全力で遊んだからこそ生まれた「やみよのさくせい」──Hei Tanaka × 岡崎隼(ロンリー)
SAKEROCKのベーシストだった田中馨を中心に結成された6人組バンド、Hei Tanakaが初のフル・アルバム『ぼ〜ん』を〈カクバリズム〉よりリリース。メンバーに池田俊彦(T.V.NOT JANUARY)、牧野容也(小鳥美術館)、サトゥー(SATETO)、黒須遊(RIDDIMATES)、あだち麗三郎といった曲者たちが集まって生まれた今作。歌ものとインストが入り混り、オルタナティヴでありながらポップ、笑って泣けて踊って歌える、素晴らしい作品となっております。OTOTOYでは田中馨と池田俊彦、あだち麗三郎の3人に加えて、アルバムにゲスト参加している岡山のパンク・バンド、ロンリーのヴォーカリストである岡崎隼も交え、バンド結成からアルバムのレコーディングについて、ゲスト参加曲である「やみよのさくせい」誕生秘話などたっぷりと話を聞きました。
〈カクバリズム〉からリリースとなる初アルバム!!
INTERVIEW : Hei Tanaka × 岡崎隼(ロンリー)
大人になると、今日が終わらなければいいのにと思えるような1日はそんなに多くない。〈カクバリズム〉から最初のリリースとなった7インチにも収録され、初のフル・アルバムとなる『ぼ〜ん』では冒頭を飾る楽曲「やみよのさくせい」は岡山であった、そんな最高の1日がきっかけで完成した曲だという。そんな1日を作りあげたキーパーソン、ロンリーの岡崎隼も参加しているこの曲は一体どうして“ぼ〜ん”したのか気になる…。そんな気持ちを確かめるべく行なった今回のインタビュー、読めばその日を体験していないあなたも少しだけその場にいたかと思えるような、そして「やみよのさくせい」、『ぼ〜ん』という作品がより魅力的に聴こえてくるはず。
インタビュー&文 : 高木理太
編集補助 : 千田祥子
写真 : 作永裕範
Hei Tanakaの誕生〜レコーディングについて
──まずはHei Tanakaのはじまり、6人が集まるまでをお聞きしていいですか?
田中馨(ベース/以下、田中) : 最初は仲原(達彦)くん(カクバリズム)に「田中さんはソロをやったほうがいいですよ」って言われたのがきっかけで、池ちゃん(池田俊彦)と今回のアルバムのジャケットを描いてくれたシャンソンシゲル(GELLERS)の3人で始めたんです。そこから活動を一回お休みする期間を経て、3人という編成に捉われずに何をやりたいか考えたうえで改めて動き出すときにサックス3人とギターを入れて。池ちゃんが残っちゃたもんだから、結果的にシャンソンシゲルが切られたみたいに見えるけど、そういうわけではなくて(笑)。
あだち麗三郎(サックス/以下、あだち) : デザインのほうにね。
田中 : そう、部署が変わった(笑)。だから6人という編成になってからは新しいバンドを始めたという感覚があって。それが2016年ごろです。
──サックスを3人集めた理由は?
田中 : そもそもサックスが管楽器の中で好みではなくて。好みじゃない楽器に囲まれて好みにしたいなっていう気持ちと、サックスという楽器での表現に関して無知だけどトライしてみたくて。好みの楽器の音があるとその音を求めてしまいそうな気がするんですけど、元々好きじゃないから一緒におもしろい音を探せたらいいなと。本当はサックスが10人くらいいるバンドにしたかったんですけど、それはできなかったですね(笑)。
──Hei Tanakaのみなさんって全員が他のバンドをやっていてキャリアもあるのに、高校生のようなフレッシュさを感じます。この空気感は一体どこから来ているんでしょうか?
あだち : これはなぜなのか不思議なんだよね。今まで色々作品を作ってきたけれど、人生初のアルバムを出す気持ちになってるんですよ。30代後半で(笑)。みんな割とこの感覚あるよね?
田中 : そうなんだよね。最初は音源を作ることは全く考えてなくて、ライヴをするために集まってもらったんですけど、6人でどういうライヴをしたらいいか、自分たちがHei Tanakaとして気持ちいいものを探していたらだんだんとみんなの楽しいポイントが共有され始めて今の空気感になったというか。
──ということは、今回その空気感がいちばんいい形でアルバムになったわけですね。
田中 : みんなのアイデアや感覚に助けてもらった結果ですね。
あだち : 最初はひとりで作る予定だったもんね。
田中 : そうなんです。音源は僕ひとりで作って、この6人ではライヴという土俵で出し切りたいという気持ちがあった。バンドで音源を作ろうっていう感覚で音を構築することが僕の中で最初はうまくいかなくて。6人でこれをどうパッケージにしようかという悩みもあったし、ひとりで作ってみたいなという気持ちもあったんですけど、活動していく中でバンドになった感じがした瞬間に音源を6人で作るって決心しました。
──レコーディングはいかがでしたか?
