2009/03/20 00:00

ポップ・バンド日本代表! エレキベース

実に3年半振りのアルバム『Paint it white』をリリースするエレキベース。盟友オヴ・モントリオールとのUSツアーや台湾フェスなど、海外でのライヴ活動を経て完成した本作は、根っからのパーティ・アルバムとなっている。この3年半はライヴばかりやっていたというだけあって、その雰囲気をパッケージしたのかと思いきや、意外な答えが返ってきた。さらに、レーベル・オーナーも務める坂本陽一氏の人間性の深さにふれ、音楽の聴き方まで多岐に渡りお話を伺う事ができた。自らを理屈屋と豪語する彼を切り崩そうと悪あがきしながらも、「物語」のある対話になったように思う。この対話から、そして音源からエレキベースの物語を読み解いていってほしい。

インタビュー & 文 : 西澤 裕郎

INTERVIEW

—3年半振りのアルバムですが、その間どのような活動をしていましたか?

坂本陽一(以下 : S) : ほとんどライヴをしていました。日本以外にも、アメリカや台湾のフェスに参加したり。

—今作はそんなライヴを経て出来た曲が収録されているのですか?

S : 残念ながら違います(笑) 「オースオラリア」と「君がくれた恋の道」以外はライヴでやったことはないです。だから、ライヴを見て僕らのことを好きになってくれた人からすると、今回の『Paint it white』と、次回の『Paint it black』(6月発売)は、物足りなさを感じるかもしれないですね。

—予想していた答えと違いますね(笑) ライヴとCDは別ものと考えているのですか?

S : 別ものっていうか、価値観の違いだと思います。ライヴでの音楽って、下手すると和音をはずしても気持ちがこもっていれば勝つ瞬間があると思う。逆に音源では、気持ちよりも音がはずれていない方が勝つ瞬間があるんです。極端ですけど、ライヴは人の曲でもいいと思っています。ヒット曲を熱唱して、かっこいい、もしくはかわいい人が真ん中に立って人々を熱狂させていれば。だからといって、それをパッケージ化して家で夢中になって聴いているかというと、そうではない。つまり、音源とライヴはどちらも大切にしています。そうじゃないとつまんないと思うので。

—それぞれ別のよさがあるってことですね。

S : そう! だから、アルバムの曲を無理にライヴでやんなくてもいいかなーと思っています(笑) 僕だって音楽リスナーだから、ビートルズやキンクスのようにライヴを観たことがなくて好きなバンドが沢山ある。そんなバンドのアルバムには、音を楽しむ遊び心がほしいんです。個人的には、ライヴのエモーショナルさが100%つまったCDってあまり聴いていないんですよね。

—なるほど。じゃあ少し視点を変えて質問します。カナダ出身の英文学者マーシャル・マクルーハンが著書『メディア論』の中で、「メディアはメッセージである」と唱えました。要は、媒体によって受け手の捉え方が変わってしまう。同じ天気予報でも、テレビと新聞では伝わり方が違ってしまう。つまり、媒体自身がすでにメッセージを含んでいるということです。これを音楽に当てはめてみると、同じ曲でもCD、ライヴ、ラジオなどいくつも伝える媒体があります。もし1個だけ選ぶとしたら、何を選びますか?

S : それは愛人と女房どっちが好きみたいな質問だよ(笑) 僕が育ったのはレコードよりも圧倒的にCDなんです。けれど、音楽の本質で言うと、一番筋が通っているのは現場じゃないですか。リズムがなって、メッセージがのって、っていう意味でリアルなのはライヴなんです。でも、そういうライヴを知るためにどんだけのCDを聴いてきたのかっていうところで、選べないっていうか…どっちもじゃないですかね(笑)

—では、もうひとつ質問です。本作は、ほぼ日本語の歌詞で統一されていますね。そこには何か意味があるのですか?

S : 日本で活動するから日本語にしたわけではないんです。大半の人が感じると思うんですけど、僕らの歌詞は恥ずかしい言葉ばっかり。歌詞自体にメッセージはいらなくて、言葉さえ残ればいいと思っているから。それが何の意味もない「参宮橋、参宮橋」っていう言葉でもよくて。その代わり、いろんな国の人に「参宮橋」っていう曲だねとか「参宮橋って歌ってたよね」って思ってもらえればいい。何故かというと、自分がビートルズの「help!」で育ったから。英語の曲をカタカナで聴いていたので、ヘルプの意味も分かっていなかった。何語で歌われても、結局伝わるのって意味じゃなくて言葉だけだと思っている。そういう部分で言語に対する執着って全くない。どうして英語で歌うのかというと、聞いてきた音楽の大半が英語だったから。だから裏を返せば日本語でもいい。日本語の曲が溜まってきたので、統一してみようかなって思ったのが『Paint it white』です。


今振り返って、マイブラは僕にとって何の影響もなく、かつ名盤でもなかった

—サカモトさんは、自身でWAIKIKI RECORDというレーベルも運営していますね。そのブログの中で『Paint it white』と、次回の『Paint it black』のCDが工場から届いたとき、「やっぱり物ってのはいいねー」と書いたのが印象に残りました。

S : そう。アナログやCDのよさは、手に取れることですよね。日常ではi-podですませていますが、そこには物語がないと思います。

—ではエレキベースの物語性を楽しむには、どのように聴いたらいいのでしょう?

