあの時もスケートしてましたね(笑)。そのツアーについて行って、初めて北海道に行ったんですけど、それがすごく楽しくて。俺多分札幌行ったの今までで2回だと思うんですけど、どっちも谷ぐちくんとですね。
谷ぐち : あ、そうなんだ。今回アルバム出したし、また札幌も行けばいいのに。一緒に行く?
今里 : ぜひ(笑)。全然関係ないんですけど、2回目に札幌行った時に連れてってもらったラーメン屋さんが、世界で一番美味しいラーメン屋さんだと思ってて。少し前にどこのお店か聞きましたよね?

谷ぐち : そうそう。でも今はもう営業してないの。ラーメン屋も結構変わっちゃってて。
今里 : あれ食べてからしばらく家でラーメン作る時、自分で追加の味噌入れてましたから(笑)。
──ストラグルは過去に〈Less Than TV〉からSCREWITHIN、MERZBOWとのスプリット、あとはコンピ『友達以上・恋人未満・TV以下』に参加してますよね。特にSCREWITHINとのスプリットってあれが初めての作品だと思うんですけど、その時のことって覚えてますか?
今里 : すごく簡単に谷ぐちくんとノリさんと鵜沢くん(SCREWITHIN etc.)が「(SFPの作品を)出そう」って言ってくれたのは覚えてます。簡単に言われすぎて「本当かな?」みたいな。
──初めてのレコーディングはどんな感じでした?
今里 : なにもわかんなかったし、気負いすぎてましたね。
──当時は「ついにストラグルが音源を出した!」って感じだったんですか?
谷ぐち : うん、そうだったと思うよ。
今里 : 全然違います。「こいつら誰だ?」みたいな(笑)。
谷ぐち : いや、それをいうならスプリットのふたつのバンドとも「誰だろう?」だったかも。でもあのスプリットはすごい好きな音源。
──個人的にはレスザンからの『友達以上・恋人未満・TV以下』(2004年リリース)も印象的なコンピです。
今里 : あのコンピ、意外とバック・グラウンドありますよね。
谷ぐち : コンピの石田さん(ECD)の曲(「下北LOVE」)もすごいんだよね。音源が来たときちょっと戸惑ったもん(笑)。

今里 : この前石田さんが亡くなったあとに追悼のラジオをやらせていただいて。その時に石田さんの音源を全部聴き返したんですよ。「そういえばあのコンピにも1曲入ってたな」と思って聴いたんですけど、全く同じ感想を抱きました(笑)。
谷ぐち : この前レスザンで写真集を出したんだけど、石田さんがコメントでこの曲にも触れてて。あの曲がECDの楽曲の中で一番可愛い曲って書いてたんだよね。可愛いかって言われるとなんとも言えないんだけど(笑)。
今里 : …まあ主観ですからね(笑)。
安定したライヴになりようがない
──(笑)。続いて、谷ぐちさんに今回の新作『WE STRUGGLLE FOR ALL OUR PRIDE.』を聴いた感想をお聞きしたいんですが、今作を聴いてみてどうでした?
谷ぐち : 前作もそうなんだけど、今作は特にこの作品がどういうコンセプトで作られたものか、なんて野暮なことを考えるまでもなく、「これこそがSTRUGGLE FOR PRIDEのアルバムだ」って誰もが思うよね。このアルバムの作りでそう思わせるってすごくない? あと、オレが言うまでもないんだけどバンドとしてのストラグルがやっぱすごくて。例えばグッチンのギター。聴くと必ず鳥肌が保証されてるでしょ。あの音はなかなか出ない。ハードコア・バンドであんなスタイルのギターなんてまずいないし。あとはリフね。あんな怖いリフよく思いつくなって(笑)。あとはヤンクンのベース、オレはストラグルのサウンドの肝だと思ってて。プレイにしろ音作りにしろ、とにかく個性的。今叩いている陽くんもそうだけど、歴代のドラムもみんな癖のあるドラマーしかいないよね(笑)。それからヴォーカルに関してはね…… ハードコアの人は戸惑うとこも多いみたい。「もったいない」っていう意見もあったみたいだし。まあ、やることが極端だよね(笑)。

