2022/01/26 18:00

人生を生きるではなく、人生を遊ぶような感覚

──なるほど。続けて3曲目のWOWOWアーバンスポーツ関連番組テーマソング"merry-go-round"は、4つ打ちとともに聴こえるイントロのギターがスタイリッシュで。その後もギターが特に耳に残る楽曲だと思ったんですけど、どのように制作されたんでしょう。

穴見 : 僕が作曲したんですけど、3年前くらいにこの曲のデモをメンバーに聴いてもらって、そのときからイントロのフレーズはあたためていたんです。だからギターをかっこいいとおっしゃっていただけたのは、すごく嬉しいですね。ダンスビートとロック、プラスでジャズ調のピアノという色々ごちゃまぜな曲なんですけど、それが本当にいい具合にパズルのようにハマってくれた曲だし、美しいなと。アレンジャーの川口圭太さんはギターとピアノの魔術師なので、色々一緒にやりとりをしながら作っていきました。詞は長屋が結構前に書いてくれたよね?

長屋 : ハッキリとは覚えてないけど、3年くらい前に書いたと思います。

──これまで長屋さんが書いた歌詞とはだいぶ印象が変わり、すごく振り切っているように感じました。

長屋 : WOWOWさんのアーバンスポーツというテーマがあるからこそ書けた、でも自分の気持ちも含めた歌詞です。この曲がキッカケで、スポーツへの印象がすごく変わりました。いままではスポーツって努力とか青春とか、そういう青い言葉が似合うようなイメージだったんですけど、アーバンスポーツをやっている皆さんが本当に楽しんでやられているのが印象的で。生活の一部というか、仕事ではなく趣味の延長のように楽しんでいるようにみえたんです。それが本当に素晴らしいなと思って。だからこの曲も、人生を生きるではなく、人生を遊ぶような感覚で歌詞を書きました。

小林 : 長屋の遊び心をすごく感じる歌詞ですよね。いままでやってこなかったくらいの挑戦が詰まっていると思います。

──例えばどのあたりでしょう。

小林 : カタカナが多いじゃないですか。文字だけみて遊んでいるなって思う歌詞はいままでなかったような気がして。「トンチ」「トテチテタ」「デコピン」とか、そういうワードチョイスも長屋の新しい一面だなと思いました。

穴見 : まだあまり見えていないかもしれないんですけど、長屋晴子ってもともと少年心をかなり持っている人なんですよ。『ドラゴンボール』をみていたり、小学生くらいのときに男の子と喧嘩したりしたこともあるらしくて(笑)。今回の曲では歌詞の語尾が「〜ぜ」になってたり、長屋のやんちゃ心がはじめて出てくれたと思う。だから僕的にはこの歌詞がすごく好きなんですよね。

peppe : この曲以外にも、長屋の歌詞は語尾がかわいいんですよね。人間性が出ていると思います。実はかわいい部分があるとか丁寧に物事を考えているところとか、言葉に人柄が現れていますよね。

──長屋さんは作詞するとき、メッセージ性と語感、どちらをより大事にしていますか?

長屋 : メッセージ性ですね。最初に聴いたときに意味が伝わるかどうかが大事だと思うので、リズミックな部分はその次ですね。歌詞を書くときは、難しい言葉を使わないように意識しているんです。みんなが知っている言葉の合わせ方みたいな、そういうおもしろさのなかで歌詞で遊びたいという気持ちが常にありますね。

──小林さんも作詞されていますが、いかがでしょうか。

小林 : 僕は長屋とは逆で、語感をすごく大事にしています。語感がハマらないと、いい言葉も飛んでこないと思っちゃてて。僕の聴いてきた音楽がそういう仕組みになっているんですよね。どれだけ詩的でも、まず語感がいいなと感じるんですよ。元のメロディーがあって、そこに対してどういう言葉選びをするかは語感で選んじゃうまであるって感じです。だから僕は使える言葉が限られちゃう瞬間があるんですけど、そういう時に気の利いた言葉選びはできるようになりたいですね。

小林壱誓(Gt)

──おふたりの書き方は違えど、曲を聴いていると正反対のタイプがいることはバンドのメリットにつながっている気がします。

小林 : そうですね。だから“キャラクター“は、いいバランスで作れたと思います。お互いがほどよくこだわりっていて。さっき言ってた歌詞を書くうえでの根幹がぶつかりあったら共作なんてできないと思うんですけど、そこを譲り合えるメンバーだからこそ、バランスのとれたいいものができるんだと思います。もちろんその議論は大変ではありますけど。それによって色々な人の心に届くものができるんじゃないかなって。

──“安心してね“は、長屋さんが作詞作曲をしていますよね。バラードも合いそうですが、あえてアッパーでポップな曲調にしていらっしゃるのが緑黄色社会らしいですよね。

長屋 : これも4、5年前に生まれた曲なんですけど、4つ打ちでシンセも入っているようなアッパーなサウンドは、当時のバンドに欠けていた曲調だったんです。だからあえてこのテンポにしたわけではなくて、当時はアッパーな曲調しか見えていなかったんですよね。アレンジまで作っていたんですけど、その状態でずっと寝かせておいたんですよ。「いつかリリースしたい」とずっと話していて、その思いがやっと今回実ったんです。

──なぜこのタイミングでアルバムに収録したのでしょうか。

長屋 : タイミングによっては、この曲ってすごく幼い感じで届いてしまうと思ったんですよね。このタイミングだからこそ、ちゃんと意味を持って届けられる曲として収録できたんだと思います。実はこれ、はじめてのワンマン・ライヴをやるにあたって、曲数が足りなくて、焦って作った曲で。ライヴで演奏したのはこの1回きりなので、覚えてくれている人がいたらすごいです(笑)。最初は違ったんですけど、だんだんファンの人を想った歌にしたいと思うようになって、歌詞の内容も作りながら変化していきました。いちばん最後のサビは特にそうですね。

peppe : 当時スタジオにみんなで入っていたときの景色が思い浮かぶし、いまの凝り固まった頭では出てこないフレーズもたくさん入っています。おもしろいと思ったものを起用するという作り方で曲を作っているので、私のなかで浮かんだものだったり、その瞬間瞬間、その時々の雰囲気を感じ取りながらできたフレーズが多いかなと思いますね。

──peppeさんはいつもピアノで作曲を?

peppe : 色々ですね。ピアノでフレーズを作るときは自分の癖というか自分の印を入れるようにしているんですけど、シンセとかエレクトリック・ピアノで作るときは自分の良さをあんまり入れられていない気がしていて。それはずっとクラシックで生きてきたので、電子音の要素が自分のなかにあんまりなかったからだと思うんですけど。

──ご自身のルーツであるクラシックをバンド・サウンドに溶け込ませるのは難しいことだと思うんですけど、“アラモードにワルツ“では、それが綺麗にマッチしていて驚きました。

peppe : いままで3拍子の曲を作ったことがなかったんです。別で作っていた曲が落ち着いて、「自由に曲を作ろう」というマインドになったときに制作したんですけど、自然とこういう音が出てきたんです。私は歌詞を書かない分、脳内のイメージを音に落とし込むんですけど、“フリルのドレスを着た小さい女の子がクマのぬいぐるみを持ちながら洋館で踊っている“みたいなアイディアから落とし込んでいきました。

peppe(Key)

この記事の筆者
梶野 有希

1998年生まれ。誕生日は徳川家康と一緒です。カルチャーメディア『DIGLE MAGAZINE』でライター・編集を担当し、2021年1月よりOTOTOYに入社しました。インディーからメジャーまで邦ロックばかり聴いています。

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