ファールをホームランに変える、愛と執念のフルスイング──大石規湖 × 谷口健が語る、映画『fOUL』
谷口健(G,Vo)、平松学(B)、大地大介(D.)からなる3ピース・バンド、fOUL。bloodthirsty butchersやeastern youthなどともに90年代の日本のオルタナティヴ・ロック・シーンを駆け抜け、2005年にバンドは"休憩"へ。そこから16年、そのオリジナルとしか表現することのできないサウンドがこのたびドキュメント映画『fOUL』として、この2021年に劇場でかき鳴らされている。監督は、〈Less Than TV〉に迫った『MOTHER FUCKER』(2017)、パンク・ロック・バンド、the原爆オナニーズを描いた『JUST ANOTHER』(2020)に続き、長編3作目となる大石規湖。すでに公開中で、"休憩"以前の貴重なライヴ映像を中心に構成され、その内容はすでに一部で話題となっている。現状音源は全て廃盤、サブスクやダウンロードでもほぼ音源が聴くことのできないという、決して広く門戸が開かれているわけではないこのバンドを、なぜ映画として、そして"いま"、作品にしようと思ったのか。監督である大石規湖とバンドから谷口健を招き、fOULへの想いと、活動当時のバンドについて話を訊いた。
映画『fOUL』
・作品情報
出演 : 谷口 健、平松 学、大地大介|監督・撮影・編集 : 大石規湖
音楽 : fOUL|音楽ミックスエンジニア : 二宮友和|音楽ミックス監修 : 今井朋美
宣伝 : 椎名宗之|製作 : 長谷川英行|製作総指揮 : 村上潔|企画・制作 : 長谷川英行、大石規湖
宣伝協力 : ルーフトップ キングレコード配給
・劇場情報
東京 シネマート新宿 2021年9月24日(金) 〜
神奈川 横浜シネマリン 2021年10月23日(土) 〜
北海道 サツゲキ 2021年10月22日(金) 〜
宮城 チネ・ラヴィータ 2021年11月5日(金) 〜 11月11日(木)
愛知 名古屋シネマテーク 2021年10月23日(土) 〜
大阪 シネマート心斎橋 2021年9月24日(金) 〜
京都 アップリンク京都 2021年10月8日(金) 〜
兵庫 神戸アートビレッジセンター 2021年11月20日(土) 〜 11月26日(金)
広島 横川シネマ 順次
福岡 KBCシネマ 順次
鹿児島 Live Heaven 2021年10月8日(金) 〜 10月10日(日)
沖縄 桜坂劇場 2021年11月7日(土) 〜
【HP】
https://foul-film.com/
【Twitter】
https://twitter.com/fOULfILM
INTERVIEW : 大石規湖 × 谷口健
“音楽”の肝は無論その“音”そのものだけれども、鳴らす人の“佇まい”というのも自分にとって魅力的な音楽にさせるなにかがあると思っている。fOULというバンドをリアルタイムで体験することができなかった自分にとって、残された音源とウェブ上に漂っていた僅かな映像だけがこれまでのfOULというバンドの全てだった。それが今回この映画『fOUL』によって、ようやくこのバンドの全てが分かった…いや、むしろ何も分からなかった。映画ではバンドのヒストリーが語られるわけではなく、ひたすらに3人が演奏している映像が繋がれていく。そこに監督である大石規湖のfOULというバンドへの愛と執念のようなものを感じた。このバンドにとって重要なのは“物語”ではなく、その“音”と“佇まい”なのだと。そうした意味でいうと、今回のこの対談はこの映画の意思に対する反則行為かもしれない。けれども、映画まで撮らせてしまうバンドの魅力が一体なんなのか、やっぱり少しでも知りたいじゃないですか!
インタヴュー、文 : 高木理太
映画として大公開になるとは思ってなかった
──大石さんが監督を務めた映画『MOTHER FUCKER』、『JUST ANOTHER』と2作とも観させてもらっていますが、今回の映画が1番ハードコアな映画になってるんじゃないかと思っていて。大石さん自身で撮影している映像はいままで1番少ないですけれど、大石さんが表現したかったエゴが1番出てるような気がしたんですよね。今回fOULというバンドを映画化する上で、どうしてひたすらライヴ映像だけを繋いでいくような構成にしたんでしょうか?
