2023/12/13 19:00

共感ではなく、ただ水のように入ってきて、なりゆきとして過ぎていくだけ

──エッセイ集のなかの「濃密な空洞」では、映画『共喰い』(監督 / 青山真治、原作 / 田中慎弥)に描かれる田舎で暮らす人たちの姿に、見汐さんご自身が目にしてきたものや経験と重なるところがあると書かれていました。そういった「過去にあったこと、あったかもしれないこと」を自分ごとのように感じられるようなことをご自身の作品で意識されることはありますか?

見汐 : うーん、ないですね。そもそも私は人同士がわかり合えると思ってないんですよ。元も子もないんですけど。あと、言葉でもわかり合えるなんてさらさら思ってなくて、おこがましいとどうしても思っちゃう。その人が語ったことや作ったもの、心情に対して、ただ水のように自分のなかに入ってくる瞬間があるというだけで、必ずしもそれが共感や共鳴じゃないというか。その人の発言と私の発言とがときとして重なることがあってもそれはなりゆきとして過ぎていくだけだから。自分の作品で意識することはないです。

──映画『共喰い』で描かれているものに対して共感したわけではないんですね。

見汐 : うん。すごく抽象的ですけど、具体的な身体の部位ではなく、自分のなかに”絶対誰にも触ってほしくない場所”があって。そこを意図しないとこで不意にグサリと突かれた、みたいな感じです。

──エッセイのなかで見汐さんは幼少のころから歌うことが当たり前なこととして身近にあったと書かれていましたが、その感覚はいままでずっと変わらず続いていることなのでしょうか。

見汐 : そうですね。エッセイ集を読んでいただければわかると思うんですけど、歌うことは毎日ご飯を食べることとかと同じことでした。やめるやめないなどという発想がそもそもなかったんでしょうね。何事に対しても基本的にそうで。人間としてそういうタチなんだと思います。

──エッセイのなかで、幼少のころおばあさまにに提案されて歌った老人会で、聴いているかたの反応をみて歌の力の大きさを感じたというお話が書かれていましたが、いまの音楽活動のライヴにおいてもそういったことを感じることはありますか?

見汐 : ライヴのときは、演奏に集中しているのでお客さんひとりひとりの表情をじっくり見ることはそうないんです。友達だったり好きなミュージシャンのライヴを観に行くときは、もちろんステージも観てるんですけど、気づくとお客さんのほうを見ちゃう。

それはエッセイにも書いた子供のころの体験も関係しているけど、もうひとつは過去にブッカーという仕事をしていたのも関係していると思っていて。ブッカーって裏方の仕事じゃないですか。お客さんがどういうふうに感じて楽しんでるか、表情がすごく気になるんですよね。お客さんって、演者さんを観ていて一気に高揚する人もいれば徐々に真剣に対峙していこうとするお客さんもいて、ひとりひとりの空気が違うんですよ。人は関心があるものに対してはすごく無防備に自分を委ねるんですよね。そういう人たちの放つ雰囲気のなかにいると、音楽も含めたエンターテインメントといわれるものと観衆や聴衆との関係性ってなんなんだろうとよく考えますね。

──今月はワンマン・ライヴを行われますが、どんなライヴにしたいですか?

見汐 : いい演奏を心がけて……うーん、みんな、「今回はいいや、次のライヴで行こう」って思うことあるでしょ? その日のライヴってその日にしかないから。そう言う意味で次はないから。ライヴがあるときに来てほしいなと思います。

編集 : 石川幸穂


過去作はこちらから

ライヴ情報

Mai Mishio with Goodfellas ワンマン・コンサート〈Hour Connection〉
日付 : 2023年12月16日(土)
会場 : 渋谷7th FLOOR
出演 : Mai Mishio with Goodfellas
   見汐麻衣(Vo / Gt)
   池部幸太a.k.a墓場戯太郎(Ba)
   坂口光央(Key / Syn)
   光永渉(Dr / etc)
   石坂智子(Cho / Other)(ゲスト出演)
開場 : 18:00 / 開演 : 18:30

PROFILE : 見汐麻衣

歌手、シンガー・ソングライター。2001年、埋火(うずみび)のヴォーカル、ギタリストとして活動を開始。2014年解散後同年より、石原洋プロデュースによるソロプロジェクト、MANNERSを始動。そのほか、ミュージシャンのプロジェクトに参加する一方、映画、演劇、CMナレーションや楽曲提供、エッセイ・コラム等の執筆なども行っている。2023年5月27日、初のエッセイ集『もう一度 猫と暮らしたい』を発売。Mai Mishio with Goodfellasとしても活動。

■HP : https://mishiomai.tumblr.com/
■X(Twitter): https://twitter.com/mishio_mai
■Instagram : https://www.instagram.com/mai_mishio/?hl=ja

この記事の筆者
石川 幸穂

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