ただのこもった音だと思われたら嫌だな...
──その音像観が体現されたのが “時間” のドラムな気もします。深めにフィルターがかかっていますが、どのように作ったんですか?
木幡:あれはドラムを叩いてないんですよね。リズムマシンかな。
Ogata:そう。ギリギリまで叩くか悩んだんだけど、結局叩かなかった。
京:“時間”は例外で、最近買った「MOOD MKII」っていう空間系マルチ・エフェクトとYAMAHAのシンセ「recafe CS」で遊んでた時にできた曲です。楽器の音が先行した作曲は好きじゃないから、そういうスタイルは雪国としてはこれが最初で最後かな。実験的なアプローチだったので、いっそのことリズムマシンのままいこうと。
Ogata:途中から生ドラムに切り替える案もあったけど、僕はデモが好きだったので、デモのままのドラムでいいんじゃない?って。
木幡:帯域的な話ではあるんですけど、プレイヤー視点でかっこいい曲よりも、リスナー視点で聴きやすくて疲れない音楽が好きなんですよ。Youtubeの「12時間ローファイ耐久」くらい疲れない音像を目指してます。
──ミックスやアレンジにおいて、ローファイはごまかしにも使えてしまう危うさを孕んでるようにも思えます。Ogataさんはどう思いますか?
Ogata:本当にそう思います。「Lemuria」をリリースする前に、ある種の怖さというか、音像としてのチャレンジを感じていて。
木幡:インディーズ感が強い。
Ogata:そうそう。聴いた人にただのこもった音だと思われたら嫌だなと...。柔らかさとレンジの広さは両立できると信じて、うるさくないしローファイではあるけど、チープではないものを作りました。
木幡:やっぱり解像度の高さと耳が疲れない柔らかさの割合が大切で、「Lemuria」はうまくバランスが取れた感じがする。リファレンスとしてはClairoの『Charm』が一番近いですね。
Ogata:一時期からインディー・ロックにローファイの概念が出てきたじゃないですか。でも僕はローファイを免罪符に雑な録音をして欲しくない気持ちがあって。ローファイをやり通すのも信念が必要だと思っているので、雪国がそういう聴かれ方をされないように気をつけました。

──ボーカル・ミックスについても訊かせてください。全体を通して絶妙な空気感を感じます。
京:シンプルにメロディーに裏声が多いからかな。“東京”とかは地声で高い音を出していて、いわゆる歌モノ的な歌い方をしていたんですけど、今回はオーケストラの中のボーカル・パートに歌詞が付いてる。そんな解釈かな。ほぼ全部コーラスのつもりで歌ってました。
──レコーディングの機材は『pothos』からどのくらい変わりましたか?
京:ほとんど変わってないですね。ギターのアンプくらいかな。
Ogata:『pothos』は「FRIEDMAN RUNT-20」っていう20Wのヘッド・アンプを「Gloove Tubes Soul-O 45」のキャビネットで鳴らして、アンプの歪みで録ってました。今回もアンプの歪みを使いたかったんだけど、「VEMURAM Jan Ray」の歪みが良かったんだよね。
京:思ったよりめっちゃ良くて。僕は「Jan Ray」のクローンを持ってるんですけど、サポートの(のざき)なつきから本物を借りました。「Gloove Tubes」との相性が良くて、あんまり歪まないアンプなんだけど「Jan Ray」挿したらアンプの延長線みたいな自然な歪みが出て。
Ogata:一貫した音が出るようにアンプのつまみを固定して、音色の種類も最小限にしてます。空間系はアンプ内蔵のスプリング・リバーヴとBOSSの「RE-202」っていうテープ・エコーで、テープの質感の付与だけで使ったりもしてました。アルペジオの時は「Diamond Compressor」っていうコンプを使って、テレキャスターはセンター・ピックアップで固定してます。最初に音色が決まらないと怖いんですけど、決まっちゃえば楽ですね。
木幡:星空みたいな音がしたよね。マジかって(笑)。