カーリー・ジラフが、これまでにベーシストやサウンド・プロデューサーとして関わってきた女性ヴォーカリスト達をゲストに迎えたセルフ・カヴァー・アルバムをリリースした。新居昭乃、Cocco、木村カエラ、BONNIE PINK、Chara、LOVE PSYCHEDELICO、安藤裕子や平岡恵子。これだけ豪華なメンツを揃えることが出来たのは、他でもない彼の人望の厚さで、互いの関係が強い信頼の上に成り立っているから。
カーリー・ジラフの音楽は、何といってもメロディーが良い。キャッチーであるとか、泣けるとか、そんなセンセーショナルな言葉は必要なくて、ただひたすらに聴いていたくなる。日常や生活に根付き、人の体温を感じる穏やかなメロディーは、一体どこから生まれてくるのか? 彼に話を訊いてみると、飾ることのない、"自然体"という言葉がとてもよく似合う人だった。
インタビュー&文 : 井上沙織
子供ながらに音楽にときめくっていう感覚が好きだった
ー今作『Thank You For Being A Friend』を出すことになったきっかけを教えてください。
今回のアルバムにヴォーカルで参加してもらっている平岡恵子さんから「ライブでカーリー・ジラフの曲をカヴァーしたい」という連絡があったんです。平岡さんのライブには僕もベースで参加させてもらったのですが、すごく良かった。自分の曲ではあるものの、リスナーに近い感覚ですんなり聴けたんです。
それから、女の人が歌うカーリー・ジラフのカヴァー・アルバムを作ろうと思って、プロデュースやサポート等で以前から付き合いのある女性アーティストに声をかけていったら、皆集まってくれた。「これはちゃんとやらないとまずいぞ! 」と思いましたね(笑)。
ー実際に制作してみていかがでしたか?
僕が全て一人で作るものはもっとパーソナルな世界観で、僕の想像の範疇の音。今回はそこにゲスト・ヴォーカルやバンド・サウンドが入ることによって、自分の想像の枠を超え、奥行きが出て立体的になりました。普段は自宅で録音しているのですが、今回はライヴを一緒にやっている白根賢一さん、名越由貴夫さん、堀江博久さんと一緒にスタジオに入って生演奏で録りました。メンバーはずっと一緒にやってきた人たちなので、話し合うまでもなく、何もかもがスムーズにいきましたね。煮詰まることもなかったし、ほとんどライヴと同じ気持ちで出来ました。
ー高桑さんはカーリー・ジラフの他に、GREAT 3、HONESTY、さらにはサポート・ミュージシャンとしても活躍されています。長いキャリアの中で、音楽性に変化はありましたか?
もちろんバンドによって波はあるし、音楽性も変化したけれど、僕個人の表現したい音楽は変わっていないですね。 子供の頃にオーストラリアに住んでいて、ラジオでかかっているエルトン・ジョンやカーペンターズ等の、いわゆる王道ポップスをよく聴いていたんです。子供ながらに音楽にときめくっていう感覚がとても好きだった。大人になって自分が演奏する側になったときに、自分が子供の頃に聴いていたときめくようなポップスを、自分なりの表現で作りたいと思ったんです。その感覚は今も持ち続けていて、音楽に対するモチベーションに繋がっています。
ー「胸がときめく」ーポップ・ミュージックに必要な要素ですよね。
大勢の人の心をつかむ、ポピュラリティのある音楽には憧れがあります。でも僕は瞬間的にアツいものよりも、ずーっと流れ続ける時代性の無いものを作りたいんです。
ー「普遍なもの」ということでしょうか?
最近のヒット・チャートには派手な音楽がたくさんあると思うんだけど、僕の音楽は派手であったり起伏が激しいものではないし、そうでなくていいと思っています。派手なものって聴いた瞬間は良いと思うけれど、飽きてしまう。ずっと聴ける、耐久力のある音楽が好きなんです。だから普遍というよりも、もっとシンプルに、自分が聴きたい音楽を作っているだけなのかもしれないですね。
ーカーリー・ジラフの音楽からは、生活に根付いた、自然体な印象を受けました。まさにずっと聴いていられる音楽ですよ。
本当ですか? そう言ってもらえるのは嬉しいですね。これまでいろんなバンドをやってきて、頭の中には自分の表現したい音が鳴っていたんです。でもそれを表現する能力が僕にはまだなかった。カーリー・ジラフをはじめて5年目になるんですけど、ベース以外の音でも自分の表現したいことをやっと形にできるようになりましたね。バンドだと自分の中の100%が化学変化によって200%になったりするんですけど、ソロは100%を表現するだけ。それ以下だと困るけれど、それ以上じゃなくていいんです。
ー歌詞はご自身で書かないのですか?
一緒に制作しているパートナーが詩の世界が好きな人なので、曲を聴いたイメージから作ってもらっています。歌ものは好きなんですけど、言葉で伝えたいことは僕には無いんですよね。なので僕からは特に注文もせず、自由に書いてもらっています。
ー高桑さんがカーリー・ジラフで目指すところはあるのでしょうか?
ファーストのときからイメージは一環していて、年代、ジャンルや国籍などを意識させないものにしたいと思っています。聴く人によってイメージはバラバラで構わない。ジャンルやプロフィールを前面に公開していないこともあって、CD屋で洋楽コーナーを探しても見つからなかったという人がいるくらいです(笑)。固定観念や先入観をなくして、純粋に音を聴いて判断してほしいですね。
Curly Giraffe オリジナル・アルバム
New Order
2年ぶりとなったサード・アルバム。相変わらず制作の全てを自身で手がけるスタイルのまま、パーソナルな部分を穏やかに表現しています。王道ながら独自のポップ・センスは更に磨かれて、他の追随を許しません。
Forbidden Fruits / On Cloud Nine / Fountain of Youth / Run Run Run / Stand 収録
Ta-dah
セカンド・アルバム。やっぱり何といってもメロディが素晴らしいです。肩肘をはった音は一切無く、日常を切りとったような気楽さと温かさを兼ね備えた、良質のポップ・ミュージックです。
Chaos / Mood / You just swept me off my feet / My dear friend 収録
Curly Giraffe
セルフ・タイトルをつけられた、ファースト・アルバム。ジャック・ジョンソン、ドノヴァン・フランケンレイターやトミー・ゲレロなどにも通じるものがあり、優しく包み込むようなメロウさを持ったアコースティック・ポップ・サウンドを奏でています。
Water On / Spilt Milk / Gentle Tree / Tricky Adult 収録
LIVE SCHEDULE
"Super Session vol.3 / Thank You For Being A Friend"
10月21日(水)@渋谷AX
GUEST : 新居昭乃 / Cocco / BONNIE PINK / Chara / LOVE PSYCHEDELICO / 安藤裕子 / 平岡恵子
PROFILE
Curly Giraffe
学生時代からベーシストとして数々のバンドで活躍。美大卒業後、デザイナーとして仕事をするかたわら続けていたバンド活動が忙しくなり、音楽活動に専念。いくつかのバンドでメジャー・デビュー後も、ベーシストとしてのサポート、プロデュースなど多岐に活躍。とにかく、モノを作っているときが一番幸せと語る。コンセプチュアルなお洒落さと、ドロドロとした初期衝動が同居するカーリー・ジラフ・ワールドを基本形に、さまざまなフィールドで発信中。
制作のほとんどすべてを一人でこなすアルバム制作のスタイルとは別に、ライブにおいては永年の仲間たちである凄腕の曲者たちとともにセッションを繰り広げ各地のフェス等で観客を沸かしている。
- Curly Giraffe web : http://curlygiraffe.com/