──なるほど。
谷ぐち : ヴォーカルが小さいよ絶対(笑)。でも、聴こえなくて成立してるみたいな。
今里 : 最高にうれしいです(笑)。
谷ぐち : なにが起きるかわからない、危険というのもあるけど(笑)、そういうのじゃなくてどんなことになるのかわからないスリルみたいな。めちゃくちゃ音のバランスが悪くてなに演ってるかわからないまま終わったっていうのもあったし(笑)。でも結果的にはやっぱりすごかったみたいな。それがストラグルの好きなところなんだよね。安定したライヴになりようがないんだよ、あの音作りじゃ。
一同 : (笑)
谷ぐち : この前クアトロでDMBQとやった時もエノッキー(Jackie & The Cedrics)とかセイジさん(ギターウルフ)が、ストラグルを観て「昔、新宿ロフトにハードコアのライヴを観に行ってたときの緊張感を思い出した」て言ってたみたい。あと、やっぱり印象的なライヴは1stのレコ発かな。あの時は「現実にこういうことが起こるんだ」と思って。例えばビデオで観て憧れてたニューヨークやDCなんかのハードコアのシーンが、まったく新しい形で目の前現れたんだって本当に感動して。徹底した活動への想いとかサウンド、言葉にするとあれだけどユニティ、フレンドシップ、もちろんそういったものが積み重なって凝縮されて出来てるとは思うんだけど。さあ、ライブが始まるぞってときにグッチンがマーシャルのスイッチ入れたんだけど、そのときに出る「サー」っていうノイズで会場が揺れるくらい盛り上がって。あの瞬間はいま思い出しても鳥肌が立つ。今回のアルバムに入ってる〈METEO NIGHT〉の音源も本当にいいね(CD版ディスク2に収録)。

どうしようと思ってたら、谷ぐちくんにばったりすれ違った
今里 : あれは…… 奇跡が起こったんです(笑)。
谷ぐち : 最初にSNS上でアルバムのインフォを見た時に「〈METEO NIGHT〉のライヴ盤との2枚組」って書いてあって「えー、あの時、録音してたんだ、意外」と思って。
今里 : もともとライヴ盤を入れることは決めていて、他にもTHREEとかでけっこう録ってたんですよ。
谷ぐち : そうだったんだ。
今里 : なんでかというと、谷ぐちくんがすごい前に「壮大なアルバムと、あとライヴ盤を作ろう」と言ってて(笑)。でも、それまでに録音してたやつは聴いていて恥ずかしくなっちゃうような感じだったんですよ。それで〈METEO NIGHT〉の音源を入れようって決めたんですけど、肝心の音がインフォを発表した段階ではまだ見つかってなくて。ちょうどインフォを発表した日にどうしようと思ってたら、下北の駅のエスカレーターで谷ぐちくんにばったりすれ違ったという(笑)。しかもまさにそのライヴ音源に関しての話で電話をしてて。「ちょっとすみません!」って電話の相手の人に待って貰って。

谷ぐち : え? その電話だったの?(笑)
今里 : そこで「谷ぐちくん実は!」って(笑)。もともと大石(大石規湖:レスザンTVのドキュメンタリー映画『MOTHER FUCKER』監督)さんが映像として残してたのは知ってたから、それで谷ぐちくんに連絡してもらって、その映像の音源を使わせてもらってギリギリ間に合ったという。
谷ぐち : ギリギリというか間に合ってないから。発表されちゃってるから(笑)。
一同 : (笑)
──〈METEO NIGHT〉は、谷ぐちさんは出番的にかなりバタバタしてたと思うんですけど、あの日のライヴはちゃんと見れたんですか?
谷ぐち : みれたみれた。
今里 : 実はあれ、谷ぐちくんの声が入ってるんですよ。
谷ぐち : え、そうなの?

今里 : 谷ぐちくんが「もっと音上げて」って言ってるのが入ってるんですよ。
谷ぐち : あれ俺かなあ?
今里 : みんなで検証したんですけど、谷ぐちくんすね。
谷ぐち : じゃあクレジット入れて欲しかったな(笑)。
今里 : もちろんクレジットは入ってます(笑)。
──まだまだ色々伺いたいところなんですが、最後にこの機会に何か話しておきたいことがあればぜひ。
今里 : バンドというものに対してなにも知らない僕らをライヴに誘ってくれたこと。お金とか全く持ってないけど遊びにいこうってツアーに連れてってもらって、自分たちのギャラでご飯とか全部ご馳走してくれたこと。いろんな体験やいろんな場所に連れていってくれて、その間にスケートしたりレコードを出そうって話したりとか。谷ぐちくんは、何十年単位でひたすら遊び続けてくれて、フックアップし続けてくれてるってすごいことだなって。本当にいろんなことがあったんで、すごく感謝してます。ちょっとロング・ストーリーすぎて上手くひとことじゃ言えないですけどね(笑)。

PROFILE
STRUGGLE FOR PRIDE
1993年結成のハードコア・パンク・バンド。メンバーはヴォーカルの今里、ギターのグッチン、ベースのヤンクン、ドラムの陽。2006年に初のアルバム『YOU BARK WE BITE』を、2009年にEP『CUT YOUR THROAT.』をリリース。その楽曲に、カヒミ・カリィ、NIPPS、STARRBURSTらをフィーチャーしながら、ハードコア・パンク本来の実験的かつフリーフォームな表現を継承した先鋭的な音楽性は、ハードコアのみならず、ヒップホップ、レゲエ、エレクトロニック・ミュージックなど、進化、多様化する東京のアンダーグラウンドにあって、際立った存在感を放っている。