体を揺らしながら目頭は熱くなっていたい
――今言ってくださったことは、『EUPHORIA』というアルバム全体に通底するトーンという感じがします。1曲目の“1234”で<君のままでいいよ/僕のままでいいの>と歌われますけど、他者に対しての肯定と、自分自身に対しての疑問が並列に並んでいる感じ。これがこの『EUPHORIA』というアルバムそのものという感じがするんですよね。「自分ってなんなんだろう? 」というような自問自答って、本作を作る中で四方さんの中で表れていたものなのだと思いますか?
四方:それは、このアルバムに限らずだと思いますけどね。ただ、今生きていると、みんなSNSでアカウントを持って、自分をブランディングして発信しなきゃいけないみたいな風潮もあると思うし、「自分」について考えることって増えていると思うんですよね。自分ってどういう人間なんだろう? 自分をどう表現しよう? ……そういうことを考えざるを得ない社会にはなっていると思っていて。そこから救われるようなアルバム、ダンス・ミュージックを使ってそこから解放されるようなものを作れたら、という思いは最終的にはありましたね。
――その解放のされ方として、明解な解決をもたらすというよりは、揺らぎや疑問を抱えたまま踊ること自体を提案している感じがするし、歌詞にはあくまでもリアルが描写されているっていう。それもまた四方さんの表現における正直さという感じがします。
四方:逃避にはなりたくないんですよね。逃げているわけではないけど、一旦、我を忘れることができるっていう感覚。それが表現したかったんですよね。
――クラブ・ミュージックというと、ぶっ飛んで、逃避して、というイメージを持つ人もいるかもしれないですけど、そうじゃない。すごく2024年的な響き方をしているダンス・ミュージックという感じがします。
四方:まあ逃避でもいいんですけどね。でも、僕的には、体を揺らしながら目頭は熱くなっていたいというか(笑)。ただファストに盛り上がりたいわけじゃなくて、いろいろ考えたうえで、噛み締めながら踊りたいんです。そういう意味で、酸いも甘いも書くスタイルが、このアルバムには合っていたんだろうなと思います。
――“sour”の歌詞はすごく驚きました。「ここまで歌うんだ」というところまで歌っている感じがします。
四方:歌詞を書いていて、「これ以上は書いてはいけない」みたいなラインがいつも自分の中に勝手にあるような気がするんですけど、そこに対して「もう1歩だけ乗り越えていきたい」という感覚があって。「それ、言うんや」と思わせるような言葉を歌詞に書いてみたいなって。「生々しいものの方がいい」という感覚が自分の中にあったんだと思います。あと、こういうサウンドのフォルムだったら、刺しに行ってもそこまで痛々しくならないんじゃないかと思ったんですよ。スタイリッシュにハッとできるんじゃないかって。自分の中のバランスとして、「今ならもう1歩奥まで書けるんじゃないか? 」というのはあったと思いますね。
――それは、ご自身を曝け出すという感覚なんですかね? それとも、もうちょっと違うものなのか。
四方:曝け出す、か……。例えば、こうやって会話をしている自分も、家でひとり何かを考えている自分も、どっちも本当だし、嘘じゃないと思うんですよ。そのうえで、ひとりでものを考えているときのドロッとした部分とか、やるせなさ、虚無感……そういうものをリアルに書き連ねた方が、ダンス・ミュージックのサウンドには合っているんじゃないかと思ったんですよね。
――ドロッとした部分を出したときに、そこに変な自意識を感じさせないのが“sour”のよさだと思いました。
四方:それは嬉しいですね。露悪的に自分を見せようとする表現は、個人的にはあまり好きじゃないんです。そういう人たちの強さもわかるんですけどね。でも、自分はそういうふうにはやりたくないなっていうのはありましたね。
――“APART ”や“MissU”が「ストーリーテリング」、“sour”が「1歩踏み込む」という書き方だとして、では、“Ebi Fry”というダジャレのようなタイトルが付けられた曲には、四方さんのどういった部分が表れているのだと思いますか?
四方:“Ebi Fry”は、仮歌の時点で「海老フライ」って言っていたんです(笑)。これを真面目な方向に変換していくのもハズいし、海老フライで1曲作って、みんなで楽しめた方がいいんじゃないかなと思って。ただ、説明がムズいんですけど、個人的にこの曲はめちゃくちゃエモくて、グッとくるんですよね。
――四方さん的には、そのポイントってどこにあるのだと思います?
四方:なんというか……海老って、一見、飛びそうな形をしているじゃないですか。本当は飛ばないのに。そこですかね(笑)。
――ははははは。なるほど。
四方:海老の「飛びそうやな」感(笑)。実際には海老には羽も生えていないし、飛べるわけではないんですけど、「飛び立つんや! 」みたいな(笑)。「でも、やるんだ! 」っていう。
――なるほど、なるほど(笑)。
四方:僕らも羽は付いていないし、至らないところもたくさんあるけど、「でも、きっと飛べるよ! 」って。なんの捻りもなく言うと恥ずかしいけど、「Ebi Fry」というテーマのおかげで、「頑張ろうぜ! 飛ぼうぜ! 」って割と素直に言えている曲なんですよね。「いろいろあるけど、今は飛べるよ! 」って。
――最高だと思います。『EUPHORIA』というタイトルは、本作を象徴する言葉としてしっくりきましたか。
四方:そうですね。我を忘れる感覚というか。高揚感、陶酔している感じ。それが、僕がクラブ・ミュージックやダンス・ミュージックに求めている感覚なので。この言葉がアルバム・タイトルになるのがいいんじゃないかと思って、タイトルは付けました。
