山口を拠点に活動するlittle phraseが、matryoshka等を輩出したレーベルNovel Soundsより1stフル・アルバム『landscape』をリリースした。丁寧に重ねられたひとつひとつの音が心地よく、9つの風景を紡ぎ出す。それはささいな日常、いつかの記憶、そしてまるで見たことも無い世界のよう。ポスト・ロックを基盤にエレクトロニカ、アンビエントやクラシック等の要素が織り交ぜられたやわらかく静かなサウンドは、決して内省的なものに留まらずに広がりを持ち続けている。何故ならその奥底にバンドの確固たる意思があるから。
その丁寧なたたずまいは、インタビューからも感じ取れた。自由なスタンスで活動を続けていきたいという彼らが、全国をツアーする日を楽しみに待とう。
インタビュー&文 : 井上沙織
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INTERVIEW
—今作『landscape』の制作期間はどの位かかりましたか? また、どのようにして行われたのでしょう?
曲作りを含めると、おおよそ1年間くらいでしょうか。曲は、セッションで1から出来上がったものもあれば、個々が持ち寄った曲やフレーズを元として出来上がったものもあります。また、メンバー全員が参加していた前身バンド「moor」の時に制作した曲をリアレンジしたものもあります。
レコーディングは主にいつも練習で利用している秋吉台国際芸術村のスタジオで行い、ミックスは橋本崇広(guitar,voice,synthesizer)の自宅で行いました。プロの方にお願いして完成度を高めることももちろん大切だとは思うのですが、今回はいつもの雰囲気を作品に閉じ込めたい気持ちが強くあり、マスタリング以外の作業は自分達や元moorのメンバー、友人に手伝ってもらいながら行いました。
—生音とエレクトロが見事に調和していますね。結成当初からスタイルは変わっていませんか?
ありがとうございます。結成当初から基盤の部分ではあまり変わっていませんが、橋本敏英(guitar,voice)を中心として、シューゲイズやポスト・ロックに近い音を出していました。そこに、橋本敏英の実弟である橋本崇広がエレクトロやアンビエントの要素をより加えたことで、今のスタイルへと少しずつ変化してきました。
—ヴォーカルのある曲とインストゥルメンタルの曲がありますが、little phraseの音楽は、ヴォーカルも「音」のひとつという捉え方なのでしょうか? それとも「うた」として捉えているのでしょうか?
うーん・・・ 両方です。「音」としても捉えていますし、「うた」としても捉えています。今回アルバムに収録されなかった曲で、より「うた」に重点を置いたものもありますし。僕達は非常に飽きやすい性格なので、今後楽曲のほとんどをインストゥルメンタルや、ヴォーカルを完全に「音」として捉えたものにしたくなる時も、今よりも「うた」に比重を置きたくなる時もあると思うので、そのバランスを考えて、これから自由にやっていくためにも今回こういう形でまとめました。
—「Snow City In The Sky」では、実際に吹雪のような音がサンプリングされています。この曲が出来上がるまでの経緯を教えてください。
橋本敏英、光井幸介(bass)、松村竜也(drums)がベーシックな部分を作り、橋本崇広がピアノや鉄琴でのメイン・フレーズをのせていく形で出来上がりました。この曲を演奏していると、いつも雪景色や吹雪の音が頭の中で流れていたので、楽曲のイメージをより視覚化しやすくなるのではないかと思い、シンセサイザーやフィールド・レコーディングした風の音を重ね、吹雪のような音を作りました。本当は実際に雪が降る日に吹雪の音を録りたかったんですけど、なかなかそんなチャンスはありませんでした(笑)。
—音楽的な面や活動していく上での姿勢などで、影響を受けたミュージシャン、アーティストはいますか?
メンバー個々微妙な違いはあるのですが、共通して、ビートルズやヴェルベット・アンダーグラウンドなどの60年代から現代に至るまでに名を残しているアーティストはジャンルを問わず幅広く好きで、無意識のうちに影響を受けていると思います。最近のアーティストではアルバム・リーフ、epic45、Helios辺りがみんな好きですね。
活動していく上での姿勢としては、ブライト・アイズ等を輩出したサドル・クリークはオマハ州という田舎からかっこいい音楽を発信していて素晴らしいと思います。僕達の住む山口という地も田舎度合いでは結構自信がありますし(笑)、音楽性は少し違いますが、「この地から発信していく」という意味でも影響を受けています。またサドル・クリークだけではなく、国内外や時代を問わず、ローカルから発信していこうという動きには非常に共感出来ますし、刺激を受けますね。
—山口という土壌は、バンドの活動に影響を及ぼしていると思いますか?
