2025/02/17 18:00

良い違和感が残るように──

──曲ごとに訊かせてください。“Blue Train”と“時間”が同時期に作られたのはすごく納得できるところがありました。リフやベースの歪みがインダストリアルな質感でかっこいいですよね。

Ogata:ベースの音作りに関しては、(大澤)まさ君は全然口出しはないよね。

京:言うことないくらい良い音だったし、特に悩むこともなかったので今ここにいないです。

Ogata:スタジオにあったのがAmpegの「B15N」っていう、古い15インチのキャビネット一発のアンプで、モータウンの人たちが使ってたようなやつですね。なので丸い音にはなるんですけど、30Wしかないのでどうしてもドライヴしちゃう。それが結果的にいい音になりました。

──鳴っているシンセは全部同じ音ですか?

京:そうですね。リリースを変えたりはしてるんですけど、全曲同じ音色です。

Ogata:シンセはプリセットを保存できないから、毎回つまみの写真を撮って都度再現してました。

京:少し角度が変わるだけで音が変わっちゃうんですよ。まあ、普通にめっちゃ不便ですよね(笑)。

──“時間”のシンセの裏にホワイトノイズが鳴っていますよね。

京:鍵盤の音と同時に鳴ってるのはシンセの内蔵の音ですね。馴染ませるためにあえて入れてます。

Ogata:実は二種類鳴っていて、曲の頭から鳴ってるノイズは僕が後で足した音です。

京:そうなんだ。知らなかったです(笑)。

Ogata:この曲のドラムはテープ・シミュレータでローファイな質感を入れていて、ギターのリフが入るタイミングでシミュレータを切ってるんですよね。

──“レムリア“ ”のギターは低音弦の音が豊かで、最初のスライドから引き込まれるような音ですね。

京:ギターの高音の詰まったような音が嫌いなので、できるだけローコードで解放弦を鳴らすようにしてます。シンプルに弦がいっぱい揺れてる感じが好きで。

Ogata:解放弦を鳴らし続けるのはマイブラでも使われる手法なんだよね。幻の音が聴こえてくる(笑)。

木幡:弾いてないメロが聴こえるアハ体験が起こったんですよ(笑)。

Ogata:ギターを録り終わった後に、スタジオで大きい音で聴いたら幻の音が聴こえたんですよ。マイブラはフィードバックの多重録音ではなく、同じ弦を弾き続けることで、基音と、それに付随する倍音が強調されて別の音が聴こえているんです。“レムリア” はそれと似た手法で作ったからか、弾いてない音が聴こえてきます。

京:そういう意味でも“レムリア”は最高傑作ですね。一曲を通してずっと、各パートが重なって和音が成立するようにできていて。アンサンブルとしては、ヴァイオリン、チェロ、コントラバスみたいに楽器ごとに帯域を分担して、それが重なってコードができる、みたいな感じ。基本的に5度の音はハーモニーがずっしりしてしまうので鳴らさないようにしてるんです。3度ハモりみたいなちょうど良い不協和音感が欲しくて、アレンジの段階で全パターンのヴォイシングを試してます。

──5度を鳴らすとパワーコード的な強さが出てしまう?

京:そう。強い感じが出ちゃう。ジャズのピアニストは5度の音を鳴らさないって知ったのをきっかけに、5度の音は邪魔っていう印象を持ってます。最初に習うような、いわゆるオープン・コードって5度がめっちゃ含まれてるので、俺的には最悪のコードですよね。最悪のヴォイシングです。

一同:(笑)

Ogata:和音の響きにも通じるんですけど、左右のギターに一切ローカットを入れなかったのはこだわりです。実際にはもっと高い成分なんですけど、僕は基音を含む低音成分にアタック感が含まれていると思っていて。100Hz以下は基音を含まないし、音圧戦争に則ると不要とされてるんですけど、今回は必要だと判断しました。

木幡:僕は高校の時に卒論で音圧戦争について書きました。ローカットについても調べたし。

Ogata:いらない低音をカットしてその分全体の音量を上げちゃえ、みたいな話なんですよね。その方が音量はたくさん詰められるんですけど、音が大きければOKみたいな風潮からは離れたいと常々思っていて。これは雪国がアンサンブルの最大値を1にしてくれているからこそ、できていることですね。

──“レムリア”以降、曲の展開が複雑になっていますよね。“金星”では途中で無調っぽくなる部分があります。

京:あそこは調は変わってないんですけど、良い違和感が残るように意識しました。

木幡:まさ(Ba)と京君いわく論理的には合ってるらしいんですけど、スタジオで2人が鳴らしているコードを聴いて「音楽オタクがかましてるな」みたいな進行にしか聞こえなくて。

京:僕はそういう最近のJ-POPの見せつけっぽいフレーズが大嫌いなんですよ。サポートのなつきや徹己に変だって言われて、流石に変えようかなって思いました。

木幡:変える前は結構エグくて、そこは唯一僕がコードに口出ししました(笑)。

京:結果的には良いフックになったと思います。

──“架空の君へ” は後半でリズムの取り方が倍になりますよね。こういった起伏があるとマスタリングは大変じゃなかったですか?

Ogata:EP全体のピークを決めてマスタリングをしています。今回はミックスの段階から“架空の君へ”の最後が一番盛り上がるようにすると決めていました。

木幡:マスタリングは低音を大きめに出そうという話になってました。

京:あんまり意味が分かってなかったんだけど、あれはどういう意味なの?

Otaga:レンジを高音側に広げられない分、低音側を豊かにしようっていうことだね。耳にうるさい2kHz付近を出しすぎず、10kHzあたりの煌びやかな部分はちゃんと出す。美味しいところは残しつつローファイになりすぎない、そんな音を目指しました。

木幡:“架空の君へ”は最後にレンジが上に広がるんですけど、単純に広がるだけじゃなくて、曲に対して適切なアプローチができた手応えがあります。周りがギターで高域を出してる中、いつも通りライド・シンバルを使っても面白くないなと思って、オープン・ハイハットを使ってるんですよ。オープンのシズル感は普段は僕の嫌いな成分が多く出てしまうんですけど、この曲に限っては正解でした。

京:徹己のハイハットの叩き方が絶妙だよね。シンバルが上下に揺れるような叩き方はしないんですけど。

木幡:シンセのホワイトノイズに近いニュアンスかな。全然開いてないし。

──2月15日から、4都市を巡る“Back to Lemuria”ツアーが始まります。最後に意気込みを訊かせてください。

京:今回は音源の話をしましたが、ライヴは音源とは全然違うことをやっています。

木幡:ほぼバイブスだよね。

京:ライヴは音源とは別のベクトルでストイックに挑んでいます。緻密に世界観を作って、生きてる演奏がしたいですね。生きている雪国を観にきてください。

木幡:音源がストイックだからこその、ライヴが生きてる感じを見てほしいです。

LIVE INFORMATION

Yukiguni "Back to Lemuria" tour 2025

チケットの詳細はこちら https://eplus.jp/sf/detail/4240190001?P6=001&P1=0402&P59=1

INFORMATION

雪国
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Kensei Ogata
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DISCOGRAPHY

この記事の筆者

[インタヴュー] 雪国

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