あだち : 録ってる間、アルバムの全体像が誰も見えてなくて。
田中 : 僕も見えてなかったからね。
あだち : もしかしたらインストだけのアルバムになっていたかもしれないぐらい迷走してましたね、最初は。
池田俊彦(ドラム/以下、池田) : だけどレコーディングを山梨の小渕沢のスタジオで合宿形式で行うこと自体はすごく楽しかったよね。
田中 : 僕も含めて着地点が見えないまま進めてるから、合宿ってのはすごい良くて。一歩進んだのかそれとも下がったのかわからないけど、そうやって試行錯誤しながら作ることができるってすごい贅沢だなと思いつつ、こういう風に作りたかったって気持ちもありましたね。
あだち : 一番贅沢だよね。
田中 : 物を作る人にとってこういう時間が必要なんじゃないかなって思っていて。一人が頭の中で膨らませて、そこの道筋に向かうっていうやり方もあるけど、もっと根本的に何かが立ち上がる瞬間って何日も顔を付き合わせてああだこうだ言いながらギリギリまでやりあわないとその何かは立ち上がらないんだなって。
──先ほどあだちさんがおっしゃっていた人生初のアルバムを作った感っていうのがわかる気がします。
あだち : 道筋が見えないで作りはじめるなんて、今なかなかやってる人いないと思うんです。時間とお金もすごいかかるし。でもそうやって作ったものってすごい血肉の通う感じがしていて。だからいい作品が出来たかなって思います。
「やみよのさくせい」が生まれた一夜
──なるほど。ここからは岡崎(隼)さん(ロンリー)にもお話を聞いていきたいと思うんですが、MVにもなっている「やみよのさくさい」にヴォーカルで参加されています。そもそもHei Tanakaとロンリーの出会いはいつだったのでしょうか。
岡崎隼(以下、岡崎) : 池ちゃんがやっているT.V.NOT JANUARYとロンリーでよくライヴが一緒になって。そのときに池ちゃんが「いまドラムで入っているバンドもかっこいいよ」って言ってて、YouTubeで動画をみたらめちゃくちゃかっこよくて。これは絶対企画に呼んで対バンしたいと思ったのがきっかけですね。
田中 : それでロンリーに呼んでもらって、2016年の7月に岡山ペパーランドで開催された企画の名前が〈やみよのさくせい〉だったんです。
──その日の一夜がこうして曲のタイトルになった?
田中 : 最高の夜でしたね。うまく言葉にできないんですけど、目に映るもの全てがよくて。その日岡崎くんは喉が枯れていたんですけど、ライヴが終わったあとに「今日は歌えてなかった、来る人はその日限りのものをみているんだから、ベストを保たないとダメだよ」ってライヴハウスのPAさんがめちゃくちゃ正論で怒ってたりとか(笑)。
一同 : (笑)
田中 : 愛があって怒られて反省してるっていう景色。これはあくまで一コマにすぎないんですけど、いつだってライヴをするときは一番になって最高の場所にしたいという演者の熱量をお客さんも汲み取っているっていう謎のエネルギーに満ちてましたね。
池田 : それにほだされてなのか、自分たちのライヴの時にサトゥーがサックスを持ってダイヴしたりとかね(笑)。
田中 : あったね(笑)。あとは僕の高校の後輩が来てくれて、そいつも高揚しちゃってベロンベロンに酔っ払ってステージに上がって俺に酒を飲ませようとしてひどい感じになっていて、見るに見かねたおっさん(ロンリー)が外に投げ捨てた事件もあったり(笑)。
──(笑)。岡崎さん目線で見たこの日の夜はどうでしたか?
岡崎 : リハの時からみんなで馨さんが持ってきたカードゲームをしたり、ライヴというかみんなで遊んでいる感じが結果としてバチッとはまったというか。それがまさか歌にしてもらえるとは思ってなかったし、いまもこうやって一緒に何かできるのもすごい不思議ですね。
田中 : あの日はDJにやけのはらと思い出野郎Aチームの2人(高橋一、松下源)も。
岡崎 : 岡山からはKEITA SANOとSHIZKA、あとはイベントの2日前に伴瀬朝彦さんが出てくれることが急遽決まったのも最高でしたね。
田中 : 盛り沢山だったねえ。
岡崎 : ライヴ中もジャンルとか関係なしにみんなめちゃくちゃになっていた気がしてて。最後のほうは酔っ払ってて何も覚えてないけど。
一同 : (笑)
田中 : イベントの時はただただ全力で遊んでるような雰囲気があったよね。ロンリーとはその時が初めての対バンで話をするのも初めてだったんですけど、次の年の正月に岡山に遊びに行っちゃいましたからね。なんかめちゃくちゃ遊びたくなっちゃって(笑)。
──そうした思い出がこの曲に繋がってるわけですね。
田中 : 実はこの曲はその日があってゼロから作りはじめたわけではなくて、自分の中で作っていたものにその日がピースとしてぴったりはまって出来上がったものなんです。僕が悶々と考えていたところに、ポンっと〈やみよのさくせい〉というイベントが光を照らしてくれた。だからこの言葉を曲名として使わせてくださいとロンリーに頼んで、この曲が出来上がりました。
お互いが考える、それぞれの魅力
──Hei Tanakaのみなさんからみた岡崎さんの魅力ってどんなところですか?