大石規湖(以下、大石) : 『MOTHER FUCKER』や今作もプロデューサーとして協力してもらっている〈キングレコード〉の長谷川(英行)さんが、私と同じくfOULのライヴにも通われてて、コピー・バンドもやるぐらい大好きな方なんですよ。『MOTHER FUCKER』の上映期間に長谷川さんと話していくなかで「fOULの映画作りましょうよ!」と、この映画を作ることになりました。長谷川さんとfOULの魅力を話していくなかで、このバンドは一言で表現できないものがすごく多いし、どの言葉を形容詞で使っても的確じゃないねっていう話になっていって。だったらfOULの曲の良さだけをただ伝えるだけのものにしようと思って、本当にただそれだけに特化した結果こういう映画になりました。ご本人の前でこういう話をするのも初めてなので恥ずかしいんですけど。
谷口健(以下、谷口) : いや、嬉しいですね。
大石 : 私は〈砂上の楼閣〉の後期くらいにライヴをやっと観れた世代で。インタヴューも多くないバンドだったし、本人たちの人格や生きてきた感じもよく知らないままライヴに行って、ただただfOULの音楽、ライヴっていうものにずっぽりハマって。そこから16年休憩が続いている現在もずっと好きでいつづけたので、バンドの背景というよりもただ音楽、ライヴの良さを伝えられるものを作れば、伝わるものだっていう確信はあった。だからそれが今回の映画になってる。編集前に事実確認のために本人たちにインタヴューをしたんです。それで生活や仲間に対して考えてること、哲学的なところも曲とライヴに全部現れてるなって確認できたってっていうのがすごくあったので、この構成にしました。
──なるほど、健さんをはじめメンバーのみなさんはfOULの映画を作りますっていうのはいつごろ聞いたんでしょうか?
谷口 : いつごろでしたかね…あんまり覚えてないですね。
大石 : 映画を作りたいっていうのは多分話が持ち上がった3、4年前とかにお話していて。2年前の年末にBEYONDSのライヴの終わりにお会いしに行って、「fOULの映画、よろしくお願いしますね。」っていうのを改めて伝えたら「映画!? DVDじゃないの!?」みたいなことをおっしゃってて。「あれ? 伝わってないなこれ…」と思いました(笑)。本気で映画になるって思ってませんでした?
谷口 : そうですね。こんな映画として大公開になるとは思ってなかったです。でもだんだんそれが現実になってきたのは意外な嬉しさですね。びっくりというか。
──実はまだ大石さんがメンバーのみなさんから感想を聞けてないとのことだったんですけど、シンプルに映画を観てみての感想はいかがでしたか?
谷口 : なんか欲が出てくるもので、映像を観てるともっと自分が忘れてるころのライヴを観たいなと思いましたね。映像なんて撮ってなかったころのライヴとか。こんな全開でライヴやってたんだなというのが正直な気持ちですね。自画自賛というかよくこんなライヴやってたなって思います。本当はライヴ1本1本すごい緊張していて、歌詞をちゃんと歌えるかとか、ギター・ソロができるかどうか毎回不安だったんですけど。こういう風に観てもらえるようになったのはよかったなって。残ってた映像はもうガムテープで閉まっていて、公になるなんて思ってなかったんですごく感慨深いというか嬉しいです。
──活動当時も、自分たちの演奏を俯瞰で見ることって無かったですよね。
谷口 : そうですね。特に僕は無かったですね。ベースの(平松)学は真面目なタイプで、1回1回振り返ってそれを観て次に活かすっていうようなことをする人なのでよく「この間のライヴはこうでしたよ」ってよくスタジオで言ってくれてましたけれど。僕は恥ずかしくてほとんど見なかったですね。
──時間を経て、自分たちの演奏を観てみたことで、自分のなかでまたで色々な感情が湧いてきたりはしましたか?
谷口 : すごいあります。やっぱり構成とか歌い回しとか、レコーディングしてたときのことも思い出したし、レコーディングの音源とまた違う演奏の風景っていうのがこんなにあったんだなって。