S : レコード屋さんのお勧めなのか、中古で売られているのかは分からないけど、エレキベースのCDが1枚だけ並んでいる。「ビートルズ好きであったら必聴」とか「日本人がビートルズを解釈したらこうなった」ってコメントを参考に、あるスペイン人が買った。アルバムを聴いて「ちょっとおもしれえじゃん」と思って、次のアルバムを聴く。「1枚目はこうで、2枚目はこうなんだ。あれ、1枚目やけに演奏が下手じゃん」とか「3枚目からプロデューサーが入ったんじゃないかな?」とか、そういう思いを巡らすことが物語だと思っています。歌詞に関しても、今回は全編日本語にしたから、こういう感じの音に仕上げたってことが、エレキベースの物語だと思っています。バンドの歴史で聴いてほしいんです。トム・ウェイツの『レイン・ドッグ』は、何枚目かの作品で「すげえやる気なくして作ったんじゃねぇか?」って思いをめぐらす事ができる。そんな時間の流れを楽しむことができるんです。

—絵本や小説のように意図的に作られたものではないんですね。音楽を聴くことがYoutubeなどで代替できてしまう今、作り手の物語まで言及するアーティストは珍しい気がします。若い世代の聴き手にそういう概念がなくなってきているのかもしれないですね。

S : シングルにしろアルバムにしろ、そこには作り手の物語がある。だから、リリースした以上責任をとりたいんですよ。大好きな売れていないブラジルのバンドも、1枚1枚気持ちがこもってる。そういう人たちが頑張って作った次のアルバムが、今度はこうなっちゃったって考えるのが楽しいんですよね。

—バンドを結成して10年が経ちましたね。何か変化はありましたか?

S : なんとなくですけど、僕の音楽の正解が見えてきたんです。あとはそれに向かうだけなので、前より迷いはなくなりました。

—正解を具体的に言葉で説明できます?

S : うーん... ポップスっていうことですね。例えば、ドラムとベースは生で一発。ギターはアンプに直結して録ろうっていうのではない。そういうのがいいっていう人もいるけど、自分はそうやりたいわけではないってことがわかってきたんです。以前シューゲイザーにはまっていて、アナログも買い、マイブラ(My Bloody Valentine)はやっぱり名盤だよねと言ってたんですよ。でも今振り返ってみると、マイブラは僕にとって何の影響もなく、かつ名盤でもなかった。その事実に気がついたんです。

—それまでは名盤だったのに、なぜ一転してしまったのですか?

S : 要するに流されていたんですよね。プライマル(Primal Scream)の「ロックス」が最高で、ラーズの「ゼア・シー・ゴーズ」が大合唱なんて当たり前だった。でも、今になって考えてみれば、僕にとってそれらは必要なかったんです。自分に必要なのは何なのかっていうことが分かってきた気がするんですよ。

—それでも、やっぱり外せないバンドはビートルズを始めとするブリティッシュ・ロックなんですね。

S : ビートルズが好きっていうのは間違いない。ビートルズが黒人ミュージックに憧れて始まったバンドってことを知り、黒人ミュージックの歴史をソウルからスウィング・ジャズへとさかのぼっていったとき、ジプシー・ジャズに出会って好きになった。それをただルーツでやるんじゃなくて、日本人が解釈した、しかもポップスでやることが根本。その根本の中でさらに遊べるバンドになりたいですね。

WAIKIKI RECORDS CATALOGUE

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LIVE SCHEDULE

  • 4月17日(金) YANKEES' HOLIDAY -Paint it White-@下北沢 CLUB Que
w/ エレキベース / totos / Number the / ゆーきゃん with ときどきエレキベース
DJ Marbou(Supernova!/camp)
  • 4月20日(月) @中目黒Solfa
  • 4月25日(土) 10th anniversary WACKY & The denkibran Presents@大阪三国ヶ丘FUZZ
w/ ザ・オーキナワーズ / pechica / The denkibran / エレキベース / ザ・アウトロウズ / 植木遊人 (with WACKYS)
  • 4月26日(日) Love sofa@大阪鰻谷sunsui
w/ A.S.P / マッカーサーアコンチ / 韻シスト / エレキベース / 24 -two four- / BLITZ AND SQUASH / BRASS BAND / 他

エレキベース

坂本 陽一(ボーカル、ギター 10月1日生まれ)
亀田 JP(ギター、コーラス 12月24日生まれ)
サポートにドラム、ベース、ホーン隊、鍵盤を迎えてライブを行う

サウンドはハッピー。ライブはパーティなバブルガム・バンド・エレキベース。ゆるいサウンドとは裏腹にライブ活動は骨太でと数回のアメリカ・ツアーや2007年のアセンズのポップ・フェスではとの競演やツアーで一緒になったBlackKidsやCasper&theCookiesとの交流特にエレキベースがフェイバリットにあげるThe Apples in stereoのロバート・シュナイダーがケンタッキーでのライブを見て、感激しほれ込むなどアメリカのインディ・ロック・シーンでの活躍は目覚しい。国内ツアーはもちろん、台湾最大フェスへの参加や、数回にわたるアメリカ・ツアーで培われてきたエンターテイメントなライブは必見。

この記事の筆者
井上 沙織 (さ)

ototoy編集部で日々山盛りの仕事に囲まれながら、素敵な音楽や人との出会いを探しています。

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[インタヴュー] ELEKIBASS

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