田中 : 岡崎くんの言葉や歌、ロンリーというバンドをやっていることもそうだけど、大事なものをしっかり持っていてそれが全然ブレない。そしてその強さにみている人たちも共感させてもらえる。自分もそんな気持ちになったことがあるなあということを普通のテンションとして歌っていたり垣間見れるのが最高だなと思います。そういう魔法がある人ですね。あれ… 聞こえてる(笑)?
(返答がなかったため、Skypeの不具合を疑う一同)
岡崎 : 聞こえてます、聞こえてます(笑)。
池田 : 年上なのでこんな言い方をしたら失礼かもしれないけど、素直な人。そこが好きですね。
田中 : 岡崎くん聞こえた?
岡崎 : すみません、今度は聞こえなかったです…。
一同 : (笑)。
あだち : MVの演技が上手なんですよ。車に轢かれるシーンの撮影も何テイクもしていたんですけど、傍からみていて演技の熱があって面白かったですね。
田中 : MVは僕がだらしないのがいけないんですけど、どんなものを作るかっていうのをほぼ伝えずに、岡崎くんには東京にきてもらっちゃって。
池田 : え、そうだったの(笑)!?
田中 : それで車に轢かれたり血を出したり。
岡崎 : 大関(泰幸)さん(「やみよのさくせい」のMVを担当)に車に轢かれるって聞いてる? って言われて、聞いてないですみたいな(笑)。
池田 : ほんとの事故だったんだ(笑)。
田中 : すごい一生懸命取り組んでくれて。なかなかできないですよ、車に轢かれて倒れるっていう動き(笑)。
池田 : 岡崎くんの場面はさ、タイミングとか要求されることがメンバーより高かったから、突然呼ばれてやったのすごいよね。
岡崎 : でもめちゃくちゃ楽しかったですよ。ずっとワクワクしてましたね、血糊とかも生まれ初めてだったし。
──岡崎さんから見たHei Tanakaってどんなバンドですか?
岡崎 : 最初にYouTubeで見た渋谷のWWWのライヴでみんなが歌いながら出てくる動画があるんですけど、あれを見たときに得体の知れないエネルギーのようなものを感じて。自分の中では得体が知れなくてエネルギッシュなものってパンクだなって思ってて、いわゆるパンクっぽいパンク・サウンドじゃないかもしれないけど、これがパンクだみたいなのを感じることができるのが、好きなところかもしれないですね。あとは実際ライヴに出てもらったり、他の場所で自分がライヴを見たりしていくうちに馨さんの歌がわかりすぎるようになってきたというか(笑)。自分のバンドは単純なことしかやってなかったんで、自分では絶対できないような世界観なんだけど核みたいなものは自分と近いのかなって思ったり。
田中 : ありがとう、めちゃくちゃ嬉しい(笑)。
岡崎 : アルバムも好きな曲とか歌詞がめちゃくちゃいっぱいあります。
──ちなみにどの曲ですか?
岡崎 : 「ミツバチ」の歌詞で「嘘っぱちの人生だったなんて 死ぬ前に笑ってる」ってところがあるじゃないですか。なんでそこが好きなのかとかわかってないんですけど、メロディと歌詞の感じがすごい好きで。ずっと頭の中で流れてますね。あとは「goodfriends」も。Hei Tanakaがこれやるんだみたいな、そういう驚きもあったりするし。他に何があったかな…
田中 : まだ出してくれるの(笑)?
岡崎 : あと「意味はない」で急に“和テイスト”になるところがあるじゃないですか。あれめちゃくちゃ好きで。「やみよのさくせい」の歌録りの時にその曲の録音を確認してたんですけど、スタジオで流れた時にめちゃくちゃびっくりして。これはやばいことにしかなってないぞって。
田中 : 和テイスト(笑)。岡崎くんが言葉をほめてくれましたけど、「ミツバチ」っていう曲は“音楽”として入れるか入れないかっていうのをすごい迷ったんですけれど、この曲は“言葉”としてこのアルバムに入れたいなって。だからそれをこの曲で感じ取ってくれたのはすごいうれしい。
岡崎 : Hei Tanakaの曲はある特定の歌詞がすごい頭の中で反芻して出てくることが結構あって、「アイムジャクソン」は暗いイメージではなく生まれてくることも死ぬことも一緒っていうのが最高で。この曲ってやっぱり死生観を意識しているんですか?
