阿部芙蓉美と内村イタルが語る、音楽の“キャッチーさ”とは──尽きない心配事、世相を受け止める眼差し

日々の生活のなかには、ただそこに音があるだけで救われる瞬間がある。阿部芙蓉美とゆうらん船の音楽は、まさにそんなときに鳴っている音楽だ。バンドとソロ、世代の違いはあれど、どちらも人間のままならなさを捉え、その感覚を音に潜ませ、漂わせたまま手から放つ。そこには音楽に対する希望や祈りが含まれているように感じる。今回、〈SHIBUYA SOUND REVERS2025〉での共演を果たす、阿部とゆうらん船の内村イタルのふたりを招き、対談を行った。お互いの楽曲に抱くイメージや制作において心がけていること、そして音楽と社会との関係性について語ってもらった。
ゆうらん船と阿部芙蓉美が前後で出演する〈SSR〉は9/28(日)に開催!
〈SHIBUYA SOUND RIVERSE (SSR) 2025〉
日時:2025年9月28日(日) OPEN / START 12:30
会場:恵比寿LIQUIDROOM、KATA、LIQUID LOFT、Time Out Café&Diner
料金:前売¥5,500 + 1ドリンク代別途 学割¥4,800 + 1ドリンク代別途
特設サイト:https://sites.google.com/hlg.co.jp/ssr2025shibuyasoundrivers-jp
出演アーティスト
LIQUIDROOM:SPARK!!SOUND!!SHOW!! | Enfants | ODD Foot Works | DURDN | 揺らぎ | エルスウェア紀行 | YJC LAB.
KATA:Gateballers | aldo van eyck | Tyrkouaz | ベルマインツ|くゆる | GeGeGe
LIQUID LOFT:阿部芙蓉美 | ゆうらん船 | Foi | 烏兎 -uto- | kiwano | Rol3ert | 楓幸枝
TimeOut Café & Diner:JunIzawa | VivaOla | SPENSR | WAZGOGG, Koshun Nakao | Tamuraryo | KEISUKE SAITO
INTERVIEW : 阿部芙蓉美 × 内村イタル(ゆうらん船)

わたしたちはこのままどこに向かっていくのだろう。社会とつながる日常のなかで抱える心配事について無言で視線を交わすように存在してくれている音楽。もちろんそれだけではないにしても、その心持を見逃さない表現があることで少し同志を得た気持ちになれるのではないだろうか。今回、のサーキットイベント〈SHIBUYA SOUND REVERS2025〉に出演する阿部芙蓉美とゆうらん船の内村イタルの対談を実施。初顔合わせで対談というアプローチ自体初めてだというふたり。世代やジャンルを超えた音楽に対する共通した視点などについてじっくり対話してもらった。
取材・文 : 石角友香
撮影 : 廣田達也
下書きに縛られず、気づいたら全然違う曲になることも
――内村さんは阿部さんの曲を聴いてらっしゃるんですよね。
内村イタル(以下、内村):そうですね。日頃からよく聴かせていただいてます。
阿部芙蓉美(以下、阿部):何で知りました?
内村:ゆうらん船のドラムの砂井(慧)くんという人がいるんですけど、彼に教えてもらって。割と最近の「Soda」(2021年)とか、それぐらいのシングルリリースを重ねた頃から聴いていて。
阿部:ありがとうございます。
――阿部さんはゆうらん船の音楽は?
阿部:私もドラムの方が聴いてくださってるっていうのを知り合いを通して知って。1回対バンの話がきた時にちょっといろいろ調べたりとかしたんですが、そのときはすみません、タイミングが合わず。
――それを踏まえて、音楽的に共感される部分や、逆に自分からは生まれない発想についてお伺いできれば。
阿部:音楽をやる方とのこういう対談はたぶん初めて。
内村:あ、そうなんですね。僕も初めてです。曲作りとかってどうやってますか?
阿部:作る時はまずほんとの原型は自分で作って、「1番はこんな感じだけど、この後はこういう風に展開して行きたくて」みたいな大枠を周りに相談して投げたりとか、あまり決まりはないんですけど、まずは自分でネタを探す感じですかね。

内村:詞と曲とどっちが先とかも特にないですか。
阿部:最近は曲が先です。
内村:あ、そうなんですね。それまではずっと詞?
阿部:もともと歌が好きだったんですけど、歌が好きなだけで何ができるのかわからないで田舎から上京してきた経緯があって、曲を自分で書いたりとかは経験がなかった。ただ、歌詞の文字が並んでる、CDのブックレットを眺めるのが子どもの頃から好きだったんですね。だからまず言葉を並べていくみたいなところから入って、楽器弾けないから歌詞にメロディをつけて歌って、それにコードを当ててくれる人がいてみたいなとこから始めて。
内村:じゃメロディだけ書いてって?
阿部:そう。本当に音楽を始めた頃はそういうことをして、ギターを少し覚えると自分で曲が書けるようにもなって……、で、今に至る、ですかね。
内村:文字列を眺めるのが好きなんですね。
阿部:こだわりが、強いほうなんじゃないかなと思ってます。例えばこの対談とかもテキストになるじゃないですか。それがすごく怖いんですよ(笑)。
内村:ああ(笑)。
阿部:お話って楽しくしたいから結構ラフになっちゃうけど、「文字で起こすとこんなふうになっちゃう、気をつけなきゃ」と思いながら止まらないんですよね、おしゃべりが。
内村:でもおしゃべり好きなんですか。
阿部:おしゃべり大好きなんですよ。だから素の自分と“阿部芙蓉美”としてのありかたとのギャップに悩みます。
――内村さんの歌詞の書き方はどんな感じですか?
内村:僕は割と歌っててはまるかどうかは気にするタイプというか。だからメロディが先にあってということが多くて、そこにはまる言葉を最終的に残す感じではありますね。

阿部:この箇所にこういう内容をはめたいけどあんまり響きよくないから結果違うものになって、気づいたら全然違う曲になってたみたいなのもよくありますよね。
内村:ありますね。詞の内容は言いたいことがあるとか、こういうものが書きたいっていうので作りますか?
阿部:入り口としてテーマがあることもあるけど、気がついたらメロディに引っ張られていって、「いや、ここはやっぱりこういう風にはなりたくないな」って考えて、結果真逆の内容になることもよくあるんですよね。だから「この曲はこういうテーマじゃなきゃいけない」とは決めずに書くようにしてる。
内村:ああ、なるほど。確かに変わっていくのが面白いですよね。でも自分では普段どうやって曲を作っているのかって実は結構わかんなくて(笑)。毎回決まった方法があるわけじゃないし、結構やりながら手探りで進めることが多いですね。
阿部:とにかくやるしかない。やるかやらないかなんじゃないかな。
内村:そうですね、説得力あります(笑)。