REVIEW #1 デジタル・ネイティヴ世代は幸か不幸か?

Text by 宮崎大樹
今あなたはWEBサイトでこの記事を読んでいる。特に面識がないであろうアラフォーおじさんが書いた記事を読んでくれている。今さら言うまでもないが、インターネットは便利だ。筆者は1980年代生まれなので、アナログからデジタルへの過渡期を体験することができた人間なのだが、そんな筆者はときどき思うことがある。「デジタル・ネイティヴ世代の青春って、どんな感じなのだろう?」と。彼らは、友達との通話で家電(いえでん)を何時間も占有して親に怒られた経験はないだろうし、想いを寄せている人からのメールの返信がなく、ソワソワしながら何度もセンター問い合わせをした経験もないはずだ。今の時代では、そんな不便さは取り除かれ、物理的な距離を飛び越えて気軽に人と繋がることができる。だが、果たしてそれは本当に幸せなことなのか、あるいは不幸せなのではないか──前置きが長くなってしまったけれど、とある作品でそんな疑問に対するひとつの回答に出会えた気がした。NEK!の2nd EP「TR!CK TAK!NG」だ。
まだ1年余りしか活動していない若きガールズ・バンドが創造した音楽に衝撃を受けた。NEK!は、もともとそれぞれが自身のYouTubeやSNSを中心に音楽を発信していたメンバーが、お互いのパフォーマンスに惚れ込み結成したバンドだという。バンド名は、ネット・スラングで「頼れる存在のアネキ」を意味する「ネキ」が由来で、ネット発の印象的な歌詞を特徴とすることで「スラングロック」を掲げている。そういう意味では、インターネットがなければ生まれていなかったバンドでありコンセプトなのは間違いない。
そんな彼女たちの初の全国流通盤である1st EP「EXCLAMAT!ON」は、1990年代後半~2000年代前半の邦ロックを思わせるサウンドを軸にしながらも、サブ・ジャンルで振れ幅を見せた作品だった。タイトルから想像するに、間口を広げることでリスナーからのNEK!への注意を向かせ、その存在を知らしめたかったのだろう。この1st EPでは抽象化した歌詞が中心だったが、2nd EP「TR!CK TAK!NG」では、よりストレートな歌詞表現が多く、それがゆえに共感性を増した作風に仕上がった。
1曲目の“zero-sum”は、フィードバック・ノイズのみが流れるなか突如始まるKanadeのスラップ・ベースが聴き手の度肝を抜くところから始まる。SNS上で日々垂れ流され続ける承認欲求、加害者を攻撃することで自分自身が加害者になることに気づかない歪んだ正義感、そういったSNSで見える醜悪な面への嫌気を、時に突き刺すような言葉で、時にシニカルな言葉で綴っている様が痛快だ。Natsuの超絶技巧で魅せるギター・ソロ、手数の多いCocoroのドラムと、テクニカルでアグレッシヴなプレイが満載ながらも、曲全体に脂っこい印象を持たないのは、パワフル且つ癖の少ないHikaの歌唱の賜物だろう。この4人が鳴らす音の絶妙な均衡こそが、NEK!サウンドの特徴に思える。
グルーヴィーなリフが身体を揺らす“Fool”ではSNS上で生じる人格の歪みを嘲笑し、疾走感がありながらもどこかメランコリックな“Loner”では、SNS上で誰かとの繋がりを持ちながらも感じる、消えることのない孤独を歌う。ネット社会をそれぞれの視点で捉えた歌詞には、どこか共感を得るところがあるのではないだろうか。
攻撃的で風刺的な本作だが、本作は4曲目の“moon”からその表情を大きく変えていく。アコースティック・ギターの音色と共にHikaはひとりごとを呟くように静かに歌い出す。オンラインの電子世界とオフラインの現実世界を日々行き来して疲弊しているひとりの少女が、ふと現実で夜の空を見上げるとそこには月があった──そんな情景がありありと浮かぶ描写が見事だ。EP前半の激しい楽曲たちから一転してしっとりとしたミドル・チューンを聴かせることで、聴き手にカタルシスを感じさせる構成もいい。
そしてEPを締めくくるのは5曲目の“Dreams!!!!”。EP全体で内省的な楽曲が多いなか、この曲だけは、ファンやオーディエンスに向けての愛を歌う、爽やかで疾走感のあるものになっている。デジタル・ネイティヴな世代の彼女たちは、その上の世代の人間以上にインターネット上で生じる感情に翻弄されながら生きている。そこだけを見れば、インターネットの海では悲劇的なことばかりが起きているように感じてしまう。だがしかし、NEK!のメンバーを繋げた存在も、またインターネットなのだ。それがあったからこそ、彼女たちはこのバンド活動を通してリアルな世界のきらめきを感じられることができた、NEK!とファンが出会うことができた。だから感謝の想いを持って、光ある未来へ向かって駆け出していく。そんな“Dreams!!!!”で締めくくってくれることで、作品全体に「救い」が生まれているのだ。
こんな時代だから、社会で生きづらさを感じている人は多くいる。そんな誰かの想いに共感し、想いを代弁してくれる。それだけでなく、その先へ導いてもくれる。NEK!の音楽にはそんな力がある。令和に生まれた、令和だからこそ生まれた若きガールズ・バンド NEK!には、これからもスラングを駆使して時代を切り取り、誰かの代弁者であり続けてほしい。