僕のままでいいのかな? という問いが最後まで流れていく
――改めてなんですけど、“1234”で歌われる<君のままでいいよ/僕のままでいいの>という2行には、このアルバムが表現していることが集約されているような気がします。ここには四方さんのどんな思いが込められていると感じますか?
四方:たしかに、<君のままでいいよ/僕のままでいいの>というこの最初の2行でアルバムを言い切っているような気はしますよね。やっぱり、自意識を考えざるを得ないこの社会の中で、それを一旦脇における時間を作ってあげたい、ということだと思います。それを忘れることができる空間や時間をみんなに与えてあげたいというのが、1行目の素直な気持ちだと思う。「もっとこうした方がいいんじゃないか? 」とか、「ここが至っていないな」とか、嫌でも考えなきゃいけない世の中だと思うので。自分をそのまま肯定できる時間や場所を大事にしてほしいという気持ちですね。
――2行目の<僕のままでいいの>という部分は、自問自答の言葉にも、肯定の言葉にも受け止められますよね。僕はここに疑問符というか、自分への問いかけを感じたんですけど。
四方:そのニュアンスは、人によって受け取り方は変わると思いますね。でもたしかに、人に対しては優しくなれるけど、じゃあ自分に向かって「僕のままでいいよ」と言えるかというと、そこにはもう1歩ステップが必要なんですよね。自分自身、「僕のままでいいのかな? 」と思っているから、こうやって曲も書けるんだろうし。自分のことも「僕のままでいいよ」と肯定してあげたいけど、それは、できるかどうかわからない。そういう問いがひとつ残されたまま最後まで流れていくアルバム……。今喋っていて、そんな気がしてきました(笑)。
――(笑)。
四方:「僕のままでいいのかな? 」という疑問が、最後の“2024”で昇華されているような気もします。
――“2024”に関しては、YAJICO GIRLは5年前に“2019”という曲をリリースされていますよね。今改めて年代をタイトルにした楽曲を作ったことにはどういった経緯があったんですか?
四方:YAJICO GIRLの歴史の中でも、“2019”を収録した『インドア』は特別な作品だったんです。“2019”はトラックもメロディも歌詞も全部僕が自分で作った曲なんですけど、今回の“2024”は吉見(和起/Gt)がトラックを作ってくれて、そこに自分が言葉を乗せてタイトルを付けた曲で。“2019”という、自分ひとりで世界観を作った作品から5年経って、「バンドの表現になったんだ」という変化も感じてほしかったというのはありました。それに“2019”はトラップっぽいビートだったけど、“2024”はガラージとか2ステップっぽいダンス・ミュージックになっていて、そういう部分でも、5年を経ての世の中のムードの変化を感じてもらえるんじゃないかと思ったんですよね。
――“2024”というタイトルから先に決められたんですか?
四方:いや、トラックに合う言葉を重ねていったうえで、“2024”というタイトルは最後に決めました。ただ、この曲をアルバムの最後の曲にすることだけは決めていて。アルバムの締め括りとして、全体をまとめ上げる曲にしたいなと。吉見としては、浄化されながらゆるく踊れるような曲を目指したのと、今までの作品の最後は明るいムードで終わることが多かったから、新しいムードのラスト・トラックを作りたいという気持ちがあったみたいですね。
――“2024”を吉見さんが作曲されたということも含めて、YAJICO GIRL内の関係性も強固になっているんですね。
四方:最近は5人で溜まることができる家を持ったので、コミュニケーションの量も増えましたね。もっと5人でいろいろ話をしたり、楽しいことができる場所があればいいなとずっと思っていて。最近は、今まで以上に5人の間で将来のことやリアルな話ができるようになってきている気がします。
――キャリアを重ねるごとにメンバーの関係性が近づいていくバンドって、珍しい気がしますね。
四方:距離が離れていくバンドは、間に入る人がいるから離れていても大丈夫なんだと思うんですけど、僕らの場合はいろんなことを自分たちで決めて、作っていくバンドなので。その分、コミュニケーションは深く取っていかないといけないんですよね。
――『EUPHORIA』というアルバムは、今のYAJICO GIRLのパーソナルなムードを反映しながら、同時代を生きる聴き手の生活感情にフィットする作品だと思うんです。改めてYAJICO GIRLが稀有な存在だと思うのは、例えば“FIVE”のような曲が代表曲になることなんですよね。“FIVE”はYAJICO GIRLのテーマ・ソングのようにも聴こえる曲ですけど、そういう曲が聴き手にとっても大事な曲になっているのは特殊なことだと思います。コミュニティの生み出し方とか、聴き手とのコミュニケーションの取り方とか、提示しているものがやはり新しいものなんだろうと感じます。
四方:最初に言ったみたいに、自分軸で正直に書くことが、誰かにとっても自分事として感じてもらえるんじゃないかとずっと思っているんですよね。だから、その感想はすごく嬉しいですね。
――生き方、繋がり方、生活感、そういう部分でYAJICO GIRLに何かを見出す人は多いのかなと思いますね。
四方:たしかに生活感ありますよね、YAJICO GIRLの曲は(笑)。
――ライヴは、今後よりクラブ・ミュージック的なアプローチを強めていきそうですか?
四方:そうですね。6月にやったライヴでもダンス・ミュージックに振り切ったワンマンをやったんですけど、そこから曲も増えましたし。それに、過去曲をクラブ・ミュージック的にリアレンジするのも、結構ハマるなと思っていて。なので、過去の曲も今回の収録曲もシームレスにつながって、踊れるフロアが作れるんじゃないかと思っています。
――ただ、YAJICO GIRLの場合は次の作品ではどういうアプローチになるか予測がつかないんですよね。フォークに行くかもしれないし。
四方:「次どうするんですか? 」とはよく言われます(笑)。でも一応、毎回「ずっとこれをやるんだろうな」という気持ちでは作っているんですよ。
――そうなんですね(笑)。
四方:そうは言っても、来年どうなっているかはわからないですけどね(笑)。でも今思っていることとしては、ダンス・ミュージックの方向性でもう少し作品を作っていきたいですね。
編集 : 石川幸穂
孤独と高揚感を抱えたまま、一緒に踊ろう
ライヴ情報
YAJICO GIRL ONE MAN LIVE 2024 Autumn 〈EUPHORIA〉
日時:11月22日(金) open 19:30 / start 20:00
会場:東京 Spotify O-nest
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PROFILE:YAJICO GIRL
Gt. 吉見和起 / Gt. 榎本陸 / Vo. 四方颯人 / Ba. 武志綜真 / Dr. 古谷駿
5人編成で自身の活動スタンスを「Indoor Newtown Collective」と表現する。
2016年〈未確認フェスティバル〉〈MASH FIGHT〉など様々なオーデションでグランプリを受賞。音源制作・アートワーク・MusicVideoの撮影から編集、その他ほとんどのクリエイティブをセルフ・プロデュースしている。
2020年より活動拠点を地元・大阪から東京に移し、活動の幅を勢力的に拡げている。
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