田中 : 「アイムジャクソン」に関しては、僕も曲を提供させてもらった劇団「はえぎわ」を主宰しているノゾエ征爾さんに詩を書いてもらって。言葉を扱っているノゾエくんが、僕の曲の節々に出るようなものから、わかりやすく生きること死ぬことを言葉にしてくれたなと思っていて。この曲の録音が最後だったんですけど、この曲が出来たときに、今回のアルバムのタイトルを『ぼ〜ん』にして「やみよのさくせい」から始まって「アイムジャクソン」で終わる流れがビタッとハマって、これを作りたかったんだと思った。あとは仲原くんにソロをやったほうがいいって言われて、Hei Tanakaが始まったって最初に言いましたけど、実はその前から蓮実重臣さんがずっと僕の音楽を褒めてくれてて、ソロを作りなよって言ってくれていたんです。蓮見さんは一昨年亡くなってしまったんですけど、初めてレコードを出すぞっていうときに僕なりにソロで作りましたっていう答えを出さないと何も進めない気持ちがずっとあったんです。だから7インチのB面、アルバムにも入ってますけど蓮見さんがつくったPacific231っていうグループの「SORA NO KOTOZUTE」っていう曲をカバーさせてもらった。ソロで活動することに対して背中を押してくれた蓮見さんに対して聴かせたいっていう気持ちがあって、そういう意味で死生観っていうのがどっかに出てるのかなと。だから今やりたいこと、それが今できることとして詰め込めた充実感があるというか。このアルバムは今までの自分を振り返りながら作ったんですけど、これからはどんどん違うものを見てHei Tanakaは進んでいくのかなと。それは僕だけじゃなくて6人で進んでいくから、その道は想像がついてないんですけど、それがすごく楽しみなんです。
──なるほど。そんな作品を連れてこれから全国各地、長い期間をかけてツアーに出ていくわけですけど、ツアーでは岡崎さんの参加もあったりするんでしょうか?
田中 : そうだ、それどうしようかなと思っていて。岡崎くん、その話あとでちゃんとさせて(笑)。
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LIVE SCHEDULE
ぼ〜んツアーだい!
2019年4月6日(土)@北海道・苫小牧 ELLCUBE
2019年4月7日(日)@北海道・函館 TUNE
2019年4月20日(土)@東京・小岩 bushbash
2019年4月27日(土)@東京・新代田 FEVER
2019年5月1日(水)@秋田・横手 MIXX byWANTS AND FREE 2F
2019年5月2日(木)@宮城・仙台 CLUB SHAFT
2019年5月3日(金)@岩手・盛岡 MUSIC+BAR crates
2019年5月16日(木)@東京・青山 月見ル君想フ
2019年5月17日(金)@広島・広島 CLUB QUATTRO
2019年5月19日(日)@島根・松江 出雲ビル地下1階
2019年6月15日(土)@静岡・浜松 鴨江アートセンター301号室
2019年6月16日(日)@京都・京都 拾得
2019年7月13日(土)@岡山・岡山 蔭凉寺
2019年7月14日(日)@高知・高知 蛸蔵
2019年7月15日(月・祝)@兵庫・神戸 酒心館ホール
2019年9月13日(金)@鹿児島・鹿児島 SR HALL
2019年9月14日(土)@熊本・熊本 NAVARO
2019年9月15日(日)@福岡・博多 Voodoo Lounge
2019年9月16日(月・祝)@大分・大分 AT HALL
2019年10月14日(月・祝)@石川・金沢 アートグミ
2019年10月21日(土)@愛知・名古屋 TOKUZO
2019年10月21日(日)@大阪・梅田 シャングリラ
2019年10月21日(火・祝)@東京・渋谷 WWW
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PROFILE
Hei Tanaka
元SAKEROCKの田中馨がリーダーの唯一無二のオルタナティブ・アバンギャルド・パンクロックバンド。2012年に、2ドラム、1ベースの編成で初ライブ。2014年1月のライブ後、一時活動を休止。2016年に、ベース、ドラム、ギターにサックス3人という現在の編成で再始動。2018年にカクバリズムから7インチシングル『やみよのさくせい』をリリース。遂にリリースされる1stアルバム『ぼ~ん』は、歌ものあり、インストありの、エネルギーの塊のような楽曲をそのままパッケージした、大傑作です。
公式HP : http://heitanaka.tanaka-kei.com/
Twitter : https://twitter.com/tanakahei