良くも悪くも、影響を及ぼしていると思います。単純に人口が少ないので、音楽自体に興味を持ったり、実際に演奏したり、クリエイトしようっていう人達があまり多くないし理解もされない。逆にそれが自分達の存在意義を見い出せている様にも思います。そのお陰もあり、ここでしか出せないものを出そうという想いは強まっています。
ただそういった状況の中でも「どらびでお」等で全国、世界的にも活躍されている一楽儀光さんがいらっしゃったり、特異で個性的なアーティストがいらっしゃったり。また、山口情報芸術センターや秋吉台国際芸術村があることで、山口には絶対来ないだろうっていうアーティストの方々を簡単に観ることが出来たり。
Jポップですら流行ってるのか? って疑問に思えてくるような街で、そういうレベルの高い刺激を受けられるのは、山口の面白い点だと思いますし、僕らも自然と影響を受けているのだろうなと思います。
—皆さんにとって、「クリエイトしていくこと」とはどのようなことでしょうか?
生活する上で必ずしも絶対必要な行動ってわけではないと思うんですよね。生活するためだけだったら音楽以外の仕事をして、それでご飯を食べてってだけでいいんでしょうけど。音楽が好きならCDなりを買って聴いて。けど、気付けばそういう行動、活動をしているという感じですね。つまり「クリエイトしていく」ってことはシンプルに、とりあえず今僕らのやりたいこと、やっていきたいことなんだと思います。
—リリース後はツアーで全国をまわると伺いました。今後の活動について教えてください。
実は、リリース前の今年7月、ベーシストの光井幸介が亡くなりました。そのため、バンドとしての活動も止めようかどうか迷ったのですが、「少しでも多くの人にlittle phraseの音楽を知って欲しい」という意志を光井が残してくれていたので、続けて行くことを決意しました。今はサポートのベースを立てて、とりあえず地元でのレコ発の準備をしようという段階ですが、いずれ東京をはじめ、それぞれの地方もまわりたいと思っています。
また山口市の湯田温泉という温泉街にあるorgan's melodyというライブ・ハウスで、県内外のアーティストに出演してもらうイベントを定期的に行っているのですが、そのイベントを観たり、出演して刺激を受けてくれた僕らよりも若い世代のバンドが山口市でも少しずつ出てきはじめているので、そのイベントも続けていきたいですね。そして深く、ずっと聴き続けてもらえる様な作品を制作することを目指しつつも、一方では力を入れすぎず、自由にというスタンスで活動を続けていきたいと思っています。
おすすめ叙情派サウンド
zatracenie / matryoshka
日本のユニットでありながらもSigur Ros、mumといったバンドを彷彿させる、壮大なオーケストラと無機質でエレクトリックなリズムで綴られるアルバム。エレクトリックな楽曲に走るノイズが儚い世界を描いていく。曲に織り込まれるような、透き通った歌声は聴く人に切なさを与える。イギリスの4AD系が好きなリスナーは、必聴!
Flowers / Joan of Arc
1996年に結成以来、ティム・キンセラを中心とした不定形グループとして、これまでにオリジナル・アルバムとしては9枚、他にもEPや、企画盤、ライヴ盤などをリリースし、さらに、別ユニットやソロ・アルバムなども含めると、優に50枚以上のアルバムを生み出し続けているシカゴのポストロック〜EMO シーンの最重要バンドの最新作。痛々しいほどにエモーショナルだった前作に比して、アルバム・タイトルからも見受けられるように、人生を俯瞰して見つめる視線が感じられる、より穏やか、かつ大胆な作品となった。常に音楽的に、文学的に、進化することをやめないティムの尽きない創造性が、また1つの高みに達したことを告げるシカゴからの最新レポート。
PURPLE / Spangle call Lilli line
大学時代の友人で結成し、10周年を迎えた彼ら。メロウなサウンドと、静かでありながら芯のあるバンド・アンサンブルが混じりあい、心地よい浮遊感を生み出しています。
PROFILE
little phrase
実の兄弟である橋本敏英(兄)、橋本崇広(弟)を中心に結成。山口県山口市を拠点として活動開始。
広島のインディーズ・レーベル、Novel Sounds(ノベル・サウンズ)と契約。ファースト・アルバムのリリースに向け、レコーディング開始。発売前から国内外のアーティスト、リスナーから評価を受けている。アルバム発売後、リリース・ツアーを行う予定。
- little phrase web : http://www.littlephrase.com/